昨年の9月に、カシオ計算機から電子ピアノ「Privia」シリーズから、最新モデルの「PX-S7000」が発売された。とてもモダンなスタイルで、従来のスタンド・ペダル一体型の電子ピアノとも一線を画すデザインが魅力の製品となっている。先日、その電子ピアノ「Privia PX-S7000」に触れる機会があったので、その時の様子をお伝えできればと思う。
新型コロナウイルスの感染者拡大に伴い
コロナ過で家時間が長くなった2020年
2020年、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、各地に緊急事態宣言が発令され、外出することがはばかられる時期が続いた。その後も、感染者の増大に伴い、何度となく緊急事態宣言が発令され、行動制限などもあり、家にいる時間が、想像以上に長くなり、新たな需要も生まれた。家族で楽しめる食事の時間をより楽しいものにするためのアイテムとして、ホットプレートが人気を博し、店頭からホットプレートが無くなるほどの売れ行きに、誰もが驚いたのではないだろうか。
巣ごもり需要
そんな中、家の中でできる趣味に、注目が集まった。定期的に体を動かして、体力維持をはかるためのフィットネスアイテムだったり、みんなで楽しむことができるボードゲームや、テレビゲームなどなど。その中には、過去のものとなった趣味を復活させる人もいたことだと思われる。音楽や絵画など、その昔、かじった程度ながら再びやってみたくなったり、やり始めたら本格的な趣味になってしまったりなど。趣味として復活させるには、少しハードルが高い楽器(特にピアノ、価格や置く場所も含めて)も、電子ピアノなら、気兼ねなく導入できる、そんな思いで始めた人は、結構居たのではないかと思われる。
今回、私が注目したのは、電子ピアノだった。私自身が幼少期から触れていたこともあり、再び触れたいと思うようになっていたからだ。
カシオ計算機の電子ピアノ
2022年9月に発売
2020年の電子ピアノの需要は、コロナ前の需要に比べて伸びたとのデータもあり、その需要は徐々に落ち着いてきてはいるもののまだ続いているらしい。そんな折、カシオ計算機から、これまでのスタイルとは趣が違う、360度どこから見ても美しく魅せる全周デザインされた電子ピアノを2022年9月に販売を開始した。
カシオの電子ピアノについて
カシオの電子ピアノは、いくつかの種類が用意されている。その中でも代表的な3シリーズについて簡単に紹介したいと思う。一つ目は、最もアコースティックピアノに近いスタイルで本格的な演奏ができるのが「CELVIANO」シリーズだ。打鍵方法が、アコースティックと同じくハンマー式を採用しているため、繊細なタッチにも応えてくれる。ハイエンドモデルに至っては、ドイツのピアノ製造会社「C.ベヒシュタイン」との共同開発によって誕生した「GP-510BP」というモデルが存在する。
次に、本格的な仕様ながらスリムなデザインが特徴の「Priva」シリーズだ。ライフスタイルに溶け込むデザイン性の高さと、高い演奏性と表現力を実現する技術が搭載されており、ピアノ演奏をより楽しいものにしてくれる。
その次に、ピアノ演奏だけでなくさまざな使い方が手軽にできる「Casiotone」シリーズだ。このシリーズは、鍵盤が光る光ナビゲーションキーボードをはじめ、さまざまな音や機能が備わっており、気軽に鍵盤楽器を楽しむことができるシリーズとなっている。価格帯も手頃な価格帯の製品が揃っており、初めて鍵盤に触れるという方には、導入しやすいシリーズだ。
今回体験してきたモデルは
「Privia」シリーズの新モデル「 PX-S7000」
2022年の9月に販売を開始した「Privia PX-S7000」は、スタンド・ペダル一体型の電子ピアノでありながら、全周囲どこから見ても画になるおしゃれなスタイルと色合いのモデルに仕上げられている。デザインだけでなく、楽器としての性能も優れており、ハンマーアクション式の本格的な鍵盤タッチと音響技術によって、繊細な演奏から力強い演奏まで弾き手の思いのまま自由に表現することが可能なピアノとなっている。
独自の音響システムに合わせ88鍵盤全て1鍵ごとに各弦の繊細な倍音の共鳴を調整しており、弾き方や時間経過によって変化する音の表情をきめ細やかに表現することができる。弱いタッチから強いタッチまでより表現力豊かな演奏性を可能にしたのは「スマートハイブリッドハンマーアクション鍵盤」によるものが大きい。鍵盤は、象牙のような自然な感触のシボ加工を施した白鍵に対し、黒鍵は見た目にも弾き心地にも黒檀のような艶落しを施した仕上げが特徴で、白鍵には高品質なスプルース材と樹脂のハイブリッド素材を採用し、自然な手触りと高級感のある仕上がりを実現している。
実機を見る、触れる!
