上手にタネをまき、よい苗を植えることができれば、後は楽です。生長に合わせて行ういくつかの作業はどの野菜でも基本的には同じ。収穫までの作業の流れを覚えると栽培も楽しくなるでしょう。種まきから収穫までのポイントについて、書籍『決定版 一年中楽しめるコンテナ野菜づくり 85種』著者の金田初代さんに解説していただきました。
解説者のプロフィール
金田初代(かねだ・はつよ)
1945年茨城県に生まれる。東洋大学卒業後、出版社勤務。現在、植物専門のフィルムライブラリー(株)アルスフォト企画に勤務。著書に『花の事典』、『色・季節でひける花の事典820種』、『これだけは知っておきたい 園芸の基礎知識』(以上西東社)、『庭で楽しむ四季の花』、『鉢花&寄せ植えの花』、『花木&庭木図鑑』(以上主婦の友社)、『花のいろいろ』(実業之日本社)、『一日ひとつの花図鑑』、『おいしい山菜・野草の見分け方・食べ方』(PHP研究所)、『季節を知らせる花』(講談社)などがある。
金田洋一郎(かねだ・よういちろう)
1942年生まれ。滋賀県出身。日本大学芸術学部写真科卒。フィルムライブラリー(株)アルスフォト企画を経営。植物写真を撮って三十余年。園芸植物の写真を中心に撮影活動に従事し、多数の出版物、印刷物に写真を提供。花の写真の撮り方などの著書も多数ある。
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本稿は『決定版 一年中楽しめるコンテナ野菜づくり 85種』(西東社)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。
イラスト/西谷 久、竹口睦郁
収穫までの作業を覚えましょう
上手にタネをまき、よい苗を植えることができれば、後は楽です。生長に合わせて行ういくつかの作業はどの野菜でも基本的には同じ。
収穫までの作業の流れを覚え、ポイントをおさえると栽培も楽しくなるでしょう。
コンテナに土を入れる
コンテナでの野菜づくりはここからスタートします。野菜づくりは、タネをまくか、苗を購入して植え付けるかですが、どちらにしてもコンテナ栽培は、コンテナに用土を入れることから始まります。
土はコンテナの上の縁から2~3cmのウォータースペースをとって入れ、表面を平らにならしておきます。
土の入れ方 コンテナの場合
(1)脚をつけた底上げ網と一体になったプランターは鉢底石は不要。直接土を要れてよい
(2)ウォータースペースをとって、縁から2cmくらい下まで用土を入れる
(3)用土を入れた後、板切れなどで表面をていねいにならして平らにする
(4)土の流出と防虫のため、鉢の底に鉢底ネットを敷く。メッシュ状になっているコンテナには不要
(5)水はけをよくするため、発泡スチロールの破片などを底が隠れるくらい敷く
(6)コンテナの上部に2cmくらいのウォータースペースを残して用土を入れ、平らにならす
ウォータースペースは水代ともいい、コンテナの上部に水がたまるようにした空間。この空間がないと水やりの際に、水と一緒に土が流れ出てしまう
土の入れ方 ポットの場合
(1)ポリポットの底に鉢底ネットを敷く
(2)8分目くらいまで用土を入れる
(3)用土の表面を平らにならす
タネをまいて育てる
タネをまいて野菜を育てるとき、コンテナに直接まく「直まき栽培」と、ポリポットなどにまいて、ある程度育てた苗を植え付ける「移植栽培」があります。
直まき栽培は、ダイコンなどの根もの野菜やホウレンソウなど栽培期間が短い葉もの野菜に適しています。
タネのまき方にはばらまき、条まき、点まきの三通りがあります。コンテナの形や野菜の種類によって、適切なまき方を選びましょう。
移植栽培は、レタス類やブロッコリー、ハクサイ、キャベツ、エンドウなど育苗期間が長い野菜やつくる株数が少ない野菜に適しています。
育苗期間が長くて苗づくりが難しいトマトやナス、ピーマン、キュウリなどは苗を求めるのが一般的です。
直まき栽培
▼ばらまき
コンテナ全体にタネをぱらぱらとまく方法です。
ベビーリーフなど小さな苗のうちから間引きながら利用する葉菜やラディッシュなどに向いていますが、間引きが遅れると徒長するので、注意が要ります。
