クラフトビールやクラフトコーラなど、ルーツは海外でも、日本で小規模工房で職人がこだわり抜いて作った製品が人気です。本格チーズの世界も例外ではなく、その大量生産ではない、職人こだわりの味はチーズの世界大会「World Cheese Awards 2024」で北海道のCHEESEDOMという工房の「瀬棚」が Super Gold賞に選出されるほど。ヨーロッパの追随ではなく、日本独自のおいしさを持つ「日本のアルティザンチーズ」文化が、新たなブームになるかも!【訂正:動画が見られるよう修正しました】
日本の職人技が光る! チーズ独特のクセが少なく上質でクリーンな味わいは海外でも高評価
日本の小規模工房によるクラフトチーズ的な動き、アルティザンチーズ文化が加速していることを知ったのは、東京・日本橋ホールで11月19日に行われた「JCA・WCA 2大チーズコンテスト成果報告会」(主催:NPO法人 チーズプロフェッショナル協会/CPA)にて。
チーズの本場と言えばヨーロッパ。ただ正直、日本人が欧州各国のクセの強いチーズ文化をそのままおいしく味わえるかといえば、けっこうハードルは高めです。日本にも宅配ピザでトッピングにチーズを増量するほど、チーズ好きの人はたくさんいますが、世界のどんなチーズも受け入れられるかというと、疑問です。
しかし世界各国から4700以上の多種多様なチーズが集まるチーズの世界大会・第36回「World Cheese Awards 2024」(開催地:ポルトガル)では、47カ国・4,786品の中から、北海道の工房 CHEESEDOMの「瀬棚」(読み:せたな)が Super Gold賞に選出された他、加藤牧場バッフィ、新利根チーズ工房、三良坂フロマージュのチーズも Gold賞を受賞するなど、日本の小規模工房によるチーズが高い評価を受けているというのです。
「World Cheese Awards 2024」ダイジェスト【動画】
さらに成果報告会に登壇した、NPO法人チーズプロフェッショナル協会・坂上あき会長と、日本チーズ協会理事で株式会社広内エゾリスの谷チーズ社代表取締役・寺尾智也氏から、国内の「Japan Cheese Awards」に全国120のチーズ工房から371製品が出品し、北海道・チーズ工房タカラの「タカラのタカラ」が受賞したことなども報告されました。
日本の職人技・アルティザンチーズ・シーンを代表する9製品を食べ比べ!
「タカラのタカラ」を含む全9品の試食プレートも提供されました。では食べ比べて見ましょう。
熊本県・マース乳製品工場『ワインラクト(スイートスプリング)』
第14回NCC 優秀賞を受賞した、近年スーパーなどの店頭で見かけることも多くなったデザートチーズの『ワインラクト(スイートスプリング)』。柑橘の皮をワイン漬けにして甘く仕上げたその味わいは、穏やかな甘さでシャープなシトラス感がアクセントになっていました。誰もが素直においしいと笑顔になれる味わいです。
北海道・広内エゾリスの谷チーズ社『コバン』
JCA2022 銀賞を受賞した、肩の力を抜いて味わえる、白カビのマイルドなチーズ味の『コバン』。なめらかに口の中でとろけていくミルキーなこの味は、老若男女誰でもニッコリできる平和な味わいです。
岩手県・くずまき高原牧場『プチ・カチョカヴァロ』
独特なひょうたんフォルムが楽しい、JCA2024 銅賞に輝いた『プチ・カチョカヴァロ』。涼しい気候の中で放牧された牛のミルク(グラスフェッド)を使用して、表面は硬いハードタイプだけれど、噛めば噛むほどコクと旨味が強力に広がっておいしい。
茨城県・新利根チーズ工房『月利根』
なんと地元の日本酒をチーズの磨き液として使用した、WCA2024でGoldを受賞した『月利根』(第14回NCC優秀賞も獲得)。熟成1ヶ月の弾力ある生地、香り高い辛口の日本酒アロマもあり、和テイストのクラフトチーズを象徴する出来映え。日本酒と合わせたらたまらないはず。
宮城県・蔵王酪農センター『スモークゴーダ』
JCA2024 銀賞を受賞した『スモークゴーダ』は、桜の枝を使ったスモークチーズ。生地に透明感があり、いぶした感もやさしく、シンプルでクセや雑味のない味わいが和テイストの極み!
兵庫県・婦木農場丹波チーズ工房『丹波ブルー』
WCA2024 Bronze賞/第14回NCC中央酪農会議会長賞を受賞した、日本伝統の蔵の中で5ヶ月熟成させたブルーチーズ『丹波ブルー』。筆者は青カビ系が苦手なので、恐る恐る食べたけれど、あれ、意外においしくてびっくり!
