コロナ禍は、あらゆる業界に深刻な影響を及ぼしているが、とりわけフードサービス業界は、最も大きな災難を被っている業界の一つだ。しかしながら、この間に急速に伸びている分野も存在する。その代表は「ゴーストレストラン」(バーチャルレストランとも言う)である。ここで、現在勢いのあるゴーストレストランの運営会社「TGAL」「Kitchen BASE」「Ghost Kitchens」の3事例を紹介しつつ、急成長のポイントと今後の動向について解説しよう。

ゴーストレストランとは?

ゴーストレストランとは、店内営業を行う店舗(=リアル店舗)を持たず、デリバリーやテイクアウトに特化した飲食店のことだ。リアル店舗があったとしても、そのリアル店舗「以外のブランド」も取り扱い、自社便ないし「Uber Eats」や「出前館」といったデリバリープラットホーム(=デリバリー代行業者)を使用して、注文した顧客のところに料理を届ける、という業態を指す。

顧客の注文は、デリバリープラットホームのアプリか、ゴーストレストランのwebサイト、ないし電話で行う。デリバリープラットホームのアプリでは、顧客がスマホやPCから注文すると、ゴーストレストランのキッチンに備えられたタブレットに直接入る仕組みになっている。

現在勢いのある3事業者「TGAL」「Kitchen BACE」「Ghost Kitchens」

ゴーストレストランの一番の特徴は、開業する際のコストが低いことだ。物件を借りるとしてもキッチンスペースだけである。現在営業中のリアル店舗の場合も、キッチンを使用することでこと足りる。だからフードサービス業のスタートアップにはとても向いているのだ。

ここで、現在勢いのあるゴーストレストランの運営会社の事例を紹介しよう。「TGAL(てがる)」「Kitchen BACE(キッチンベース)」「Ghost Kitchens(ゴーストキッチンズ)」の3事業者だ。これは、そのままゴーストレストランの3つのタイプでもある。

TGAL(てがる)

画像: TGALのバーチャルレストランは2015年7月、神田猿楽町にオープンした高級ハンバーショップをデリバリーすることから始まった。

TGALのバーチャルレストランは2015年7月、神田猿楽町にオープンした高級ハンバーショップをデリバリーすることから始まった。

今日のゴーストレストランのパイオニアは、「株式会社TGAL(てがる)」(本社/東京都千代田区、代表/河野恭寛)である。会社が立ち上がったのは2013年で、現在は主にデリバリーの拠点「TGALデリバリー」(88店舗/うち直営17店舗)、「法人弁当事業」(協力工場12カ所)、そして「VR事業」(VRとは「バーチャルレストラン」の略称)の3事業を展開している(2020年12月末現在)。

リアル店舗以外のもう一つのキャッシュポイント

VR事業は、コロナ禍が本格化してから売上が不振となった飲食業を支援しようと考えられたもので、2020年のゴールデンウイークが始まるタイミングでスタートした。

サービスの対象は「厨房設備があるサービス業」、つまり飲食店、ホテルの飲食部門、カラオケなどである。TGALがデリバリーのVR(=ブランド)を開発し(現在40ブランド)、オーナーに提供。現在オーナーは270拠点が存在しており、VRを営むことによってコロナ禍で減少したリアル店舗の売上を補填する役割を果たす。

顧客からの注文は、デリバリープラットホームを経由してオーナーの店舗(=キッチン)に直接入り、それをデリバリープラットホームが配送する。主要な食材は、TGALが指定したものを使用、ほかはリアル店舗のものを使用してもよい。原価率は約30%。お客様は個人が多いことから、注文単価は平均1800円、TGALへのロイヤリティは売上の5%となっている。ロイヤリティ、指定食材、デリバリーキャリアの手数料などを差し引いて、最終的な利益がオーナーに毎月振り込まれる。

利益率は平均20%、月商20~100万円程度

利益率は平均20%、1ブランドあたりの売上は店舗の営業時間により差はあるものの、月商20~100万円程度、1拠点あたり2~3ブランドを行っているところが多く、利益の月額は8万~40万円あたりとなる。最大5ブランドを使用することができる。