度肝を抜くカラーリング
実機を目の当たりにして、最初に目に入ってきたのが、"オシャレなカラーリング"だった。そのカラーリングの名称は、"ハーモニアスマスタード"。マスタードのようなカラーに少し緑が混ざったような、ピアノでは、おおよそ使用することのないカラーだ。某自動車メーカーの特別色を彷彿とさせる、私好みの色に感嘆してしまった。ピアノと言えば、ピアノブラックと言われるカラーが存在するほど、黒を基調としたイメージが強い中、まさかの色の登場にワクワク感がとまらなかった。
鍵盤も実に凝っている
鍵盤には、白鍵がスプルース材(マツ科)の木材と樹脂を使用したハイブリッド素材を使用しており、象牙のようなシボ加工が施されていた。私も幼少期よりピアノに触れてきたので、それとなく鍵盤には触れてきたが、シボ加工の施された鍵盤を触るのは初めてで、その感触に、多少なりとも違和感を覚えた。ちなみに、スタインウェイやベヒシュタインのような高級なピアノや象牙の使用がまだ認められていたころのアコースティックピアノには、象牙を鍵盤に使用していたらしく、それらに近い作りになっているようだ。象牙の鍵盤は、"滑りにくい""指が流れない"ということを聞いたこともあり、「PX-S7000」も弾き込んでいくうちに馴染んで、とても弾きやすい鍵盤になるのかもしれないという、期待感が高まった。
鍵盤のタッチ、打鍵感覚は?
久しぶりにピアノに触れることから、今回は、演奏ではなく、ただ、打鍵してみただけなのだが、打鍵感覚は、クラシックピアノそのもの!と言いたいところだったが、実際は、そのように感じなかったというのが正直なところだ。新開発の「スマートスケーリングハンマーアクション鍵盤」を採用しているとのことで、グランドピアノを感じさせる自然なタッチを実現しているらしいのだが、個人的には、その感覚は正直あまり感じ取ることができなかった。
決して悪い意味ではなく、恐らく、打鍵してから音が出るまでが、アコースティックピアノとは違っていたからなのかもしれない。タイムラグがあるとかではないのだが、自分で考えているよりも、ほんのわずかにズレる、そんな印象だった。決して打鍵していて不快というわけではないのだが、そのほんのわずかなズレが少々気になってしまった。
なぜそんな僅かなズレを感じたかと言うと、私の実家には2台のピアノが存在する。1台はヤマハの「U3」という昔ながらのアップライトピアノ、もう1台はヤマハの電子アップライトピアノ「DUP-1」というモデルで、よく弾き比べて遊んでいた。メインに使用していたのは、もちろんアコースティックモデルの「U3」だったので、電子の「DUP-1」を弾くと鍵盤の重さと音のズレに少し違和感を覚えたことがあった。
指を怪我してからピアノと距離をおいていたが、久しぶりに鍵盤に触れてみて感じたのは、打鍵に対する音の出方、その点だけは、十数年触れていなくても、身体が覚えていたらしい。とはいえ、この感覚は、個人の感想なので、誰もが当てはまるとは思えないので、その辺りは、実際に触れてみて体験してほしいところだ。
ちなみに、この"発音ズレ"については、個人の感覚・好みに左右されるところがあるため、「PX-S7000」では、打鍵から発音までのタイミング(ハンマーレスポンス)を調整する機能を搭載している。調整は10段階から行えるから、好みに合わせて調整すれば、きっと自分に合う打鍵からの発音がピッタリ当てはまるタイミングが見つかるはずだ。
「マルチ・ディメンショナル・モーフィングAiR音源」で音がキレイになる!?
