腱鞘炎の改善には、炎症を起こしてかたくなっている腱・腱鞘や周囲の筋肉を緩めること。これによって自然に炎症が治まり痛みも消えていきます。そこでお勧めしたいのが「指ほぐし」です。ポイントは「痛みのあるところを過剰に刺激しない」ことです。【解説】高林孝光(アスリートゴリラ鍼灸接骨院院長)
解説者のプロフィール
高林孝光(たかばやし・たかみつ)
アスリートゴリラ鍼灸接骨院院長。東京柔道整復専門学校、中央医療学園専門学校卒業。鍼灸師。病棟研修時代から肝臓の疲労と痛みとの関連に着目し、全身の若返りを目的としたセルフケアを考案。著書に『病気を治したいなら肝臓をもみなさい』(マキノ出版)など多数。
▼アスリートゴリラ鍼灸接骨院(公式サイト)
パソコンやスマホの頻繁な操作が主な原因
最近、私の治療院に腱鞘炎で来院される患者さんが増えています。ただ、患者さんのなかには腱鞘炎といわれてもピンとこない人も少なくありません。
手首とひじの痛みで来院されたYさん(50代・主婦)も、そんなお一人でした。Yさんの右手首に最初に痛みが走ったのは、ふき掃除の最中のこと。ぞうきんをしぼったときに、突然ズキンときたそうです。
以来、痛みだけでなく、指に力が入りにくく、つかんだ物を落とすことが増えました。その後、右ひじにも強い痛みが出て、たまらず来院されました。
腱鞘炎といわれて、Yさんが首をひねった理由は二つ。
まず、「腱鞘炎は手を酷使する人の職業病で、普通に生活している私がなぜなるのか?」ということでした。
腱鞘炎が起こるしくみ
この疑問にお答えするには、腱鞘炎が起こるしくみから説明する必要があるでしょう。
腱は筋肉と骨をつなぐ結合組織で、筋肉の動きを関節に伝えています。腱鞘の「鞘」は「さや」の意味です。刀が収まる鞘のようなトンネル状の形をしていて、何本もある腱がバラバラにならないように、あるいは腱がスムーズに動くように囲んでいます。
手首を動かすときは、手首の腱鞘の中を腱がスライドしています。通常は円滑に動いている腱も、指を速く動かしたり、動かす回数が多くなったりすれば、こすれ合う回数も増します。
それが過剰になると、こすれ合った部分が炎症を起こし、腱は太くなり、腱鞘は厚くなります。すると、トンネル内が狭くなり、腱と腱鞘はさらに強くこすれ合うようになります。
その結果、炎症が悪化し、ついには、手首を動かすたびに激痛が走るようになるのです。これが腱鞘炎です。
腱鞘炎は指・手首・ひじの3か所に起こる
腱鞘炎は、「指」「手首」「ひじ」の3ヵ所に起こりますが、どの部位もこのしくみは同じです。今回は、手首とひじの腱鞘炎の改善法について順にご紹介します。
Yさんが感じたように、腱鞘炎は以前、特定の職業の人に多く見られました。指や手首をよく使うピアニストや理・美容師、大工、テニスプレーヤーなどです。医療機関でひじの腱鞘炎が「テニスひじ」と呼ばれるのも、そのためです。
しかし昨今は、様相が一変。腱鞘炎は職業・年齢を問わず、誰もがかかりやすい病気になっています。その主な原因は、パソコンやスマホです。
例えば、パソコンのキーボードをたたいたり、マウスを操作したりするときには、手首を支点に行います。この操作を頻繁に行うことで、手首やひじを動かす筋肉の先にある腱や腱鞘を痛め、腱鞘炎を起こしやすくなるのです(下図参照)。
【手首の腱と腱鞘】
手の甲や指をほぐしひじや前腕を緩める
Yさんのもう一つの疑問は、「手首の痛みがなぜひじまでくるの?」ということでした。
Yさんの場合は、手首とひじの両方の筋肉に炎症を起こしていました。下の図のように、ひじから出ている五つの筋肉は手首を経由して、手指まで延びています。
【ひじの腱鞘炎で負担のかかる主な筋肉】
このどの筋肉に負担がかかって腱鞘炎が起こるのかについては、人それぞれの手の使い方によって違ってきます。
また、筋肉の連動性も関係します。どの筋肉もいくつかの筋肉とつながり、連動し合うことで、より大きな力や動きを発揮します。そのため、ある筋肉の負担や緊張が、離れている別の筋肉に影響することが少なくないのです。
さて、腱鞘炎のしくみや特徴がわかれば、改善の道も自ずと見えてきます。要は、炎症を起こしてかたくなっている腱・腱鞘や周囲の筋肉を緩めること。これによって自然に炎症が治まり、痛みも消えていきます。
そこで、ぜひお勧めしたいのが、私が考案した「指ほぐし」です。
改善率はきわめて高く、Yさんは指ほぐしを実践するだけで、腱鞘炎を治すことができました。このような人は、Yさん以外にも多数おられます。
指ほぐしが効果を上げるポイントは、「痛みのあるところを過剰に刺激しない」ことです。
