腎機能が低下している人の多くに、寝つきが悪い、眠りが浅い、一度目が覚めるとなかなか眠れないといった不眠の症状が見られます。質のよい睡眠がとれないと、腎機能の低下につながるのです。キーワードとなるのが「頭寒足熱」です。【解説】北濱みどり(グリーン健康会代表・漢方家[国際中医師A級])
解説者のプロフィール
北濱みどり(きたはま・みどり)
グリーン健康会代表。漢方家(国際中医師A級)。日本エステティック協会認定エステティシャン、社会福祉士の顔も持つ。30年以上にわたり研究・実践する、漢方の考え方を軸に「バランス健康法」を考案。各地で講演活動を行い、その普及に努めている。著書に『体の不調は腎臓でよくする!』(かんき出版)がある。
中医学では腎臓は”健康の要”
腎臓は、体内の水分をつかさどる臓器です。腎機能が低下すると、水分の巡りが悪くなり、老廃物の排出が滞るなど、主に血液や尿に大きな悪影響を及ぼします。
この腎臓について、漢方の観点から考えてみましょう。漢方では、「気(生命エネルギー)」「血(血液)」「水(水分)」の三つの要素が体内をうまく巡ることによって、健康が維持されています。これら3要素の不足や滞り、偏りが病気や不調を招くと考えます。
また、漢方でいう「気」は、父母から受け取るエネルギーである「先天の精」と、食べ物から得るエネルギーである「後天の精」の二つから作られています。
腎臓と関係の深い精巣と卵巣は「先天の精」の貯蔵庫であり、「後天の精」を全身に運ぶのは血液です。このため、腎臓の機能低下が、気・血・水の巡りすべてを悪くして、万病につながると考えるのです。
さらに、中国の「五行説」という考え方によると、腎臓は、膀胱、生殖器のほか、耳、骨、髪、脳などと密接な関係があります。
そのため、腎臓の機能低下が、これらの部位に現れる症状の原因だとされています。腎臓を元気にすることは、耳や骨、髪、脳などの衰えを防ぐうえでも大切なのです。
漢方のもとになっている中国の医学には、2000年以上前から「健康の要は腎にあり」という有名な格言があり、まさにそのとおりといえるでしょう。
目と後頭部が頭を冷やすポイント
それでは、腎臓を元気にするには、なにに気をつければよいのでしょうか。私は「ぐっすり眠ること」が、大切だと考えています。そして、そのための有効な方法が、寝るときに頭を冷やすことです。
特にポイントとなるのが、目と後頭部です。
目の奥は熱が溜まりやすい部分であり、目を冷やすことで、その熱が放散されます。一方、後頭部のぼんのくぼ周辺は「頭蓋骨骨底」と呼ばれ、頸椎(首の骨)の周囲に細い静脈が網の目のようにからみついています。ここはエンジンのラジエーターのように、体内にたまった熱が外に出ていく部分です。
目と後頭部を冷やす手軽な方法は、冷蔵庫で冷やしたタオルを当てることです。じわ~っと冷たさが感じられる程度の温度で、冷たい感覚が15分くらい続けば、十分です。
市販の冷却パッドや、やわらかいタイプの氷枕、冷蔵食品についている保冷剤などを利用してもよいでしょう。ただし、肩は冷やさないように注意してください。
手軽で効率的な頭の冷やし方
❶事前に、水で濡らしてしぼったハンドタオルを、冷蔵庫に入れて冷やしておく。
❷市販のやわらかい氷枕など、市販の冷却パッドをタオル等で包み、頭の下に敷いて15分程度冷やす。
※特に、後頭部の下のほうに当たるようにしつつ、肩にはかからないよう注意する。
※冷却パッドのかわりに、(1)のタオルをビニール袋等で包んだものを使用してもよい。この場合、(1)を2つ用意する((3)で使用するため)。
❸(1)をビニール袋に入れ、目に当てて冷やす。じわ~っと冷たさが感じられたら、そのまま眠ってよい。
