長引くコロナ禍で家にいる時間が増えたことで、運動不足が重なり、気持ちの落ち込み、イライラや強い不安感を訴える人が目立つようになりました。そこで、お勧めするのが「エア縄跳び」です。全身の血流がよくなり、脳血流も増加するので、うつの予防・改善につながるでしょう。エコノミー症候群の予防にも有効です。【解説】鹿目将至(松崎病院精神科医)
解説者のプロフィール
鹿目将至(かのめ・まさゆき)
精神科医。1989年、福島県生まれ。日本医科大学卒業。愛知県内の松崎病院勤務。患者様本人はもちろん、ケアする家族に対しても寄り添う診療を行う。2020年4月に総合情報サイト『プレジデントオンライン』で発信した「激増中『コロナ鬱』を避けるための5つの予防法~精神科患者の9割以上がコロナ案件」が大きな反響を呼ぶ。著書に、『「もうもたない…」折れそうでも大丈夫』(青春出版社)など。
運動不足は心の視野を狭くする
運動不足は肉体だけでなく、心にも悪影響を及ぼすことをご存じでしょうか。
心と体は密接に関連しています。ずっと同じ場所、同じ姿勢で動かずにいると、物理的な視野だけでなく、心の視野まで狭くなってしまいます。
そうすると、今まで気にならなかったささいなことが気になったり、ちょっとしたことでイライラしたりしやすくなるのです。
特に最近は、長引くコロナ禍の影響と思われる「コロナうつ」が増えています。マスクなど肉体的なストレスに加え、先が見えない不安、経済的なダメージを受けているかたも多くいます。
そこへ、家にいる時間が増えたことで運動不足が重なり、気持ちの落ち込み、イライラや強い不安感を訴える人が目立つようになりました。
さらに、運動不足は「エコノミー症候群」の危険性も高めます。エコノミー症候群は、長時間座りっぱなしでいることで足の静脈に血栓(血の塊)ができ、動き始めた途端にそれが肺の血管に飛んで、息ができなくなる病気です。重症化すると死に至ります。
医療施設などではときどき車イスから立つよう促すなどして、血栓ができるのを防いでいます。しかし、コロナ禍で外へ出る機会の減った高齢者のなかには、自宅でエコノミー症候群になる人が増えているのではないかと懸念されています。
心と体の健康を保つために、運動不足は大敵です。といっても、ハードな運動は長続きしません。それよりも、短時間でできて、負担の少ない軽めの運動を、コツコツと続けることがたいせつです。
めまいやふらつき便秘、認知症にも有効!
そこで、私がお勧めするのが「エア縄跳び」です。縄は使わず、その場で縄跳びをしているつもりでジャンプするのです。
エア縄跳びなら、場所を取らないうえ、道具も必要ありません。実際の縄跳びのように足が引っかかったりもしないので、高齢者でも安心です。それでいて、縄跳びと同じ運動効果が得られるのです。
最初は10回から始めてみてください。少し休んで、できそうならもう10回行いましょう。
跳んでみると、意外と筋力を使うことが実感できるはずです。準備体操として、手首・足首・首を回してからエア縄跳びを行うと、より安全です。
高く跳ぶ必要はありません。慣れてきたら、高さよりも時間を長くすることを目標にしてください。テレビを見ながら、コマーシャルの時間だけ行う程度で十分です。
朝昼晩の1日3回を目安に、無理のない範囲で、自分ができるときに行いましょう。
エア縄跳びは有酸素運動なので、呼吸をしっかりすることで心肺機能が高まり、同時に血流がよくなります。
うつ症状は、前頭葉の脳血流が低下することによって起こるといわれています。全身の血流がよくなれば、当然、脳血流も増加するので、うつの予防・改善につながるでしょう。もちろん、エコノミー症候群の予防にも有効です。
運動によって脳が活性化すると、幸せホルモンと呼ばれるセロトニンが分泌されます。また、BDNFと呼ばれる神経栄養因子も増加させます。
BDNFとは、神経細胞の成長や維持、再生を促進させるもので、加齢とともに減少します。これを増加させることは、認知症やうつの予防・改善に効果的なのです。
さらに、ジャンプすると三半規管が刺激されるので、平衡感覚が鍛えられます。これはめまい、ふらつきの予防・改善にもつながるでしょう。
そして、これは私自身も実感しているのですが、エア縄跳びは便秘の改善にも効果的です。ジャンプすると腸が動き、横に広がっていた腸の形が整って、食べた物が上から下へスムーズに運ばれやすくなるのです。私のほかにも、便通がよくなったという声はよく聞きます。
「外にも出られずふさぎ込んでいたけど、気持ちに余裕ができて前向きになれた」という人、「エア縄跳びをしていたらリモートワーク中の夫もいっしょに始め、家庭内に笑顔が増えた」という人もいました。
エア縄跳びは、やってはいけない人は特にいません。ただ、ふらついたり、立って行う運動に自信のないかたは、座ってできる別の運動をお勧めします。
例えば、
・イスに座って、ももをできるだけ高く上げるように、左右の足を交互に10回上げ下げします。
・続いて、ひじを伸ばして両手を前に突き出し、手首を10回ブラブラさせます。
下半身・上半身の運動になるので、この2つはセットで、1日数回行うのがお勧めです。
■この記事は『壮快』2022年9月号に掲載されています。