〈SDGsな生活のヒント〉私が “できること” は具体的に何? モノの使い方が地球を救う

暮らし・生活・ペット

SDGsと言われても…「私にはムリ!」って思っている人に読んでほしい本を紹介します。タラ・シャイン著『SDGsな生活のヒント』(創元社刊)です。日常生活でよく使うモノを取り上げ、環境への負荷を減らす具体的な「使い方」を提示してくれます。読んでみたら、なんと!日本人って結構なSDGs実践者かも…。たとえば、「掃除用品」「電気ケトル」「タンブル乾燥機」「電子書籍」など、本書の中身を少し紹介しますので、あなたのSDGsを確認してみましょう!

「あなたができること」を指南

『SDGsな生活のヒント』では、日常生活でよく使っているモノをひとつずつ挙げながら、それがいつごろ登場して世に広まり、どんな『環境への負荷』があるかを述べた後で、『あなたにできること』を具体的に、箇条書きでまとめられています。

特に注目してほしいのが『あなたにできること』の部分です。挙げられていることのなかには、すでにしていることも少なくありませんので、「これでいいのね」と気づくだけでも有意義ですし、さらに「へぇ、こうすればいいんだ!」とか「あっ、これならやってみたい!」と思えるようなヒントもいっぱい指南してくれています。

たとえば、『掃除用品』の項目を見てみましょう。住居用の洗剤のことです(台所用、洗濯用は別に項目がたてられています)。

この項目では、「漂白剤」「クリームクレンザー」「排水管洗浄剤」「家具用つや出し剤」「窓ガラスクリーナー」「トイレ用洗剤」などを挙げて、それぞれの環境への負荷を説明した後に『あなたにできること』を以下のような順序で提示しています。

・掃除用品を買う前、あるいは使う前に「注意書き」を読みましょう。
・さまざまな「〇〇専用」クリーナーの誘惑に打ち勝ちましょう。
・信頼できるブランドの、環境に配慮した製品を買いましょう。
・詰め替え用を買って、容器を繰り返し何度も使いましょう。
・化学的な薬剤に頼るかわりに、物理的な方法(掃除用具など)を試してみましょう。
・容器はリサイクルしましょう。
・シンプルな“生活の知恵”を試しましょう。

※『SDGsな生活のヒント』から引用

提示された7つのうち、すでに行っていることも多いと思います。
たぶん、気になるのは『シンプルな“生活の知恵”』。何のことでしょう?

事例として、『水と酢を1:1で混ぜた液で窓ガラスを拭く』などが挙げられていますが、さらに1ページを割いて「酢(クエン酸の水溶液)と重曹」の用途別(掃除の他に、医療、美容、ペット、ガーデニング)の使い方を図表にして掲載しています。簡単に試せることばかりなので、「ちょっとやってみよう」という気になりますよ。

『あなたの物の使い方が地球を救う』本当の意味は?

SDGsは、地球規模の大きな課題についの目標と思われがちですが、達成するには「一人一人ができること」を積み重ねていく必要があります。それも、ムリせず、自分のできることを少しずつ増やしていくなかで、小さな目標をクリアしながら最終的に大きな目標であるSDGsを達成していくのです。その意味で、私たちはSDGsの一端を担っていると言えます。そして、すでに何かしかは実践しているのです。

先述した「掃除用品」のように、本書を読むと、自分がしていることを確認できます。さらに、自分にできること、できないこと、考えてみるべきことなどを知ることができます。

本書は、環境科学者のタラ・シャイン博士が、長年にわたって気候変動などに関わる国際的な活動を行ってきたなかで執筆され、2021年11月に武井摩利氏の日本語訳で創元社から刊行されました。副題として『あなたの物の使い方が地球を救う』とあります。しかし、本書のなかにもはっきり書かれていますが、『地球はホモ・サピエンス(私たち人類)がいなくても何も困りません』。

環境に配慮した行動をすることを「地球にやさしい」とか「地球を救う」とか表現することがあります。やさしくされたり、救ってもらえたりしたら、私たちは嬉しくって、心から感謝しますよね。しかし、地球は嬉しがったり、感謝したりはしません。『でも、私たちが地球を人類に敵対的な環境にしてしまったら、私たちは滅びます』。つまり、「地球を救う」とは『私たち自身を救う』こと。『私たちの未来のため』です。まさに、「情けは人の為ならず」。

もっとも、『SDGsな生活のヒント』で描かれる日常生活の基準は、著者のシャイン博士が活動拠点としているイギリスやアイルランドなので、私たち日本での生活には馴染みのないモノ、日常的にはあまり使われていないモノもあります。それも、ある意味で興味深いところです。

SDGsな生活のヒント: あなたの物の使い方が地球を救う
¥3,630
2022-03-28 22:26

電気ケトルはイギリス97%、日本は?

