肝臓の負担を大きくする要因のなかでも、私が声を大にしていいたいのは、特に高齢者に多い「薬の飲み過ぎ」です。漢方薬、サプリメントなども、肝臓にダメージを与えることがあるので、むやみに飲むのは危険です。【解説】内山葉子(葉子クリニック院長)
解説者のプロフィール
内山葉子(うちやま・ようこ)
葉子クリニック院長。関西医科大学卒業。大学病院・総合病院で腎臓内科・循環器・内分泌を専門に臨床・研究を行った後、葉子クリニックを開設。総合内科専門医、腎臓内科専門医。著書に『パンと牛乳は今すぐやめなさい!』『おなかのカビが病気の原因だった』『この薬、飲み続けてはいけません!』(いずれもマキノ出版)など。
「年のせい」「ストレスのせい」ではないかも
肝臓は、代謝・解毒・排泄に重要な働きをする臓器です。
体に入った異物(有害物質)は、肝臓に多いシトクロムP450という酵素によって代謝され、水溶性に変換されたのち、尿や便、汗といっしょに体の外へ排出されます。
体に入った物は、ほぼすべてが、いったん肝臓を通り、この代謝経路によって無毒化されるのです。
異物がたくさん入ると、肝臓はその分、多く働かなくてはなりません。そうして負担が積み重なると、肝機能の低下や肝障害へとつながります。
呼吸をしたり、食べ物を摂取したりする必要のある私たちは、異物を全く体に入れないことは不可能です。生きている限り、肝臓に負担がかからない人はいません。だからこそ、不調のあるなしにかかわらず、肝臓をいたわることはとても大切なのです。
特に、年を追うごとに肝臓への負担は確実に蓄積されていきます。
疲れやすい、お酒に弱くなった、肩こりが取れにくい、じんましんが出やすいなどの体の不調を、「年のせい」「ストレスのせい」で片づけていませんか?
血液検査の数値が基準値内でも、体のちょっとした不調が、肝臓の機能低下によって起こっている可能性は十分考えられます。
肝臓は「沈黙の臓器」といわれ、よほどのダメージがないと症状が現れません。症状が出てからでは、取り返しのつかない状態になっていることが多いのです。そうならないためにも、元気なうちからケアしておくことが肝要です。
飲み過ぎは危険
肝臓の負担を大きくする要因のなかでも、私が声を大にしていいたいのは、特に高齢者に多い「薬の飲み過ぎ」です。
薬ももちろん肝臓を通って代謝されるので、飲めば飲むほど肝臓に負担をかけます。多くの薬を服用すると、それだけ酵素が必要となるため、代謝が追いつかなくなるのです。
その結果、薬の効果が得られなかったり、薬の毒性が増えて副作用が起こりやすくなったりします。さらに、ほかの有害物質や、体の中で不要になった物質も、うまく排出できない体になってしまいます。
そうしたことを考慮せず、新たに加わった症状に対して、さらに薬を増やしていけば、ますます肝臓は弱ってきます。
私の患者さんに、以前カゼをひいて別の病院を訪れたときに処方された抗菌薬(抗生物質)を服用して、肝障害を起こした人がいました。肝臓の障害を示すAST(GOT)の数値が、300 IU/Lまで上がっていたそうです。
薬剤性肝障害を起こしやすいのは、抗菌薬のほか、解熱・鎮痛剤、中枢神経作用薬、抗ガン剤などです。しかし、実際にはあらゆる薬が、肝臓にとっては大きな負担となります。漢方薬、サプリメントなども、肝臓にダメージを与えることがあるので、むやみに飲むのは危険です。
《肝臓に負担をかける主なもの》
❶薬の飲み過ぎ
あらゆる薬が肝臓の負担になるので、減らせる薬はないか、医師や薬剤師に相談する。
〈薬剤性肝障害を起こしやすい薬〉
■抗菌薬(抗生物質) ■解熱・鎮痛剤 ■中枢神経作用薬 ■抗ガン剤
❷食品添加物の多い加工食品
食品添加物(保存料、着色料、乳化剤、ph調整剤など)の表示の多い食品はできるだけ控える。
❸ペットボトル飲料
❹農薬を使った野菜
❺過度の飲酒、食べ過ぎ
肝臓をいたわるために取り組むべきこと
では、日ごろから肝臓をいたわるためには、どのようなことに取り組めばよいのでしょう。
一つは、前述したように、安易に薬を飲まないことです。
例えば、カゼは本来、寝て治すものです。「仕事に行かなければならないので、薬をください」というのは、肝臓を傷めつける行為にほかなりません。
もちろん、カゼが重症化したときは、リスクを承知で薬を使ったほうがよい場合もあります。しかし、初期の軽いカゼであれば、薬に頼らず、体を温めて睡眠をしっかり取って治すほうが、肝臓にとってはいいのです。
なお、前述した患者さんのように、カゼで病院へ行くと抗菌薬を出されることが多々あります。必要な投薬なのか、医師に確認する必要があるでしょう。
そのほか、すでに症状が治まっているのに、病院で出されるからといって漫然と飲み続けている薬はありませんか?
