【下肢静脈瘤とは】良性の病気だが放置すると悪化することも。症状や予防・改善方法を血管外科医が解説

美容・ヘルスケア

下肢静脈瘤は、命に関わることはありませんが、外見的な症状以外にも、足のだるさや疲れ、むくみ、足がつるなどの自覚症状が現れます。しかし軽症であれば、運動や食事、生活習慣の改善などのセルフケアで予防・改善することはじゅうぶんに可能です。【解説】阿保義久(北青山Dクリニック院長)

解説者のプロフィール

阿保義久(あぼ・よしひさ)
北青山Dクリニック院長。青森県生まれ。1993年、東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院第一外科、虎ノ門病院麻酔科、三楽病院外科、東京大学医学部腫瘍外科・血管外科を経て、2000年に北青山Dクリニックを設立。2004年、医療法人社団DAP設立。2010年、東京大学医学部腫瘍外科・血管外科非常勤講師。国内で初めて下肢静脈瘤の日帰り根治手術を発案したパイオニアとして、総治療実績は3万例を超える。加えて、予防医療、遺伝子診療、再生医療など新分野の医療の開拓にも取り組んでいる。著書に『下肢静脈瘤が消えていく食事』(マキノ出版)『尊厳あるがん治療』(医学舎)などがある。
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30歳以上の男女の6割以上に発生

私は血管外科医で、1990年代から下肢静脈瘤の日帰り治療を開始し、これまで3万3000例を超える手術や治療を手がけてきました。

下肢静脈瘤は、足の表面近くを走る静脈がボコボコとコブのように盛り上がったり、青や赤の血管がクモの巣や網目状に浮き上がったりする病気です。

良性の病気で、命に関わることはありませんが、基本的には自然に回復することはなく、放置しておくと悪化していきます。そのため、「見た目が気持ち悪い」「人前で足を出せない」といった悩みを抱えている患者さんが非常に多くいます。

下肢静脈瘤の問題は、見た目だけではありません。外見的な症状以外にも、足のだるさや疲れ、むくみ、就寝中や歩行時に足がつる(こむら返り)、足のかゆみや痛みなど、さまざまな自覚症状が現れます。

外見の問題も、症状が進行すると皮膚炎を起こして皮膚が硬くなったり、シミや色素沈着がアザのように残ったり、潰瘍ができて痛みが出たりと、深刻化することもあります。

下肢静脈瘤は、女性(特に出産経験者)、高齢者、近親者に下肢静脈瘤になった人がいる人、肥満・運動不足の人、長時間の立ち仕事をしている人などに、多く見られます。

下肢静脈瘤は決して珍しい病気ではありません。ある調査によると、軽度まで含めると、30歳以上では62%、70歳以上では75%もの人に下肢静脈瘤が認められたとの報告があります。

30歳以上の男女の6割以上に発生しているということは、下肢静脈瘤は、誰にとっても他人事ではない病気なのです。

《下肢静脈瘤の種類》

血管の老化現象で静脈の機能が低下

下肢静脈瘤が起こるしくみを簡単に説明しましょう。

それは、静脈の逆流防止弁が正常に働かなくなるために起こります。

私たちの体は、常に心臓を中心に血液を循環させることによって、全身に酸素と栄養を届けています。動脈を通じて心臓から足へ送り出された血液は、毛細血管を経て静脈に入り、ふくらはぎなど下肢の筋肉の力で血管内の血液が押し上げられて、心臓へと戻されます。

このとき、重力によって下がりやすくなっている血液を逆流しないように防いでいるのが、静脈の内部にある逆流防止弁です(下の図参照)。

《静脈瘤が発生するしくみ》

【正常な弁】弁がぴったり閉じ、押し上げられた血液の逆流を防ぐ
【壊れた弁】弁に隙間ができて血液が逆流し、血管が伸びたり膨れたりして静脈瘤が形成される

ところが、加齢などの影響で静脈がもろくなり、静脈の血流が悪化すると、弁に過度な負担がかかり壊れてしまいます。

すると、逆流した血液が静脈内にたまり、血管が伸びて広がります。これが下肢静脈瘤です。

長年、多くの患者さんを診てきた経験から言えるのは、下肢静脈瘤は静脈瘤が生じているそこの血管にだけ問題があるのではなく、静脈全体の機能が低下していることの現れであり、一種の「静脈の老化現象」だということです。

