【麻木久仁子さん】私と母に起こった脳梗塞の兆候 いつもと違う症状や反応は「迷わず病院」が最善策

美容・ヘルスケア

脳梗塞が見つかったのは、2010年12月のことでした。まさか自分が脳梗塞になるなんて、思ってもみませんでした。その「兆候」があったときも、私は何も気づかなかったのです。もし怪しい兆候があったら、どんなに忙しくても、少しめんどうだと思っても、ともかく一度専門医に診てもらうべきです。【体験談】麻木久仁子(タレント)

プロフィール

麻木久仁子(あさぎ・くにこ)

1962年、東京都生まれ、学習院大学法学部在学中に、アルバイト先でスカウトされ芸能界デビュー。その後、数々のバラエティ番組に出演し注目を浴びる。知性派タレントとしてテレビ、ラジオ番組で司会者、コメンテーターとして活躍するほか、「クイズの女王」としての才能をいかんなく発揮。2010年、脳梗塞を発症。さらに2012年には、両胸に発症した初期の乳ガンの手術を受けた経験から、食生活を見直そうと薬膳を学び、国際薬膳師の資格を取得。著書に『一生、元気でいたいから生命力を足すレシピ』(文響社)などがある。

私が感じた「脳梗塞」の兆候

右腕と右足のつけ根から先がある日突然しびれた

脳梗塞が見つかったのは、2010年12月のことでした。

当時私は、48歳。それまで、人間ドックでも病気を指摘されたことは一度もありません。血圧や血糖値など、軒並み基準値以下。入院したのは出産のときくらいで、病気とは無縁の生活を送ってきました。

ですから、まさか自分が脳梗塞になるなんて、思ってもみませんでした。その「兆候」があったときも、私は何も気づかなかったのです。

それは、ある日突然、右腕と右足のつけ根から先にしびれが起こったことから始まりました。長い間正座したあとのような激しいしびれでしたが、ほんの30秒ほどで消えたのです。

その後、しびれは何度か起こりました。すぐ消えるとはいえ、自分の体に何かが起こっていると頭では理解していましたが、しばらくは様子を見ることしかできませんでした。

これは尋常ではない、と病院に行ったのは、最初の発作から3日後でした。医師の先生に症状を話すと、直ちにMRI(磁気共鳴画像)検査を受けることになりました。

すると、先生から「小さいですが、脳梗塞がありますね」と告知されたのです。私はまだ40代だったので、「若年性脳梗塞」という診断でした。

それから1ヵ月ほど、仕事の合間に通院して徹底的な検査を受けました。幸いなことに、ほかに異常は見つかりませんでしたが、私のように突発的に脳梗塞が起こるケースがあると伺いました。

私が感じたしびれは、「一過性脳虚血発作」。これは、あとで起こる梗塞の前触れ発作であることが多いとか。症状は一時的なものなので、「気のせい」などと見逃す例が少なくないそうです。

私も、すぐに病院に行かず数日様子を見るだけでした。いざとなると、医者に行くべきか迷うかたの気持ちがよくわかります。

しかし、もし怪しい兆候があったら、どんなに忙しくても、少しめんどうだと思っても、ともかく一度専門医に診てもらうべきです。

「この程度のことで病院なんか大げさ」と思いがちですが、杞憂に終わったとしてもそれが最善の選択だと、脳梗塞を体験した今ならはっきり断言できます。

 

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母も同じ病気に見舞われた

1回めの発作がいつ起こったのかが最重要

後遺症もなく脳梗塞を克服した私ですが、今度は、母も同じ病気に見舞われました。

1年ほど前のある日、午前10時ごろのことです。荷物が届いたことを知らせるチャイムが鳴りました。いつもなら、1階に住んでいる母が、荷物を受け取ってくれるのですが、その日は、その様子がありません。

そこで、2階にいた私が階下に下りていったところ、母が玄関のドアノブをつかんだままの姿勢で固まっていたんです!慌てて駆け寄ると、母は言葉が出てこない様子で、口をパクパクさせるばかり。顔はヘラヘラ笑っているようにも見えました。

