日ごろストレスと向き合っている現代人にとって、最も手軽にできる健康法の一つが、指圧やマッサージでしょう。しかし、ツボの正しい探し方、押し方が意外と知られていないために、指圧の効果を十分に得られていない人も多いようです。今回は、専門家が行う指圧法のエッセンスをわかりやすくご紹介します。今までのご自身のやり方と比べながら、正しい指圧法を身につけてください。
【解説】佐藤一美(東京都指圧師会会長)
解説者のプロフィール
佐藤一美(さとう・かずよし)
あん摩マッサージ指圧師。東京都指圧師会会長。東京都指圧師会杉並支部長、日本経絡指圧会会長、日本指圧協会副理事長も務める。『本当に効く「ツボ」が正しく押せる本』(マキノ出版)、『痛みをとる・病気にならない 体に「効くツボ」大地図帖』(永岡書店)などの著書がある。
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ツボって何? 指圧はなぜ効く?
ズーンという響きを感じる場所が「ツボ」
指圧の目安になるポイントを「ツボ」といいます。ほとんどのツボは、押すとズーンと響く感じがあり、そこがツボであることがわかります。
私たちの体には、「気」というエネルギーが「経絡」というルートを通って巡っています。そのルート上のところどころに、体の表面から触れられるポイントがあります。そこがツボなのです。ツボを押すと心地よい痛み(圧痛)を感じたり、ツボにしこりが現れたりすることがあります。それは、なんらかの原因で気が乱れ、そのツボに関連する臓器が疲れているという印です。
自律神経と“気”の双方から体を整える
西洋医学の見地から解説すると、ツボを押したり温めたりすることで、その刺激が神経を通って脳に伝わります。すると、その情報が今度は自律神経(意志とは関係なく内臓や血管などの働きを調整している神経)を介して全身に伝わり、健康の維持や体調の改善に役立つと考えられます。
一方、東洋医学では、気の状態で説明します。気の通り道である経絡は主に12本。体内で生じた臓器の不調は、経絡を通じて特定のツボに現れます。指圧や鍼、灸は、反応の出ているツボに刺激を与えることで、気を整えるのです。余分な気を散らしたり、足りない気を補ったり、気の巡りをよくしたりして、臓器の不調を正します。
主要な経絡の流れとその動き
(1)肺経(呼吸器や皮膚の働きを調整)(2)大腸経(大腸、消化器の働きを促進)(3)胃経(胃および全身の不調を回復)(4)脾経(消化・吸収作用を促進)(5)心経(心臓・血管系の働きを調整)(6)小腸経(腕、首、耳の異常を改善)(7)膀胱経(頭部、背中の異常を改善)(8)腎経(腎機能の調整、生命力の強化)(9)心包経(自律神経、心の働きを調整)(10)三焦経(目、耳、顔面の異常を改善)(11)胆経(気力、体力の回復)(12)肝経(肝機能、筋肉、目の働きを調整)
正しいツボの見つけ方
ツボの周辺を探って反応を見る
「正しいツボの位置がわからない」「正しいかどうか自信がない」という人もいるでしょう。それもそのはず。実は、ツボの位置は変わることも多いのです。
また、「ツボは全身に365個」といわれますが、実際のツボは何万とあります。経絡も、主な12本のほかに無数にあります。その中で、代表的なものだけが名づけられ、取り上げられているのです。
ですから、「ツボの周辺をよく探る」ことが大事になります。ツボの周辺で反応が感じられた箇所が見つかったら、そこを指圧します。それが正しいツボの見つけ方なのです。
ツボに現れる反応はさまざま
ツボに現れる反応には次のようなものがあります。
(1)圧痛(押すと感じる痛み)がある。
(2)コリがある(コリコリとしたしこりがある)。
(3)腫れている。
(4)皮膚に張りがなく、くぼみやすい(指が入っていくような感じがする)。
(3)や(4)は、専門家でないとわかりにくいかもしれません。最初は何も感じないと思っても、次項からの説明を参考に、ツボを押してみてください。押しているうちに、圧痛やコリがほぐれてきます。慣れてくれば、感覚がつかめるでしょう。ツボを押すことで、逆に痛みが強くなる場合は、炎症が起こっている可能性があります。指圧は控えてください。
正しいツボの押し方とは
ツボの押し方は3種類ある
ただギュウギュウ押すだけでは、指圧の効果は得られません。ひと口に「ツボを押す」といいますが、正確にいえば、指圧は「圧する・持続する・離す」という動作の組み合わせです。
