交通機関が発達している都会ならともかく、認知症でもない、かつ交通の便がない集落に住んでいる高齢者にとって、自動車は生活の術であり、生命線といっても過言ではありません。そこで、私なりに考えているいくつかの方法を提案したいと思います。【解説】会田肇(ジャーナリスト)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

会田肇(あいだ・はじめ)

1956年茨城県生まれ。大学卒業後、自動車系出版社の勤務を経てフリージャーナリストとして独立。カーAVやカーナビなど、カーエレクトロニクスの分野を中心にレポート活動を展開しつつ、カメラ系の評論も行う。日本自動車ジャーナリスト協会会員。

認知症でもない高齢者に「免許返納」は行き過ぎ

高齢者による交通事故が毎日のように報道されるようになりました。これだけくり返し報道されると、「高齢者は免許返納すべき」との意見が台頭します。

しかし、交通機関が発達している都会ならともかく、認知症でもない、かつ交通の便がない集落に住んでいる高齢者にとって、自動車は生活の術であり、生命線といっても過言ではありません。

そういった意見の一方で、高齢者対策として、自動運転に期待する声も日増しに強くなっています。

自動運転が実現しているとの報道を見かけますが、それはあくまで限られたエリアで、一定条件下で走行した事例を紹介したにすぎません。現状で、一般道を含む完全な自動運転は、どこも実現できていないのです。

となれば、自力で事故を起こさないための対策を講じるしかありません。そこで、私なりに考えているいくつかの方法を提案したいと思います。

一つ目は「日頃の運転行動をチェックする」こと。

二つ目は「実現している運転アシスト機能を活用する」こと。

三つ目は「緊急事態が発生した際に、同乗者が対応できる手段を学習しておく」ことです。

左足はフットレストに置くことを習慣化する

一つ目の「運転行動をチェックする」は、今の運転に誤りがなかったかを意識することの習慣化を指しています。

一時停止で左右確認を十分行ったか、速度は適切だったかなど、常に顧みるのです。

さらに、運転は単独で走行しているのではなく、周囲の自動車や歩行者などとコミュニケーションを図りながら走っていることを自覚するべきなのです。

よく「高齢者はこうした感覚が衰えているから無理」との意見がありますが、それは今までやってこなかったことを急にやらせようとするからで、若いうちからこうした行動を意識していれば、高齢になってもそれは継続されます。

その意味では、むしろこれから高齢期を迎えようとする世代の方にこそ、意識して心掛けてほしいと思っています。

運転するときの姿勢をチェックすることも重要です。

エンジンをかける前にシートベルトを装着し、ミラー角度も含めた運転ポジションを適正位置に合わせるのはもちろんですが、ここで注目したいのが左足の位置です。

運転席の足元には「フットレスト」と呼ばれる場所が用意されていますが、ここに左足を置くことを習慣化させるのです。

高齢者は身体的な硬さが原因で、バックのときや料金所などでの支払いで体勢がずれ、それによって踏み間違いを起こすといわれます。

それが、左足をフットレストに置くことで、日常運転している車ならおのずと右足の位置は決まってきます。

絶対に踏み間違いを起こさないとは言い切れませんが、一定の効果はあるはずです。

さらに左足をフットレストに置くことで体を支えることになって、カーブを曲がるときや急ブレーキをかけるときなどに効果を発揮します。

なお、料金所などで支払いをする際は、必ずシフトを「P」位置にすることは大前提です。

また、普及が著しい「ドライブレコーダー」を活用するのも一つの方法です。ここで記録した映像を見れば、家族など、第三者が運転状況をチェックすることができるからです。

もし、この映像で危険な運転が頻発するようなら、認知症の判断が下されたときと同様、これは免許返納を促すことを考慮すべき時期なのでしょう。

踏み間違い事故を未然に防ぐ道具を使う

次に、「実現している運転アシスト機能を活用する」です。これは高齢期を迎えようとする世代にはぜひ知ってほしい情報です。

現在販売されている大半の新型車には、運転者のミスをカバーするさまざまな安全装備が搭載されています。これらを活用することで、踏み間違いをはじめとする事故を未然に防ぐことができるのです。