VR事業を行う上で家賃は不要。コストとしては人件費、水道光熱費が想定されるが、この部分はオーナーの采配によって変動する可能性がある。基本的に既存のシフト体制でまかなえるオペレーションなので、追加の人件費はほぼ0に等しい。

このようにTGALのVR事業は、飲食事業者にとってリアル店舗以外で利益を生み出す、もう一つのキャッシュポイントとなっている。

Kitchen BASE(キッチンベース)

画像: 「Kitchen BASE」は5フロアの元出版社の倉庫を1棟借りで、21キッチンを構成した。

「Kitchen BASE」は5フロアの元出版社の倉庫を1棟借りで、21キッチンを構成した。

二つ目は「Kitchen BASE(キッチンベース)」。こちらは、ブランドを持ったキッチンの集合体で、注文を受けた料理はすべてデリバリーで届けるというものだ。運営をしているのは、株式会社SENTOEN(本社/東京都千代田区、代表/山口大介)で、4キッチン5ブランドの「Kitchen BASE 中目黒」(2019年6月オープン)と、21キッチンの「Kitchen BASE 新宿神楽坂」(2020年8月オープン)の2施設を擁している。

800万~1000万円かかる開業費用が10分の1程度に

Kitchen BASEの特徴は大きく二つ。まず、「誰でも開業できる」。独立してデリバリーレストランをはじめて手掛ける人、拡大を目指す人にとってもすぐに開業できる。次に、「低リスク」。入居者は開業・退店時のコスト、ドライバーの採用など、デリバリーレストランの開業にまつわるリスクを最低限にとどめることができる。

入居者は契約期間を6カ月、12カ月、24カ月以上から選ぶことができる。初期投資は保証金などを含めて100万円程度。一般的に実店舗を構える場合に800万~1000万円かかるところが、10分の1程度で済む、ということをうたっている。

画像: 「Kitchen BASE」の1階、商品を上渡すところに続々とデリバリ―キャリアがやって来る。

「Kitchen BASE」の1階、商品を上渡すところに続々とデリバリ―キャリアがやって来る。

それに対してレンタル料はリアル店舗を構えるよりも高い。その理由は、まず設備がフルセットであること。このキッチンはさまざまな業種に対応可能だ。レンタル料が高いもう一つの理由が、デリバリープラットフォームへの委託が、Kitchen BASEを通じてすぐにできるからだ。通常、デリバリーのためにデリバリープラットフォームに委託しようとしても、3~4カ月待たされてしまう。
 
さらに、入居者それぞれの売上が伸びるように、スマホの画面のつくり方、料理画像のクオリティ、ポーション(盛り付け)や価格設定などについて、お客のクリック数、オーダー数、リピート数のデータを基にアドバイスを行う。

画像: 顧客からの注文は、このようにキッチンのタブレットに直接入る。

顧客からの注文は、このようにキッチンのタブレットに直接入る。

開業準備わずか1カ月程度

一般的に、独立してリアル店舗を構える場合のスケジュール観はこうなる。
物件を決めるまで約1カ月。その後、内装や設備を決めるまでに約1カ月。営業許可を取得して、そこからデリバリーキャリアに委託できるまで4カ月程度を要する。ざっと6カ月である。Kitchen BASEでは、これらを1カ月に短縮することになり、リアル店舗開業と比較した場合の約5カ月余計にかかる日数とコストをカットすることができる。

Kitchen BASEでは、2021年3月、東京・浅草に22ブースのキッチンをオープン。さらに、中野に200坪弱の物件を確保しており、35ブースのキッチンを計画している。

Ghost Kitchens(ゴーストキッチンズ)

