【心臓病の治療】よい医師の選び方と心臓の負担を軽くする8つの心がけ

美容・ヘルスケア

心臓の病気は、他の臓器の病気に比べて患者さん自身が早期発見しやすいものです。治療では、最初から手術が必要になるケースはごく少数で、多くの場合はまず生活習慣を見直します。手術を検討する段階になったときは、納得できるまで説明を聞き、自身が選び、決断することが大切です。【解説】天野篤(心臓血管外科医・順天堂大学医学部心臓血管外科教授)

解説者のプロフィール

天野篤(あまの・あつし)
心臓血管外科医。順天堂大学医学部心臓血管外科教授。医学博士。1983年日本大学医学部卒業。1997年冠動脈バイパス手術の症例数で日本一となる。2002年7月順天堂大学医学部心臓血管外科教授に就任。2012年東京大学医学部附属病院で行われた天皇陛下の心臓手術(冠動脈バイパス手術)執刀。2016年4月より2019年3月まで順天堂大学医学部附属順天堂医院院長を務める。心臓を動かした状態で行う「オフポンプ術」の第一人者で、これまでに執刀した手術は8000例を超え、成功率は98%以上。著書『熱く生きる』『100年を生きる心臓との付き合い方』(ともにセブン&アイ出版)が好評発売中。

患者さんの負担を減らす「オフポンプ」手術

私は、36年前に心臓外科医としての道を歩み始めて以来、8000例以上の手術を手がけてきました。

その間、できるだけ患者さんの体への負担が少なく、かつ長年、元気で過ごしていただける手術をしようと、研鑽を積んできました。

2012年には、天皇陛下の心臓手術を執刀させていただきました。陛下が受けられた手術は、狭心症を改善するための「冠動脈バイパス手術」でした。

心臓に血液を送っている冠動脈が動脈硬化で狭くなっているとき、補助的な血液の通り道を作る手術です。

この手術方法は、血管を人工心肺装置につなぎ、心臓を止めて行うのが一般的でした。しかし、心臓の鼓動を止めておく時間が長いほど、患者さんは大きなダメージを受けます。

そこで私は、心臓を止めずに行う「オフポンプ手術」を2000年からいち早く取り入れました。ほぼすべてのバイパス手術をこの術式で積極的に行い、特に高齢者などでは、そのほうが術後の経過がよいという手応えを感じていました。

そうした背景があったので、天皇陛下の手術で、私は確信をもってオフポンプ手術を行いました。

以後、日本ではオフポンプ手術が急速に普及し、現在は冠動脈バイパス手術の約7割がこの術式で行われています。患者さんの負担が少ない術式が広まる一つのきっかけになったとすればうれしく思います。

臓器別に見れば心臓病は死因の1位

現在、日本人の死因の1位はがん、2位は心臓病です。しかし、がんはあらゆる臓器や器官を含めてですから、臓器別に見ると、心臓病が死因の1位といえるでしょう。

心臓は、血液を全身に送り出すポンプです。働きが失われたら、たちまち命が維持できなくなる重要な臓器です。それだけに、具合が悪くなったら、できるだけ早く受診し、適切な治療を受けることが大切です。

心臓の病気は、他の臓器の病気に比べて、患者さん自身が早期発見しやすいものです。

もちろん、自覚症状が出ない心臓病もあります。しかし、心臓病の大部分は、患者さんが何らかの自覚症状を訴えることで発見され、そこからの治療で改善できます。

つまり、早期発見のカギを握っているのは患者さん自身なのです。

ほかの多くの病気と同じく、心臓病も障害のない時期に見つけるほど、治療効果を得やすくなります。心臓病で起こりやすい症状を知っておき、早期発見に努めましょう。

心臓病の初期サインで要注意の六つの症状

細かい点は病気の種類によって違いますが、一般に心臓病での初期症状は、次の6つです。

(1)激しく胸などが痛む
狭心症や心筋梗塞(心臓の血管が詰まって起こる病気)の典型的な症状としては、締めつけられるような激しい胸痛が起こります。あごや左の肩・腕、みぞおちなど、胸以外のところに痛みが出ることもあります。

