現在では、酢のさまざまな健康効果が科学的に解明されています。一方、煮干しは現代人が不足しがちな栄養素をたくさん持っています。今回は煮干しを酢に漬けた、井澤由美子さん命名「にぼ酢」(煮干し酢)をご紹介します。【解説】小泉幸道(東京農業大学名誉教授)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

小泉幸道(こいずみ・ゆきみち)
東京農業大学名誉教授。農芸化学博士。1951年生まれ。1973年、東京農業大学農学部醸造学科卒業。1997年、東京農業大学教授に就任。専門は発酵食品学。「世界一受けたい授業」「あさイチ」など情報・バラエティ番組に出演。著書に『お酢のちから 最新版 おいしく食べて健康になる! 生活習慣病が逃げていく!』(辰巳出版)、『NHKあさイチ 驚きの効果 ハチミツ&酢のパワー (生活実用シリーズ)』(NHK出版)など。

昔から伝えられてきたお酢の健康効果

人間と酢の関わりは、古代メソポタミア文明の時代にまでさかのぼると言われます。

日本に酢が伝わったのは、5世紀です。酢を生産して販売するようになったのは江戸時代になってからで、そのさわやかな酸味と香りで、食文化を豊かにしてきました。さらに、現在では、酢のさまざまな健康効果が科学的に解明されています。

酢の健康効果は、酸味と香りの主役である「酢酸」にあります。酢の力には即効性もありますが、長期間にわたって取り続けることで次のような効果が期待できます。

●食欲増進効果
酢の酸味と香りが脳に働きかけ、唾液を出して食欲を増進させます。胃液の分泌も促し、消化・吸収をサポート。そのため食事の際は酢の物を先に取りましょう。高齢になって食べ物を飲み込みにくくなっている場合も、お酢を最初に取ることで、唾液の分泌が促され、のどを通りやすくなります。

●疲労回復効果
糖といっしょに酢を取ると、グリコーゲン(肝臓や筋肉に蓄えられている体を動かすエネルギー源)の再補給をしてくれます。スポーツなどで体を動かすとグリコーゲンを消耗してしまいますが、酢のドリンクを飲むことで、体を疲労から回復させることができます。

高血圧や内臓脂肪の改善などデータで実証済み

酢は、生活習慣病にも効果があることがわかっています。

●高血圧を解消
高血圧の人に1日大さじ1杯(15ml)の酢を取ってもらうと、6週間で明らかに血圧が低下しました(グラフ①)。大さじ2を取ると、さらに早く効果が現われることが明らかになっています。

画像: 酢大さじ1杯(15ml)を含む飲み物を毎日取った人は、取らなかった人に比べて、最高血圧も最低血圧も下がった。そして、酢を含む飲み物を取らなくなると、血圧は再び上がった〈データ提供/ミツカン〉

酢大さじ1杯(15ml)を含む飲み物を毎日取った人は、取らなかった人に比べて、最高血圧も最低血圧も下がった。そして、酢を含む飲み物を取らなくなると、血圧は再び上がった〈データ提供/ミツカン〉

酢の酢酸には、血圧上昇に関わるホルモン調節機構「レニン・アンジオテンシン系」を穏やかに抑制する働きがあります。

一方で、正常な血圧の人が酢を毎日取っても、血圧を下げる心配はないので安心してください。

●食後血糖値を抑える
食後に急激な血糖値の上昇が繰り返されると、糖尿病につながる恐れがありますが、酢には、糖の吸収を緩やかにし、血糖値の上昇を緩和させる作用があります。

ミツカンの研究では、白米といっしょに酢が含まれる飲み物を飲むと、食後血糖値が抑えられることがわかりました(グラフ②)。

画像: 白米と酢大さじ1杯(15ml)を含む飲み物を取った人は、酢を含まない飲み物を取った人に比べて、食後の血糖値の上昇は抑えられた〈データ提供/ミツカン〉

白米と酢大さじ1杯(15ml)を含む飲み物を取った人は、酢を含まない飲み物を取った人に比べて、食後の血糖値の上昇は抑えられた〈データ提供/ミツカン〉

ワカメの酢の物を食べても、同様の結果になりました。これは、胃の消化物が腸に届くスピードが酢の力で緩やかになり、糖分がゆっくり吸収されるからだと考えられています。

●内臓脂肪を減らす
内臓脂肪とは、体の中にある内臓の周りにつく脂肪のこと。これが蓄積すると、高血糖や高血圧などを引き起こし、メタボリックシンドローム(生活習慣病の前段階の状態)につながります。

