肝臓は皮膚を通して触ることのできる数少ない臓器です。肝臓マッサージは肝臓の血流を高めることで働きを活発にさせると考えられます。病気や不定愁訴を抱えている人にはもちろん、疲労回復など体調に問題がない人の日ごろの健康管理にも最適です。【解説】高林孝光(アスリートゴリラ鍼灸接骨院院長・鍼灸師)
解説者のプロフィール
高林孝光(たかばやし・たかみつ)
アスリートゴリラ鍼灸接骨院院長・鍼灸師。東京柔道整復専門学校、中央医療学園専門学校卒業。病棟研修時代から肝臓の疲労と痛みとの関連に着目し、全身の若返りを目的としたセルフケアを考案。著書に『病気を治したいなら肝臓をもみなさい』(マキノ出版)など多数。
肝臓を皮膚の上からマッサージ
肝臓を優しくさすったり、なでたりすることで、肝臓を元気にする──。私が、この「肝臓マッサージ」を考案したきっかけは、整体治療のあとで用いる塗り薬でした。
その薬には、ヘパリン類似物質という血流を促す成分が含まれていて、肩こりや腰痛の治療効果を高めます。
調べてみると、ヘパリンは肝臓でつくられ、血液が固まるのを抑制する作用があるとわかりました。皮膚から吸収されることで血流促進に役立つのです。
だったら、肝臓の働きをよくしてヘパリンの生成力を高めれば、より多くのへパリンが血流にのって肩や腰などに届き、体内から治療効果を高められるのではないかと、考えました。
では、肝臓の活性を高めるにはどうしたらいいか。
肝臓は、皮膚を通して触ることのできる数少ない臓器です。この点が大きなポイントになりました。
肝臓の位置は胃の上。肋骨に覆われていますが、全部ではなく、一部が肋骨の下部、みぞおちに出ています。
これならマッサージによる血流促進の原理である「圧電効果」を利用できます。
圧電効果とは、個体に圧をかけると電気が生じるという原理です。細胞も個体ですから、当然、同じ現象が起こります。
細胞内に電気が生じると、その刺激で「イオンチャネル」と呼ばれる血液の出入口が開き、血流がグンと高まります。このマッサージ効果が、触れる臓器である肝臓にも適用できるとわかったのです。
肝臓マッサージのやり方は、下項をご参照ください。
「さする」「なでる」「押す」の三つで構成され、1分くらいで終わります。
まず、肝臓をさすることで、肝臓に血液を集め、圧電効果によって、肝臓や全身の細胞のイオンチャネルを開き、血液の出し入れをよくします。
次に、なでることで、肝臓に集まった血液を温めます。そして、押すことで、肝臓内の温まった血液を、全身に送り届けるのです。
こうした一連の刺激が肝臓の疲労回復につながり、活性を高めると考えました。
肝臓マッサージは、肝臓の活動が低下する、寝る前に行います。頻度は、1日おきがいいでしょう。直接マッサージをすると皮膚が傷つく危険がありますから、必ず下着や薄手の衣服の上から行ってください
肝臓は皮膚のすぐ下にあるので、強い力で行うと、かえって肝臓の組織を壊しかねません。ですから、くれぐれも優しい刺激を与えることです。
肌がキレイになった!
肝臓マッサージは、当初は肩こりや腰痛、ひざ痛などの治療効果を高めることが目的でした。そしてその成果は、予想以上のものでした。
そこで、腰痛やひざ痛などの患者さんたちに、自宅でも肝臓マッサージを行うよう勧めたところ、痛みに限らず、体のさまざまな不調まで改善したという人が続々と現れたのです。
「耳鳴り、めまいが治まった」「便秘、不眠が改善した」「くすみやくまが取れて肌がキレイになった」「夜間頻尿が減った」「やせた」などです。
また、AST(GOT)やALT(GPT)などの肝機能値が改善したという報告もいただいています。
こうした効果が続出すると、肝臓マッサージとの関係をいま一度、考えざるをえません。
そこで、肝臓の専門医を訪ねたり、医学文献に当たったり、独自に研究を進めたところ、肝臓マッサージの効用について、多くのことが明らかになってきました。
肝臓は代謝、解毒、胆汁の分泌のほか、たんぱく質や酵素の生成など、実に500以上の働きをしています。
これが、肝臓が「総合化学工場」と呼ばれているゆえんです。
さらに、肝臓は「血液のコントロールセンター」でもあります。総合化学工場である肝臓の働きによって生まれた血液は、全身を巡り、あらゆる臓器・器官に供給されます。
つまり、血液の質を決めているのは肝臓です。そして、質がよければ体は健康、悪ければ病気になりやすくなるわけです。
また、肝臓には免疫システム(体内に侵入した病原菌を撃退する自己治癒力)の司令塔といわれるマクロファージ(クッパー細胞)が存在しているので、肝臓が元気かどうかは、体の抵抗力をも左右します。
肝臓マッサージは、肝臓の血流を高めることで、こうした働きの一つひとつを活発にさせると考えられます。
そして、良質の血液が、停滞することなく活発に、全身の細胞を巡る。それが、先にも挙げたさまざまな体調の改善につながっていくのにちがいありません。
肝臓マッサージは、病気や不定愁訴を抱えている人にはもちろん、疲労回復など、体調に問題がない人の日ごろの健康管理にも最適です。
腱鞘炎などで手が使えない人や、体の冷えが強い人は、肝臓の位置に使い捨てカイロを貼って温めてください。朝、肌着の上から貼り、夜の入浴前には外しましょう。くれぐれも低温ヤケドには気をつけ、1日おきに行ってください。
肝臓をいたわる方法は、ほかにもあります。例えば、適度な運動をする、バランスのとれた食事をする、睡眠時間を確保する、入浴で体を温める、規則正しい生活をする、お酒を飲む人は休肝日を設け酒量も減らす、などです。
そうしたことも踏まえて、肝臓マッサージを行うと、より効果が期待できるでしょう。
肝臓マッサージのやり方
※1日おきに1分間、夜寝る前に服の上から優しく行う。
❶肝臓をさする
右の肋骨のきわに左右どちらかの手のひらを当てて、心地よい程度の強さで20秒間さする。
❷肝臓をなでる
右の肋骨のきわを、左右どちらかの手の人さし指から小指までの4本の指を使って30秒間、なで回す。
❸肝臓を押す
両手を組み、右の肋骨の下半分をはさみ込む。
組んだ手に力を入れたり抜いたりして、肋骨が少し動くくらいの強さで10秒間、押す。
◎肝臓を温める
肝臓さすりができない人や冷えの強い人は、肝臓の位置に使い捨てカイロを貼って温める。朝、服の上から貼り、夜の入浴前にはがす。1日おきに行う。
※低温ヤケドに気をつける。