解説者のプロフィール

酒井慎太郎(さかい・しんたろう)
さかいクリニックグループ代表。千葉ロッテマリーンズ公式メディカルアドバイザー。中央医療学園特別講師。柔道整復師。整形外科や腰痛専門病院、プロサッカーチームの臨床スタッフとしての経験を生かし、関節の痛みやスポーツ疾患の障害を得意とする。難治の肩こり、首痛、腰痛、膝痛の施術を行っており、プロスポーツ選手やタレントなど多くの著名人の治療も手掛けている。著書に『一瞬で楽になる 最高の姿勢』『椎間板ヘルニアは自分で治せる!』(ともにマキノ出版)などがある。
▼さかいクリニックグループ(公式サイト)
スマホ首とは?
近年、「スマホ首」という言葉をよく耳にするようになりました。
スマホ首とは、スマートフォンを見るときの「頭が前に出る」姿勢が原因で、首や肩の痛みやしびれが起こった状態のこと。正式には「ストレートネック」といわれる症状です。
肩こり・首こりだけでなく、頭痛や吐き気まで起こることもあります。原因がわからず、内科や脳神経外科、心療内科まで受診した挙句、最後に行った整形外科でレントゲンを撮って、ようやくストレートネックと診断されたという話も珍しくありません。
こうした不調の原因、ストレートネックとはいったい何なのでしょうか。
首のトラブルで来院する人のほとんどは、ストレートネックがあります。さらに、私は、日本人の8〜9割にストレートネックの兆候があると感じています。今回は、ストレートネックの原因とセルフチェック法、予防・改善のためのストレッチをご紹介します。
ストレートネックとは?
ストレートネックとは、ゆるやかにカーブしているはずの頸椎(首の骨)が、首を前に出した姿勢を続けたことによって、まっすぐになってしまった状態を指します。

イラスト/勝山英幸
ストレートネックの原因
背骨の一部である首の部分は、7つの小さな骨(頸椎)から構成されています。そして、縦に7つ連なった頸椎は、少しだけ反った、緩やかなカーブ(前弯)を描いています。このカーブがあることで、体重の約10%もある頭の重みを分散させるクッション機能が働き、首や頭の位置を背骨の真上に保つことができます。
ところが、首を前方へ突き出したり、うつむいたり、前かがみになったりする姿勢を常に取っていると、頸椎に過剰な負荷がかかります。例えば、正常な姿勢の場合に比べて、頭が前方へ2㎝出るだけで、2倍の負荷が頸椎にかかります。60㎏の体重の人なら、約12㎏もの負担が頸椎にかかるわけです。
こうした負荷に対し、体はまず、肩甲挙筋や僧帽筋など、首から肩にかけての筋肉の力で対抗しようとします。

首の周辺を背面から見た図
ところが、悪い姿勢が習慣になっていると、それらの筋肉は緊張しっぱなしになり、疲労も蓄積していきます。その結果として現れるのが、首や肩のコリ・張り・痛みです。
この段階で適切なケアをせずに放置すると、問題は筋肉疲労の範囲を超え、頸椎にまで影響が及びます。緩やかな前弯のカーブを描いているはずの頸椎が、前方に向けてまっすぐになってしまうのです。これがストレートネックです。
ストレートネックになると、頸椎のクッション機能はいっそう低下し、それをカバーしようと、首周りの筋肉の負担はいっそう増大します。当然、首や肩のコリ・張り・痛みは悪化の一途をたどります。
筋肉へのマッサージで一時的に症状が緩和しても、すでに頸椎に異常をきたしているので、すぐに再発します。加えて、頭の重みと重力によって、頸椎の骨と骨の間のスペースがしだいに狭まります。そのため、「首が思うように回らない」といった、頸椎の動きに制限が出てくるのです。
セルフチェック法は?
ストレートネックかどうかは、レントゲン検査を受ければすぐにわかりますが、簡単なセルフチェック法もあります。ここでは、自分でストレートネックを確認できる、簡単な方法をご紹介しましょう。
壁を背にして「気をつけ」の姿勢をとってください。
そのとき、後頭部、肩甲骨、お尻、かかとの4ヵ所が、特に意識しなくても自然と壁につけば、頸椎は正常な状態です。
ところが、後頭部が壁につかなかったり、意識的に首を後ろに倒さないとつかなかったりする場合は、ストレートネックの可能性が非常に高いといえます。
壁を背にして「気を付け」の姿勢を取る

イラスト/勝山英幸

特選街webの編集部員がセルフチェック。典型的なストレートネックだった!
ストレートネックの症状
先述したように、ストレートネックになると、頸椎のクッション機能が働かなくなるため、頸椎に多大な負荷がかかるようになります。すると、頸椎の関節と関節のすき間が縮まり、そこに存在する多くの神経が圧迫され、不快な症状が出てくるのです。
頸椎の下部(第5頸椎~第7頸椎)が圧迫されると、首や肩の痛みが悪化するほか、首の可動域が制限されて「首が回らない」という症状が現れやすくなります。
そして、頸椎の上部(後頭骨と第1頸椎~第3頸椎)も圧迫されると、頭痛やめまい、吐き気、耳鳴り、イライラなど、自律神経失調症のような症状が起こるようになります。
これは、頸椎を通っている大きな動脈(頸椎動脈)の血流が悪くなり、頭部が酸欠やガス欠のような状態に陥ることが主な原因です。
ストレートネックを改善する「あご押しストレッチ」
「あご押し」は、首を強制的にグッと押し込むことで、頸椎の下部(第5〜第7頸椎)に「後方へシフトする力」を加えられるストレッチです。それをくり返すことで、頸椎の下部は徐々に後方へ押し戻され、頸椎全体に本来あるべきカーブの構造が戻り、動きも改善します。
「あご押しストレッチ」のやり方
①イスに深く腰掛け、背もたれに背中をつける。あごに片方の手の親指と人差し指を当てて、体の位置は動かさずに、頭だけをできるだけ前方に出す。頭をあえて前方に出すのは、ストレートネックの「悪い姿勢」を確認するため。

②あごに当てた指を使って、頭を水平にスライドさせるように、後方へぐっと強く押し込む。

*①と②を1セットとして、2~3セットくり返す。1日に何度行ってもよい。
「あご押し」は、自らの力でストレートネックを合理的かつ効率的に矯正できる方法です。くり返し行うことで、固まった頸椎関節が緩み、動きがよくなります。正しい動かし方をしていれば、頸椎は本来のカーブを取り戻してきます。習慣づければ、2~3週間でストレートネックが改善し、首のコリや痛みの軽減を実感できるでしょう。
コリや痛みなどを感じたときはもちろん、デスクワークの合間、電車での移動中など、こまめに実践することをお勧めします。デスクワークなどで前かがみの姿勢になることが多い人は、15〜30分に一度ぐらい行うのが理想的です。