ひじの腱鞘炎の場合、ひじや前腕部分の筋肉に痛みがあっても、その部分を直接もんだり伸ばしたりしてはいけません。かえって炎症が強くなり、悪化する可能性があるからです。
ひじや前腕が痛む場合は、その先につながっている手の甲の中央から第2関節までの筋肉を優しくほぐします。そうすることで、離れたひじや前腕の筋肉まで緩み、痛みが取れてくるのです。いわば、「遠隔マッサージ」です。
「ひじ」「手首」どちらの腱鞘炎なのかを確認する方法
指ほぐしを行う際は、最初にひじと手首のどちらの腱鞘炎なのかを確認します。痛む場所と炎症のある場所とが、異なるケースもあるからです。Yさんのように、ひじと手首の合併型の腱鞘炎もあります。
まず、下のチェック(1)アイヒホッフテストを行ってください。
手首を小指側に曲げて、手首の親指側に強い痛みがあれば、「手首の腱鞘炎」です。その場合は、下項のやり方を参照し、中指と親指をほぐしてください。
■チェック(1)
アイヒホッフテスト
〈手首とひじのどちらの腱鞘炎かチェック〉
❶手の親指を手のひら側に曲げ、親指を隠すように手を握る。
❷ひじを伸ばした状態で手首を小指側に曲げる。
手首の親指側に強い痛みが
【 出る 】手首の腱鞘炎→下記やり方の中指と親指をほぐす
【出ない】ひじの腱鞘炎の可能性あり→下のチェック(2)を行う
手首の親指側に強い痛みが出ない場合は、手首が痛いと感じていても、「ひじの腱鞘炎」の可能性があります。その場合、「ひじの腱鞘炎の有無をチェックするテスト」を行います。このテストでひじや前腕に強い痛みがあれば、「ひじの腱鞘炎」です。
■チェック(2)
トムゼンテスト
〈ひじの腱鞘炎の有無をチェック〉
❶痛むほうの手で握りこぶしをつくり、ひじをまっすぐに伸ばし、反対の手で握りこぶしを押し下げるように力を入れる(あるいはパートナーに押してもらう)。
❷手首だけを使い、押し下げる力に対抗して握りこぶしを押し上げる力を入れる。
ひじや前腕に強い痛みが出る
ひじの腱鞘炎→下のチェック(3)を行う
さらに、どの指と関連しているひじの筋肉かを知るために、「四指伸展テスト」を行います。この結果によって、ほぐす指が異なるので、より正確を期すためにも行いましょう。
■チェック(3)
四指伸展テスト
〈どの指と関連したひじの腱鞘炎かチェック〉
強い痛みが出るのが
人差し指のとき→下記やり方の中指と人差し指をほぐす
中指のとき→下記やり方の中指をほぐす。2回行う
薬指のとき→下記やり方の中指と薬指をほぐす
小指のとき→下記やり方の中指と小指をほぐす
指ほぐしのやり方
関連する指がわかったら、早速「指ほぐし」を始めましょう(下の図参照)。
■もみ方
・反対の手の親指の腹を使ってクルクルと優しく回しもみする。
・5回もんだら少しもむ位置をずらしながら、全部で1分ほど行う。
・もむ部位に痛みを感じない程度の強さで、心地よくもむ。
■もむ場所
・人差し指、中指、薬指
それぞれの指の痛む手の甲側にある骨の上を、手の甲の中央から中指の第2関節まで。
・小指
指の甲側にある骨の上を、手の甲の中央から爪のつけ根まで。
・親指
痛む手の手首の親指側にあるグリグリ(橈骨茎状突起)の指寄りのきわから親指の第1関節まで。
最初に「中指のほぐし」から始めます。中指はどの筋肉にも対応する万能型の指なので、これをやるだけで痛みが治まる人も少なくありません。
ほぐし方は、手の甲側にある中指の骨の上の筋肉を、手の甲の中央から第2関節まで、もう片方の親指の腹を使ってクルクルと優しく回しもみするだけです。
5回もんだらもむ位置を少しずつずらしながら、全部で1分ほど行います。
次に、四指伸展テストで痛みのあった指をほぐします。
人差し指で行ったときに強い痛みが出た場合、中指ほぐしと同じ要領で、手の甲側にある人差し指の骨の上の筋肉を、手の甲の中央から第2関節までもみます。ほかの指の場合も同様です。
この指ほぐしを、1日3~4度を目安に行ってください。手を使う仕事や家事をする前に行うのがお勧めです。
【腱鞘炎の治し方】手首の痛みをテーピングで改善 簡単にできるセルフケア – 特選街web
スマホやパソコンを使いすぎると手首が痛んだ経験はないでしょうか?病院で「腱鞘炎」と診断され、湿布をもらったり、痛み止めの注射をしてもらってもなかなか治らずに苦労した人も少なくないでしょう。しかし正しいセルフケアを行えば、自分で改善することができるのです。腱鞘炎の専門家であるアスリートゴリラ鍼灸接骨院院長の高林孝光先生にお話を伺いました。(文/編集部・石島葵)
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