長く飲み続けている薬があれば、ほんとうにその薬が今も必要なのか、医師や薬剤師に相談しましょう。もし減らせるのなら、薬は一つでも減らしたほうが肝臓のためです。
薬のほかに、有害物質を極力体に入れないことも、心がけたい点です。
さまざまな食品添加物(保存料、着色料、乳化剤、㏗調整剤など)が入っている加工食品、ペットボトル飲料、農薬の使われた野菜などは控えたいものです。肝臓に負担をかけるだけでなく、ホルモンバランスを乱して、体にさまざまな悪影響を与えます。
元気な肝臓のためにも腸を元気に
そしてもう一つ重要なことは、排泄臓器である腸を元気にすることです。腸が健康でなければ、肝臓の代謝に必要な酵素の原材料となる栄養が入ってきません。
排泄能力が低下すると、腸に有害物質がたまり、それがまた肝臓に負担をかけます。必要な物を入れて、不要な物を出すことが、肝臓の代謝をスムーズにすることにつながるのです。
腸を元気にするには、食べ過ぎない、お酒を飲み過ぎない、そして腸内細菌のエサとなる食物繊維や発酵食品を意識してとることなどが大事です。それらは、肝臓をいたわるベースにもなります。
肝臓を元気にする食べ物としては、特に「梅干し」がお勧めです。
梅干しの酸っぱさは、唾液をはじめとする消化液の分泌を促し、食べ物をしっかり消化して、不要なものを排泄することに役立ちます。
梅干しには、腸の細胞の栄養源となる短鎖脂肪酸(酢酸、酪酸など)が多く含まれるため、腸の粘膜を修復し、大腸の働きをよくする効果もあります。
短鎖脂肪酸によって腸内環境がよくなると、リラックス作用のある脳内ホルモンも増えます。イライラを解消することは、肝臓の負担を減らすことにつながります。
さらに、梅干しはビタミン・ミネラルも豊富。これらは肝臓の代謝機能を助けるほか、血圧を下げたり、脂肪を燃焼したり、血液をサラサラにしたりする効果もあります。梅干しを万能薬として利用すれば、減薬できる可能性も高まるでしょう。
C型肝炎や脂肪肝の患者さんに、3ヵ月間、梅肉エキス(梅肉を煮詰めた物)を飲んでもらったら、肝臓の障害を示すASTとALT(GPT)の数値が改善したという研究結果も報告されています。
梅干しは低塩で大きめの物を、朝昼晩の食前にとるとよいでしょう。梅肉エキスや梅酢を料理に使ったり、飲み物に少量加えたりしてとるのも効果的です。
そのほか、ゴーヤやシュンギク、アロエなどの苦みのある食べ物は、胆汁の分泌を促し、肝臓を保護するのに役立ちます。ときどき料理に加えるといいでしょう。
《肝臓を元気にする食べ物》
■食物繊維の多い食品
大麦、野菜、豆類、海藻類、キノコ類など
■発酵食品
納豆、みそ汁、ぬか漬けなど
■梅干し
低塩で大きめの物を、朝昼晩の食前にとる。梅肉エキスや梅酢を少量とるのもお勧め
■苦みのある食品
ゴーヤ、シュンギク、アロエなど