そのとき私は、「もしかして、認知症になったのかしら」と思ったんです。あとから考えれば、そんなはずないのに、気が動転していたんでしょう。

落ち着いてみると、脳梗塞かもしれないと思い至ったのですが、すぐには救急車を呼べませんでした。この程度では迷惑になるかも、と考えてしまったんです。

けっきょく、東京消防庁の救急相談センターに電話(#7119)。事情を話すと、直ちに救急車を派遣するといいます。それくらい急を要する状況だったんです。

救急車が到着して、病院へ救急搬送。めまぐるしく状況が動くなかで、担当の先生が知りたがったのが、「1回めの脳梗塞の発作は、いつ起こったのか」ということでした。

私は、午前10時に荷物の応対に出たときだと思っていましたが、どうやらそうではないらしいのです。

先生によると、母のあごにある青アザの色合いの変化から、「もっと前に発作を起こしていて、そのとき、どこかにあごをぶつけたはずです」というんです。プロってすごいって感心しました!

母はその時点で、少ししゃべれるようになっていたので確認すると、「明け方ベッドから起き上がろうとして転んだ」というのです。つまり、最初の発作はこのときで、本人は寝ぼけて転んだだけと思って、また寝てしまった、と。

担当医の先生が発作の時刻にこだわったのは、最初の発作が起こってからの経過時間によって、薬や治療手段を変える必要が出てくるからでした。経過時間の推定を間違えると、かえって状態を悪化させるリスクがあるのだそうです。

ちなみに、脳卒中が疑われる場合の判断法に、顔が歪んでいないか腕がきちんと上がるか滑舌よく話せるか、これらのうち一つでもおかしいところがあったら、直ちに救急車を呼ぶ必要があるといいます。

 

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私もそれをどこかで聞いていたのかもしれませんが、そのときは全く思い出せませんでした。万が一のとき、明らかにいつもとは違う症状や反応が見られたら、すぐに脳梗塞の可能性を疑ってみるべきだと思います。

おかげさまで、母は無事回復し、10日後にはすっかり元気になりました。1年ほど経った今でも、マヒなどの後遺症もなく元気に暮らしています。

私自身も、脳梗塞が再発することもなく10年が経ちました。だからといって、これから先、脳梗塞やほかの病気にならないとは限りません。いくらがんばっても、病気や老いはやってきます。だからこそ、日ごろから、自分でできることをやっておくことが大事なのでしょう。

幸い私の母は、予後も良好でしたが、なかには脳梗塞での入院がきっかけで弱って寝たきりになったり、認知症になったりするかたも少なくないといいます。母は、以前からよく歩き、健康に気を遣っていました。日ごろの積み重ねで、病気を乗り切れたのかもしれません。

病気をきっかけに、私は、薬膳を学び始めました。薬膳というのは、特別体によい物を食べるわけではないのです。そのときに自分の体に合った物を選んで食べる。ごくあたりまえのことをしている。それが体にいいことにつながるのです。

ふだんの生活も同じだと思います。なるべくストレスをためないようにしてよく眠る。あたりまえのことをあたりまえにする。そういったことが大事なんだな、としみじみ感じるようになりました。

私も母もすっかり元気に!

前触れ発作の放置は3ヵ月以内の発症を招く(横浜新都市脳神経外科病院院長 森本将史)

一過性脳虚血発作(TIA)は、脳梗塞の前触れ発作です。TIAを放置すると、発作後3ヵ月以内に10~20%の確率で脳梗塞を発症するという報告があります。

発作に気づいたら、脳の専門医がいる病院をすぐに受診しましょう。最近では、治療法が進歩していて効果的な治療ができるようになっていますが、時間との闘いであることには変わりません。

救急車が来るまでは、できるだけ頭を動かさず、水平を保ってください。嘔吐しそうな場合、マヒした側を上にして、体を横向きにしましょう。発作の起こった時刻や発作時の様子など、病状をできるだけ正確に医師に伝えてください。

この記事は『壮快』2020年3月号に掲載されています。

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