【認知症の薬】治療薬は効果ある?意欲がわく薬と穏やかになる薬の2種類に大別(6/6)

美容・ヘルスケア

認知症の薬は大きく分けて2種類あります。コリンエステラーゼ阻害薬(飲み薬のアリセプト、レミニール、貼り薬のイクセロン、リバスタッチ)と、NMDA受容体拮抗薬(飲み薬のメマリー)です。2種類の薬は効くメカニズムがまったく異なります。コリンエステラーゼ阻害薬は意欲がわく薬なので、気力が低下した人に処方すると覇気が出てきます。怒りっぽい人にはNMDA受容体拮抗薬を使うと穏やかになります。この2種類の薬は、量を調節しながら併用することで、高い効果が得られる人もいます。認知症専門医は、症状を診て、その人に合った薬を処方しています。

解説者のプロフィール

榎本睦郎(えのもと・むつお)

1967年、神奈川県相模原市生まれ。榎本内科クリニック院長。東京医科大学高齢診療科客員講師。1992年、東京医科大学卒業後、同大大学院に進み、老年病科(現・高齢診療科)入局。1995年より、東京都老人総合研究所(現・東京都健康長寿医療センター)神経病理部門で認知症・神経疾患を研究。1998年、医学博士号取得。七沢リハビリテーション病院脳血管センターなどを経て、2009年、東京都調布市に榎本内科クリニックを開業。日本内科学会総合内科専門医、日本認知症学会認知症専門医、日本老年医学会専門医。現在、一ヶ月の来院者約1600名のうち、認知症患者は7割ほどにのぼり、高齢者を中心とする地域医療に励んでいる。著書に『認知症の親へのイラッとする気持ちがスーッと消える本』(永岡書店)、『笑って付き合う認知症』(新潮社)がある。
▼榎本内科クリニック(公式サイト)
▼研究論文と専門分野(CiNii)

認知症の薬は効かない?

本人の生活能力を維持するのが薬を使う目的

私のクリニックでの話ですが、80代の患者さんの奥さんが「薬が効かないから、主人の薬をやめます」と言いました。
その患者さんはMMSE(※)の数値を維持できていたので、「薬は効いていますよ。続けましょう」と説得しましたが、奥さんの決意は変わりませんでした。ところが、それから3か月ほどして来院されたご主人は目に力がなく、応答も鈍く、認知症がかなり進んだことがわかりました。

(※)ミニメンタルステート検査。認知症スクリーニング検査の一つ。

薬を再開すると表情が引き締まり、奥さんも「減っていた言葉数が増えて、手助けが必要だった着替えも自分でするようになりました。実は薬が効いていたのですね」と驚かれていました。

「認知症の薬を飲めば記憶力が回復する」というのは大きな誤解です。
認知症の薬の目的は、物忘れ(出来事記憶)を治すことではなく、生活する能力(手続き記憶)の低下を抑えることです。
MMSEという世界中で広く使われている判定テストでは、30点満点で23点以下が認知症とみなされます。何も手を打たないでいると、この数値は1年で2~3点下がり続けます。

ところが、薬を飲むと、それが1点ぐらいに抑えられ、なかには数値が上がる人もいます。「薬によって進行がゆるやかになっている」ことが、薬が効いている証拠なのです。

症状によって、効く薬は違うの?

意欲のない人と怒りっぽい人では薬が異なる

認知症の薬は大きく分けて2種類あります。
コリンエステラーゼ阻害薬(飲み薬のアリセプト、レミニール、貼り薬のイクセロン、リバスタッチ)と、NMDA受容体拮抗薬(飲み薬のメマリー)です。

脳が萎縮すると、脳の働きを活発にするアセチルコリンという神経伝達物質が減少します。それを分解するコリンエステラーゼという酵素の発生を阻害して、アセチルコリンを守ってくれるのがコリンエステラーゼ阻害薬。一方、NMDA受容体拮抗薬は、認知症になると、グルタミン酸による過剰なカルシウムが流入して脳の神経細胞に悪影響を与えるのですが、それをブロックする働きがあります。

2種類の薬は、効くメカニズムがまったく異なります。
コリンエステラーゼ阻害薬は意欲がわく薬なので、気力が低下した人に処方すると覇気が出てきます。怒りっぽい人にはNMDA受容体拮抗薬を使うと穏やかになります。

この2種類の薬は、量を調節しながら併用することで、高い効果が得られる人もいます。認知症専門医は、症状を診て、その人に合った薬を処方しています。
薬を飲んでいるのに症状がさらにひどくなった場合は、処方された薬との相性が悪いせいかもしれないので、専門医に相談しましょう。

薬の効果はどう判断すればいいの?

定期検査を受け、専門家に客観的に判断してもらおう

前述しましたが、薬が効いているかどうかを判断するポイントは、「今日は何月何日?」とか、「さっき私が言ったことを覚えている?」といった物忘れ(出来事記憶)が改善したかどうかではありません。

認知症治療の目標は、生活能力(手続き記憶)が維持されているかどうかです。つまり料理、食事、入浴、歯磨き、トイレ、衣服の着脱、趣味、男性なら髭剃りなどが、以前とくらべて大きく低下せずにできていれば、薬が効いているという証拠です。

しかし、薬の効果は必ず客観的な物差しで判断しましょう。
長谷川式簡易知能評価スケールやMMSEなどで、半年~1年ごとに専門医に検査してもらい、自然経過とくらべてどの程度差があるのかを調べれば、薬の効果の有無がわかります。

家族や施設の職員などが主観で判断すると、見る人によって、「症状が進んだ」と言う人もいれば、「進んでない」と言う人もいて、正確な判断ができません。
また、薬を飲み始めると意欲や注意力が高まり、家族や周囲の人にあれこれ質問が増えて、逆に物忘れが激しくなったように感じることがあります。しかしこれは、薬の作用で意欲が出てきたためであり、薬が効いている証しです。

認知症の親へのイラッとする気持ちがスーッと消える本
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※この記事は書籍『認知症の親へのイラッとする気持ちがスーッと消える本』(永岡書店)から一部を抜粋・加筆して掲載しています。

◆イラスト/森下えみこ

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