私はふだんから、クリニックの患者さんに、サツマイモの摂取を勧めています。サツマイモは、イモ類のなかでも最も多くビタミンCを含んでいます。また、サツマイモの黄色は、カロテノイド色素の一種であるβカロテンによるものです。ビタミンCもβカロテンも、抗酸化作用があるので、動脈硬化や高血圧などの予防に役立ちます。【解説】向井奉文(大島郡医師会会長・むかいクリニック院長)
解説者のプロフィール
向井奉文(むかい・ともゆき)
医療法人奎英会むかいクリニック院長。日本臨床内科医会所属・日本臨床内科医会専門医。医学博士。社団法人大島郡医師会会長。学校法人日章学園奄美看護福祉専門学校長。大島郡医師会病院を経て、1997年にむかいクリニックを開業。小児から高齢者まで幅広く医療サービスを提供し、かかりつけ医として地域医療と介護に貢献することを目指している。
優れた整腸作用で腸内環境をリセット!
私は、この奄美大島の出身です。幼少のころに島を出ましたが、30数年前に戻ってきて以降は、ずっとこの島の地域医療に携わってきました。
「長寿の島」と呼ばれるだけあって、健康長寿な人の年齢層は、ほかの地域より比較的高いように感じています。90歳くらいのご長寿であれば、数えきれません。
患者さんに限っていうと、年齢のわりには自分で通院できるくらい体が丈夫な人が多い、という印象です。
「ミキ」は、奄美では知らない人はいない、伝統的な発酵飲料です。私も子供のころは、自家製のミキを飲んでいましたが、本土では、鹿児島県内でも、ミキを飲む習慣はありません。
奄美のミキの主な材料は米とサツマイモ。一般的には、これに砂糖を加え、発酵させます。
今では手作りする人は少なくなりましたが、島内では市販品が出回っており、高齢の人ほど好んで飲んでいます。しかし、これらの商品にも、必ず砂糖が添加されています。
それでもミキは、伝統食として島の長寿者を支えてきましたが、砂糖を使わない作り方も紹介されると聞きました。これは朗報です。
砂糖を使わない作り方はコチラ↓↓
>「ミキ」の作り方・アレンジレシピ
砂糖のとり過ぎは、糖尿病をはじめとする生活習慣病の誘因になります。できるだけとらないにこしたことはありません。砂糖不使用であれば、よりヘルシーなミキといえるでしょう。
ところで、ミキの由来は「お神酒」です。それだけに、昔は夏祭りのときにふるまわれる、神聖な物でした。文字どおり、ありがたい飲み物なのです。
とはいえ、「飲めば元気が出る」という実感がなければ、ミキが現在まで伝統食として受け継がれることはなく、とっくに廃れていたことでしょう。
なんといっても、ミキは発酵食品ですから、優れた整腸作用があります。便秘にも効果的ですし、腸内細菌叢(腸内に棲んでいる細菌の共生体)をリセットして、良好な状態に保ってくれます。
夏バテの予防・解消にも役立つことから、特に夏の間に、よく飲まれています。聞くところによると、今も市販品は、夏のほうがよく売れるそうです。
奄美のご長寿を支える「隠れたベストセラー」
私のクリニックでも、食欲が落ちて普通の食事をとれない入院患者さんに、ミキを提供することがあります。
通常であれば、医療用の経腸栄養剤を処方するのですが、高齢の患者さんのなかには、ミキを希望する人が、少なからずいらっしゃるのです。
ミキは発酵食品であるという利点に加え、消化吸収がよく、栄養価も高いため、栄養剤の代替に十分なりえます。患者さんにとっても、ミキの味はなじみ深く、ほどよい酸味があるので飲みやすいのでしょう。
ちなみに、ミキの材料に使われるサツマイモは、鹿児島県の特産品です。ここ奄美でも、さかんに栽培されています。
サツマイモは、ご存じのとおり、飢饉のときに強い農作物です。やせた土地でも栽培できるという意味でも、主食として命を支えるという点からも、頼もしい食材です。
私はふだんから、クリニックの患者さんに、サツマイモの摂取を勧めています。サツマイモを切ると出てくる白い汁は、ヤラピンという成分。緩下作用があるため、豊富な食物繊維と相乗して、便秘解消に効果を発揮します。食物繊維は、コレステロールの排出にも有効です。
加えて、サツマイモは、イモ類のなかでも最も多くビタミンCを含んでいます。また、サツマイモの黄色は、カロテノイド色素の一種であるβカロテンによるものです。
ビタミンCもβカロテンも、抗酸化作用があるので、動脈硬化や高血圧などの予防に役立ちます。サツマイモのこれらの成分が、ミキの健康機能性を高めている可能性もあるでしょう。
私は患者さんに、ミキについて、あえて聞き取り調査をしたことはありません。しかし、診療のついでに聞けば、「飲んでいる」と答える人がほとんど。むしろ、飲んでいない人のほうが少ないくらいです。
ミキは嗜好品である一方で、すでに生活習慣として、奄美の生活に根ざしています。ご長寿の健康を支える、「隠れたベストセラー」といえるでしょう。砂糖を使わないミキがどんな物か、私も楽しみです。ぜひ実際に作って、試したいと思います。