(1)親指と人差し指をひねるようにして、タネが重ならないようにぱらぱらとまく
(2)まき終わったら、フルイで土をふるいながら細かい土を上から均等にかける
(3)手のひらで軽く押さえて、タネと土を密着させ、水をやる
▼条まき
条まきは、まき溝にタネが重ならないように1列にまく方法で、まき溝が1本なら1条まき、2本なら2条まきといいます。
ゴボウやカブ、ニンジン、コマツナ、ホウレンソウなど多くの野菜にむき、発芽後の間引きや追肥などの作業が楽に行えます。
(1)支柱などの細い棒を利用すると、真っ直ぐで均等な深さのまき溝ができる
(2)まき溝に1cm間隔に1粒ずつタネを落としていく
(3)まき終わったら、まき溝の両脇の土を親指と人差し指でつまんで、均等に土をかける
(4)手のひらで軽く押さえタネと土を密着させてから、水をやる
▼点まき
あらかじめ株間をとって、1カ所に数粒ずつタネをまきます。
ダイコン、ハクサイ、トウモロコシ、エンドウ、インゲンなどのタネの大きな野菜や生育期間の長い野菜に向き、タネの節約にもなり間引きも手軽に行える方法です。
(1)ペットボトルやビンのふたなどを利用すると、大きさのそろったくぼみがつけられる
(2)くぼみの中に、数粒のタネを等間隔にまく
(3)くぼみの周囲の土を寄せるようにかぶせ、手で押さえてタネと土を密着させる。まき終わったら水をやる
本稿は『決定版 一年中楽しめるコンテナ野菜づくり 85種』(西東社)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。
移植栽培 ポットまき
コンテナに直接タネをまかずに、ポリポットにタネをまき、間引きながら育てます。
ある程度の大きさに育ったら、コンテナに定植します。育苗期間が長い果菜類に多く利用されますが、市販の苗を利用するほうが簡単です。
(1)人差し指の第一関節の深さに穴をあけると、均一の深さにタネがまける
(2)指であけた穴にタネを1粒ずつ落とし込むようにまく
(3)まき終わったら、まき穴の回りの土をつまむようにして穴をふさぐ
(4)手で軽く押さえ、タネと土を密着させて、水をやる
上手にタネをまくコツ
慣れないとタネまきは意外に難しいもの。小さなタネは、折った紙の上に乗せて、楊枝などで一粒ずつ落としていくと効率よくまけます。
また、発芽しにくいタネは芽だしまきや、一晩水につけてからまくようにします。タネをまき終わってからかける土の量は、野菜の種類によって異なります。
発芽するときに、光が必要な好光性種子は、タネが見え隠れする程度に軽く土をかけます。反対に光を嫌う嫌光性種子は、タネの厚みの3倍量の土をかけるのが基本です。
▼小さなタネの場合
楊枝で1粒ずつ落とす
▼硬いタネの場合
一晩水につけてまくと、発芽がよくなる
▼発芽しにくい場合
水につけてから濡らした布などに包んで、根を出させてからまく(芽出しまき)
▼微細なタネや好光性種子の場合
(1)ごく薄く土をかけた後、板切れで軽く押さえる
(2)発芽するまで、新聞紙をかけておく(乾燥防止)
(3)タネが流れやすいので、容器ごと水につけ、底部から水を吸わせる腰水で水やりする
好光性種子
ゴボウ
シソ
セロリ
ニンジン
パセリ
ミツバ
レタス類
シュンギク など
▼タネが見え隠れする程度
嫌光性種子
ウリ科
カボチャ
スイカ
ウリ類 など
ナス科
トマト
ナス など
アブラナ科
ダイコン
ブロッコリー
ハクサイ など
▼タネの厚みの3倍
タネまき後の管理
アブラナ科の野菜は害虫の被害が多いので、タネまき後に防虫ネットや不織布をかけて防虫対策をするとよいでしょう。
発芽後の管理
季節にもよりますが、タネをまくと3~10日ほどで発芽します。発芽後は、成育のよい苗を残して適正な間隔になるように間引きます。間引くときは残す株を傷めないように注意しましょう。
発芽がそろい双葉(子葉)が開いたら、込み合っている苗を抜き取り、苗と苗の間隔を広げる作業をします。これが間引きです。