サウンド面は、どうだろうか。本体背面には、16cm×8cm(楕円形)のスピーカーを4つ装備しており、それぞれ8Wの出力になり、トータルで32Wにもなる。これだけの出力があれば、かなりいい音がするだろとは思っていたが、想像以上にキレイな音を発してくれた。
これは、音源に「マルチ・ディメンショナル・モーフィングAiR」を搭載しているからだと思うのだが、この「マルチ・ディメンショナル・モーフィングAiR音源」とは、どんなものなのだろうか。説明によると、打鍵の強弱に応じた音量・音色の変化に加えて、発音から消音するまでの時間による音色変化までデジタルで制御し、滑らかに表現してくれるというものらしいのだ。
また、グランドピアノの豊かで美しい「響き」を生み出す、発音している音と倍音関係にある弦の共鳴音や、ダンパーペダルを踏むことで弦が開放されて起こる弦の共鳴音まで表現できるのだとか。さらには、鍵盤を弱く押したときや鍵盤から指を離した時に聞こえる機構音までも表現し、グランドピアノならではの音を感じることができるのだとか。
さらに、特許出願中の新音響技術「スペイシャルサウンドシステム」を搭載することで4つのスピーカーから出力されるそれぞれの音を空間上で合成。自然な音響空間を作り出し、今までにない演奏体験を可能にしている。
さすがに、この辺りは、実際にグランドピアノと並べて弾き比べないと分からないところではあるが、この説明を聞く限り、音がキレイなことへの説明がつく??ように思えた。
音色数は400も内蔵されているっ!おまけにスケールチューニングもできる
電子ピアノと言えば、音色を変えてさまざまな音を出して演奏して遊ぶことができるのが最大の魅力と言えるほど、魅力的な機能の1つだ。アコースティックピアノの音色はもちろんのこと、オルガンやハープシコード、ギターや打楽器などなど、その数は、400にも及ぶ。ピアノだけでもアコースティック/エレクトリックを合わせて89種類も内蔵されているから、全ての音を試すだけでも、かなりの時間を要しそうだ。
また、鍵盤の音律を変えるスケールチューニングも可能とのことで、通常の音律(12平均律)以外の音律を使う音楽(インド音楽、アラビア音楽、クラシック音楽など)の演奏もできる。平均律、純成律長調/短調、ピタゴラス音律、キルンベルガー第III法など、17種類のプリセットの音律から好きな音律を選ぶことができるとのことで、この辺りは、いかにもデジタルと言った感じだ。それにしてもスゴイ。
ペダルも装備
グランドピアノのペダルを追求した3本のペダルは、連続可変式ダンパーを採用しており、ソフトペダルは、2段階調整が可能となっている。踏み心地は、とても自然で、電子ピアノにありがちが、パカパカとした軽い感じではなく、繊細な演奏にも対応してくれそうな、しっとりとした踏み心地が印象的だった。
その他の機能として
専用アプリにも対応する
カシオは、電子ピアノやキーボードユーザーのための専用アプリ「CASIO MUSIC SPACE」を用意。このアプリを使えば、楽器と接続してより視覚的な操作ができるうえ、デジタル楽譜としても使える。演奏を楽しむための機能がたくさん用意されており、ライブ演奏などの疑似体験も可能となっている。
また、ワイヤレスで接続できるMIDI機能のほか、有線でマイク接続をすれば、弾き語りなどもできるから、楽しみ方の幅を広げることができる、そんな機能が盛りだくさんとなっていた。
譜面立てが透明
楽器としての機能ではないところだが、譜面立てが透明だったのが、とても気になっていた。私がこれまで見てきた譜面立ては、基本的に、シルバーの物が多かった。それも、スチール製でだ。ピアノの場合は、木製で色は黒に塗られたものだったが、「PX-S7000」においては、透明だったのだ。透明にすることで、例えば、「PX-S7000」を部屋の真ん中に置いても、インテリアの一部として、さらに際立たせることができる、そんな印象を受けた。透明だからゆえの開放感、そして抜け感を感じることができるのではないだろうか。
カラーリングも3色
前述した通り、度肝を抜いたカラーの"ハーモ二アスマスタード"。個人的にお気に入りの色なのだが、このほかの色として、ホワイト、ブラックも用意されているから、インテリアの雰囲気に合わせて選べるのもうれしいポイントだ。
まとめ
今回、久しぶりに楽器に触れることができたのだが、機能面の進化もさることながら、スタイリッシュなデザインになっていたことに、楽器の多様性を改めて実感することができた。自宅に設置したわけではないので、設置性や音の響き具合など、環境によってだいぶ変わってくるので一概に言えるわけではないが、88鍵のフルスケールでありながら、このサイズ(幅134cm、スタンド・ペダルを含めた奥行きが44.9cm)は、かなりコンパクトで、置き場所に迷うことなく設置できそうな、そんなお手軽感が好印象だった。
また、こんなにお手軽なのに、打鍵は本格的で、音も納得できるサウンドで楽しるのだから、これからピアノを始めたい人も、アコースティックピアノを置くスペースはないけど、再びピアノに触れたい人にも応えてくれる、そんな一台になっていた。
楽器は面白い!趣味としてやるならなおさらだ。なにものにもとらわれることなく、そして気兼ねなく自由に演奏を楽しめる。どんな音でもいいし、どんなリズムで演奏してもいい。誰かのコピーだっていいし、ピアノじゃなくたっていいのだ。電源を入れて、鍵盤を触れるだけで音が出るピアノは、その幅の広さから、楽しみ方も無限に広げられる。こんな夢のような楽器が、手軽にそれも、自由に弾けたなら、それは、何物にも代えられない、至福のひと時を過ごせるのではないだろうか。もしかしたら「PX-S7000」がそんなアイテムになるのかもしれないと、密かに思っている。