オフィス街にある飲食店は、コロナ禍でリモート勤務になったことで昼間人口が減少。時短営業や酒類販売の自粛で大きな痛手を被った。神田で4店舗をドミナント展開しているスマイルリンクルも同様だった。JR神田駅から徒歩で30秒、4階建てという絶好の物件が現れた。悩んだ挙句、同社ではそれを借りることを決断。1・2階をラム肉の居酒屋、3階をセントラルキッチン、4階を本社事務所という、神田ドミナントに最もふさわしい施設につくり上げた。

コロナ禍は、都心のオフィス街の飲食店に大きな影響を及ぼした。言うまでもなく、リモート勤務によって昼間人口が減ったこと。そして、時短営業や酒類提供の自粛とよくない条件が重なった。

東京・神田にドミナント展開している株式会社スマイルリンクル(本社/東京都千代田区、代表/須藤剛)も、その例に漏れない。同社の代表、須藤氏によると「神田から離れて、高円寺、阿佐ヶ谷といった住宅街を背景にする立地に展開エリアを移そうか」と考えたこともあったという。しかしながら、それを思い留めて、より神田ドミナントを深化させる作戦を採ることで、今再び攻めの姿勢に転じるようになった。

「神田に得意な会社」であることを確信

スマイルリンクルは、創業者で現会長の森口康志氏が1994年に創業し、27年の社歴を持つ。神田で展開している店の一つ「広島お好み焼き Big-Pig 神田カープ本店」は、広島東洋カープのOBや現役選手がトークショーを行うなど、カープファンの聖地となっている。この他、大衆酒場「酒場五郎」、京おでんと肉豆富料理「酒場ゴロー」、フレンチビストロ「チンチン・ゴロー」を展開している。

現代表の須藤剛氏は、2019年10月に代表取締役に就任。翌年コロナ禍となり、大きな苦難の中で舵を取るようになった。そのような中の昨年4月、JR神田駅南口から徒歩30秒のところに「10坪4階建て」の物件が現れた。須藤氏はこの物件を借りたいと思ったが、その決断に踏み切ることが出来なかった。

同社は、創業以来、神田に拠点を置きながら赤坂、銀座、行徳・葛西といった東西線沿線と、多様なエリアで店舗を展開、累計で30店舗を出店してきた。それが、昨年の段階で神田に4店舗を経営する会社となっていた。

須藤氏はこう語る。

「かつて展開エリアが広くなったことで、“従業員の血が薄くなった” という感覚があった。従業員満足度が低下し、結果、顧客満足度も低下した。そこで、収益モデルが崩れていなかった神田エリアの店舗の営業に集中することになった。結果、当社は「神田で商売をするのが得意な会社になった」という結論に至った」

そして昨年6月、この物件を借りる決断をした。

画像: ファサードには壁一面に緻密な羊の顔の絵と2階をのぞき込み羊の人形が置かれているなどカオスな雰囲気が漂う(筆者撮影)

ファサードには壁一面に緻密な羊の顔の絵と2階をのぞき込み羊の人形が置かれているなどカオスな雰囲気が漂う(筆者撮影)

神田ドミナントの中心となる施設が完成

この物件の4つのフロア構成を考えた。
まず、1階、2階を店舗とする。業態については、既存の神田のマーケットに合わせると埋没してしまうと考え、「神田にないもので、お客が他から神田にやってくる業態」を検討した。そこでひらめいたのは、以前ジンギスカン料理の店を営業していたこと。

「ラムはアンチの人もいますが、好きな人は遠方からでもやってくる」(須藤氏)ということで、スマイルリンクルが得意とする神田の町で、遠方からお客がやってくる「ラム肉酒場」を営むことに決定した。

店名を、既存店の「酒場ゴロー」「酒場五郎」「チンチン ゴロー」とつながる「ラムゴロー」とすることで、神田ドミナントでのブランディングを図った。「ゴロー」とは、森口氏が飲食業を立ち上げる前に勤務していた青山商事の創業者・青山五郎氏に由来している。森口氏が商売の神様としてこよなくリスペクトしている。

ラム肉をメニュー化するためには、下処理の作業が多いことが分かった。そこで、3階をラム肉の下処理に加えて、神田で展開する店舗のセントラルキッチン(CK)にすることになった。

最後の4階について。同社ではこれまで、神田に12坪程度の事務所を借りていた。そこで、この4階に事務所を移設すると、事務所の家賃が発生しなくなることから4階を事務所にすることにした。

こうして、10坪4階建ての物件は、1、2階が「ラム肉酒場 ラムゴロー」、3階がCK、4階が事務所という見事に本社機能が整った施設となった。

羊をテーマにした遊び心が満載

ラムゴローは1、2階。1フロア10坪、2層の中に50席を配している。1階は、炭火の焼き場が中央に置かれ、それを取り囲む形で円型のカウンター席がある。さらに、その外側はテーブル席が囲むように配されている。炭火の焼き台がステージで客席がそれを取り囲むといったイメージだ。

