自律神経は、生きていくうえで必要なあらゆる機能をコントロールしています。そのため、なんらかの影響を受けて自律神経が乱れると、ありとあらゆる不調が体に現れるようになるのです。自律神経を理解するための基本について、書籍『イラスト&図解 知識ゼロでも楽しく読める! 自律神経のしくみ』著者で埼玉医科大学名誉教授の荒木信夫さんに解説していただきました。
解説者のプロフィール
荒木信夫(あらき・のぶお)
埼玉医科大学名誉教授、よみうりランド慶友病院院長。1978年慶應義塾大学医学部卒業。1982年慶應義塾大学大学院医学研究科修了。1988年米国ペンシルバニア大学脳血管研究所留学。日本鋼管病院内科医長、埼玉医科大学神経内科講師、同助教授、同教授、埼玉医科大学医学教育センター長、同副医学部長を経て、2019年埼玉医科大学を定年退職。2021年より、よみうりランド慶友病院院長、現在に至る。日本自律神経学会理事長を務めている。
本稿は『イラスト&図解 知識ゼロでも楽しく読める! 自律神経のしくみ』(西東社)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。
イラスト/平松 慶、北嶋京輔、栗生ゑゐこ
はじめに
近年、「なんとなく体の調子が悪い」「気分がすぐれない」といった理由のわからない不調の原因として、自律神経の乱れがフォーカスされるようになってきました。
人間の体には無数の神経がはりめぐらされており、まだまだわかっていないことも多いですが、徐々にそのメカニズムが明らかになってきています。
自律神経は、数ある神経のなかでもとても重要な神経で、人間の意識とは関係なく24時間自律してはたらいてくれています。
普段の生活で存在を意識することはほとんどありませんが、呼吸・血液循環・体温調節・消化・排泄・生殖・免疫など、生きていくうえで必要なあらゆる機能をコントロールしています。
そのため、なんらかの影響を受けて自律神経が乱れると、ありとあらゆる不調が、体に現れるようになるのです。
自律神経がはたらくことで内臓をはじめとする体の組織は活動しているので、体の司令塔ともいえる自律神経が乱れると、体のあちこちに不具合が起きてしまいます。
つまり、自律神経を正常に保つことこそが、病気を予防し健康的な生活をおくるうえで最重要課題ともいえるのです。
脳も神経のひとつ?そもそも、神経ってなに?
神経は、体に必要な情報や指令を各所に伝えるための、ネットワークの総称!
何気なく使っている「神経」という言葉ですが、そもそもどのようなものなのでしょうか?
神経とは、体の内外からキャッチした情報を集め、その情報をもとにどうすべきか判断して、必要な場所に指令を伝える器官の総称です。たとえば熱い鍋に触れた場合を考えてみましょう。
(1)「熱い」と感じてそれを脳に伝える (2)脳は状況を判断して「手を離せ」と指令を出す (3)その指令を筋肉に伝えるの3ステップを行っているものすべてが神経です。「脳も神経なの?」と疑問を抱くかもしれませんが、実は脳も神経なのです。
中枢神経と末梢神経が人間の行動を決定
▼中枢神経と末梢神経の連携
神経は、各部位に指令を出す「中枢神経」と、各部位と脳の間でその指令を伝える「末梢神経」に分かれる。
(1)鍋に触れた手に張りめぐらされた末梢神経から脳へ、「熱い」という外部からの情報を伝える。
(2)脳から末梢神経へ、「手を離せ!」という指令が伝わる。(3)末梢神経が手や腕の筋肉を動かし、熱い鍋から手が離れる。
脳や脊髄は、全身から集まる情報を整理して判断し、指令を出すという神経の司令塔であり「中枢神経」と呼ばれます。
それに対して(1)と(3)にあたる、情報を集めて脳に伝え、脳からの指令を必要な場所に伝えるものは「末梢神経」と呼ばれます。
末梢神経は「体性神経」と「自律神経」に分けられ、前者は運動を行うために、後者は体内の調整を行うためにはたらきます。
前述の例は体性神経のはたらきであり、「熱い」と感じるのは外部の情報を受け取る「感覚神経」、筋肉に指令を出すのは体を動かす「運動神経」です。
▼神経の種類
中枢神経は脳と脊髄に、末梢神経は4つに細分化される。
本稿は『イラスト&図解 知識ゼロでも楽しく読める! 自律神経のしくみ』(西東社)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。
体をオートで制御する?自律神経ってなに?