たとえば、『電気ケトル』の項目。著者によれば、イギリスの97%の家庭にあって、その4割以上が1日に5回以上も電気ケトルで水を沸かしています。

イギリスのほとんどの家庭では「電気ケトル」が使われているそうですが、日本では「電気ポット」のほうが馴染が深いように思いました。とはいえ、私が子供のころの記憶ですし、すでに我が家でも電気ポットを使っていません。改めて調べてみて、図表(1)のような調査結果を見つけました。

図表(1)

2010年ごろまでは電気ポットのほうが主流でしたが、2018年の調査では電気ケトルに逆転されていました。まだイギリスほどには普及していないかもしれませんが、電気ケトル派が増えていることが分かります。

電気ポットと電気ケトルの違いは、前者は沸いたお湯を保温できるのに対して、後者はお湯が必要になるたびに沸かします。消費電力で比較すると、沸いたお湯を保温し続けるよりは、必要量をそのたびに沸かす方が節約できると考えられます。

さらに、著者のシャイン博士は、電子レンジやガスコンロで沸かすより、電気ケトルの方が省エネだと言います。なぜなら、『ケトルは消費電力の80%を熱エネルギーに変えて水を加熱するが、電子レンジは55%、ガスコンロと鍋では40%の効率しかない』から。

あれっ? ネット検索で「カップ1杯の水が沸騰するまでに掛かる電気代」を電気ポットと電子レンジで比較してみると、電気ケトルより電子レンジのほうが「安い」という検証結果も見当たります。熱効率(省エネ)と電気代は別の問題ということでしょうか?

長期的に考えて、省エネ家電に買い替えたり、より料金の安い電力会社に乗り換えたりという選択はあり得るでしょう。ただし、最終的に著者が問題としているのは、ほとんどの人が『実際に使う量より多くの水を入れて沸かしている』ことです。

・必要な量の水だけを沸かしましょう。
・沸かす時はケトルに注意を払い、沸いたらすぐに使いましょう。

※『SDGsな生活のヒント』から引用

洗濯物は「外干し」か「部屋干し」か?

『タンブル乾燥機』はどうでしょう。著者によれば、イギリスの家庭の58%(2018年時のデータ)が衣類用のタンブル乾燥機を保有しています。日本で私が見かけるのは、洗濯機と一体化した乾燥機です。単独の乾燥機となると、見かけるのはコインランドリーくらいでしょうか。とはいえ、やはり私が知らないだけかもしれません。

調べたところ、「衣類乾燥機」の世帯保有(普及)率を見つけました。図表(2)です。内閣府「消費動向調査」で、毎年公表している「主要耐久消費財の普及率」から作成しました。

図表(2)

それによると、日本での「衣類乾燥機」の世帯普及率は21年3月時点で54.3%。過半数の世帯(2人以上の世帯)が保有しています。イギリスのデータと同じ2018年時には56.1%でした。イギリスの58%と比べても、さほど大きな差ではありません。日本でも、衣類乾燥機が普及していました。

ただし、図表(2)から分かるように、日本で普及している衣類乾燥機は「洗濯機一体型」が主流です。その他(浴室乾燥を含む)の乾燥機の普及率は2割ほどですが、なかには洗濯機一体型と合わせて2台以上を保有している世帯もあるようです。

洗濯ものは、本来「外干し」のほうがいいとはいっても、日本もイギリスと同じように『多雨・多湿な気候』ですし、花粉や黄砂の時期もあれば、物干しスペースの問題、仕事や生活時間などの関係で、洗濯ものを「外干し」できない事情はいろいろあります。さらに、コロナ禍を経験してウィルスの家屋内への持ち込みも気になるようになりました。

しかし、著者のシャイン博士は、乾燥機がいかに環境負荷が高いかを述べる一方で、決して乾燥機の使用を否定していません。

・どうしても乾燥機を使うときには、高速脱水して水分をできるだけ減らしてから乾燥機に入れましょう。

※『SDGsな生活のヒント』から引用

あれっ? これって、日本で普及している洗濯機一体型の機能と同じですよね!
「電気ケトル」についても、「タンブル乾燥機」についても、著書のシャイン博士は、それぞれに環境負荷を指摘しますが、その使用自体は否定しません。「使い方」を工夫することで、そのモノの価値を最大限に活用することを提唱しているように感じます。

その博士の考え方がよく表れている『本』の項目も見ておきましょう。

紙の本と電子書籍、SDGsなのはどっち?