手術をした患者さんの血管を見ると、静脈瘤のある人の血管は非常に弱く、伸び切っているケースが多いのです。

患者さんたちの下肢静脈の状態や血流を検査すると、目に見える静脈瘤がない人でも、体の奥深くを走っている深部静脈の血流が悪化していたり、逆流防止弁がうまく働かず血液のうっ滞(とどこおり)が起きていたりと、静脈機能の低下が認められる人が、2人に1人はいます。こうした人たちは、「隠れ下肢静脈瘤」といえます。

《下肢静脈瘤の症状チェックリスト》

□足の静脈が浮き出て見えたり、血管がコブのように膨らんだりしている

□足のだるさや疲れを慢性的に感じる

□夕方になると足がむくんだり、痛くなったりする

□寝ているときに、よく足がつる

□ひざから下の皮膚が慢性的にかゆい

□足の湿疹がなかなか治らない

□足にシミや色素沈着が目立つ

□足に潰瘍ができる

セルフケアを実践して改善する例も多い

重症化した下肢静脈瘤を根本的に治すには、医療機関で治療を受ける必要があります。

しかし、軽症であれば、運動や食事、生活習慣の改善などのセルフケアで予防・改善することはじゅうぶんに可能です。実践していただいた患者さんには、改善されたかたがたくさんいます。

また、隠れ下肢静脈瘤の人の中には、目立つ静脈瘤はないものの、足のだるさやむくみなどの症状に悩まされている人が少なくありません。

こうした場合、治療ターゲットとなる静脈瘤がないため医療機関での治療はできませんが、セルフケアで症状が軽快するケースは多いのです。

静脈の老化を防ぎ、静脈瘤を予防・改善するには、運動や食事、生活習慣の改善などのセルフケアが欠かせません。次項で、私がお勧めの運動と食事についてご紹介します。

足の静脈血を押し上げる「筋肉ポンプ」

下肢静脈瘤を予防・改善するには、下肢の静脈にかかる負担を減らすことと、足から心臓に向かって血液を戻す静脈の機能をサポートすることが重要です。

その手段として有効なのが、簡単な体操です

足の静脈にたまった血液を上へ向かって押し戻すしくみには、下肢の「筋肉ポンプ」と、「呼吸ポンプ」の2つがあります。

筋肉ポンプとは、ふくらはぎなど下肢の筋肉の、収縮運動による働きのことです。

歩いたり、足首を動かしたり、ひざを屈伸したりすると、ふくらはぎや太ももの筋肉が収縮し、足の奥深くを走っている深部静脈が周囲の筋肉に押しつぶされて、中の血液が心臓に向かって押し上げられます。

