うつぶせ姿勢は、理学療法士の間で「腹臥位療法」と呼ばれています。すでに長年の実績がある確立された療法なのです。姿勢のリセットのための体操はたくさんありますが、うつぶせは誰にでも実践できて、簡便であることが継続しやすいという利点があります。【解説】乾亮介(理学療法士、ピラティス・インストラクター)
解説者のプロフィール
乾亮介(いぬい・りょうすけ)
1978年、大阪府生まれ。理学療法士、ピラティス・インストラクター。2001年、関西医療学園専門学校理学療法学科卒業。12年、畿央大学大学院健康科学研究科にて修士号(健康科学)を取得。国内外合わせて学会発表回数は30回以上。17年に予防医学サロン&ピラティススタジオ「リハティスプラス」を開き、地域の予防事業や全国各地で研修会やセミナーの講師を務める。著書に『うつぶせ1分で健康になる』(ダイヤモンド社)かある。リハティスプラス:http://namimail.net/
リハビリ現場などを経てたどりついたのがうつぶせ
私は理学療法士として総合病院のリハビリテーション科に16年間勤務し、2000名以上のリハビリを担当しました。現在は、リハビリ整体やピラティス(体幹やインナーマッスルを鍛えるエクササイズ)などを行う予防医学サロンを開いています。
このような経験のなかで、私は体幹(胴体やその部分の筋肉)の筋力を強化させることによる姿勢の改善で、多くの不調がよくなることに気づきました。
そのためにも、まずは誰でも簡単にできる「うつぶせ」から取り組んでいただくことがたいせつだと提案しています。
「1分うつぶせ」は名前の通り、1日1分、うつぶせになって床に寝そべるだけ。とても簡単ですが、効果は抜群です。
1分うつぶせを実践したかたからは、「腰や背中の痛みが取れた」「曲がっていた背中や腰が伸びるようになった」「食事でむせることが減った」など、さまざまな喜びの声をいただいています。
1分うつぶせの効果は、高齢者に限った話ではありません。年代を問わず、下の一覧にまとめた症状をはじめ、多くの改善効果が見られます。
うつぶせの効果 | |
体の変化 | 改善する症状 |
全身がゆるみ、余分な筋肉の緊張がリセット | 体の痛み(腰、背中など) こり(首、肩など) ネコ背 疲労感 |
背中側の肋骨が広がり、深い呼吸をしやすくなる | 不眠 不安・イライラ 便秘 痰が出やすくなる |
血液など体液の循環がよくなる | 冷え症 むくみ カゼをひきにくくなる |
呼吸に関する筋肉の動きがよくなり基礎代謝アップ | 肥満・ポッコリおなか |
背骨や股関節が伸ばされ、体幹の配置(位置関係)が整う | 体のこわばり 腰や背中が曲がる症状 歩行困難 呼吸困難 |
現代人は悪い姿勢で不調に陥りやすい
体の痛みや不調の多くは、日頃の悪い姿勢や体の使い方が原因です。
現代人は、前かがみでネコ背になりやすいという大きな問題を抱えています。パソコンやスマートフォンの操作、デスクワークによる長時間の座りっぱなしなどがその典型例です。
ネコ背は、頭が背骨よりも前に出ます。重い頭を支えるために首や肩に負荷がかかり、肩こりの原因になるのです。ネコ背になると、背骨の配列も乱れます。すると、体を支える背筋や腹筋など体幹の筋肉がアンバランスになり、腰痛を招くのです。
また、背骨の中を通る自律神経の働きも悪くなり、不眠などの原因になります。さらに、胸が縮こまり、呼吸が浅くなることに加えて、内臓も圧迫されて血流も悪くなり、各臓器の働きが悪くなります。
背骨はもともと前に曲がりやすい構造ですので、何もしないと、ネコ背は悪化する一方です。ですので、悪い姿勢のまま固まらないよう、最低でも1日に1回は全身を伸ばして姿勢を正す必要があります。
このような「姿勢のリセットポーズ」として適しているのがうつぶせ姿勢です。
うつぶせ姿勢は、理学療法士の間で「腹臥位療法」と呼ばれています。すでに長年の実績がある確立された療法なのです。
呼吸リハビリの現場では、人工呼吸管理や、排痰(痰を出すこと)、誤嚥予防の体位として多用されています。また、脳梗塞(脳の血管が詰まって起こる病気)や整形外科関連のリハビリでも、よく用いられる体位の一つです。
世の中には姿勢のリセットのための体操がたくさんありますが、やはり継続がたいせつです。その点、うつぶせは誰にでも実践できて、簡便であることが継続しやすいという利点があります。
しかし、うつぶせを習慣としている人はあまり多くありません。(下の円グラフ参照)。
《著者が行ったアンケート調査の一部》
(健常成人84名、36~59歳の男女から調査)
普段からうつぶせになる習慣はありますか?
