【声がかすれる・出にくい病気】声帯ポリープ・声帯結節を手術なしで改善する治し方とは

美容・ヘルスケア

声帯ポリープや声帯結節は「声の衛生教育」で手術をせずに治る可能性もあります。声の衛生教育とは、医師や言語療法士などの専門家が患者さんと話し合い、個々の生活スタイルに応じて、なるべく声帯に負担をかけない方法を提案するものです。【解説】角田晃一(国立病院機構東京医療センター臨床研究センター部長)

解説者のプロフィール

角田晃一(つのだ・こういち)

国立病院機構東京医療センター臨床研究センター部長。1985年、東海大学医学部卒業。医学博士。東京大学医学部助手、イェール大学客員研究員、日立製作所総合病院耳鼻咽喉科医長、日産厚生会玉川病院部長などを経て現職。専門は耳鼻咽喉科一般、音声外科、音声言語医学、機器開発研究。耳鼻科的アプローチによる内科外科疾患の治療法を解明し続けている。著書に『声をキレイにすると超健康になる』などがある。
▼国立病院機構東京医療センター臨床研究センター(感覚器センター)
▼研究論文と専門分野(日本の研究.com)

声の出し過ぎ、使い過ぎが声帯ポリープや結節を招く

歌手や教師など声をよく出す職業の人に多い「声帯ポリープ」や「声帯結節(たこ)」では声がかすれる、出にくくなるといった症状が起こります。

従来は症状があれば早めに切除手術が行われるケースが多くありました。ですが最近、声の出し方などの生活指導「声の衛生」によって、手術せずに治ることが多いとの研究成果が発表されて、関心が高まっています。

また、加齢などによって声帯がやせて細くなる「声帯萎縮」でも同様の症状が起こりますが、簡単な体操によって改善が期待できるそうです。

国立病院機構東京医療センターの角田晃一先生に、声帯のトラブルを防ぐための方法について伺いました。

[取材・文]医療ジャーナリスト 山本太郎

──声帯ポリープや声帯結節はどういった病気なのでしょうか?

角田 まずは、声が出るしくみについてご説明しましょう。声は「声帯」が振動することで出ます。

声帯はのどの奥にある、左右一対になった薄い膜状の組織です。声帯はカーテンのように左右に開閉し、息を吸うときには開いて空気を通します。声帯が閉じているとき、肺から吐く息がごくわずかなすき間を通過すると、声帯が細かく振動します。この振動で生じた音がのどや口、鼻の中で共鳴することで、声になります。

声帯の振動回数が多いほど高い声、少ないほど低い声になります。平均的な声帯の振動数は、成人男性で1秒間に150回くらい、成人女性で200~300回くらいといわれています。

声帯ポリープは、無理に声を出したり、激しくセキをしたりした際に、声帯のぶつかり合う箇所の血管が破れて「血まめ」ができ、それがポリープ(粘膜にできた盛り上がった病変)になると考えられています。

普段あまり大声を出さない人が、カラオケやスポーツの応援で急に大声を出したり、カゼをひいて激しくセキ込んだりして起こることが多いです。歌手のような声を出し慣れている人も、ライブなどで無理に大声を出して起こることもあります。

声帯結節は、声帯が振動する部分の真ん中に「タコ」のような硬い部分ができたものです。例えば、勉強や仕事で鉛筆やペンをよく使っている人は、手の指にタコができますね。あれと同じようなものです。

ですから、声帯結節は歌手や教師といった、普段から声をよく使う仕事の人に多く見られます。

ポリープや結節ができると、声帯がうまく振動できなくなり、声がかすれたり、のどに違和感を覚えたりする症状が現れます。

──「声のかすれ」を自覚したら、どうしたらいいですか?