画像: 1階のカウンター席。中央の炭焼き場がステージで客席がそれを取り囲むというコンセプト(筆者撮影)

1階のカウンター席。中央の炭焼き場がステージで客席がそれを取り囲むというコンセプト(筆者撮影)

2階へ上ると、ファサードの上で2階席をのぞき込んだ羊の顔が出迎える。空間にはテーブル席のみだが、ベンチシートの背中が当たる部分に、もふもふシートが掛けられている。「ここに座ってみたい」という感情が湧いてくる。

画像: 2階席につくとファサードの羊の人形の顔が出迎えてくれる(筆者撮影)

2階席につくとファサードの羊の人形の顔が出迎えてくれる(筆者撮影)

画像: 羊コンセプトで、壁にもふもふのシートを張ったことでベンチシートを座ってみたい席にした(筆者撮影)

羊コンセプトで、壁にもふもふのシートを張ったことでベンチシートを座ってみたい席にした(筆者撮影)

ラムゴローのメニューを紹介しよう。
ちなみに、同店のメニューは紙の「メニュー表」のほかに、モバイルオーダーもある。これはスマートフォンでQRコードを読み込んで、スマートフォンに表示されるメニューから注文するというもの。このタイプは、最近導入事例が急速に増えてきている。注文は客が自分で行うことから、「すみませ~ん」という言葉が発せられることはない。

画像: 同店には紙製のメニュー表もあるが、モバイルオーダーでも行う。これによって注文のために従業員を呼ぶ必要がない(筆者撮影)

同店には紙製のメニュー表もあるが、モバイルオーダーでも行う。これによって注文のために従業員を呼ぶ必要がない(筆者撮影)

BGMの工夫で中高年をターゲットとする

メニューの筆頭にあるのは「ラムチョップ」1本550円(税込、以下同)。
ラム肉専門店の定番。画面では「何本でも食べられる」とキャッチを付けてお馴染みのメニューを印象付けている。

画像: 羊肉料理の店では定番の「ラムチョップ」は自家製のスパイスを振りかけて食感も特徴としている(筆者撮影)

羊肉料理の店では定番の「ラムチョップ」は自家製のスパイスを振りかけて食感も特徴としている(筆者撮影)

次は、「絶品!ラムのスペアリブステーキ」1290円。
あまり出回ることのないスペアリブを「一番人気」というキャッチをつけて看板メニューとしている。1ポーション160ℊを真空パックにして65度40分間の低温調理を施し、提供する時に表面を軽く焼成して提供する。食べると、肉と骨の間の弾力ある食感が印象的だ。

画像: 同店の羊肉料理のこだわりとして「スペアリブ」をラインアップ。65度40分間の低温調理によって噛み応えのある食感にしている(筆者撮影)

同店の羊肉料理のこだわりとして「スペアリブ」をラインアップ。65度40分間の低温調理によって噛み応えのある食感にしている(筆者撮影)

そして、「ラム肉のたたき」890円。
このキャッチは「名物」となっていて、ラム肉のたたきにケージャンスパイスを振りかけ、ネギをトッピング。添えている自家製レモンマヨネーズとホースラディシュを合わせて食べる。

さらに、「タン」1本390円。
コリコリとした食感で牛タンよりもあっさりしている。自家製のネギ塩だれをかけている。「ラムタンにやみつき」とキャッチをつけて、同店への来店動機になるようなイメージ。ラム串はこれをはじめとして7品目をラインアップ。「ヒレ」1本(以下同)500円、「ランプ」350円、「自家製つくね」「ハツ」「ショルダー」各290円となっている。

さらに、店にしばらく滞在して気付くことだが、BGMが1970年代、80年代の洋楽である。ポップスからディスコミュージックまでさまざま。筆者の学生生活は1980年あたりで、当時「ディスコ」が流行していたことから、とても懐かしい気分に浸った。同店の客単価は3800円と聞いたが、同店のメニューの持ち味を理解し、この客単価に満足することできる中高年の年代を狙う上で、とても効果の高いBGMと言えるだろう。

このように、悩んだ末に神田ドミナントを継続することになったが、結果は、神田の飲食店街全体の魅力をより一層豊かにする店が誕生した。

執筆者のプロフィール

画像: 執筆者のプロフィール

文◆千葉哲幸(フードサービスジャーナリスト)
柴田書店『月刊食堂』、商業界(当時)『飲食店経営』とライバル誌それぞれの編集長を歴任。外食記者歴三十数年。フードサービス業の取材・執筆・講演、書籍編集などを行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社、2017年)などがある。
▼千葉哲幸 フードサービスの動向(Yahoo!ニュース個人)



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