生きるために必要な体のはたらきを無意識に制御する末梢神経のこと!
自律神経とは、末梢神経の一種で、内臓機能を調節する役割があります。
その名の通り「自律」した神経で、自分の意思で動かすことができる運動神経に対し、自律神経は思い通りに動かすことはできません。
そのため、運動神経は随意神経系、自律神経は不随意神経系、または植物神経系と呼ばれることもあります。
自律神経には体を緊張・興奮させる「交感神経」と、リラックスさせる「副交感神経」とがあり、どちらも脊髄を起点にして、すべての内臓に情報を伝えています。
すべての内臓をコントロールする自律神経
▼自律神経と臓器の関係
自律神経はすべての臓器をコントロールしているため、事故などによって首や背中を痛めると、自律神経も傷つき多岐にわたる不調が起こることも。
また自律神経は血管や、ホルモン分泌を行う甲状腺やすい臓などの内分泌系も支配していて、体温や血圧、発汗、ホルモン分泌などの調整も行っています。
このように、自律神経が体の中の調整を一手に引き受けてくれているおかげで、私たちは寝ている間に呼吸や心臓が止まることもなく、食事をすれば体が無意識に消化・吸収を進めてくれるわけです。
また、暑くなれば自律神経が汗を出させて体温を下げるなど、環境の変化にも自動的に対応してくれます。
そのため、体の恒常性が保たれ、熱帯でも北極圏でも生きていくことができるのです。
神経はどうやって情報を伝えている?
神経伝達物質が、ニューロンという細胞の間を行き来して情報を伝えている!
神経を構成する細胞は、「ニューロン」(神経細胞)と呼ばれます。
ニューロンは、核と樹状突起という、その名の通り木の枝のような突起をもつ細胞体と長い軸索で構成されています。
ニューロンはシナプスでつながる
▼ニューロン(神経細胞)のしくみ
ひとつのニューロンは、核、樹状突起からなる「細胞体」と「軸索」でできていて、シナプスをはさんで隣のニューロンとつながっている。
ニューロン同士はくっついておらず、間にわずかな隙間があります。この隙間の部分を「シナプス」と呼びます。
ニューロン同士が離れているのに情報を伝えられるのは、神経伝達物質がシナプスを通してニューロンの間を行き来しているからです。神経伝達物質とは、神経から別の神経に信号を伝える化学物質で、実に100以上の種類があります。
ニューロンは全身にくまなく張りめぐらされているため、ニューロンやシナプスを全部つなげると、その長さは地球と月の距離(約38万km)の約2.6倍にもなります。
体の細胞は生まれ変わっていますが、ニューロンは基本的に生まれ変わることはありません。
そのため、1か所でもニューロンが死んでしまうと、その先のニューロンには情報が届かなくなってしまいます。
脳梗塞などを起こすと体が動かなくなったり、言葉が出なくなったりするのは、血液による酸素の運搬が滞ること(虚血)によってニューロンが傷つき脳の指令を伝達できなくなるためなのです。
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なお、本稿は書籍『イラスト&図解 知識ゼロでも楽しく読める! 自律神経のしくみ』(西東社)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。近年、「なんとなく体の調子が悪い」「気分がすぐれない」といった理由のわからない不調の原因として、自律神経の乱れがフォーカスされるようになってきました。自律神経がはたらくことで体の組織は活動しているので、体の司令塔ともいえる自律神経が乱れると、体のあちこちに不具合が起きてしまいます。つまり、自律神経を正常に保つことこそが、病気を予防し健康的な生活をおくるうえで最重要課題ともいえます。本書は、豊富なイラスト図解とともにオールカラーで自律神経のしくみをやさしく解説しています。