間引きをすることによって、日当たりや風通しがよくなるので、早めに間引いて徒長を防ぎます。一般に間引きは1度に行わず、野菜の生長に従い2~3回に分けて少しずつ行います。
間引き後は、株元に土を寄せて苗が倒れないようにします。この作業が土寄せです。
▼双葉が開いたら1回目の間引き。葉の形が悪いもの、病虫害の被害があるもの、小さいもの、大きすぎるものなどは間引く
間引きのポイント
▼1回目の間引き
(1)発芽後、込み合っている部分を間引く。ハサミで切ると根を傷めない
(2)間引き後は必ず土寄せして苗を立たせる
2回目の間引きは本葉が出そろった頃。隣り合った株の葉が触れ合わない程度に間引いて、適正な株間をとる
▼2回目以降の間引き
(1)本葉が出そろったら、生長に合わせて2~3回間引いて株間をあける
(2)2回目の間引き後からは、移植ゴテで土寄せを行う
本葉が3~4枚になったら3回目の間引き。その野菜に合った十分な株間をとる
本稿は『決定版 一年中楽しめるコンテナ野菜づくり 85種』(西東社)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。
苗の植え付け
発芽に高い温度が必要で、さらに育苗期間が長くかかるイチゴやキュウリ、トマト、ナス、ハクサイ、パセリ、ピーマン、レタスなどは市販の苗を購入して育てたほうが失敗が少なくてすみます。
育てる株数が少ないときなども苗を利用したほうがよいでしょう。
ポットにタネをまいて育苗した苗も、購入した苗も植え付ける方法は同じです。ポットから抜くときは根鉢を崩さないように気を付けます。
植え付けるときは深植えに注意し、根鉢の高さとコンテナの土の高さが同じになるように植え、株元を軽く押さえて苗を落ち着かせたあと、たっぷり水を与えます。
▼市販の苗を植え付けるポイント
▼よい苗の植え付け
根鉢を崩さずに、根鉢の上面が用土の高さとそろう程度の浅植えにする
▼悪い苗の植え付け
根鉢が崩れて、子葉を埋めてしまうような深植えは避ける
生育中の管理
乾燥しやすいコンテナ栽培に欠かせない毎日の水やり、と同時に水と一緒に肥料分が流れるので追肥もしっかり施さなければなりません。
野菜によっては支柱を立てたり、摘心などの作業も必要です。
水やり
コンテナ栽培では毎日の水やりが欠かせませんが、水のやりすぎで根ぐされをおこし、野菜が枯れることもあります。
水やりのコツは、鉢土の表面が乾いたらたっぷりと与え、乾くまでやらないことです。
▼水やりの方法
水は、コンテナの底から流れ出るまでたっぷりと与えるのが基本
▼小さな苗
小さな苗は、ジョウロのハス口を上に向けてやさしく与える
▼大さな苗
大きな苗や大きく育った株は、ハス口をはずして株元にたっぷり与える
▼タネまき後
タネまき後は、タネが浮き出たり流れないように慎重に与える
追肥
土の量が制限されるコンテナ栽培では、水やりの回数も多いために、肥料分が水とともに流れるので追肥が重要です。
追肥は、主に固形の化成肥料と液体肥料が使われますが、化成肥料はチッ素、リン酸、カリの3要素の含有率(%)が低い、肥当たりしにくい肥料を、回数を多く施すのがコツ。
施すとき葉にかけないように注意します。
▼追肥の方法
コンテナでは、雨や水やりのたびに少しずつ溶けて効く粒状の化成肥料を施し、肥料と土がなじむように移植ゴテで混ぜ合わせ、土寄せしておきます。
この後に水やりをすると、肥料分が土にしみこみ、効果的に施せます。
▼条まきの場合
条まきの場合、土の量1ℓ当たり1gの化成肥料を条間にぱらぱらとまく。移植ゴテなどで、肥料を土に混ぜ込んでなじませる
▼ばらまきの場合
ばらまきの場合、土の量1ℓ当たり1gの化成肥料を葉にかけないようにまく。肥料を土に混ぜ込むだけで、株元に土寄せはしない
▼点まきの場合
点まきの場合、土の量1ℓ当たり1gの化成肥料を株の周りにぐるりとまく。肥料を軽く土に混ぜ込んで、株元に寄せる
▼液体肥料は株元に注ぐ
水で薄めるタイプの液体肥料はすぐに効く肥料です。葉もの野菜に水やりを兼ねて施したり、肥料切れで株が弱っているときに施すと効果的です。
説明書に書かれた適切な倍率で薄め、ジョウロや水差しなどで株元に注ぎます。1~2週間に1回の割合で施すとよいでしょう。
