「高齢だから」とか「マヒがあるから」といって、簡単にオムツにしないでください。オムツにする前に、「どうしたら自分でトイレに行けるか」を工夫するのが排泄ケアのポイントです。【解説】三好春樹(生活とリハビリ研究所代表)
執筆者のプロフィール
三好春樹(みよし・はるき)
1950年生まれ。生活とリハビリ研究所代表。1974年から特別養護老人ホームに生活相談員として勤務したのち、九州リハビリテーション大学で学ぶ。理学療法士(PT)として高齢者介護の現場でリハビリテーションに従事。1985年から「生活リハビリ講座」を開催、全国で年間150回以上の講座と実技指導を行い、人間性を重視した介護の在り方を伝えている。『関係障害論』(雲母書房)、『生活障害論』(雲母書房)、『ウンコ・シッコの介護学』(雲母書房)、『介護のススメ!希望と創造の老人ケア入門』(ちくまプリマー新書)など著書多数。
▼三好春樹(Wikipedia)
▼生活とリハビリ研究所(公式サイト)
▼@haruki344(Facebook)
▼専門分野と研究論文(CiNii)
本稿は『イラスト図解 いちばんわかりやすい介護術』(永岡書店)から一部を抜粋して掲載しています。
イラスト/ひらのんさ
自分でトイレへ行くために工夫することが排泄ケアの基本
自分でトイレへ行って排泄することは
お年寄りの尊厳を守るうえで重要なこと
私たちは生きるために食べます。食べるから排泄します。その排泄行為が不快や屈辱だったりしたら、生きていることを否定されているようなものです。
つまり、排泄のケアは、お年寄りの「生きていていいんだ」という気持ちをつくり出せるかどうかにかかわっているのです。
まず、私たちが毎日どうやって排泄しているのかを考えてください。私たちは便意・尿意を感じたらトイレに行きます。そして、排便・排尿しやすい体勢をとります。同様に老いや障がいがあっても自分でトイレに行き、気持ちよく排泄できるようにするのが排泄ケアの基本です。
もちろん、毎回トイレに移動するのが苦痛だったり、危険だったりするときには、ベッドサイドに置いたポータブルトイレで代用することもあります。さらに、オムツを使用することだってあり得ます。
でも、トイレで排泄するための工夫もしないで、高齢だから、片マヒだからと、安易にオムツにはしないでください。誰にとってもオムツをすることは大問題です。オムツ交換の屈辱で自信を失くし、あっと言う間に認知症になった人がいます。それほど排泄のケアは、その人の尊厳を守るうえで重要な介護なのです。
▼排泄ケアとは
排泄のケアはオムツ交換をすることではなく、トイレで排泄してもらうことです。オムツの交換は後始末で、介護ではありません。トイレに行くための工夫こそが排泄のケアです。
自分でトイレに行くための工夫
つたい歩きで移動する
日本の家屋のいい点は狭いことです。立って手を伸ばせば壁や家具があって、つたい歩きでトイレまで行けます。
車イスに移乗して移動する
洋式の広い家やバリアフリーの施設なら、車イスに移乗してトイレまで行けるはずです。時間がかかるなら、念のため安心パンツや尿取りパッドを活用しましょう。
布団から横移動で床に降りる
畳に布団という和式の生活でも、四つばいや座位で移動しやすいという利点を生かしてトイレへ。
座位で移動
両手で床を押してお尻を浮かして移動する方法です。座位移動と呼んでいます。前進も後退もできますし、階段でも使えます。
四つばいで移動
四つばいでの移動は安全で確実です。
自然排便するために3つの力を活用する
自然排便に大切なのは
姿勢とタイミング
排泄する際の前傾姿勢には大きな意味があります。それは自然排便するための3つの力のうちの2つ(腹圧と重力)を使うためです。そして、直腸の収縮力を活用するために必要なのが排便反射のタイミングです。
「排便反射」が起こる
タイミングを逃さない
便秘で困っている要介護のお年寄りはたくさんいます。実は認知症の「問題行動」のきっかけの半分は便秘だとも言われています。