ミツカンの研究によると、毎日、大さじ1杯のお酢ドリンクを12週間取ると、内臓脂肪はマイナス4.9%(グラフ③)、体重マイナス1.17㎏、ウエストマイナス1.43㎝、BMI(肥満指数)マイナス0.43㎏/㎡減少しました。これは、酢酸の働きで、脂肪の合成が抑制され、体内脂肪の燃焼が促されるためだと考えられます。

画像: 酢大さじ1杯(15ml)を含む飲み物を毎日取った人は、12週間後、内臓脂肪の面積が4.9%減った〈データ提供/ミツカン〉

酢大さじ1杯(15ml)を含む飲み物を毎日取った人は、12週間後、内臓脂肪の面積が4.9%減った〈データ提供/ミツカン〉

●ガン予防
培養実験や動物実験の段階ですが、ガン予防も期待されています。

タマノイ酢と京都大学、金沢医科大学の研究で、培養した人のガン細胞(大腸ガン、乳ガン、肺ガン、膀胱ガン、前立腺ガン)に黒酢エキスを加えて、増殖率を観察しました。

すると、濃度0.1%でガン細胞の増殖率が10%弱ほど抑制され、特に大腸ガンではほとんど増殖が見られませんでした。

また、ラットに発ガン物質を与え、大腸ガンになる可能性の高い細胞の発生数を調査したところ、黒酢エキスを飲ませていたラットでは、発生数が明らかに抑えられました。

●老化予防
酢には抗酸化力があり、老化を遅らせて病気予防する力もあります。

タマノイ酢と名古屋大学、京都大学の研究で、米酢と黒酢の抗酸化作用を調べたところ、どちらも濃度が高くなるにつれて、酸化力を打ち消す作用が大きくなりました。

さらに、米酢より黒酢エキスのほうが、抗酸化作用が大きいことがわかりました。

毎日大さじ1杯のお酢で体を変えることができる

こういった健康効果を得るためには、酢を毎日大さじ1杯(15ml)飲むことを継続しましょう。

飲み物にアレンジしたり、料理の味付けに使うなどして、食生活に生かしていただきたいと思います。

飲む場合は、必ず5〜10倍に薄めてください。そのまま飲んだり、空腹時に飲むと、胃の粘膜を荒らすことになるので注意しましょう。

私も毎日酢を飲んでおり、納豆やかた焼きそば、チャーハンにお酢をかけて食べるのも大好きです。

煮干しそのものも栄養素が豊富

酢はいろんな食材と合わせることができますが、今回は煮干しを酢に漬けた、井澤由美子さん命名「にぼ酢(煮干し酢)」(別記事:「煮干し酢」の作り方&活用レシピ参照)をご紹介します。

「にぼ酢」に使われる煮干しは、主にカタクチイワシやマイワシの稚魚を原料としています。煮干しは栄養素が豊富で、カルシウムをはじめとするさまざまなミネラルが含まれています。

ミネラルは体に必要な量はごくわずかですが、体の機能のコントロール、成長や維持などに欠かすことのできない栄養素です。

さらに煮干しには、血液をきれいにするDHA(ドコサヘキサエン酸)、EPA(エイコサペンタエン酸)などの不飽和脂肪酸も、豊富に含まれています。

画像: 煮干しそのものも栄養素が豊富

煮干しに含まれるそれぞれの栄養素の特徴は、次のとおりです。

●カルシウム
煮干しはカルシウムが豊富で100g中に2200mgも含まれています。煮干し5gでコップ半分の牛乳(110mg/100ml)と同じカルシウムが摂取できます。カルシウムは、骨や歯を作るのに必要で、イライラやストレスも軽減します。

