2021年2月1日にできたソフトバンクロボティクスグループとアイリスオーヤマの合弁会社「アイリスロボティクス株式会社」。扱う製品の一つ業務用ロボット掃除機「Whiz i アイリスエディション」はすでに業界シェアNo.1を取っています。ロボット掃除機といえばiRobot社のルンバが思い浮かびますが、Whiz iが業務用でシェアを伸ばすことができた理由はなぜでしょうか?
「Whiz i アイリスエディション」とは
業務用ロボット掃除機でシェアNo.1
今年2021年2月1日に、アイリスロボティクス株式会社という会社ができました。ペッパーくんで有名なソフトバンクロボティクスグループとアイリスオーヤマの合弁会社です。名前にロボットと付くのでおわかりの通り、法人向けサービス・ロボット事業を行う会社です。
今回は、アイリスロボティクスが扱う業務用ロボット掃除機「Whiz i アイリスエディション」をレポートします。
東京・浜松町にあるアイリスグループ東京本部に、実物があるというので、実際に実物を見に伺いました。写真ではイメージが掴めなかったからです。
職業柄、一般家庭用のロボット掃除機は、よく存じています。特にiRobot社のルンバ「i(アイ)」シリーズの出来はよく、これにゴミを溜めておけるダストタワーが付いた「+(プラス)」モデルは、iRobot社のいう通り、初期設定さえしてやれば、勝手に家を掃除してくれます。実際、床にモノさえおかなければ大丈夫です。昔は、100点満点で80〜83点だった満足度も、いつしか、93〜95点。普通の掃除機では、かなり気を入れて掃除しないと負けてしまうレベルです。
特にアメリカ製のルンバは、大きな部屋を想定しているため、バッテリーの続く限り、ガンガン掃除します。
それに対し、業務用ロボット掃除機「Whiz i アイリスエディション」は、まず大きい。写真でみる限り、オフィスの机の下、引き出し下、椅子下などは、とてもでありませんが、掃除できなさそうなゴッツさです。「お掃除」なんて感じではなく「清掃」。そうですね、夜中舗装路のゴミを掃除する、「ジェットスイーパー」に通じるところがあります。
本体がこれだけゴッツイなら、クレードルもゴッツくて、サンダーバードの秘密基地(サンダーバードは、秘密民間ボランティアの国際救助隊の活躍を描いたイギリスのテレビ人形劇。不可能と思われる難救助を成功させるために、特殊なメカを駆使する。今でいう重機が大活躍する。重機のクレードルはゴッツイに決まっている!)にありそうなクレードルがあるのだろうかなど、妄想が拡がります。
そんな経緯から、今回の取材を試みたのですが、開口一番に「業務用掃除機のシェアNo.1」ですと言われびっくりしてしまいました。なぜシェアNo.1を取れたのでしょうか?
家庭用と全くの別物
スイスの時計、ヒューストンの時計屋で売られていたオメガ スピードマスターが、アポロ計画に用いられたのは有名な話です。何故、有名かというと、極めてレアケースだからです。
一般的に、プロの道具というのは、プロ目線で、こうでなければならないという視点が入ります。一番多いのは、どんな状況でも使えるということです。赤道直下でも、極地でも使えることと言われると本当にたまりません。トラブルが山ほどでます。このため、プロ用というのは余分な機能を付けないことが多いです。機能が多いと、それだけトラブルところが多いからです。
このため、単機能で、タフというのが多くのプロ用の道具に共通する話です。
しかし、ロボット掃除機の場合、タフだからという理由で、ゴッツく=本体サイズアップさせると、厚みが8cm、いわゆるルンバサイズを超えるので、隙間に潜り込んで掃除することができなくなります。というより、約47 × 48m × 66.1cm(全幅×全長×全高)のボディサイズは、隙間に入ることはできません。
元々の思想が全く違うのです。
業務用のロボット掃除機は、隅々までキレイを目的ではなく、人の動線を中心に、ゴミがあると目に付く場所を掃除するために作られたものなのです。
このため使い方も全く違います。
家庭用ロボット掃除機は、ロボットを設置(ステーションを設置)した後は、ロボットのAIにお任せですが、Whiz iは違います。出発点にQRコードを貼り、記憶させます。そして人が押しうごかし、掃除をして欲しいエリアを、Whiz i で掃除します。Whiz i がそのルートを覚え、その通りに動き、掃除するのです。人が見本を見せ、それを真似るような感じです。
工場のラインで、メカハンドが人の手と同じように動くパートがありますが、それを見ているようです。家庭用のAIは、自分の位置を自分で見出し、掃除をしながら部屋の地図を作ります。それを記憶しておいて、より良い掃除を目指します。
ところが業務用のAIは、人の動きを完全に真似ます。それはそれですごいAIなのでしょうが、なんか拍子抜けです。
では、どうして、Whiz i はトップセールスになったのでしょうか? ルンバではいけないのでしょうか?
コロナ禍だからこそ強いニーズ
アイリスオーヤマによると、今Whiz i が売れている理由の一つはコロナ禍だからだそうです。一般家庭と、業務用が使われる公共の場は、非常に大きな違いがあります。
それは一般家庭のほとんどには、感染者がいないということです。感染者がいると、床はどうなるのかというと、床は飛沫により汚染されます。そしてアイリスオーヤマの営業資料には、アメリカCDC(疾病対策予防センター)の公表された情報が掲載されていました。
飛沫として床に落ちたコロナウイルスは、また宙に舞うというものです。今までの認識では、例えばドアノブに付着した飛沫のウイルスが、ドアノブを触った手で口に持っていかれ体内侵入。感染するというモデルは示されていました。これだと、手を口に入れる前に消毒すれば、ことが足ります。しかし、無発症者を含む感染者がいる可能性がある、病院をはじめとする公共施設の床は汚染されており、床のウイルスは、どんな形かわかりませんが、再度浮遊する可能性があるわけです。
これに対する対策として、Whiz i が注目、売れているのです。感染者の飛沫が飛ぶのは、どこか、食事などでは、卓上でしょう。しかし、床に限れば、人の動線でしょう。このため、人の動線は、清掃した方がいい。できれば消毒も。できれば、日に何度でも。これは有用な仕事ですが、結構、気がメイル仕事です。Whiz i はそれを確実にこなしてくれるわけです。そうウイルスが飛び散らない、机の下などは、時々、人が掃除するので十分なのです。
しなければならないタフな仕事を、確実にするWhiz i は、やはり優れた業務用機器と言えます。
ちなみに「Whiz i アイリスエディション」の正式な肩書は「AI除菌清掃ロボット」。「お掃除」ではなく、「除菌」「清掃」と目一杯「衛生」にふった肩書になります。
まとめ
もし公共施設で、「Whiz i アイリスエディション」を見かけたら、ぜひ「頑張ってるな」と思ってください。
ただし、触るのは厳禁です。汚染されているところで頑張っているので、本体自体汚れている可能性があります。(使用中の雑巾のようなものです)
ロボット掃除機は、家庭用と業務用で、こんなにも違うのです。
◆多賀一晃(生活家電.com主宰)
企画とユーザーをつなぐ商品企画コンサルティング ポップ-アップ・プランニング・オフィス代表。また米・食味鑑定士の資格を所有。オーディオ・ビデオ関連の開発経験があり、理論的だけでなく、官能評価も得意。趣味は、東京散歩とラーメンの食べ歩き。