角田 声帯ポリープや結節は命に関わるような病気ではありません。しかし、喉頭がんが原因で声のかすれが起こることもあります。

また、同じ声のかすれでも、高齢者の場合は、加齢で声帯やそれを動かす周辺の筋肉が衰える「声帯萎縮」が原因のことが多いものです。

声帯は閉じることによって、肺につながる気道(空気の通り道)のフタとなり、食べ物や液体が入り込むのを防ぐ役割も持っています。しかし、声帯が萎縮すると、肺への異物の流入が起こりやすくなり、誤嚥性肺炎につながる危険性が生じます。誤嚥性肺炎は高齢者の死亡原因となることの多い、怖い病気です。

ですから、まずは医療機関(耳鼻咽喉科)を受診していただき、原因を正しく診断することが大事です。

「簡単だけれど、怖い手術」でもある

声帯ポリープや声帯結節は初期ならば、のどをなるべく使わないように休めつつ、炎症を鎮める薬やステロイドホルモンによる治療で治ることもあります。これらの治療で改善が見られない場合には、切除手術が広く行われています。

実際のところ、声帯ポリープや結節は仕事で「声」を使う人に多く、患者さんも早く復帰したいと希望することが多いものです。そこで、手術が第一選択になるのが実情でした。

ただ、手術そのものは簡単ですが、医師の技量によって術後に声質が変わってしまうことがあります。私は「簡単だけれど、怖い手術」とお話ししています。

ある有名な男性歌手が「他の医療機関で手術を受けたところ、声が変わってしまった」と電話してきたことがあります。誰もが知っている、艶やかな声の持ち主だったのですが、電話ではガラガラの老人のような声でした。私も最初、その歌手本人だと気づかなかったほどの変わりようでした。

ポリープや結節があると、声帯がうまく閉じなくて声がかすれるため、医師はなるべくしっかり切除しようとします。でも、取り過ぎてもダメです。取り過ぎると、左右の声帯にすき間ができ、振動しにくくなるからです。

仮に取り過ぎても、時間がたてば治ることもあります。とはいえ、それには数年かかります。早く治したくて手術を受けたのに、そうなっては本末転倒でしょう。

ですから、私は手術の検討は慎重に行うべきだと考えています。

実は、声帯ポリープや声帯結節は、「声の衛生教育」で手術をせずに治る可能性もあります。声の衛生教育とは、医師や言語療法士などの専門家が患者さんと話し合い、個々の生活スタイルに応じて、なるべく声帯に負担をかけない方法を提案するものです。

こうした保存療法の効果は今まで明らかになっていませんでしたが、私たち国立病院機構の感覚器共同研究チームが世界で初めて、科学的根拠の高い試験によって効果を検証し、声帯ポリープ、声帯結節の治療に有効であることが分かりました。

2ヵ月間の生活指導で6割強の人が症状改善

──どんな試験が行われたのですか?

角田 全国の国立病院機構の11病院で、2015年2月~2017年3月に声帯ポリープなどで手術する予定だった患者200人を対象に、声の衛生教育の効果を調べました。

まず、患者さんを次の2グループに分けました。

(1)「声の衛生教育」の標準化された啓発DVDなどを用いて、医師らが患者と話し合い、個別に発声習慣、生活環境の改善法を考え、提案するグループ
(2)注意点を記したパンフレットを渡して注意を一方的に促すだけのグループ

そして、それぞれの治療効果を手術前の待機期間である2ヵ月間で比較しました。

その結果、(1)声の衛生教育を個別に提案したグループでは、約61%の人でポリープなどがなくなり、声のかすれも改善しました。一方、(2)注意を促しただけのグループでは、改善した人は約26%にとどまりました。

このことから、「声の衛生教育」によって、声帯ポリープや結節が改善することが明らかになりました。

このように生活習慣の改善に正しく取り組んで、2ヵ月間様子を見ることで、手術せずに済むケースが増えると期待されます。

そもそも、ポリープや結節ができる背景には、無理な声の使い方や生活習慣の問題があります。手術で治しても生活習慣が改められなければ、いずれ再発する可能性があります。再発防止の面でも、声の衛生教育は重要だといえるでしょう。

また、手術は全身麻酔で医療費が約50万円(本人負担3割で約15万円)かかりますが、声の衛生教育で治療が終われば、医療費は約3万円(本人負担3割で約1万円)で済みます。医療費削減にもつながるわけです。

「声の衛生」のための10か条とは

──具体的には、日常生活でどんなことに注意すればよいのですか?

