【変形性股関節症の保存療法】ジグリングのやり方 貧乏ゆすりが痛みの軽減や軟骨再生の可能性も期待できる

美容・ヘルスケア

私たちは現在、全国のいくつかの施設と共同で、ジグリングの研究とその正しい評価を始めたところです。ジグリングは変形性股関節症の治療の一環にすぎません。治療は専門医と相談しながら、適切な方法を選択するのが前提です。その選択肢の一つとして、ジグリングも位置づけられます。【解説】大川孝浩(久留米大学医療センター病院長/整形外科・関節外科センター教授)

解説者のプロフィール

大川孝浩(おおかわ・たかひろ)
久留米大学医療センター病院長/整形外科・関節外科センター教授。1990年、久留米大学大学院医学研究科修了。済生会二日市市病院整形外科部長、米国ベーラー医科大学への研究留学を経て、2019年より現職。日本整形外科学会専門医・スポーツ認定医・リウマチ医。主な著書に「変形性股関節症は自分の骨で治そう」(共著、メディカ出版)などがある。

ジグリングは注目すべき保存療法

まず、私たちが行っているジグリング(貧乏ゆすり様運動)の考え方から説明することにします。

ジグリングは、久留米大学名誉教授の故・井上明生先生が提唱された変形性股関節症の保存療法です。一般的には、「貧乏ゆすり健康法」という名前ですでに知られています。

その動作が、いわゆる貧乏ゆすりと同じであることから、そのような俗称で呼ばれているわけですが、医療の分野ではジグリングと言っています。

「まさか貧乏ゆすりで、変形性股関節症に効果があるのだろうか」と思われるかもしれません。

実は、ジグリングによってすでに、変形性股関節症の痛みの軽減、軟骨の再生、関節裂隙(股関節間のすき間)の拡大などの例が報告されてきました。その意味では、注目すべき保存療法と言えるでしょう。

しかし、ジグリングをこれから医療の分野で広く応用していただくためには、より具体的な方法とエビデンス(医学的な根拠)を示していかなければなりません。効果を宣伝するだけでは、誤解を生むだけです。

私たちは現在、全国のいくつかの施設と共同で、ジグリングの研究とその正しい評価を始めたところです。

また、患者さんの中には、ジグリングに過大な期待を抱かれる方もいるかもしれません。これは、私たちが一番避けたい事態です。あくまでもジグリングは変形性股関節症の治療の一環にすぎません

別記事で説明してきたように、治療は症状により、また患者さんの年齢により、専門医と相談しながら、適切な方法を選択するのが前提です。

その中に選択肢の一つとして、ジグリングも位置づけられます。このことを断っておきます。

関節軟骨が再生した例もある

井上先生がジグリングを最初に始められたのは、2002年の8月のことでした。

どうしても「人工関節の手術は受けたくない」という患者さんの希望で、関節温存手術の一つであるキアリ手術(上記別記事参照)を行いましたが、術後に関節のすき間がどうしても開きませんでした。

そこで、思いついたのがジグリングだったのです。

ヒントになったのは、カナダの整形外科医・ソルター博士が考案した、CPMという医療機器でした。これは「呼吸をすることで24時間休むことなく働き続ける肋椎関節と胸肋関節(胸郭を構成する関節)には生涯、関節症が起こらない」ことに着目して開発されたものです。

ソルター博士は、CPMを使って、ウサギのひざの関節軟骨が再生することを証明しています。ただし、CPMは高額で、大きな装置です。これを患者さんが日常的に用いるのは不可能です。

もっと手軽にできる運動はないかということで、井上先生は脚を小刻みに動かす、貧乏ゆすり様の運動であるジグリングを思いつかれました。これなら、誰でも続けることができます。

井上先生も先の患者さんも最初は半信半疑だったとは思いますが、ジグリングを続けたところ、なかなか開かなかった関節のすき間が少しずつ開いていき、1年もたつと見事に関節軟骨が再生しました。

