水分補給、吸入器によるケアとあわせて行っていただきたいのが、のどのトレーニングです。トレーニングをすることで音声障害の予防・改善になるだけでなく、のどの筋肉である「声筋」を鍛えることができるため、声のアンチエイジングにもなります。【解説】渡邊雄介(山王病院 東京ボイスセンター長)
執筆者のプロフィール
渡邊雄介(わたなべ・ゆうすけ)
山王病院 国際医療福祉大学東京ボイスセンター長、国際医療福祉大学医学部教授、山形大学医学部臨床教授、東京大学医科学研究所附属病院非常勤講師。専門は音声言語医学、音声外科、音声治療、GERD、歌手の音声障害。耳鼻咽喉科の中でも特に音声を専門とする。センター長をつとめる山王病院 東京ボイスセンターの患者数は外来数・リハビリ数・手術数いずれも日本で随一であり、一般の方からプロフェッショナルまで幅広い支持を得ている。これまで『ガッテン!』(NHK)、『世界一受けたい授業』(日本テレビ)など、テレビ出演多数。わかりやすく丁寧な解説と、患者の悩みに応える実践的なエクササイズの紹介が好評を博している。
▼国際医療福祉大学東京ボイスセンター(公式サイト)
▼専門分野と研究論文(researchmap)
本稿は『声が出にくくなったら読む本』(あさ出版)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。
音声障害を改善する「基本のトレーニング」
水分補給、吸入器によるケアとあわせて行っていただきたいのが、のどのトレーニングです。トレーニングをすることで音声障害の予防・改善になるだけでなく、のどの筋肉である「声筋」を鍛えることができるため、声のアンチエイジングにもなります。
今からご紹介するトレーニングのうち「のーのー発声法」は、音声障害の人に必ずやっていただきたいトレーニングです。あとからご紹介するスペシャル・トレーニングの準備運動のつもりで行ってください。
「のーのー発声法」のやり方
のどの筋肉である「声筋」全体のバランスを鍛えることができます。道具を使わずに、気軽にできるトレーニングです。
(1)口を小さくすぼめて、「のー」と自身が出せる声の最低音から最高音まで、鼻にぬけるように発声します。このとき、途中で音が途切れないようにします。
(2)次も同じように、最高音から最低音まで、「のー」と発声します。
(3)(1)と(2)、それぞれ10回を1セットとして、1日2~3セット行います。トレーニングとトレーニングの間は2~3時間あけるようにしましょう。
のーのー発声法
「声筋」をアップする「スペシャルトレーニング」
これからご紹介するトレーニングは、先ほどの基本トレーニングに加えて行うスペシャル・トレーニングです。音声治療の現場で使われているエビデンスに基づいた方法です。声帯に長年の疲れがたまったり、更年期による変化が加わったりすると、のどの筋肉である「声筋」が衰えます。しかし、衰えた「声筋」は、努力次第で何歳からでも復活させることができます。ぜひ、声に変化を感じていたら、このトレーニングを始めてみてください。
「イエィ! プッシング法」のやり方
声帯の痩せ、萎縮の症状がある人に適したトレーニングです。のどをぐっと締めて、声帯の”力こぶ”をつくるトレーニングです。入浴時などののどが十分にうるおっているときに、トレーニングすることをおすすめします。
(1)下のイラストのように、体の前で左右の手のひらを胸の前で押し合わせながら「A(エィー)」と発声します。
(2)同じように、左右の手のひらを胸の前で押し合わせながら「B(ビィー)」と発声します。
(3)同様に「C(シィー)」と発声します。
(4)「A(エィー)・B(ビィー)・C(シィー)」と連続して発声します。(1)~(3)を1セットとして、10セットで1日3回行うといいでしょう。
このトレーニングは「声筋」の緊張を高めるので、短時間で行うようにしてください。高血圧や心臓病の方は主治医に相談してから行うようにしてください。
イエィ! プッシング法
「ニャーオ法」のやり方
あくびをするように発声することで、のどの筋肉の緊張をときほぐすトレーニングです。首回りが緊張しているときにも有効です。下のイラストのように猫になったつもりで大きく口を上下に開け、あくびをするように、ゆっくり口を開けて「ニャーオ」と発声しましょう。「ニャーオ」1回を1セットとして、5セットぐらいを1日3回行うといいでしょう。
ニャーオ法
「つや声ストレッチ」のやり方
声帯をみずみずしくしなやかな状態にしておくためのストレッチです。
(1)胸のストレッチ
胸の前で手を合わせたあと、5~10秒かけて、両方の手のひらを胸の前から正面、後ろへと動かし、徐々に胸を広げていきます。1日10回ほど行います。
(2)上半身のストレッチ
両肩を耳につくぐらいまで上げたあと、肩の力を一気に抜いてストンと下に下ろします。
(3)首のストレッチA
左右どちらかの手の人さし指、中指、薬指の3つの指をくっつけて、あごの下に置きます。あごを引いて首を前に倒し、3つの指であごを下から押し上げます。その後、3つの指の上であごを左右に動かします。
(4)首のストレッチB
右手を頭の上に置き、右手の側に頭を倒して、反対側の首の筋肉を伸ばします。手を替えて、反対側の首の筋肉も伸ばします。
(5)首のストレッチC
両手で首の後ろをつかみ、首のつけ根から肩にかけての筋肉をもみほぐします。
「つや声マッサージ」のやり方
のど仏の骨を軽くつまむ、咽頭マッサージです。下の図のように行います。のどをほぐす効果があります。簡単な動作ですが、のどの筋肉が硬い人はまったく動きません。ほぐしていくと、のどの力が抜けていきます。これだけで声がよくなる人がいるマッサージです。息が苦しくならない程度に、軽くマッサージするようにしてください。
つや声マッサージ
声のトレーニングは長く続けることが大切です。ぜひ、紹介したトレーニングやマッサージを生活に取り入れてみてください。もちろん、やりやすいものだけやっていただいてもかまいません。負担に感じない範囲で、楽しみながら続けましょう。
なお、本稿は『専門医が教える 声が出にくくなったら読む本』(あさ出版)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。詳しくは下記のリンクからご覧ください。
※(3)「【音声障害の治療】何科に行けばいい?医師・病院の見つけ方」の記事もご覧ください。