頻尿に悩んでいる患者さんは多いのですが、さらに厄介なのが「隠れ頻尿」です。その症状は、陰部の我慢できないかゆみ、痛み、しびれ、不快感をはじめ、泌尿器から離れた場所の胃痛、神経痛、自律神経失調症など、多岐にわたります。【解説】高橋知宏(高橋クリニック院長)
解説者のプロフィール
高橋知宏(たかはし・ともひろ)
高橋クリニック院長。膀胱の出口に着目した独特の治療を求め、全国から排尿障害に悩む患者が年間約1000人訪れる。著書『本当はこわい排尿障害(集英社新書)』発売中。
膀胱の肥厚は隠れ頻尿を引き起こす
[別記事:頻尿、尿もれの原因「膀胱出口の肥厚」とは→]
頻尿に悩んでいる患者さんは多いのですが、さらに厄介なのが「隠れ頻尿」です。これは文字通り、患者さん本人が自覚していない頻尿のことです。
自覚していないなら、悩みもなく、問題ないと思われるかもしれません。ところが、問題は大ありです。本人が自覚していなくても、頻尿によって、正確には頻尿の原因となっている膀胱出口の肥厚によって、さまざまな症状が起こるからです。
その症状は、陰部の我慢できないかゆみ、痛み、しびれ、不快感をはじめ、泌尿器から離れた場所の胃痛、神経痛、自律神経失調症など、多岐にわたります。
中でも起こりやすいのが陰部のかゆみで、男性なら陰嚢のかゆみ、女性ならデリケートゾーンのかゆみがよくみられます。
ここで、隠れ頻尿があって、陰嚢の激しいかゆみに悩まされていた62歳の男性、Nさんの例をご紹介しましょう。女性の場合は、以下の「陰嚢」を「デリケートゾーン」に置き換えて読んでみてください。
Nさんが最初に感じたのは陰嚢の「ムズムズ感」です。1週間ほどでそれがかゆみに変わりました。かゆみはどんどんひどくなり、石けんで洗ったり、市販のぬり薬をぬったりしても治らず、徐々に激しくなりました。
夜間、無意識にかいて、かき壊してしまい、今度は下着にすれて痛くてたまりません。
恥ずかしさからためらっていた医療機関への受診をしようと決め、皮膚科に行こうとしましたが、その前にインターネットで検索し、当院のブログに目が止まりました。Nさんと同じような陰嚢のかゆみを起こした症例を記載していたからです。
当院にみえたNさんを診察したところ、Nさんは膀胱出口の肥厚がひどく、隠れ頻尿もあることがわかりました。排尿の回数を尋ねると「たまにトイレに多く行く日があるが、普段は5〜6回。多くて8回くらいで、頻尿に悩んではいない」とのことでした。
しかし、これは明らかに頻尿なのです。
たまにあるという多い回数の日が、その患者さんの本当の症状です。ですから、頻尿の自覚がなくても、たまにでも多い日があって、原因不明のかゆみや痛みがあったら、膀胱出口の肥厚を疑う必要があります。
Nさんは、当院での指導と治療で、ようやく激しいかゆみと痛みから解放されました。
陰部を刺されるような痛みにも要注意
このような激しいかゆみのほか、陰嚢がベタベタする異常感覚を訴える男性や、陰部をナイフで刺されるような痛みがある女性、自分の尿や陰部が臭いと感じる「幻臭症」など、 多くの例があります。
隠れ頻尿とは逆に、極端な頻尿の例もあります。1日61回排尿し、夜間に10回行き、毎日3回、ナイフで刺されるような陰部の激痛があった60歳の女性もいました。一方、先ほど触れたように、泌尿器から離れた場所の症状が出る場合もあります。
いずれも、問題の根っこは同じで、膀胱出口が肥厚し、尿が出にくくなるともに、過敏になっていることにあります。それによって、なぜ、こうした多彩な症状が出るのでしょうか。
膀胱の出口は尿意のセンサーにもなっています。
だからこそ、その部分が過敏になると頻尿が起こるのですが、その尿意という情報は、背骨の中を通っている脊髄神経回路から脳に送られます。脊髄神経回路は、体の各部から脳に情報を送るための、いわばメインストリートです。
ところが、あまりにも膀胱出口からの情報が頻繁に送られると、メインストリートだけでは足りなくなり、バイパス道路や回り道など、別の神経回路も使い始めます。それが痛みの回路なら痛みが起こるなど、一見、無関係な症状までが起こることになるのです。
原因不明で何をしても治らなかった胃痛が、膀胱出口の治療で治った例などもあります。脊髄神経回路のあふれ方には個性もあり、どの部位のどんな症状が出るか予想もつきません。
しかし、頻尿や隠れ頻尿があって、原因不明の症状がある場合、1度はこの経路による発症を疑う必要があるでしょう。
その治療は、薬の投与や、重症例ではレーザーメスによる手術となりますが、手軽にできるセルフケアもあります。それは、毎日の排尿時に、ちょっとした心がけをすることです。
膀胱出口の肥厚が起こっていると、当然、膀胱の出口は開きにくくなっています。
そこで、トイレで少しかかとを上げて前かがみの姿勢になり、肛門を開く意識で排尿をすると、膀胱出口が無理なく開きやすくなります。肛門周囲の筋肉と膀胱出口とは、8の字でつながった一連の筋肉で、連動して動くからです。
普段、排便していると排尿したくなるのも、この筋肉のつながりがあるからです。それを利用した排尿法です。
もちろん、実際に排便する必要はありませんが、排便するときやおならをするときのような感覚で、肛門をちょっと開く感じで排尿すればよいのです。ちょっとしたことですが、これを心がけるだけでも、膀胱の負担を軽減し、膀胱出口の肥厚の悪化予防や改善に役立ちます。
ひいては頻尿や隠れ頻尿、それに伴う各部位の症状の緩和にも効果が期待できます。
■かかと上げ排尿のやり方
[別記事:頻尿、尿もれの原因「膀胱出口の肥厚」とは→]