だからといって、安易に下剤や浣腸といった方法に飛びつかないでください。これらは化学物質の力で直腸を収縮させて排便しようとするもので、自然で快適な排泄とは言えません。
私たちが自然排便しているのは、3つの力を使っているからです。1つは“腹圧”です。そして2つ目は“重力”。この2つの力をうまく使うために私たちは座って、洋式でも和式でも少し前かがみ姿勢になって排便しているのです。寝ている状態に比べて、座ったときの腹圧は2倍から3倍にアップします。また、前かがみで座ると肛門はちょうど真下を向くのです。
3つ目の力が、“直腸の収縮力”です。でも、直腸は自分では動かせず、「排便反射」が起きたときにしか動かないのです。排便反射はいつ起こるか? 答えはズバリ、「したいとき」。つまり、便意を感じているそのときに、排便反射が起きているのです。トイレに行きたくなるタイミングは食後、特に朝食の後でしょう。つまり、朝食後にトイレに座って排便するという生活習慣をつくることが大切です。
自然排便で活用している3つの力
(1)腹圧
腹腔の内圧を高めて直腸を圧迫し、排便反射が起こりやすくします。ふん張ること、気張ることで腹腔の内圧を高めることができます。
(2)重力
寝たままでオムツに排泄するのでは重力は使えません。適切な前傾姿勢をとることで高齢になっても重力を活用できます。
(3)直腸の収縮力
直腸の筋肉は排便反射が起きたときに収縮して便を出します。便意を感じているときが排便反射が起きているときです。
使いやすいポータブルトイレ
ポータブルトイレは、「台型」のシンプルな工事現場用ではなくて、「椅子型」の介護用を選んでください。
▼背もたれ
フタと兼用の背もたれで安心。
▼ひじかけ
マヒがあって座った姿勢のバランスが悪くても安心。移乗のときにベッド側のひじかけを取り外せると便利。
▼便座シート
ウレタンフォーム入りならクッション性が高いので座り心地がいいです。
▼脚の高さ
かかとが床につく高さのものを。調節可能なタイプもあります。
▼シートの下のスペース
立ち上がり自立のため、足を引けるスペースが必要です((10)「介助の基本 イスから立ち上がる」参照)。
ベッドから起き上がれればオムツに頼る必要なし!
トイレが無理でもポータブルトイレに
オムツに頼る不快で屈辱的な排泄にしないためには、自分でトイレに行ける条件をつくること。車イス、またはポータブルトイレに安全に移乗するための環境づくりを行いましょう。
オムツに頼らないための環境
ベッドの高さ
最大のポイントは床からマットまでの高さ。その人がいちばん立ち上がりやすい高さを一緒に見つけましょう。
移動用手すり
ベッドに垂直に取り付ける手すり。しっかりしているので安心で、自分の体から遠いところを持ってもらうと前かがみ姿勢になり、立ち上がりやすい。
ポータブルトイレ
椅子型のものを置きます。ここに車イスを常備して、自分でトイレに通える環境をつくりましょう。夜だけポータブルトイレを使うという方法も。
ポータブルトイレへの移乗のしかた
(1)ベッドサイドに座る
ベッドから足を垂らして座ります。ズボンと下着をずらしておくとあとが楽です。
(2)体を前に出す
移動用手すりを両手でつかんで、体を少し前に出します。足が引きやすくなり、このあと立ち上がりが楽です。
(3)便座のフタを開ける
ポータブルトイレの便座のフタを開けて背もたれにします。
(4)移動用手すり、
トイレのひじかけを持って立つ
上体が前かがみになるようひじかけを持ってお尻を上げます。このときずらしておいたズボンと下着が自動的に落ちると介助は不要です。
(5)体の向きを変えて便座に座る
体の向きを変えてお尻を便座に下ろします。
(6)便座に座って前かがみ姿勢になる
排泄のための前傾姿勢を保つことができます(上記参照)。この姿勢で腹圧と重力が使えます。
なお、本稿は『イラスト図解 いちばんわかりやすい介護術』(永岡書店)から一部を抜粋して掲載しています。詳しくは下記のリンクからご覧ください。
※㉑「食事の介護」はこちら