基本的な3種類の押し方を紹介します。ツボの押し方を、症状によって変えることで、効きめがはっきり感じられるようになるはずです。ご自身でツボ指圧をするときに、意識してみてください。
(1)5・7・5法(緩圧法)
気が不足している場合に、気を集めて補う指圧法です。例えば、冷え性や慢性疲労、不眠症などのツボ指圧に使います。
圧する…ツボに触れたら、5つ数えたところで「ひびき」を感じるように、軽く、ゆっくりと押し込んでいきます。
持続する…「ひびき」を感じたら、7つ数える間、そのままの圧を保ちます。
離す…5つ数えながら、ゆっくりと圧をゆるめていきます。指はツボから離さないまま、次の圧に続けます。
(2)2・5・2法(瀉法)
気が滞っている場合に、余分な気を散らす指圧法です。めまいや神経性胃炎、二日酔いのツボ指圧をするときに、試してみてください。
圧する…2つ数えたときに「ひびき」を感じるように、素早くツボを押します。
持続する…「ひびき」を感じたら、5つ数える間、その圧を持続します。
離す…2つ数える間に、指をさっとツボから離します。
(3)3・7・3法(通常圧法)
気がスムーズに流れるようにしてやる指圧法です。足の疲れ、眼精疲労などのツボ指圧をする際、意識してみましょう。
圧する…ツボに触れたら、3つ数えたときに「ひびき」を感じるように圧をかけていきます。
持続する…「ひびき」を感じたら、7つ数える間、その圧を持続します。
離す…3つ数える間に圧をゆるめ、ツボから指を離さないまま、次の圧に続けます。
コツは「呼吸のタイミング」と「手の形」
ツボ指圧には、呼吸のタイミングも大切です。圧するときには息を吐き、離すときに息を吸いましょう。
また、ツボを押す指の位置が正しくても、ほかの指が宙ぶらりんでは、指圧の効きめが半減します。ほかの指をしっかり固定すれば、ツボを押す指にそれほど力を入れなくても、十分な力が加わります。
例えば、足の甲のツボを手の親指で押すとき、ほかの指で足の裏を支えれば余分な力は不要です。人差し指で頭部のツボを押す場合は、ほかの指で頭をわしづかみにすると力が入りやすくなります。
足裏のゾーンとは?ツボとは違う?
足の裏は全身の縮図
足の裏には、全身の臓器、器官ごとに対応する反射区(ゾーン)が投影されています。体のどこかに異常があると、足の裏の対応するゾーンに、圧痛やしこりとなって現れます。
反応のあるゾーンを刺激すると、ツボの場合と同じように、神経から脳に伝わった刺激が、全身に情報として送られ、ホルモンの分泌をよくしたり、緊張をほぐして血流をよくしたりするのです。
ツボ指圧の効果を高める
私の治療院では、ツボ指圧に足の裏のゾーン刺激を併用しています。実際に治療に取り入れてみると、ツボ指圧の効果が高まることがわかってきました。おそらく、足の裏をマッサージした刺激で全身がほぐれるために、ツボ指圧にもスムーズな反応が現れるのだと考えられます。
足の裏もツボ同様、心地よいと感じる強さで刺激しましょう。手やツボ押し棒などで押しもみしたり、木づちなどで軽くたたいたりすれば十分です。強い痛みを感じるほどグリグリ刺激するのはやめてください。
左足と右足では、ゾーンの位置が多少違います。下の図で確認しながら、手の指やツボ押し棒などでマッサージしてみましょう。
足の裏のゾーンマッサージのやり方
(1)ツボを指圧する前に行います。足の裏全体をもみほぐしてから、気になる部位に対応するゾーンを押しもみしましょう。
(2)左右の足を交互にマッサージするのが基本です。女性は右足、男性は左足を5分間もんだら、次に反対側の足をもみましょう。
(3)左足と右足のゾーンは若干違っています。気になる部位の対応ゾーンが主に片方の足にあるときは、そちら側だけマッサージすればけっこうです(例・41直腸→左足)
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ツボ押しや足裏マッサージを控えたほうがよい場合があります。重病の人、感染症にかかっている人、高熱の出ている人、出血や骨折をしている人、妊娠5ヵ月に満たない女性などです。かえって症状を悪くすることもあるので注意しましょう。
なお、本稿は『本当に効く「ツボ」が正しく押せる本』(マキノ出版)から一部を抜粋・加筆して掲載しています。