私は寝る前にコップ1杯の水を飲むことを強く勧めています。朝の脳卒中や心筋梗塞を予防に効果的です。この就眠前の水は「宝水」と呼ばれています。昔の人は、寝る前に飲む水が健康の維持、さらには命を守ることを経験的に知っていたのでこのような名前になったのでしょう。【解説】藤田紘一郎(東京医科歯科大学名誉教授・医学博士)
解説者のプロフィール
藤田紘一郎(ふじた・こういちろう)
東京医科歯科大学名誉教授・医学博士。1939年、中国・旧満州ハルピン生まれ。東京医科歯科大学医学部を卒業後、長崎大学医学部教授、東京医科歯科大学医学部教授などを歴任。専門は寄生虫学、熱帯医学、感染免疫学。『55歳のハゲた私が76歳でフサフサになった理由』(青萠堂)、『ウンココロ』(実業之日本社)、『笑うカイチュウ』(講談社) など、著書多数。
寝る前の1杯の水が命を守る
「寝る前には水を控えています。夜中にトイレに行きたくなって目を覚ますのが嫌なので」という人は少なくありません。
特に夏は、これは危険なこと。なぜなら、起床後の脳卒中(脳の血管が出血したり詰まったりして起こる病気)や心筋梗塞(心臓の血管が詰まって起こる病気)の危険性が高まるからです。
実際、多くのデータで、脳卒中や心筋梗塞が朝の時間帯に起こりやすいことが示されています(下のグラフ参照)。
私は、寝る前にコップ1杯の水を飲むことを強く勧めています。それだけで、朝の脳卒中や心筋梗塞を予防できるのです。
この就眠前の水は、「宝水」と呼ばれています。
昔の人は、寝る前に飲む水が健康の維持、さらには命を守ることを経験的に知っていたので、このような名前になったのでしょう。実にうまい表現をしたものです。
就寝中の発汗で血液はドロドロ!
では、なぜ宝水は朝の脳卒中や心筋梗塞を防ぐのでしょうか。
実は、人は眠っている間に、コップ1杯分ぐらいの汗をかきます。暑い季節になれば、なおさら汗は出ます。ほかにも、吐く息にも水分は含まれています。睡眠中は、体内の水分が大量に失われるのです。
起きていれば、のどが渇くというサインが現れ、水分の補給ができます。しかし、睡眠中は水分補給ができません。どうしても、体は脱水傾向になってしまいます。
すると、血液はしだいにドロドロになっていきます。血液のおよそ6割の水分がどんどんなくなるので、粘度が高まるのです。
その結果、朝の時間帯は血管が詰まりやすくなります。脳の血管が詰まれば脳卒中、心臓ならば心筋梗塞を起こすのです。
これを防ぐためには、夜寝る前に水分をじゅうぶんに補給しておくことがたいせつです。
あらかじめ体内の水分量をしっかりと満たしておけば、睡眠中に血液がドロドロになるのを抑えられます(下のグラフ参照)。宝水は、睡眠中に血液がドロドロになるのを防止するのに役立つのです。
脳の興奮も静まり熟睡できる
宝水の効果は、それだけではありません。寝つきをよくする効果も期待できます。
緊張したりストレスがたまったりしているときは、脳に血液が集まって興奮状態になります。このようなときは、ぬるめの水をゆっくりと飲みましょう。血液が胃腸に移動するので、脳の興奮が静まります。
注意するのは、必ず「水」で水分補給すること。
コーヒーや緑茶、またはビールなどのアルコール類は、利尿作用(尿の出をよくする働き)があり、尿で水分が排出されてしまいます。これでは逆効果です。コーヒーや緑茶にはカフェインも含まれているので、寝つきが悪くなってしまいます。宝水として飲むのは、水であることがポイントです。
飲む水の種類は、水道水でもかまいませんが、私はミネラルウォーターをお勧めします。
特にアルカリ性の軟水は、睡眠中でも新陳代謝を促し、体内環境を整えてくれます(「アルカリ性」「軟水」の詳しい説明は別記事参照)。
別記事:「健康になる水の選び方」→
飲む量はコップ1杯でじゅうぶんです。あまりに大量に飲み過ぎると、それこそ夜中に尿意で目覚めてしまいます。さらに、朝起きたときにもコップ1杯の水を飲むと、なおよいでしょう。目覚めの1杯の水は、ドロドロになった血液をサラサラにしてくれます。
一般的に、脳卒中などは冬に多いと思われがちですが、体内の水分がより多く失われる夏にも多いのです。宝水を習慣化して、睡眠中でも体内を水で潤わせておきましょう。