【ストレス?】耳鳴りの原因と止め方 意外な対処法と治療法について名医が解説

美容・ヘルスケア

難聴・耳鳴り治療の専門医、新田清一医師が提唱する「補聴器療法(補聴器リハビリ)」が話題だ。この記事では、耳鳴りとは何か、その原因や音(キーン、ゴーッ、ブーン、ジーッ)、難聴との違い、うつ病やストレスとの関係はあるのかについて、その改善方法を分かりやすく紹介する。

解説者のプロフィール

新田清一(しんでん・せいいち)
済生会宇都宮病院耳鼻咽喉科 主任診療科長・聴覚センター長。
1969年、東京都生まれ。94年、慶應義塾大学医学部卒業後、同大学医学部耳鼻咽喉科学教室入局。同教室助手、横浜市立市民病院耳鼻咽喉科副医長などを経て、2004年より現職。2010年、ヨーロッパ(ベルギーのセント・アウグスティヌス・ホスピタルなど)にて臨床留学。慶應義塾大学医学部耳鼻咽喉科学教室客員講師、日本聴覚医学会代議員、日本耳科学会代議員、日本耳鼻咽喉科学会栃木県補聴器キーパーソンなどを兼務。専門は、聴覚医学(耳鳴り、補聴器、小児難聴など)、耳科学(中耳手術、人工内耳診療など)。

監修者のプロフィール

小川 郁(おがわ・かおる)
慶應義塾大学医学部耳鼻咽喉科学教室 教授・診療部長。
1955年、宮城県生まれ。81年、慶應義塾大学医学部卒業。83年、同大学医学部耳鼻咽喉科学教室助手。91年、米国ミシガン大学クレスギ聴覚研究所研究員。95年、慶應義塾大学医学部耳鼻咽喉科学教室専任講師。2002年より現職。日本耳鼻咽喉科学会専門医・代議員、日本気管食道科学会専門医・常任理事、日本聴覚医学会理事、日本耳科学会顧問、日本頭蓋底外科学会理事、国際耳鼻咽喉科振興会理事、アジアオセアニア頭蓋底外科学会理事、慶應医師会長などを兼務。専門は、聴覚医学、耳科学、頭蓋底外科。

この原稿は書籍『難聴・耳鳴りの9割はよくなる』から一部を抜粋・加筆して掲載しています。

難聴と耳鳴りは別々の病気ではない

難聴の記事に続いて、耳鳴りについても検討しましょう。
皆さんの中には、「なぜ、耳鳴りを難聴といっしょに検討するのか」と不思議に思っているかたが少なくないかもしれません。
耳鳴りと難聴は、まったく別の病気と考えているかたが多いからです。私が外来で患者さんと話していても、この2つを別物と考えているかたがほとんどです。

耳鳴りに悩む患者の9割が難聴を併発

耳鳴りの患者さんは、たいてい、自分の聞こえが悪いのは「耳鳴りがうるさいせいだ」と考えており、それが難聴のせいだとは考えません。
一方、難聴で悩んでいる患者さんは、たとえ耳鳴りがあっても、耳鳴りについてはあまり関心を持っていなかったりするのです。
しかし、耳鳴りと難聴は、別物の病気ではありません。
耳鳴りに悩む患者さんのおよそ9割のかたが、難聴を併発しているというデータが出ています。

耳鳴りは、これまでお話ししてきた「難聴の脳」と非常に密接な関連があるのです。難聴と耳鳴りは、1つの病気のオモテ・ウラの関係にあるといってもよいでしょう。
これまで長らく、耳鳴りは「原因不明の病気」「治らない病気」と考えられてきました。今でも、「耳鼻咽喉科で診てもらったところ、原因不明といわれた」という耳鳴りの患者さんが、私たちの外来にたくさん訪れます。

「年のせいだから」はもう古い

多くの病院や治療院などをいくつも回ったが、結局、耳鳴りが治らなかったと訴える人や、医師から「年のせいだから、あきらめなさい」「この病気は治りませんから、なるべく気にしないようにしましょう」といわれた人も、多数やってきます。
いまだに一部の医師にとって、耳鳴りは「原因不明の病気」「治らない病気」であるのです。