例えば、前方に歩行者や車両、さらには施設などの障害物がある場合には、超音波センサーやカメラによってそれを検知し、アクセルの踏み込みがあっても、車止めがある場合はそれを超えられないレベルにエンジンの出力を抑制します。

また、走行中はカメラやミリ波レーダーによって先行車を検知し、先行車が停止すればそれに応じて自車も自動停止。さらには、車線を踏み越えた場合は警告をし、車によってはそれをはみ出さないようにハンドルにテンションをかけることもできるようになりました。

ただ、これらは搭載時期によって性能差があり、最新型であっても、全てのシーンで対応できるというものではないということを知っておきましょう。

画像: 超音波センサーが障害物を認識し、急アクセルを防止する装備をつける

超音波センサーが障害物を認識し、急アクセルを防止する装備をつける

新型車を購入できない場合でも、後付けして対応できるシステムも販売されています

オートバックスが販売している「ペダルの見張り番」がその一つで、発進時にアクセルを強く踏み込むとエンジンの出力を抑えるというものです。

軽自動車からミニバンまで200車種以上に対応しており、新たに登場した「Ⅱ」では、急坂などを上る際などでアクセルを強く踏む必要があるときのみ、一時的に機能をキャンセルすることもできます。

画像: 価格は取り付け費込みで4万円(税別)とリーズナブル

価格は取り付け費込みで4万円(税別)とリーズナブル

自動車メーカーからも後付けできるシステムが発売されています。

トヨタが販売しているのは「踏み間違い加速抑制システム」というもので、超音波センサーで障害物を検知して、エンジンの出力を抑えます。急激な踏み込みの場合でも5km/h以下程度の速度にまで抑えることができます。

ダイハツからは、超音波センサーを使って障害物を検知する「つくつく防止」として販売されています。こちらはトヨタ車、ダイハツ車の一部車種にのみ対応となっています。

奥の手は同乗者がシフトレバーを操作

最後の、「緊急事態が発生した際に、同乗者が対応できる手段を学習しておく」というのは、同乗者がいることが前提ですが、運転者が意識障害に陥り、アクセルを踏みっ放しになった場合でも有効です。

方法は簡単、シフトレバーを「D」から「N」に切り換えるだけです。

一部の車種を除いて切り換えるときのロック機構はありませんから、同乗者でも簡単に操作できます。

これだけでアクセルが全開であっても、エンジンのパワーが車輪に伝わらなくなります。

しかし、加速してしまった速度を止めることはできません。そこで役立つのがパーキングブレーキです。手で引くタイプならそれを上に引き上げることで後輪にブレーキがかかります。

Nに切り換えた後にブレーキを引けば確実に速度を下げることはできます。ただし、足踏み式パーキングブレーキの場合は対応は難しいでしょう。

最近はパーキングブレーキを電動式としただけでなく、これを長く引き続けることで自動的にエンジンの出力を抑え、急制動することができる車種も登場しています。万一の状況を踏まえ、これらに対応した車を選んでおくのも重要なのかもしれません。

最後に一言。

手足が不自由になったからと自動車の活用を考える人がいますが、これは誤った判断です

手足が不自由ならハンドルやブレーキ操作も思うようにできず、とっさのときに危険を回避できないばかりか、踏んでいるのがブレーキなのかアクセルなのかも認識できなくなる可能性が高いからです。

現実にこうしたことを起因とする事故は数多く発生しています。こうした状況下なら、認知症の診断が下されたときと同様、免許返納を考えるべきタイミングなのだと思います。

※この記事は『安心』2019年9月号に掲載されています。

This article is a sponsored article by
''.