画像: 西麻布の陸の孤島と例えらえる住宅街にある「Ghost Kitchens」の施設前。富裕層が多いことから需要は多い。

西麻布の陸の孤島と例えらえる住宅街にある「Ghost Kitchens」の施設前。富裕層が多いことから需要は多い。

三つ目は、東京・西麻布の住宅街の中にある「Ghost Kitchens(ゴーストキッチンズ)」、株式会社ゴーストレストラン研究所(本社/東京都港区、代表/吉見悠起)が運営していて、現状16のブランドを擁している。ブランドの名前は、「すーぷのあるせいかつ」「さらだのあるせいかつ」「きょうだけゆるして」「ふるーつ宅急便」「二日酔い食堂」と独創的だ。中身を見ていくと、これらは「業種」ではなく「消費者のライフスタイル」に訴求している。

会社が設立されたのは2019年1月、2月に目黒区の住宅街にあるフードの撮影スタジオ(5坪)を借り、営業許可を取得してスタート。ここから試行錯誤を重ね、変化をしながら7ブランドとなって月商500万円を売り上げるようになった。こうして「地域の台所」としての手応えをつかんだ。

ゴーストレストランの「あやしさ」を完全に払拭

2020年4月には「丸亀製麺」を展開する外食企業大手の株式会社トリドールホールディングスをはじめ、3社から資金調達を行い、同年6月、西麻布に移転。以前と比べ3倍以上の広さとなり、前述のとおりブランドも増やした。

「Ghost Kitchens」は、店内がスクエアで、外から店内が見渡せるようになっている。厨房はドライキッチン(排水口の露出が少なく厨房全体が乾燥しているキッチンのこと)で、スタッフはきびきびと働いている。こうして「ゴーストレストラン」でイメージされる〝あやしさ″を完全に払しょくしている。同店を訪れるのは、デリバリーキャリアのほかにテイクアウトをピックアップする一般の顧客もいる。

画像: 「Ghost Kitchens」の施設内は清潔なドライキッチンで構成。

「Ghost Kitchens」の施設内は清潔なドライキッチンで構成。

「さらだのあるせいかつ」「きょうだけゆるして」

代表の吉見氏がブランドを設計する上で大切にしている発想は、「自分たちはこれが欲しい」という商品を提供すること。その端緒が、創業当時につくった「さらだのあるせいかつ」である。最近でユニークなものは「きょうだけゆるして」や「二日酔い食堂」。「二日酔い食堂」は、二日酔いの時に「シジミ出汁のお茶漬けを届けてもらえたら…」という発想でつくった。実際にこのメニューは、土曜日の昼に一番出るようになっているという。

現状、西麻布の拠点では、1日150食程度のオーダーがある。メニューは個食対応になっていて、ブランドによって多少の差があるが、新規客の場合、1回のオーダーで2000円程度、リピーターで3000円近くになる(配送料はお客が負担)。

まとめ

ゴーストレストランはこれからどのように成長していくのか。リアル店舗はどのような存在感になっていくのだろうか。この問いについて、ゴーストレストラン研究所の吉見氏の発言が印象深かった。

「いかに席数を増やすか」から「いかにキッチンを広くするか」へ

吉見氏は「リアル店舗は必要です。お客様はリアル店舗があると信用します」と前置きして、「これまでの飲食店の方向性は『いかに席数を増やすか』というところにありましたが、これからは逆の方向、『いかにキッチンを広くするか』に進みます。席は、売上を上げる場所ではなく、体験を提供する場所になっていく。そこでお客様に体験してもらって、最終的な購入はwebで行ってもらうという形。リアル店舗はエンターテインメントであり、ブランドを感じる場所です」

この度のコロナ禍について、筆者は「未来が著しく速くやってきた」と感じている。DXがさらに高度に進み、われわれの食のライフスタイルしかり、食の存在感はにわかに大きく転換していくことだろう。

執筆者のプロフィール

画像: 執筆者のプロフィール

取材・文・撮影◆千葉哲幸(フードサービスジャーナリスト)
柴田書店『月刊食堂』、商業界(当時)『飲食店経営』とライバル誌それぞれの編集長を歴任。外食記者歴三十数年。フードサービス業の取材・執筆・講演、書籍編集などを行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社、2017年)などがある。
▼千葉哲幸 フードサービスの動向(Yahoo!ニュース個人)

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