(2)動悸がする・脈拍が不規則
運動もしていないのに、脈が急に早くなったり遅くなったり、不規則になったりするものを「不整脈」といいます。心配ない不整脈もありますが、激しい動悸やめまいを伴う場合は、心臓病を疑う必要があります。

(3)息切れ・呼吸困難
安静にしているときも息切れや呼吸困難が起こる場合、心臓病の症状の可能性があります。

(4)むくみ
足のむくみは、心臓のポンプ機能が衰えているときに起こる症状の一つです。ひどくなると、手や顔、胸、腹部、背中までむくむようになります。

(5)めまい・一時的な失神
心臓の力が弱くなると、脳の血流量が低下し、めまいや立ちくらみ、一時的に気を失うなどの症状が出ることがあります。

(6)カゼのような症状
心臓病などで血圧が下がると、急に寒気や吐き気がします。また、心不全によってセキが止まらなくなることもあります。激しい高血圧による心不全では、強い頭痛や肩こりがみられます。カゼでもないのに、これらが見られたら要注意です。

健康な人に、このうち2〜3の症状がたまたま起こっても、心配ない場合がほとんどです。

しかし、くり返すときや、起こるたびに悪化していくときは早めに受診しましょう。特に、いくつかの症状をくり返し、急に激しい寒気や吐き気が起こったときは、救急車を呼んででも早急に受診してください。

まずは生活習慣の見直しが最優先

「心臓病ではないか」と疑われる症状があれば、まずはかかりつけの内科か、または循環器科で受診しましょう。循環器とは心臓・血管系のことです。

そこから、手術を検討する必要があるとなれば、血管外科や心臓外科に紹介され、連携を取って治療することになります。

心臓病の治療では、最初から手術が必要になるケースはごく少数です。多くの場合は、まず生活習慣を見直します

心臓に負担をかけている生活習慣を改めると、心臓の働きがよくなることも多いからです。ほかの病気の治療も大切です(詳しくは後述)。

生活改善やほかの病気の改善だけで十分な効果が得られないときは、薬物治療を併用します。

それでも不十分な場合、近年増えている狭心症や心筋梗塞(心臓の血管が詰まる病気)に対しては、一般に「カテーテル治療」が検討されます。

これは、動脈硬化で狭くなった血管に、カテーテル(細い管)を挿入し、それを通じて目的の場所でバルーン(風船状の器具)を膨ませ、血管を拡張する治療法です。

現在では、通常、その後に、血管を広げたままにしておけるステントという器具を置き、血管の再狭窄を防ぎます。不整脈の一部に対しても、カテーテル治療を行うことがあります。

カテーテル治療のメリットは、手術に比べて体への負担が少ないことと、くり返し行えることです。

手術も複数回行うことはできますが、少なくとも間は3年空けたほうが安心です。カテーテル治療は、半年ごとにくり返すことも可能です。

しかし、カテーテル治療をくり返しても、そのたびに再発する場合や、治しきれずにかえって治療の負担が大きくなるような場合は、手術が検討されます(詳しくは下項)。

なお、狭心症や心筋梗塞は、心臓に血液を送っている冠動脈の病気ですが、心臓そのものの構造に問題が起きる弁膜症などの病気もあります(下表参照)。

この場合も、カテーテル治療や手術のやり方自体は異なるものの、一般に同じような流れで治療法が選択されます。

《主な心臓病》

冠動脈の病気
狭心症…心臓に酸素や栄養を送っている冠動脈が狭くなり、心臓が活動するために必要な血液が十分に供給されなくなることで起こる病気。激しい痛みを伴う。
心筋梗塞…心臓の血管が詰まって起こる病気。

心臓の構造に問題がある病気
心臓弁膜症…心臓にある4つの弁がうまく動かなくなる状態。弁膜症には、弁が硬く開きにくくなる「狭窄症」と、弁が閉じにくくなり血液が逆流する「閉鎖不全症」がある。大動脈弁と僧帽弁に多い。

