奄美地方の伝統食の独自性はご長寿の腸内細菌叢にきっと反映されているはず。そう考えた私たちは奄美地方の95歳以上の島民と日本の他地域の高齢者および長寿者の腸内細菌叢を比較する調査を実施することにしました。【解説】藤田安彦(徳之島徳洲会病院病院長)

解説者のプロフィール

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藤田安彦(ふじた・やすひこ)

医療法人徳洲会・徳之島徳洲会病院病院長。徳之島の大島郡天城町に生まれる。1985年、島根医科大学卒業。同大学放射線科医長、講師、横須賀共済病院放射線科部長などを経て、2005年に東京西徳洲会病院放射線科部に入職。副院長を務めたのち、10年に喜界徳洲会病院に院長として着任。14年より現職。日本医学放射線学会、日本血管・IVR学会、日本磁気共鳴医学会などに所属。専門は腹部画像診断、画像下治療(血管内治療など)。

奄美長寿者と他地域の腸内細菌叢を比較

腸のバリア機能に有用な細菌が多かった!

私の生まれは、奄美大島の西南に位置する徳之島の天城町です。島を離れた時期もありましたが、2010年に、同じ奄美地方の喜界徳洲会病院に赴任し、14年から、ここ徳之島に戻ってきました。

内地暮らしも経験して、あらためて感じるのは、奄美地方の気候風土の豊かさ、そして食文化の独自性です。

特に食文化は他地域との交流がなかった時代から脈々と受け継がれてきたもので、この地域の突出した長寿人口の多さと、深い関連性があるのではと推察されました。

「島の伝統食の独自性は、ご長寿の腸内細菌叢(腸内に棲んでいる細菌の共生体)に、きっと反映されているはず。」

そう考えた私たちは、奄美地方の95歳以上の島民(以下、奄美長寿者)と日本の他地域の高齢者(70~89歳)および長寿者(90歳以上)の腸内細菌叢を比較する調査を実施することにしました。

徳洲会グループ奄美ブロックの各病院と、全薬工業株式会社の協力を得て、同意いただいた奄美長寿者44名の糞便を採取。腸内細菌叢を解析し、共通する特徴を調べました。

そのうえで、論文として公開されているデータをもとに、他地域の高齢者および長寿者の腸内細菌叢と、比較したのです。

すると、奄美長寿者の腸内細菌叢には、ビフィドバクテリウム属メタノブレビバクター属アッカーマンシア属の細菌が、比較的高い割合で存在することがわかりました。

特筆すべきは、アッカーマンシア属の細菌の多さです。これは腸管の粘液層(ムチン層)に棲息する菌で、腸のバリア機能に重要な役割を果たします。

アッカーマンシア属の割合低下は、肥満や糖尿病などの生活習慣病の発症に関連があると、近年の研究で、指摘されています。奄美地方に長寿者が多いことと、この属菌の占有率の高さは、無関係ではないはずです。

また、奄美長寿者の腸内細菌叢には、多種類の菌が棲んでいる傾向がありました。特に、メタノブレビバクター属の存在は注目に値します。これは欧米人に多いといわれる古細菌で、日本人の腸内には、ほとんど見られません。奄美群島の地域性によるものと考えられます。

これらの研究結果を、2019年6月に行われた日本抗加齢医学会総会や腸内細菌学会で発表したところ、ありがたいことに、高い注目を集めました。

ギネス級のご長寿が続出する奄美地方

画像: ミキについて話す藤田先生

ミキについて話す藤田先生

実際、奄美地方は、ギネス級の長寿者を、続々輩出しています。120歳で亡くなった泉重千代さんや、116歳まで生きた本郷かまとさんは、徳之島のご出身です。また、2018年に117歳で亡くなったばかりの田島ナビさんは、喜界島にお住まいでした。

全国的に見ても、人口当たりの長寿者の割合は、抜きん出ています。先月、厚生労働省により発表された人口10万人当たりの100歳以上の長寿者数は、全国平均が56.34人でした。

ちなみに、鹿児島県平均は100.87人、奄美大島や喜界島を含む大島地区は149.35人で、徳之島に限ると200.98人。なんと、全国平均の約3.6倍もの長寿者がいるというわけです。

伝統食が特徴的な腸内細菌叢を形成

米とサツマイモから作られるミキは、奄美地方の伝統的な発酵飲料です。私も子供のころは祖母が作ったミキを飲んでいたものです。幼なじみや、周りのどの家も似たようなものでしたが、国の減反政策により米農家が減るにつれ、ミキを作る家庭も少なくなりました。

ミキの材料は、古くは米とサツマイモだけでした。今では、砂糖を加えるのが主流です。市販品もありますが、いずれにも砂糖が添加されています。

別記事で作り方を紹介しているミキは、砂糖を使わないとのこと。健康という観点からすると、より望ましいといえるでしょう。

というのも、ここ数十年で島の食生活は急速に現代化が進みつつあり、その影響が、島の働き盛り世代の健康に、如実に現れているからです。

患者さんを診ていても、特に50代から60代くらいの人に、動脈硬化や高血圧、高脂血症、糖尿病といった生活習慣病の発症が増加しています。一方、ミキなどを含む伝統的な食生活を長年実践してきたご高齢者ほど、お元気な印象を受けます。

ミキやみそなどの発酵食品や食物繊維の多い豆類や野菜類、特産の豚肉などを多用した奄美地方の伝統食は、特徴的な腸内細菌叢を形成してきました。

腸と脳には相関関係があり、健やかな腸は、正常な脳機能の維持に役立ちます。奄美長寿者の腸内細菌叢は、健康長寿を実現するモデルといっても、過言ではないでしょう。手始めに、ぜひミキを手作りして、食習慣に取り入れてみてください。

画像: この記事は『壮快』2019年12月号に掲載されています。

この記事は『壮快』2019年12月号に掲載されています。

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