しかし、そうした状況は大きく変わりつつあります。研究の進展によって、「耳鳴りはよくなる病気」とわかってきたからです。耳鳴りという病態のとらえ方が、従来のものとは異なるものになったのです。

では、新しい考え方では、「耳鳴りになる」とは、どういうことなのでしょうか。
ここでも、最も典型的な加齢性難聴を手がかりに説明しましょう。

【関連記事】難聴の原因と治療法 種類やレベル、チェック方法

耳鳴りも、耳ではなく「脳」が鳴っている

「聞こえないから」耳鳴りが起こる

加齢性難聴は、一般的に、高音域から聞き取りが悪くなります。
いいかえれば、低音域や中音域の音は、従来どおり電気信号に変換されて脳に送られる一方、高音域の音の信号は、脳にあまり送られなくなるということです。

脳は、極めて優秀な機能を持っています。高音域の電気信号がじゅうぶんに送られてこないのを感知すると、その音域をよりよく聞こうと働きます。
高音域の電気信号が弱まっているぶんを補おうとして、脳の活動が高まり、その音域の電気信号をより強くしようと働くのです。いわば、脳が過度に興奮した状態になります。

こうして高音域を担当する部分の脳の活動が高まり、その活動そのものが耳鳴りとして聞こえてくるのです。不足した音を補うために、脳が過度に興奮してがんばった結果、耳鳴りが生じるというわけです。
つまり、耳鳴りは脳で鳴っているといえます。

たいていの耳鳴りが「キーン」という高音な理由

耳鳴りのメカニズム

加齢性難聴では、高音域の音が聞こえにくくなりますから、それを補うため、たいてい「キーン」という高音の耳鳴りがするようになります。
これが、新たに解明された、耳鳴りのメカニズムです。

このメカニズムが当てはまるのは、むろん、加齢性難聴だけに限りません。
難聴になる病気は総じて、耳鳴りを引き起こす可能性があることになります。
例えば、突発性難聴は治療がうまくいかないと、難聴が後遺症として残ります。騒音性難聴も、蝸牛の有毛細胞が損傷するため、難聴を治せません。
このような病気による難聴においても、同様のメカニズムによって耳鳴りが起こってきます。

「ゴーッ」「ブーン」は低音が聞こえづらい人

病気の種類や、難聴の進行度合いによって、低音域や中音域が聞こえなくなったり、全音域にわたって聞こえが悪くなったりすることがあります。すると、聞こえの悪くなっている音域に合わせて、耳鳴りが起こります。
低音域が聞こえにくい人は、「ゴーッ」「ブーン」といった耳鳴りがするようになります。
高音域から低音域まで、全体的に聞こえが悪くなっている人は、「ザーッ」というテレビのノイズのような音になります。「ジーッ」というセミの鳴くような音に聞こえる人もいます。

耳鳴りに悩んでいる人は、耳鳴りのせいで聞こえが悪いと思うことはあっても、「自分が難聴に悩まされている」とは自覚していないケースが少なくありません。
しかし、いずれにしても、耳鳴りの生じる背景にあるのが、難聴なのです。

血流音、呼吸音が聞こえたらストレスが原因の可能性

先ほど、難聴と耳鳴りは、「1つの病気のオモテとウラ」とお話ししたのも、これを踏まえてのことです。難聴がオモテなら、難聴が原因で生じる耳鳴りがウラということになるでしょうか。
ちなみに、難聴とは関連しない耳鳴りも、少数ながら存在します。
例えば、脳の中でではなく、実際に体の中で鳴っている音が、耳鳴りとして聞こえるようなケースです。
血液が血管を流れる「ザーザー」という音(血管雑音)や心臓の音、「コツコツ」というのどの筋肉の収縮音、「スーハー」という呼吸音などが、耳鳴りとして自覚されることがあります。
血管雑音については、人によって治療が必要なケースもありますが、単に疲労やストレスによって一時的に起こっていることが少なくありません。

耳鳴りを引き起こす「うつ病」

もう1つ、難聴と関連しない耳鳴りを引き起こすのが、うつ病です。
うつ病になると、感覚が鋭敏になることがあります。耳鳴りを強く感じ、苦痛を感じやすくなります。
うつがあり、特に精神的な苦痛を強く感じている人の場合、耳鳴りの治療と並行して、心療内科や精神神経科などで精神面の治療を行うことが勧められます。