ジグリングの改善例
71歳女性。内科的合併症が重篤であったため、人工関節の手術ができず、ジグリングを指導。2年後には、関節にすき間を確認できた(軟骨の再生)。

当時、井上先生の下で数多くの手術を手がけていた私もこれには驚かされました。しかも、その後、ジグリングで変形性股関節症が改善する例が多数出てきたのです。

2013年には患者さんがもっとらくにジグリングができるように、電動のいわば「貧乏ゆすりマシン」ともいうべき「自動ジグリング器」が開発され、治療に導入されるようになりました。

残念ながら、井上先生は2019年の1月に他界されました。すでに記したように、私たちはその志を継いで、多くの専門家の協力を得て、ジグリングの医学的な評価を行っているところです。

試してみる価値は十分にある

久留米大学医療センター整形外科・関節外科センターの久米慎一郎講師は、前期から末期の53例の患者さん53名にジグリングを3ヵ月以上、継続してもらったところ、もともと疼痛のない患者さんを除外した40例で計算すると、疼痛に大きな改善が認められたとのことです。

ジグリングは、今のところ、副作用は報告されていません。その意味では、まず試してみていい方法であると考えられます。

関節を動かして軟骨に栄養を補給する

関節軟骨には、血管やリンパ管がなく、栄養は関節内にある関節液によって補給されています。この関節液の栄養補給は運動によって促されると考えられています。そして、関節が動きにくくなり、その運動が減ると関節軟骨の栄養が不足して、関節症が進むと考えられます。

このことから、ジグリング(貧乏ゆすり様運動)のような小刻みに関節を動かす運動は、関節軟骨に栄養を補給して関節軟骨の状態をよくするのではないか、と推定できます。

ジグリングをする上でのポイントの一つは、股関節のリラックスです。いすなどに座った状態でジグリングを行えば、股関節に負荷がかからず、リラックスした状態で行うことができます。

やり方は、まさに貧乏ゆすりの動作そのもの。行うのは症状のあるほうの足です。足の裏が床につく高さのいすに腰かけ、つま先は床から離さないようにかかとを小刻みに上下させることをくり返します。

スピードは無理のない、疲れない範囲で行います。痛みが出たら、すぐにやめてください

もう一つのポイントは、座り方です。横から見て、ひざが90度、もしくはそれ以内で行えばらくにできます。脚を前に伸ばしすぎると、無理がかかります。逆に、脚を手前に引き過ぎても効果はありません。

時間の目安は、1日合計で2時間以上、毎日続けることが大事です。するのは細切れでも構いません。患者さんには「クセになるくらいまで続けてください」とお伝えしています。

ジグリングそのものは簡単な動作ですが、電動式の「自動ジグリング器」を使えばもっとらくにできます。

まずは、専門医でしっかりとした診断を受けてから、ジグリングをするようにしてください。

ジグリング(貧乏ゆすり様運動)のやり方

【POINT】
症状のある側のみに行うのが基本だが、予防のために両方の足に行ってもよい。
行う時間の目安は、1日に合計で2時間以上。一度に行うよりは、こまめに分けて行うほうが効果的。
毎日続けることが重要。「貧乏ゆすりがクセになる」くらいまで取り組むのが、効果を出すカギ。
股関節に痛みが出たり、痛みが悪化した場合は、すぐに中止すること
人工股関節のある人は行わない
まずは専門医でしっかりした診断を受けてから実践すること。

足の裏がきちんと床につく高さのいすに座る。ひざを90度に曲げてリラックスした姿勢をとる。
足のつま先を床につけたまま、かかとを小刻みに上下させる。かかとは2cm程度上がっていればOK。
リラックスして行う。股関節周辺に力が入ると、股関節に負担がかかる
股関節が動くイメージで、小刻みに動かす
つま先は床につけたまま

【足の位置】
ひざの角度は90度。あるいはそれ以下になるようにする。

足を前に出し過ぎると、股関節に力が入るのでダメ。

【ジグリングマシン】
マシンを使う場合も、ひざの角度は90度にする。
力まずにリラックスした状態で、心地よく習慣的に行うのがコツ。
使用する時間の目安は、1日に合計で2時間以上。

この記事は『安心』2019年10月号に掲載されています。

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