頭を冷やすとともに、就寝前に足を温めることも大切です。いちばん効果的なのは、お風呂に入ること。シャワー浴で済ませる場合は、足湯をお勧めします。
足湯は、足首までつかるような容器に42度くらいのお湯を入れて、目安として15分くらい足をつけるのがよいでしょう。冷え性の人には、朝の足湯もお勧めです。朝から足湯を行うことで、その日1日の体の温もりが格段に違います。
こうした方法を実行した多くのかたがたから、「夜ぐっすり眠れるようになった」「体の疲れが軽くなった」「冷えやむくみが改善した」という声をいただいています。夜間、頻尿が治まった人や、腎機能が改善して、尿量が増えた人工透析の患者さんもいます。
現代人に多い冷えのぼせが不眠を招く
では、どうしてぐっすり眠ることが腎臓にいいのか、また、なぜ頭を冷やすとぐっすり眠れるのか、を説明しましょう。
腎臓と睡眠には、深い関係があります。腎機能が低下している人の多くに、寝つきが悪い、眠りが浅い、一度目が覚めるとなかなか眠れないといった不眠の症状が見られます。
質のよい睡眠がとれないと、腎機能の低下につながるのです。腎機能を養うためには、毎晩ぐっすり眠ることがいちばんです。
漢方では、1日24時間の流れのなかで、全身の各臓器が活発に働く時間帯と、休んで修復に専念する時間帯があると考えられています。腎臓が養われるのは、深夜2時から4時にかけてです。
その前の午前0時~2時は、体や脳を癒し、代謝を促す成長ホルモンが脳下垂体から分泌され、胃腸など消化器系の臓器の働きが活発化し、前日に食べた物の消化・吸収が行われます。これらの時間帯にしっかりと熟睡していることが、腎機能の回復に欠かせないのです。
また、不安やショックは、腎臓に大変悪い影響を及ぼします。心身ともにリラックスして、精神的な落ち着きを取り戻すためにも、質のよい睡眠を心がけることが大事です。
そして、質のよい睡眠をとるためのキーワードとなるのが「頭寒足熱」です。
下半身を温めて冷えを防ぎ、頭部を冷やす頭寒足熱は、昔から生活の知恵として知られていました。夏目漱石の小説『吾輩は猫である』にも、「頭寒足熱は延命息災」という言葉が出てきます。
スムーズに眠りに入るには、頭の温度を下げることが不可欠なのは、赤ちゃんを見ているとよくわかります。赤ちゃんは眠くなると手足が温かくなります。手足から熱を放散して、冷えた血液を脳に送り、脳をクールダウンしているのです。
ところが、現代人の多くは、頭寒足熱とは逆の、下半身や足が冷え、頭や上半身に熱がこもっている「冷えのぼせ(上熱下冷)」になっています。
水も空気も、温かいものは上へ、冷たいものは下に溜まる性質があります。人間の体内も同じく、温かい血液は上へ、冷たい水分は下に溜まりがちです。
ですから、例えば、目を酷使して頭を使う考えごとが多い、運動不足、下半身を冷やす服装や冷房といった習慣や環境は、血と水の流れを悪くして、冷えのぼせに拍車をかけます。そのため、現代人には冷えのぼせが多いのです。
冷えのぼせの人は、就寝時に脳の沈静化がうまくいかず、なかなか眠りにつけないため、不眠症になりがちです。
ほかに、頭痛、耳鳴り、目の充血、鼻づまり、首や肩のコリ、下半身の冷えやむくみ、赤ら顔などがあります。急にカーッと頭が熱くなったり、顔だけダラダラ汗をかくなども、冷えのぼせの代表的な症状です。
こうしたことから、頭を冷やすと眠りにつきやすくなり、しいては腎臓のケアにもつながるのです。
質のよい睡眠をとることは、心身の健康づくりの土台です。腎機能が心配な人や、眠れない人は、ぜひ、眠る前に頭を冷やしてみてください。
■この記事は『壮快』2020年7月号に掲載されています。