話を戻しましょう。
大半の耳鳴りに共通する発生メカニズムが判明してきたからこそ、そのメカニズムにもとづいた耳鳴りの治療も可能になってきました。
その新しい治療法について触れる前に、耳鳴りが悪化し、治りにくくなる事情について紹介しておきましょう。

耳鳴りを悪化させる「苦痛のネットワーク」

耳鳴りが聞こえるようになると、なかには、症状がしだいに悪化してしまう人がいます。そうしたかたも、脳に変化が起こっています。
それが、耳鳴りに注目してしまう脳の働きです。私は、こうした脳を「注意の脳」と呼んでいます。

人間の本能には、環境に予期せぬ変化が起こると、反射的に注意を向けるプログラムが備わっています。急に鳴り出した音というものは、例えば、人間に襲いかかる敵の接近を告げるサインかもしれないからです。身を守るため、危険なものに注意を向けてしまうのです。
耳鳴りでも同じことが起こります。

耳鳴りに対して過度に脳が興奮する

急に聞こえ始めた耳鳴りに対して、脳が注意を向けるようになります。正体の知れない音ですから、すごく気になり、不安を感じます。
「注意の脳」が働き出すと、耳鳴りがしているかどうか、気がつくといつも細心の注意を払うようになります。
「今日も、音が鳴っているかどうか」「今日の耳鳴りの大きさはどうか」など、耳鳴りについて逐一、確認を取るようになるのです。

「注意の脳」の働きが昂じてくると、朝に目覚めたときから夜眠るまで、1日じゅう耳鳴りを気にかけるようになります。
また、耳鳴りを強く意識することで、脳内に、さまざまな考えや感情が浮かび上がり、連動して働くようになります。

例えば、「耳鳴りがこのまま治らないのではないか」といった不安が生じたり、「耳鳴りのせいで仕事に集中できない」などのイライラが高まったりします。
こうして「注意の脳」と「苦痛を感じる脳」、ストレスが連動して働き、「苦痛のネットワーク」が形成されていくのです。

うつだけでなく、不眠や動悸、冷や汗も引き起こす

自律神経にも悪影響を与える

いったん「苦痛のネットワーク」が形成されると、耳鳴りから注意を逸らすことがさらに難しくなり、耳鳴りによって与えられる苦痛がどんどん高まっていきます。うつ傾向も強まります。
ネットワーク化された苦痛は、自律神経(血管や内臓を調整している神経)にも強く影響を与えるため、不眠や動悸、冷や汗といった身体症状が引き起こされることもあります。
このようにして耳鳴りは悪化し、だんだん治りにくくなっていきます。

また、医師の不用意な言葉(「耳鳴りは治りません」「一生つきあっていくしかない」「あなたは神経質だから」など)が、患者さんの「苦痛のネットワーク」を固めて、不安や心配、イライラといった精神症状をより悪化させます。
では、こうしたサイクルに陥った耳鳴りの患者さんを助けるには、どうすればいいのでしょうか。

理解するだけで耳鳴りの5割は改善!

カウンセリングで改善

耳鳴りの発生メカニズムが判明してからは、その治療の方向性もはっきりしてきました。それが、耳鳴りを発生・悪化させる脳の働きにアプローチする方法です。
耳鳴りの患者さんには、問診時に綿密なカウンセリングを行います。カウンセリングの柱は2つあります。

●なぜ、耳鳴りが起こるのか(発生するメカニズム)
●なぜ、耳鳴りが悪化し、ひどくなっていくのか

多くのケースでは、「注意の脳」の働きによって、耳鳴りに注意を向ければ向けるほど、耳鳴りが治りにくくなっています。
患者さんは、「耳鳴りがどんどん大きくなっていくのではないか」「最後には耳が聞こえなくなるのではないか」といった、さまざまな不安や心配にさいなまれています。

そこで、カウンセリングによって、耳鳴りの発生メカニズムを理解し、「注意の脳」の働きや「苦痛のネットワーク」についての正しい情報を得てもらいます。
患者さんが耳鳴りのメカニズムを理解すると、「耳鳴りは心配していたほど、重大な病気ではない」とわかってきます。
しだいに、耳鳴りに関する不安や心配の多くが軽減します。その結果、「苦痛のネットワーク」の悪循環も断つことができるようになるのです。

