最近は、認知症の検査を行う医療機関が増えましたが、さまざまな検査があるので、どの検査がいいのか、迷ってしまいます。検査の内容や費用を知ったうえで、納得のいく検査を受けたいものです。
医療機関のサイトで、診療方針や担当医の考え方を確認するのも、適切な検査を選ぶ参考になります。
認知症の検査と診断
認知症は検査でわかる?
認知症は、必ずしも検査ですっかりわかって、診断を下せる病気ではありません。医師がまず問診し、必要に応じて、適切な検査を行って、診断に至ります。
認知症の場合、認知機能障害だけでなく、社会生活の障害を確認することが大切で、本人や家族、ケアマネ―ジャーなどの介護者への問診は不可欠です。その上で、認知機能の状態の確認や、脳の器質的な障害やうつ病の鑑別のために、検査が行われます。
ちなみに、認知症の診断は、DSM-5(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders-5)という米国精神医学会の診断マニュアルか、ICD-10(国際疾病分類第10版)か、またはNIA-AA (National Institute on Aging-Alzheimerʼs Association)に基づきます。
詳しくは、日本老年医学会( https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/tool/tool_02.html )のサイトが参考になります。
認知症の検査の種類
認知症の検査は、一般的に、認知機能検査、画像検査、血液検査の3種類に分けられます。
(1)認知機能検査
認知機能障害の状態を測ります。記憶、言語、空間認知など、どの機能が低下しているのかを確認し、認知症診断の参考にします。いくつかの検査を組み合わせて、独自に細かく検査する専門的な医療機関もありますが、ここでは、一般的な検査のみを紹介します。
※スクリーニング検査=病気の可能性を選り分ける簡便な検査
●改訂長谷川式認知症スケール/HDS-R(Hasegawa’s Dementia Scale-Revised)
日本ではもっともよく使われている、スクリーニング検査です。口頭質問だけで行えます。30点満点のうち、20点以下が認知症疑いとされます。
●MMSE(エムエムエスイー)/Mini-Mental State Examination
HDS-Rの次に、よく使われるスクリーニング検査で、最近は実施する医療機関が増えています。内容はHDS-Rに近いですが、加えて、空間認知の検査が含まれます。
●Mini-Cog(ミニコグ)
数分内でできる、非常に簡便なスクリーニング検査で、ほかの検査と合わせて、使われることが多いです。時計描画が含まれます。
●DASC-21(ダスク21)/Dementia Assessment Sheet for Community-based Integrated Care System-21 items:地域包括ケアシステムにおける認知症アセスメントシート
認知機能に加え、生活機能の障害も評価できる検査。21の項目からなっていて、介護現場との連携に役立ちます。
●ADAS(エーダス)/Alzheimer9s Disease Assessment Scale Cognitive
認知症と診断された場合に、さらにその状態を詳しく判断するために用いられます。定期的に検査し、点数の変化から、認知機能の経過を評価するのに適しています。
●GDS(老人用うつ尺度)/Geriatric Depression Scale
認知機能検査ではありませんが、認知症とうつ病を鑑別するため、うつ病の検査を実施する場合があります。GDS以外の、うつ病検査も実施されています。
(2)画像検査
脳の形や機能を、画像で確認し、認知症診断の参考にします。
●CT/MRT
CTは放射線を利用し、MRIは磁気を利用して、どちらも脳の萎縮や脳梗塞の有無といった形状を見ます。
それぞれ得意とする画像が異なるので、脳の何を見たいかで、使い分ける場合があります。また、CTは撮影時間が短く音も静か、MRIは放射線被曝がない、と検査する上での違いがあります。
MRIの画像から、海馬の萎縮度を数値で評価する「VSRAD」ソフトを採用している医療機関もあります。
●PET/SPECT
脳血流や代謝を測定して、脳の働きの状態を知ることができます。脳内の血流量が少なくなっている場所がわかるため、認知症の状態の参考になるほか、原因疾患を推察できたり、認知症の疑いを確認したりできます。
(3)血液検査、その他
一般的な血液検査により、例えば貧血や脱水といった、認知症が悪化しやすい状態かどうか、あるいは、認知障害を呈するほかの病気の可能性があるかどうかを確認します。
他方、認知症の早期発見のための、血液検査や髄液検査もあります。血中の特定の物質を調べて、認知症になりやすいリスク、またはMCI(軽度認知障害)を確認します。
●遺伝子検査
ApoE遺伝子(リスク遺伝子)検査が多く、認知症になりやすい遺伝的な要素を調べます。
認知症の検査は費用が高い?
認知症の検査は、医療保険で認められているものと、そうでないものがあります。同じ検査でも、診断名によって、医療保険適用になるケースと、そうでないときがあり、すべて医師の判断にもとづきます。
そして、医療保険が使えない検査は、やはり検査費用がかかる傾向です。
医師から、検査の提案があったときは、その検査の目的と費用について、きちんと確認し、納得して検査を受けられるように、相談しましょう。
よくある認知症検査アプリとは?
最近は、インターネットで認知症をチェックできる、検査アプリが増えています。
全国の自治体や製薬会社のアプリは、無料で検査できるものが多く、もの忘れが心配な人や家族には、手軽に試せるので助かります。
中には、医師の監修があるアプリも見られますが、いずれも、認知症と診断できる検査ではありません。
検査アプリの結果は、あくまでも参考程度としましょう。
◆大田ひとみ
精神科専門のソーシャルワーカー・精神保健福祉士。フリーランスで医療相談や生活支援、家族相談、ときに講師、と幅広い仕事に従事。専門は認知症。たとえ認知症であっても地域で穏やかに過ごし続けられる、シニア生活の環境改善をライフワークとする。近年は特に在宅医療の支援に注力している。