心臓の筋肉の病気
心筋症…心臓の筋肉そのものの異常で心機能が低下する病気。

不整脈心拍が不規則であったり、速すぎたり(頻脈)、遅すぎたり(徐脈)、心臓を伝わる電気刺激が異常な伝導経路をとることで生じる心拍リズム異常のこと。心房細動、心室頻拍、心室細動などがある。

大動脈の異常による病気
大動脈解離…心臓から全身に血液を送る最も太い動脈である大動脈の壁(血管壁)に亀裂が入って血液が血管の壁に流れこみ、大動脈の中膜が急激に裂けて、破裂したら死に至る病気。

心臓病のリスクが高まる生活習慣と心臓を弱くする要因

以上が心臓病治療の基本的な流れですが、どんな場合でも重要なのが、先ほどふれた心臓に負担をかける生活習慣の見直しやほかの病気の治療です。では、気をつけたいポイントを以下に述べましょう。

「脱水」
脱水状態になると、血液の粘りけが増して流れにくくなり、心臓に負担がかかります。こまめに水分の補給をしましょう。

「ヒートショック」
激しい温度差による血圧の乱高下のことです(詳しくは別記事「和温療法」のやり方参照)。

「運動不足」
座りっぱなしで運動しない人は、心臓病のリスクが2倍になるという報告があります。適度な運動を心がけましょう(すでに心臓病がある人は主治医の指導を受けること)。

適度な運動とは、一般に心拍数130程度になる運動です。スポーツジムなどで測り、徐々にそこまで増やして感覚をつかみましょう。

「便秘」
トイレでいきむと血圧が急上昇しやすく危険です。野菜や発酵食品を積極的にとり、便秘を改善しましょう。

「前かがみの姿勢」
前かがみにしゃがみこむ姿勢は、心臓が圧迫されるうえ、血圧の変化も激しくなります。庭仕事や床掃除などは、なるべく避けたいところです。

「花粉症」
花粉症で呼吸しづらくなると心臓の負担が増します。また、花粉症の薬の多くは血管を収縮させて心臓に負担をかけます。心臓が気になるときは市販薬に頼らず、病院でそのことを伝えて適切な薬を処方してもらいましょう。

「インフルエンザ」
血圧や心拍数をアップさせるインフルエンザは心臓の大敵です。かからないのがいちばんですが、なってしまったら安静にして治療を受けましょう。

「高血圧・高血糖・脂質異常症」
いずれも悪化すると動脈硬化を進める要因となり、心臓に負担をかけます。できるだけ早期からきちんと治療しましょう。

このほか肥満、喫煙、過度の飲酒、睡眠不足、ドカ食い、食べてすぐ寝ることなども心臓の負担を増します。

逆に、日頃のちょっとした心がけで心臓の負担を軽くできるので、以上のようなことに気をつけ、心臓をいたわる生活を送ってください。

ちなみに、私はワイン好きでしたが、お酒をやめて5年になります。緊急の手術が入るのはたいてい深夜か明け方です。一人でも多くの命を救いたいという思いからです。

心臓病の手術のメリットと患者が心から信頼できる医師選び

よい医師選びの入り口は二つ

心臓病で、カテーテル治療や手術を検討する段階になったとき、患者さんとしては迷いや不安が大きくなるでしょう。

そんなときは、「よくわからないけど医師の言う通りに」という受け身の姿勢ではなく、納得できるまで説明を聞き、患者さん自身が選び、決断することが大切です。

医師ができるのは情報提供と助言までで、最終的に決めるのは患者さんです。

十分な情報提供を受けるためにも、そもそも信頼できてコミュニケーションをとりやすい主治医を選ぶことが重要です。その入り口は大きく二つあります。

一つは、自分の経験や見立てを大事にする、ちょっと古いタイプの専門医です。こういう先生は、検査前に必ず聴診器を当て、自分の耳で心音を聞きます。

さらに、話をよく聞いてくれ、患者さんが「そういえば…」という言葉を発するような聞き出し方をする頼れる医師です。

もう一つは、採血、超音波、心電図、CT(コンピュータ断層撮影)など、多くの検査をする医師です。診断を医療機器に頼っているわけですが、これはこれで客観性があり、入り口としては信頼できます。