角田 声の衛生教育で提案している注意事項の10か条をぜひ参考にしてください。

《「声の衛生」のための注意事項(10か条)》

叫んだり、どなったり、大声で笑うことを避ける。

裏声で話したり、無理な高さでの発声や無理な歌唱、ささやき声を避ける。

けむたいところや、ほこりっぽいところ、タバコを吸っている人のそばに行くのは、避ける。

せきばらい、空ぜきは必要最小限にとどめる。

うるさい場所や、機械のそば、大きな音で音楽を聴いているとき、ドライヤーを使っているとき、バス、電車、地下鉄、飛行機、自動車の中など、うるさい乗り物の中での会話を避ける。

話したくても、思うように声の出にくいときは、無理に話さない。

話をするとき、首、肩、胸、のどなどに力を入れない。

冷たい空気や乾燥した空気の場所を避ける。部屋の中はある程度の加湿が必要。

屋外や広い部屋で遠くの人に対して話すのを避ける。

カゼを引かないように注意し、カゼのときはできるだけ声を休める。

まず「声の出し方、のどの使い方」(1、2、4、6、7に該当)に注意しましょう。無理な発声やせきによって、のどに負担をかけないこと。大声に限らず、裏声やささやき声のような普段と違う発声も避けましょう。

「無理な発声をしなければならない場面や環境を避ける」(5、6、9に該当)ことも重要です。例えば、どうしても広い部屋や場所で話をしなければならない場合、マイクや拡声器を使うとか、部屋の隅ではなく、中央に行って話すようにするといった工夫も必要でしょう。

「のどにダメージを及ぼす要因を避ける」(3、8、10に該当)のも重要です。

空気の乾燥しやすい時期は、加湿器を使うことをお勧めします。声帯は1秒間に何百回も振動し、こすれ合います。そのさいに潤滑油の役割をする周囲からの分泌液が重要です。空気が乾燥していると、分泌液が減り、声帯が傷つきやすくなってしまいます。

タバコの煙やほこりっぽい環境も、のどの乾燥を招きますから、タバコなど煙のそばには近づかない、部屋の掃除を怠らないなどの工夫も必要です。

誤嚥性肺炎につながる声帯萎縮は体操で予防

──加齢に伴う声帯の萎縮を防ぐにはどうしたらいいでしょうか?

角田 私たちは、声帯萎縮の予防体操をお勧めしています(やり方は下記を参照)。

この体操は、体に力を入れた瞬間に声を出す(1から10の数字を言う)ことで、声帯を鍛えます。そのさい、短く区切って発声するのがポイントです。「いーち、にぃー」のように伸ばして発声すると、声帯に負担がかかってしまいます。

《声帯萎縮を改善する体操》

◎いずれかの方法を朝晩の2回、行う

【イスに座って行う体操】

イスに深く腰かけ、両端をしっかり持つ。体の力を抜く
体に力を入れ、グッと胸を張る。その瞬間に「1」と声に出して数える。

30秒くらいかけて「1~10」まで数える。数字は短く、はっきりと発声する

【両手を合わせる体操】

胸の前で両手を軽く合わせる。体の力を抜く。
両手をギュッと押し合う。その瞬間に「1」と声に出して数える。

30秒くらいかけて「1~10」まで数える。数字は短く、はっきりと発声する

また、声帯が萎縮するのは、日常生活で人と話す機会が減るなどして、声を出さなくなることも要因です。体を動かさずにいれば筋力が衰えるのと同様に、声帯も声を出さないと衰えます。「健康長寿は会話から」です。

そこで、人とのおしゃべりを楽しむこと、カラオケや詩吟などの趣味を持つことも予防につながります。ただしカラオケでは、伴奏の音量が大き過ぎると、無理に声を張り上げて、やはり声帯に負担をかけてしまう恐れがあります。ほどよい音量で楽しむようにしてください。

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