耳鳴りは「恐ろしい」ものではない

耳鳴りの症状がそう重くないかたであれば、カウンセリングだけで耳鳴りが気にならなくなり、治療はそこで完了します。
私たちの外来では、耳鳴りに悩むかたのうち半数以上が、カウンセリングを行っただけでよくなり、帰っていきます。
薬を出す必要もありません。
もちろん、自宅に戻り、静かな環境に身を置けば、再び耳鳴りが聞こえることはあるでしょう。
しかし、次のように考えられれば、耳鳴りは恐ろしいものにはなりません。

「耳鳴りが聞こえても、それ自体は大したことではない」
「体に大きな害にもならないから、だいじょうぶ」

たとえ耳鳴りがしていたとしても、患者さんにとって苦痛にはならなければ、これは「治った」といってもいい状態ではないでしょうか。
こうして、カウンセリングだけで、5割のかたの耳鳴りが治っているのです。

補聴器を使えば耳鳴りの9割はよくなる!

補聴器リハビリのやり方

カウンセリングだけではじゅうぶんに対応できない、症状の重い耳鳴りの患者さんで、難聴がある場合は、補聴器を使ったトレーニングを提案します。

耳鳴りの発生メカニズムとは、「ある音域が聞こえなくなっているときには、その音域の電気信号が脳に入らなくなっている」「その足りない音域を補おうとして、『難聴の脳』が興奮し、耳鳴りが起こる」というものです。
それぞれの患者さんについて、前もって検査を行い、どこの音域の聞こえが悪くなっているかを確認します。その足りない音域に、補聴器を使って音が聞こえるように調整を行います。

こうして患者さん1人ひとりに合わせて、調整を行います。
すると、今まで聞こえなかった音域(電気信号が入っていなかった音域)に、補聴器を通じて電気信号が届けられるようになります。
これによって、脳の興奮が治まり、耳鳴りが落ち着くことになるのです。

補聴器療法の効果

補聴器による耳鳴りの治療法は、原則として難聴と同じです。元々、難聴から耳鳴りが生じているわけですから、難聴の補正ができれば、それが耳鳴りの改善につながります。
補聴器を使い始めたときには、うるさく、不快に感じるかたも多いでしょう。それに慣れることが、耳鳴りの解消にもつながるのです。

9割が改善

耳鳴りに対する補聴器療法の効果は明らかです。
608人の耳鳴りの患者さんに補聴器を使ってもらい、治療6カ月後の改善度を調べた当科のデータがあります。
それによると、耳鳴りの苦痛がほぼ消失した人が39%、著明に改善した人が32%、やや改善した人が22%で、総計すると93%の人がよくなっているという結果が出ています。

しかし、ここで話したような、難聴や耳鳴りに関する研究の進展が広く知られているかといえば、残念ながら、そうではありません。
いまだに、「耳鳴りは年のせい」と考えている耳鼻咽喉科の医師も少なくないのです。そういう現状があるからこそ、私の外来には多くの耳鳴りの患者さんがやってくるのでしょう。

また、補聴器の普及についても、欧米各国と比べると、日本は大きく立ち遅れています。なぜ、そんなにも日本が立ち遅れてしまっているのか、そこには、日本という国の特殊な事情があるのです。
私の著書『難聴・耳鳴りの9割はよくなる』(脳を鍛えて聞こえをよくする「補聴器リハビリ」)では、その詳細と問題点について、できるだけわかりやすくお話しています。

【今、話題の本】

難聴・耳鳴りの9割はよくなる (脳を鍛えて聞こえをよくする「補聴器リハビリ」)
新田 清一 (著), 小川 郁 (監修)
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最後に、今回私がお話した「補聴器療法」を行う、医療機関リストをご紹介しましょう。脳が生まれ変わる補聴器リハビリで、スッキリ聞こえる耳を取り戻しましょう!

【関連記事】<全国リスト>難聴・耳鳴りに効果のある補聴器療法を行う医療機関一覧

この原稿は書籍『難聴・耳鳴りの9割はよくなる』(脳を鍛えて聞こえをよくする「補聴器リハビリ」)から一部を抜粋・加筆して掲載しています。

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