うつぶせをしなくなってどれくらい経ちますか?
たかがうつぶせですが、ふだんからしない人にとっては苦痛になる場合があります。なので、安全面を考慮しつつ、継続して取り組んで欲しいという観点から、まずはうつぶせを「1分」からしてくださいと提案しています。
実際にしてみると、気持ちよくて1分以上になる人がほとんどのようです。
深い呼吸と姿勢のリセットが多くの不調を改善する
うつぶせが不調の改善効果をもつ理由は、大きく分けて2つあります。
❶呼吸が深くなる
うつぶせになると、背中の緊張がゆるみ、背中側の肋骨が動きやすくなります。
特に肺の後ろ側は容量が大きく、たくさんの空気が入る場所になりますので、ゆったりと深い呼吸ができるようになります。
呼吸が深くなると、副交感神経が優位になり深いリラックス感が得られます。寝る前にうつぶせに取り組んだかたの多くが、「寝つきがよくなった」と答えるのもそのためです。
❷姿勢がリセットされる
うつぶせになると、重力を利用して体をまっすぐに伸ばすことができます。
あお向けとは違い、背中や背中側の肋骨に体重がかからず、胸椎(胸の後ろ側の背骨部分)とその周辺の筋肉の緊張が緩むことから、背中側の肋骨が広がりやすくなるだけでなく、股関節がまっすぐに伸ばされるため、ネコ背予防や姿勢改善に有効です。
姿勢がよくなれば、骨格や筋肉、内臓が正しい位置に収まるので、筋肉や関節に余計な負担をかけず、体のこりや痛みが出にくくなります。
また、うつぶせになって起き上がるという一連の動作は、腹筋や背筋をかなり使います。正しい姿勢を維持するために必要な筋力を鍛える筋トレにもなるのです。
***
1分うつぶせは、若者から高齢者まであらゆる人の健康維持・増進に役立ちます。さらに、誰でも簡単にでき、日々の習慣として身につきやすいので、最強の健康法であると確信しています。
ぜひ今日から、寝る前や起きたときに1日1分、うつぶせになってみましょう。
就寝前と起床時に行うのがお勧め!体幹を整える「1分うつぶせ」のやり方
まずは1分間のうつぶせからスタート!慣れたら1分以上行いましょう(30分程度がお勧め)
【注意】
●痛みや苦しみを感じた場合はすぐに中止する
●体調がすぐれないときや妊娠中の人は控える
●食後30分以上経ってから行う
●本を読むなど、うつぶせ以外の行為は控える
●長時間行う場合は、顔の向きを何度か変え、無理をしない
【ポイント】
●夜寝る前に行うのがお勧め。1分うつぶせをしたあと、ふだん寝ている姿勢に戻り睡眠に入るといい
●慣れてからは起床時に行うと、さらに効果的
●初めて行うときや、体に痛みがある人などが慣れないうちは、ゆっくりとうつぶせになり30秒間からでもよい