塩味がしっかりと利いていて、スモーキーなほろ苦さとシャープな酸味のバランスが良く、旨味が濃い。青カビ恐怖症が吹き飛んだ気がする。
長野県・チーズ工房カプレット『ネロカプラ(山羊乳製)』
WCA2024 Silver賞/JCA2024 銅賞を受賞した『ネロカプラ(山羊乳製)』は、筆者の苦手なヤギのミルク製。勇気を出して頬張ると、マイルド・ミルキーでけっこうイケる。竹炭をまぶして、塩分控えめ。ほのかな酸味とねっとりとした食感がいい感じ。
島根県・木次(きすき)乳業『オールドゴーダ』
JCA2022 最優秀賞に輝き、1年以上の長期熟成特有のアミノ酸の結晶が特徴の『オールドゴーダ』。フルボディのワインのような芳醇な香りが広がり、口の中で重厚な旨味がガツンとやってくる。ちょっとずつ食べたいセミハードタイプ。
北海道・チーズ工房タカラ『タカラのタカラ』
JCA2024 グランプリに輝いた、チーズ工房タカラを代表する『タカラのタカラ』。茶色い表面はハードだけれど、口の中でホロホロと崩れていく独特の食感。その後、さざ波のように広がる濃い旨味と上品な甘み。チーズのおいしさの可能性が広がる逸品でした。
日本料理人 齋藤章雄氏による創作料理・チーズ和食「きの子天ぷら出雲そばゴーダチーズかけ(柚子風味)」を食べてみた!
「グランドハイアット東京」 、「コンラッド東京」日本料理・統括料理長などを歴任し、「しち十二候」を独立開店。「卓越した技能者(現代の名工)」や、黄綬褒章など受賞歴多数の生粋の日本料理人齋藤章雄氏。
この日は、齋藤氏によるチーズを使った和食メニュー「きの子天ぷら出雲そばゴーダチーズかけ(柚子風味)」も提供されました。使用したのは、自然派乳製品で広く知られる木次乳業の「オールドゴーダ」で、繊細に削った雪化粧状態です。
木次乳業はWCA2023で銀賞を受賞したこともあり、チーズのプロ・川本英二氏と、料理のプロ・齋藤氏、そしてチーズプロフェッショナル協会会長・坂上氏による興味深いトークセッションも行われました。
創作料理の感想は、えっ、日本そばにチーズ? と動揺しながら食べてみると、本格的な黒い粒が見える日本そばと「オールドゴーダ」の濃い旨味が柚子を介してナイスマッチング。チーズを使っているけれど、きちんとした和食のおいしさ。この時点で筆者は、国産アルティザンチーズは和食材でもあるのだと認識しました。新感覚!
日本人のチーズのおいしさを極めた、国産アルティザンチーズの底力!
「地産地消」というのは、行政レベルの話ではなく、おいしさでもメリットなのかもしれない。そう感じた「JCA・WCA 2大チーズコンテスト成果報告会」。
「沖縄で飲むオリオンビールはまた、格別」
という経験は多かれ少なかれ、経験がある方が多いと思います。その土地で採れた食べ物、飲み物は、気候、風土、民俗的習慣、鮮度などの要件も相まって、結局「現地で現地のモノを食べるのがおいしい」と感じること。中でも風味のハードルが高いとされる発酵食品は、とくにその傾向が強いのではないでしょうか。
それに西洋型のナチュラルチーズは、明治時代初頭にすでに日本に伝わっており、1964年の東京オリンピック以降に広まったと言われるチーズ文化にも、それなりの歴史があります。確かにチーズの本場はヨーロッパかもしれませんが、日本人による日本人がおいしいと感じるチーズ文化も歴史を持っているのです。
近年ではアメリカ生まれの小規模醸造所で造るクラフトビールが、日本でもブームを呼びました。今では各小規模醸造所がこだわり抜いたその味が、次々と全国区で知られるようになりました。
だからこそ、今回の日本の小規模工房による職人がこだわりを貫いたアルティザンチーズ・シーンには期待大。シーンを代表する9製品と、1メニューのこだわりの味を体験して気がついたのは、こうした各地方の特産物などを活かして独自の味わいを作り上げている工房チーズは、もはや和のおいしさにあふれた和食材だということでした。
ジャパニーズウイスキーのように国際的評価の高まりも実現し始めています。今後、国産アルティザンチーズ・シーンはどんどん面白くなっていきそうです。
チーズプロフェッショナル協会公式サイト( https://www.cheese-professional.com/ )
「World Cheese Awards 2024」公式サイト
「Japan Cheese Awards 2024」公式サイト