紙の「本」も、環境には大きな負荷をかけています。森林の木を伐採して、大量の水と薬品を使ってパルプ化し、できた紙にインキで印刷しているからです。

環境への負荷を減らすために、森林のサステナブル使用を認証した「FSC」マークを取得したり、インキに植物性由来のものを使ったりする本も見かけます。

一方、2000年代に登場した「電子書籍」や電子書籍を読むための「電子書籍リーダー」は、紙もインキも使いません。しかし、やはり環境への負荷はあります。デバイスをつくるのに必要な原料を採掘して、製品化するときだけでなく使用するときも電力を消費し、機種変更した後の旧式デバイスの廃棄処理まで環境へ負荷をかけ続けるからです。

それでは、紙の「本」と「電子書籍」とでは、どちらがいいのでしょう?

シャイン博士は『単純な答えはない』と前置きしつつ、『ある試算』では、電子書籍リーダーをつくるのに必要なエネルギーなどは『本の40~50冊分』、電子書籍リーダーの使用時の電力消費などによる環境負荷は『本およそ100冊』に相当すると言います。

つまり、同じ電子書籍リーダーで100冊以上を読めば、100冊以上の紙の本を買うより環境への負荷を抑えることができます。しかし、シャイン博士の結論は、『実際は両方を併用している人も多く、片方しか使わないと仮定しての比較にはあまり意味がありません』。

イギリスでは、2014年時の調査によると、読書人口の23%が紙の本と電子書籍の両方を利用しています。日本ではどうか? 調べてみたところ、図表(3)のような調査結果を見つけました。2020年11月、コロナ禍での読書媒体の調査です。前年に行った調査より「電子書籍で読むことが多い」人の割合が増えたそうですが、全体として「紙媒体で読むことが多い」人のほうが主流のようです。

図表(3)

ただし、「電子書籍で読むことが多い」人と「どちらの媒体も同じくらい活用している」人の割合を足すと、21.9%です。なかでも、20代と30代では、それぞれ3割を超えています。電子書籍も徐々に浸透してきていることが感じられます。

もちろん、紙の本と電子書籍のどちらをどのように選ぶかは、その人、個人の読書スタイルが最優先されてしかるべきでしょう。著書のシャイン博士も、それを前提に『あなたにできること』として、紙の本は『読み終えたら誰かに渡してシェアする』、電子書籍リーダーなら『1台で多くの本を読む』などの方法を提示しています。

また、図書館で借りるのも『とてもサステナブル』な方法だと、シャイン博士は言います。最近では、紙の本ばかりでなく、電子書籍の貸出サービスをする図書館も増えてきました。

著書おすすめ10アイテム

本書の最後に『環境負荷を減らすために家に備えておく価値があると私(著者)が考える10のアイテム』が紹介されています。以下にざっと挙げます。

・水筒とマイカップ
・針と糸
・植物
・重曹と酢(日本ならクエン酸)
・ハンドタオル/フェイスタオル
・保存容器とランチボックス(弁当箱)
・堆肥化材料用ボックス(コンポスト)
・買い物用マイバック
・ウォーキングシューズ
・インターネット接続

※『SDGsな生活のヒント』から引用

まとめ

ここに挙げた事例だけでも、あなたがすでにしていることが、結構たくさんあったと思います。ひとつひとつは小さなことですが、それらがまとまって「SDGsな生活」になるのです。「SDGsな生活」のために、わざわざライフスタイルを変える必要のないことも分かってくださったと思います。変えるのは、ライフスタイルではなく、モノの使い方をちょっと工夫すること。少し自信をつけたところで、あなたも本書を読んで、さらに「あなたにできること」を増やしてみましょう。

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加藤直美(消費生活コンサルタント)

愛知県生まれ。消費生活コンサルタントとして、小売流通に関する話題を中心に執筆する傍ら、マーケット・リサーチに基づく消費者行動(心理)分析を通じて、商品の開発や販売へのマーケティングサポートを行っている。主な著書に『コンビニ食と脳科学~「おいしい」と感じる秘密』(祥伝社新書2009年刊)、『コンビニと日本人』(祥伝社2012年刊、2019年韓国語版)、『なぜ、それを買ってしまうのか』(祥伝社新書2014年刊)、編集協力に『デジタルマーケティング~成功に導く10の定石』(徳間書店2017年刊)などがある。

加藤直美(消費生活コンサルタント)をフォローする
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