どちらのタイプでも、診察、検査の結果から、現在の状況を、わかりやすく患者に説明してくれるというのも大切な条件です。そこまでやってくれれば主治医として合格です。

そういう医師にかかっていれば、いざカテーテル治療や手術をすべきかどうかという段階になったとき、じっくり相談できるでしょう。

そのさい、「自分の家族ならこうする」というような説明をしてくれる医師なら、さらによいと思います。患者さんから「自分の身内だったらどうしますか」と聞いてみてもよいでしょう。

インフォームドコンセントは大切

最近、よく聞くようになった「インフォームドコンセント(IC)」は、「十分な情報を得たうえでの合意」という意味です。

特に「手術するかどうか」「どんな方法で手術するか」という局面では、きちんとICを行うことが、医療側と患者さんの双方にとって大切です。そのさい、

(1)病名
(2)予定の治療内容
(3)(2)のメリット・デメリット
(4)治療しない場合の見通し
(5)ほかに選べる治療法がある場合は、その内容と、予定の治療法に比べていい点・悪い点

などの説明が必要です。医師にはこれらを説明する義務があり、患者さんには説明してもらう権利があります。

「この手術をするしかありません」などと囲い込むような医師はICができていないことになります。患者さんもこのことを知っておき、(1)(2)だけでなく(3)(4)(5)も納得いくまで尋ねましょう。

手術のときは、上記の(1)~(5)を話し合ったうえで、セカンドオピニオンなども考慮に入れるとよいでしょう。

心臓の手術というと、「怖い」という印象を持つ人も多いようです。

しかし、病気や状況にもよりますが、心臓の手術が他の臓器の手術に比べて、特に危険ということはありません。むしろ、全体から見ると成功率は高くなっています。たとえば成功率90%だと、心臓病の世界では非常に危険な手術です。

有名人が、がんの手術については公表することが比較的多いのに対し、心臓病の手術が公表されることはまれです。なぜかというと、ほぼすべての場合、問題なく治るからです。

公表の有無には、術後の違いも影響しているかもしれません。がんの手術では臓器やその一部を取るので、基本的に機能低下が起こります。術後に生活や仕事が制約されることもあります。

心臓病の場合は、機能を改善させる手術です。家の改修工事のようなもので、術後は元気になり、日常生活での制約もどんどん取れていきます。心臓病の手術には、そういう大きなメリットがあるのです。

心臓手術は患者さんだけでなく家族の負担も軽減

患者さん自身がらくになるだけでなく、心臓病で通院を続けている高齢者なら、術後は定期検査以外の通院が不要になり、送り迎えをしていた家族の負担が大幅に軽くなります。

日本では、どちらかというと、ギリギリまでカテーテル治療で引っ張る傾向がありますが、どこかの時点で手術に踏み切ったほうが、いろいろな意味でよい場合もあります。

もちろん手術には一定の危険性があるので、慎重に検討することが大切です。

心臓病の種類や状況別の手術の成功率(逆にいうと危険性・死亡率)は、すべて客観的な数字として出ています。ICの一環として、それを医師から提示してもらって検討しましょう。

実際に手術を受ける医療機関を選ぶときは、ホームページなどで公表している手術数や実績も参考にするとよいでしょう。

基本的な体の状態があまりにも悪い場合や、患者さんや家族に手術に対する拒否感がある場合は、手術は回避する方向になります。それも含めて、主治医とよく話し合いましょう。

超高齢社会の日本で、心臓病手術の役割はますます大きくなっています。ぜひ正しい知識を身に付け、必要に応じて治療の選択肢に加えてください。

この記事は『安心』2019年4月号に掲載されています。

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