改めて言うまでもなく、カメラは写真を撮るための必須アイテムです。その一方、人によっては“趣味の道具”でもあります。もちろん、撮影機能や性能も重視するでしょうが、外観デザイン、材質感、操作フィーリング、そういった所に惹かれて購入し使用する人も多いのです。また、すでに使えなくなったが(または、使う機会がなくなったが)、愛着があって手放せない…。そういうカメラもあるでしょう。今回は、そんな愛おしいカメラを連れ出して、被写体として撮影してみましょう。
執筆者のプロフィール
吉森信哉(よしもり・しんや)
広島県庄原市生まれ。地元の県立高校卒業後、上京して東京写真専門学校(現・東京ビジュアルアーツ)に入学。卒業後は専門学校時代の仲間と渋谷に自主ギャラリーを開設し、作品の創作と発表活動を行う。カメラメーカー系ギャラリーでも個展を開催。1990年より、カメラ誌などで、撮影・執筆活動を開始。無類の旅好きで、公共交通機関を利用しながら(乗り鉄!)日本全国を撮り続けてきた。特に好きな地は、奈良・大和路や九州全域など。公益社団法人 日本写真家協会会員。カメラグランプリ2020選考委員。
撮影距離について
中望遠以上のレンズ画角で、自然な形状に描写する
レンズ交換式カメラ(一眼レフやミラーレスカメラ)では、広角(※1)から中望遠(※2)くらいの画角をカバーする標準ズームレンズを使用する事が多いと思います。そこで、私が常用している35mm判フルサイズのミラーレスカメラと24~70mm標準ズームを使用して、レトロな二眼レフを撮影したいと思います。
(※1)35ミリ判フルサイズ:およそ35mm以下、APS-Cサイズ:およそ24mm以下、マイクロフォーサーズ:およそ17mm以下。(※2)35ミリ判フルサイズ:70mm~135mmくらい、APS-Cサイズ:50mm~90mmくらい、マイクロフォーサーズ:35mm~70mmくらい。
カメラのような“あまり大きくない被写体”を撮る場合、必然的に撮影距離は短く(近く)なるでしょう。そして、できるだけ被写体が大きく写るよう、自然に望遠側にズームすると思います。ズームレンズの中には、最短撮影距離が望遠側より広角側の方が短い製品もあります。しかし、特別な表現意図でもない限り、望遠側(多くは望遠端)で撮る事をオススメします。というのも、画面上の被写体の大きさが同じなら、望遠側で撮った方が“遠近感の強調による変形”が少なく自然な形状に写るからです。これは箱状の形をしたカメラでは、とても重要なポイントです。
なお、今回使用している標準ズームの望遠端は「70mm」で、中望遠としては物足りない値です。そこで、カメラ側の撮像範囲をフルサイズからAPS-Cサイズに変更して(一般的に「クロップ」と呼ばれる機能です)、望遠端の画角を105mm相当にして撮影しています。
広角35mmで撮影
中望遠105mm相当(実焦点距離70mm)で撮影
アングルや構図のコツ
標準ズームでは「望遠側で撮った方が“遠近感の強調による変形”が少なく自然な形状に写る」と、先ほど述べました。しかし、撮影時のアングル(カメラの角度)を工夫すれば、あまり変形も気にならずに、広い画角を生かした“周囲の様子を写し込んだ写真”を撮ることが可能です。アングルの工夫、それは撮影に使用するカメラを被写体の高さまで下げて、水平に近いアングルで狙うようにする事。そうすれば、下すぼまりも抑えられて自然な形状に写せます。
アングルや構図に注意して、広角ならではの描写&表現も楽しみたい
ただし、広角域で被写体にするカメラをアップで捉えると、何となく圧迫感を覚える不自然な描写になりがちです(標準ズームの場合、最短撮影距離の関係で、広角域だと極端なアップにはなりにくいでしょうが)。ですから、広角域で撮影する場合には、被写体のカメラは程々の大きさに抑えて、背景や周囲にあるモノを適度に写し込み“周囲の様子も見せる写真”を目指すと良いでしょう。
日陰を選んでライティング
光線状態を意識しながら、自然かつメリハリのあるライティングを!
次は、1.0型(※1)大型センサーを採用するコンパクトデジタルカメラを使用して、60年近く前に発売されたハーフ判(※2)のコンパクトカメラを撮影します。最近では、日常的な撮影をコンパクトデジカメではなく、スマホ搭載のカメラで行う人が多いですよね。しかし、1.0型以上の大型センサーを採用したコンパクトデジカメなら、大伸ばしプリントを前提にした作品づくりにも堪えられるクォリティーが得られるのです。
(※1)寸法は13.2mm×8.8mm。多くのコンパクトデジカメに使用されている1/2.3型センサーの約4倍の面積になる。(※2)35mmフィルムを使用して、通常の35mm判の半分になる約18mm×24mmのサイズ。同一フィルムで撮影できる枚数は、35mm判の2倍。
撮影に出かけた日は文句ナシの晴天で、いわゆる“写真日和”でした。そう、風景撮影には持ってこいの天気です。しかし、晴天時の直射光線は、必ずしも“撮影向きの光線”とは言えません。人物撮影ならば、顔や首元にハッキリした影が発生し、眩しさで表情もキツくなりがちなのです。そして、カメラが被写体の場合には、レンズ鏡筒部が原因の影や光沢面のテカリなどが目障りになる事が多くなります。
そこで、せっかくの晴天ではありますが、あえて日陰を選んで撮影することにします。暗過ぎる日陰だと雰囲気も暗くなりますが、日なたが近い日陰なら雰囲気を損なわずに、目障りな影やテカリを抑える事ができます。
日なたでは逆光撮影がおすすめ
先ほど述べたように、晴天時の直射光線では、レンズ鏡筒部が原因の影や光沢面のテカリなどが目障りになる事が多くなります(そういう写真が悪いと決めつける訳ではありませんが)。そこで、日なたの撮影では、逆光状態をオススメしたいと思います。この光線状態ならば、目障りな影やテカりを防ぐ事ができます。
逆光撮影では“レフ起こし”によるライティングで、カメラの表情を印象的に見せる
ただし、逆光状態では被写体がフラットになり過ぎて、全体的にメリハリに乏しい“印象の薄い表情”になりがちです。そこで、小型のレフ板やA4サイズ程度の白い紙の出番です。これを使って太陽光を反射させ、日陰になったカメラを照らすのです。これは人物撮影で多用される「レフ起こし」と呼ばれるテクニックの応用で、レンズ面などを明るく見せられます。これによって、カメラの表情にインパクトを与える事ができるのです。
まとめ
カメラをはじめとする趣味の道具を撮影する場合、屋内で背景布(または紙)の上に置いて、ライトや外部フラッシュで光を当てて撮影する事が多いと思います。しかし、基本的にカメラは屋外で使用する事が多いもの。そのため、実際に使用する屋外で撮影した方が、リアルで良い雰囲気に写しやすいのです。
もちろん、屋外ならではの難しさ(場所・周囲の状況や光線状態など)もあります。ですが、良い場所と条件で撮影できれば、屋内撮影とは違う満足感が得られるでしょう。
憧れていたカメラをやっと手に入れた。昔使っていた懐かしいカメラを中古品でゲットした。長年使用していたカメラを近々譲渡や売却で手放す…。そういった“愛おしいカメラたち”の姿を、屋外でしっかり記録しておいてくださいね。
撮影・文/吉森信哉