●マグネシウム
煮干し100g中に230mg含まれるマグネシウムは、カルシウムとともに骨を丈夫にする重要なパートナーです。また、神経や筋肉、血管の働きを調節したり、体内の酵素を活性化したりする役割もあります。

●鉄
鉄も100g中に18mgと、豊富に含まれています。鉄は、赤血球を作るのに必要な栄養素で、不足すると貧血や立ちくらみを起こします。

●亜鉛
亜鉛も多く含まれます(100g中7.2mg)。亜鉛が不足すると、免疫機能の低下や皮膚炎、味覚障害などを招きます。

●ビタミンD
カルシウムの吸収をサポートして、骨や歯の沈着を助けます。

●DHA
血液中の脂肪や糖分を減らします。記憶力向上の働きもあります。

●EPA
動脈硬化や心筋梗塞(心筋に血液が流れなくなった状態)を防ぐ働きがあります。

酢漬けにすることでカルシウムが溶け出す

煮干しは現代人が不足しがちな栄養素をたくさん持っています。

煮干しはそのまま食べると硬いですが、酢漬けにすることでやわらかくなって、食べやすくなります。また、味も苦味やえぐみがありますが、酢によってマイルドになります。

また、煮干しなど小魚類のカルシウムの吸収率は、そのまま食べると30%程度と言われていますが、酢は、煮干しをはじめ、貝殻や肉の骨など、食材に含まれるカルシウムを多く引き出す性質があるのです。

酢がどれくらいカルシウムを引き出せるか、私が行った「殻つきシジミみそ汁」の実験結果をご紹介しましょう。

鍋に水200ml、殻つきのシジミ50gと、酢小さじ1と2分の1(7.5㎖)を入れて沸騰させ、弱火にして8分間加熱しました。

その後、みそ小さじ2を入れて溶かし、汁の中に含まれるカルシウム量を測定しました。

すると、酢を入れたときのみそ汁のカルシウム量は50.3mg/100mlに対し、酢を入れなかったみそ汁は14.8mg/100mlという結果になったのです。

この結果から、酢を入れて加熱することで、実に3.4倍のカルシウムが溶出したことがわかります。

酢酸の沸点は117℃です。そのため、弱火で8分間くらい加熱している間に、水だけで加熱する場合よりもシジミの殻のカルシウムがたくさん溶け出すようになるのです。

今回、紹介されている「にぼ酢」も、作るときに一度、鍋に入れ、火にかけて沸騰させ、5分ほど煮ると、さらなるカルシウムの溶出が期待できると思います。

また、沸騰させなくても、煮干しを酢に漬ける時間を長くすればするほど、カルシウムは溶出することでしょう。

画像: 煮干しはそのまま食べると、カルシウムの体への吸収率は30%程度だが、酢に漬けると酢にカルシウムが溶け出し、吸収率が上がる

煮干しはそのまま食べると、カルシウムの体への吸収率は30%程度だが、酢に漬けると酢にカルシウムが溶け出し、吸収率が上がる

骨粗鬆症予防のために煮干しを食生活に取り入れて

特に、女性は加齢によって骨密度が低下し、骨の強度がなくなる骨粗鬆症になりやすいというリスクがあります。

骨粗鬆症になると、骨折しやすくなり、歩けなくなることで寝たきりになるという生活を招きかねません。

骨粗鬆症を予防するには、ふだんからカルシウムを摂取することが欠かせません。

そこで、お酢の力を活用して、「にぼ酢」のようにカルシウムを溶出させて、よりたくさんのカルシウムを効率よく摂取できる食生活が大事になってくるのです。

また、酢漬けは長期保存ができるので、作り置き食材として重宝します。「にぼ酢」は誰でも簡単に失敗なく作れるのもうれしい点です。

骨粗鬆症を予防するためにも、「にぼ酢」を作り置きしておくと心強いでしょう。

画像: この記事は『ゆほびか』2019年2月号に掲載されています。

この記事は『ゆほびか』2019年2月号に掲載されています。

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