HP(ヒューレッド・パッカード)は、数年前OMEN(オーメン)というゲームPC(パソコン)ブランドを立ち上げました。ゲーム分野は、PCでも特に能力が必要な分野で、その応答性、操作性、処理能力に加え、世界観を持つ必要があります。この世界観を出すため、オーメンでは、PCはもちろんのこと、キーボード、マウスはもちろんのこと、ヘッドホン、椅子、果てはアパレルまで用意されています。ところで、オーメンのヘッドホン(ヘッドセット)には、オーディオ用にはちょっとないモノが付いているのです。
ノイズキャンセラー・コードレスのオーディオ用ヘッドホン
ヘッドホンと言えば、オーディオですが、ここ5年でオーディオ・ヘッドホンも様代わりしました。主流がコードレスになったのです。
音を電波で飛ばすのは、応答性が悪くなり、途切れる可能性があり、数年前までが嫌われたモノですが、技術の進化で途切れずに聴ける様になると、一瞬で様変わり。
今の主流はケーブルレスです。
加えて、ノイズキャンセラー。
ノイズキャンセラーは、回路が複雑になるため、音が悪くなると長らく言われたモノですが、こちらもジワジワ違和感を少なくしていき、今やシンプル回路並みの音を聴かせてくれる様になりました。
いずれの場合も、外で使うことを想定。
ヘッドホンの自由度を高め、楽に使えることと、元来要求されている高音質を天秤にかけ、進化させて来た結果です。
特に今は、音楽を楽しむスタイルが完全に変わり、昔は「CD」システムが必要でしたが、今や不要。「ネット」さえあれば楽しめるご時世となりました。
このため、昔、CDプレーヤー、アンプ、スピーカーととお金を掛けていたのに対し、スマートホン、ヘッドホン、パワースピーカーですから、少々高いヘッドホンでも買ってもらえます。
今、ヘッドホンは最新の技術がしのぎを削るオーディオ最前線になったわけです。
ゲームヘッドホンに求められる長時間快適性
ところが、ゲーム用のなると少々話が変わってきます。
まず、ゲームは応答性が命ですから、差を生じる「無線」は使いません。
アニメ「エヴァンゲリオン」の様に、とことんケーブル接続です。音質もかなり違います。
ゲーム音は、予め録音された音を再生するオーディオとは異なり、その場で作ってしまいます。
再生音ではなく、原音再生と言う感じの上、爆発音など、刺激音が多いです。
それを明確に再生するのがヘッドホンのお仕事となります。
そして音楽といちばん違うのは、装着時間。
音楽は長くても90分位(長い曲の代表作は、ワーグナーの「ニーベルングの指環」で、14時間位ですが、オペラですから、幕間毎休憩を挟むことができます)です。
しかしゲームの場合、数時間は当たり前という感じです。
私はゲームマニアではないですが、飛行機の大音量が苦手で、フライト中はヘッドホンをしてノイズキャンセラーを付けっぱなしにします。
ヨーロッパだと、だいたい10時間前後。こんなにしていると、騒音負担は減るのですが、新しい問題が出てきます、蒸れるのです。耳の辺りがジトジト感じられ、かなり不快です。
飛行機だと外してしまえばことが足りるのですが、ゲームは音が聞こえなければ、何をしているのかわからなくなります。
ここが問題となるわけです。
小型冷蔵庫に使われるペルチェ素子を使用
では、蒸れを防ぐためには、どうするか。
一つは通気性をあげるのです。
イヤーカップのクッションを大きくしたり、素材には通気性に優れたモノを使ったりします。
ただ、考えて見てください。
ヘッドホンは、周りの音を遮断することが一つの目的ですが、周りに音をまき散らさないことも目的にしています。このため、補助的な効果としては、あるのですが、決定打とは言えません。
そこで、HPが選択したのは、「冷やす」ということです。
暑いから蒸れるわけですから、冷やせば蒸れから脱却できるという考えです。
このため採用されたのが「ペルチェ素子」です。
小型冷蔵庫、ワインクーラーなどに使われる、自ら冷える半導体素子です。
これで解決です。
実際、HP Mindframe PRIME ヘッドセットを身につけさせて頂きましたが、軽い装着感で、フィット感も上々。これで蒸れないとくれば、鬼に金棒という様相です。
ゲーブルあり、マイクあり、冷却機能ありと、オーディオ用ヘッドホンと、根本的に違う進化を遂げていることがわかります。
機能としては、加えて、バーチャルサラウンド7.1ch搭載で、環境ノイズキャンセリング機能付きです。
環境ノイズキャンセリングの機器がよければ、旅行用に買おうかと真面目に考えているくらいです。
最後に
同じヘッドホンでも、使い方によってこんなにも違うこと、ご理解頂けたと思います。
逆に言うと、自分が本当に困っていることは、多くの場合、他の人も困っています。
同じジャンルで、別用途を探すと、そこに解があるかも知れませんね。
◆多賀一晃(生活家電.com主宰)
企画とユーザーをつなぐ商品企画コンサルティング、ポップ-アップ・プランニング・オフィス代表。また米・食味鑑定士の資格を所有。オーディオ・ビデオ関連の開発経験があり、理論的だけでなく、官能評価も得意。趣味は、東京歴史散歩とラーメンの食べ歩き。