本稿は『決定版 一年中楽しめるコンテナ野菜づくり 85種』(西東社)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。
支柱立て
つる性の野菜や丈が高くなる野菜には支柱を立てます。トマトやナス、ピーマン、ニガウリ、オクラ、サヤエンドウ、キュウリなどは倒れるのを防ぐために支柱が必要です。
支柱に誘引するときは、生長したときに紐に茎が食い込まないようにゆとりをもたせて結びましょう。
▼植えたばかりの苗には仮支柱を立てる。紐はゆとりをもたせて結び、風の害から守る
▼つる状に伸びるスイカは、あんどん型の支柱を立てつるを絡ませる
芽かき
よい果実を収穫するには芽かきをします。トマトやピーマン、ナスなどは不要な枝をつけないためにわき芽をかき取り、日当たりや風通しをよくして実を大きく育てます。
▼トマトは葉の付け根から出る芽をすべて取り除く
▼ナスは1番花の下2本のしっかりした芽を残し、ほかは取り除く
▼ジャガイモは大きなイモを収穫するために、太い芽を1~2本残してほかは取り除く
まし土
水やり回数の多いコンテナ栽培。十分に入れた用土も水やりのたびにかさが減り、根元が露出して株が倒れやすくなります。土が減ったときは新しい土を足してまし土をします。ニンジンやジャガイモなどは、緑化を防ぐためのまし土が大切です。
▼土が沈み、根がみえてきたらまし土をする
▼ニンジンなど緑化を防ぐまし土は大事な作業
▼追肥後にまし土をすると肥料の効果が高まる
摘心
摘心は茎の先端の芽を摘み取ることです。収穫をふやしたいときに行う作業です。バジル、クウシンサイ、シュンギク、シソなどは摘心してわき芽を出させると次々と収穫できます。また、トマトやキュウリは支柱より高く伸びたら摘心して、養分を下に回して実を充実させます。
▼スイカは主枝を摘心し、雌花をつける子づるの発生を促す
乾燥防止
夏は土の乾きが早く、水やりが大変です。コンテナに敷きわらをして乾燥を防ぐとよいでしょう。
▼野菜の中で最も乾燥に弱いサトイモは、株の周囲に敷きわらをして水やりをする
▼多湿を好むクウシンサイは、敷きわらをする
霜よけ
シュンギクや小カブ、ミズナ、ホウレンソウなどを寒さの厳しい時期に作るときは、不織布や寒冷紗をかけてトンネル栽培すると軟らかい上質のものが収穫でき、収穫期間も伸ばせます。
▼寒冷紗のトンネルを掛けて防寒すると生育が順調になる
▼春先や晩秋にタネをまいたときは、ビニールなどで覆って保温をすると発芽がよくなる
受粉
高層階のベランダでは、飛来する昆虫も少ないため、実を収穫する野菜は人工授粉が大事。雌花の開花に合わせて雄花を咲かせなければならないので、複数の株を育てると人工授粉の機会が増えます。
▼花粉の寿命が短いため、受粉は朝9時ころまでには済ませる
収穫
手近で栽培できるので、必要な分だけ収穫できるのがベランダ菜園のよいところです。おいしい時期を逃さず、適期に収穫しましょう。
▼サラダカラシナは間引きながら収穫して、残す苗の株元に光が当たるようにする
▼セロリは使う分だけ外葉からかき取って収穫すると、長く楽しめる
野菜の各部名称
つる性野菜
子葉と本葉
エダマメ等
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なお、本稿は書籍『決定版 一年中楽しめるコンテナ野菜づくり 85種』(西東社)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。日当たりのよいテラスやベランダ、玄関周り、また住まいの周辺にコンテナを置くちょっとしたスペースがあれば、野菜づくりが楽しめます。観る楽しさと、育てるよろこび。体にうれしい野菜がいつも身近にある…そんな生活はいかがですか? 本書は、見て楽しい、食べておいしい、喜びいっぱいのコンテナ菜園のつくりかたを豊富な写真とともにオールカラーで紹介しています。詳しくは下記のリンクからご覧ください。
※【ベランダ菜園】コンテナ栽培に適した土づくり・肥料 市販の培養土でもOK!の記事もご覧ください。