筋肉がゆるむと、深部静脈は広がり、皮膚の表面近くを走っている表在静脈から血液を吸い込みます。

これを繰り返して、静脈は重力に逆らって血液を心臓へ戻しているのです。「足は第2の心臓」といわれますが、これは下肢の筋肉ポンプの働きを言い表した言葉です。

静脈血を心臓に戻す「呼吸ポンプ」

こうした筋肉ポンプに加え、足から上がってきた静脈血を心臓まで戻すときに重要な働きをしているのが、呼吸ポンプです。

息を大きく吸い込むと、胸郭(肺や心臓などを包む胸部の骨格)が広がり、胸部の内圧が下がるとともに、横隔膜が下がります。

すると、横隔膜の下にある腹腔(腹部の内臓が収まっている空間)は、横隔膜によって上から押されて、おなかに圧力がかかります。

このとき、背骨にそって走っている大動脈が圧迫されて、おなかの静脈の血液が、内圧の低い胸部のほうへ引き上げられます。

そして、息を吐くと横隔膜が上がり、肺が少し縮みます。すると、心臓のほうへ引き上げられた血液が、肺に向かって流れ込んでいきます。

呼吸ポンプの働きによって、静脈血は腹部から心臓へ、心臓から肺へとスムーズに還流していくのです。

筋肉ポンプと呼吸ポンプを鍛える体操

そこで私が考案したのが、運動が苦手な人でも手軽に効率よくできて、呼吸ポンプと筋肉ポンプを鍛える「下肢静脈瘤を撃退する体操」(やり方は下記参照)です。

「その場歩き」は、ふくらはぎや太ももなど下肢の筋肉を大きく動かすことによって、筋肉ポンプを活性化する効果があります。もう一つの、「ひじ上げ呼吸」は、呼吸ポンプを活性化します。

これらを朝晩の1日2回、合計3~5分を目安に実行してみてください。下肢の血液のうっ滞(とどこおり)が解消し、足のむくみや重だるさなどの改善が期待できます。

毎日、運動を続けることで筋肉ポンプと呼吸ポンプの働きが強化されるので、全身の血流がよくなり、静脈にかかる負担も軽減され、静脈の老化や慢性静脈機能不全症の防止にも役立ちます。

また、長時間座りっぱなしで過ごすときは、合間に「ひざゆすり」を行うといいでしょう。

簡単な動作ですが、下肢の血液循環を促して、うっ滞した静脈血を上半身へ押し戻すのを助ける効果があり、30秒ほど行うだけでも座り仕事のあとの足のむくみや疲れが、かなり軽減します。

下肢静脈瘤を撃退する体操は、毎日継続することで、下肢静脈瘤の改善はもちろん、全身の血流をよくするので、全身のアンチエイジングにもつながります。

下肢静脈瘤を撃退する体操
「その場歩き」のやり方

立った状態で、ひざが足のつけ根と平行になるくらいまで高く上げ、両手を前後に大きく振る
※3分ほど、その場歩きをする

下肢静脈瘤を撃退する体操
「ひじ上げ呼吸」のやり方

(1)両足を肩幅に開いて立つ。息を吸いながら、両ひじを肩と水平の高さまで上げる
(2)息を吸いきったら、両腕を前方に勢いよく突き出しながら、「フーッ」と力強く息を吐く
※(1)~(2)を10回繰り返す

下肢静脈瘤を撃退する体操
「ひざゆすり」のやり方

イスに腰かけたまま、小刻みにひざを上下に動かす
両ひざを同時にゆすっても、片ひざずつ行ってもOK
※座りっぱなしの姿勢が長時間続くときに、1時間に1回くらいの頻度で、ひざゆすりを30秒くらい行うとよい

血液・血管を守り便秘を防ぐ食事

下肢静脈瘤の予防・改善には、毎日の食事で、「静脈の血管を強化する」「血液をサラサラにする」「便秘を防ぐ」食材を積極的にとることも重要です。

(1)静脈の血管を強化する
静脈が弱って伸びやすくなると、下肢に血液が滞留して、静脈の逆流防止弁に負担がかかります。そこで、下肢静脈瘤の予防には、静脈の血管を強化することが重要です。

ソバに多いルチンや、柑橘類の皮や袋、筋などに多く含まれるヘスペリジンには、血管を強化する作用があります。

緑黄色野菜に多いビタミンA、C、Eや、植物の色素成分であるアントシアニンなどのポリフェノール類には、血管を傷つける活性酸素を抑える抗酸化作用があります。

乳製品などに多いビタミンB群も、血管壁を強化する働きがあります。

(2)血液をサラサラにする
血液がドロドロになると、下肢の静脈の血流が悪くなるため、血液を心臓に戻すための血管に負荷がかかります。

青魚に多く含まれるEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)は、血液サラサラ成分の代表格。血液をドロドロにする血中のコレステロールを減らすとともに、赤血球の柔軟性を高めて、細い血管まで血液を流れやすくします。

ニンニクネギなどに含まれる硫化アリルや、タマネギに多いケルセチンにも、血液をサラサラにする働きがあります。

(3)便秘を防ぐ
便秘をしないことは、下肢静脈瘤の予防に重要です。

便秘になると、便で膨らんだ腸が周辺の臓器を圧迫し、腹圧が上がります。すると、腹腔の後ろを通る下大動脈が圧迫されて静脈圧が上がり、静脈の逆流防止弁にも過度な負担がかかるのです。

便秘予防のために積極的にとりたい栄養素が、食物繊維です。海藻キノコ根菜類豆類穀類果物などに多く含まれています。

現代人の食生活は食物繊維が不足しがちなので、1日20gを目標に、食物繊維をたっぷりとることを心がけましょう。

基本の献立は「一汁一菜」

《下肢静脈瘤を予防・改善する食材の例》

【静脈の血管を強化する】
[ルチン]ソバ
[ビタミンA・C・E]ブロッコリー、クレソン、ホウレンソウ、ナス、アボカド、キウイ
[ヘスペリジン(ビタミンP)]ミカン、レモン
[アントシアニン]紫タマネギ、ブルーベリー、イチゴ
[オメガ3系の不飽和脂肪酸]アマニ油、エゴマ油、オリーブ油
[ビタミンB群]肉、魚、卵、乳製品、穀類

【血液をサラサラにする】
[ケルセチン、硫化アリル]タマネギ、ネギ、ニンニク
[EPA・DHA]イワシ、サバ、サンマ、アジ、サケ

【便秘を防ぐ】
[食物繊維]ワカメ、コンブ、シイタケ、マイタケ、ゴボウ、イモ、バナナ、リンゴ

上の表は、身近にあって、下肢静脈瘤に効果的な食材・栄養素の代表的なものです。食材は偏ることなく、まんべんなくとるようにしましょう。

食事の献立は「一汁三菜」(ご飯を主食に、主菜1品と副菜1~2品、汁物1品を合わせた献立)を基本にするのがお勧めです。

一汁三菜にすれば、穀類、野菜・豆類、海藻類、肉・魚介・卵・乳製品など多種多様な食材をバランスよく組み込むことができます。

食べてはいけない食品は特にありませんが、塩分は控えめにし、食べ過ぎないこと。

肥満も、下肢静脈瘤を悪化させる要因の一つです。野菜は食物繊維が多く、ビタミンやポリフェノール類など下肢静脈瘤の改善に有効な栄養素も豊富なので、おなかいっぱい食べてもOKです。

食用油は、血液をサラサラにして血管の炎症を防ぐオメガ3系の良質な油(オリーブ油、アマニ油、エゴマ油など)をとり入れましょう。

小まめな水分補給で血液をサラサラに

水分補給もたいせつです。

脱水(水分不足)は、血液をドロドロにして静脈の逆流防止弁に負荷をかけます。特に夏場や、空調の効いた室内など湿度の低い場所では脱水を起こしやすいので、1時間にコップ半分程度の水を飲んで、こまめに水分を補給しましょう。

なお、コーヒーやお茶に含まれるカフェインには利尿作用があり、飲み過ぎると利尿作用が強く出て、水分補給につながらないこともあります。

アルコールは利尿作用に加え、アルコール分解の際に水分が必要になるので、飲酒は脱水を招きます。お酒を飲むときは必ず、同時に水分もしっかりとってください。

《食べるときのルール》
・バランスのよい食事をする
⇒肥満の予防・解消
・野菜はおなかいっぱい食べてOK
・良質の油をとり入れる
・こまめな水分摂取を心がける

この記事は『ゆほびか』2019年7月号に掲載されています。

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