側弯症は、背骨が回旋を伴って変形していく病気です。トレーニングをはじめとしたセルフケアに取り組むことで、本来あるべき姿へと近づき、不調が緩和される人が多く出てきています。【解説】石原 周(たんぽぽ鍼灸院院長)
著者のプロフィール
石原 周(いしはら・あまね)
たんぽぽ鍼灸院院長。鍼灸師。あんまマッサージ指圧師。側弯症の治療を専門とし、老若男女を問わず多くの患者の施術に当たる。ゆがみ方や、ゆがみ具合が人によって全く異なる側弯症に対し、それぞれに適した治療を施すとともに、自宅で行うセルフケアを指導。多くの人を改善に導く。元陸上自衛隊第一特科隊。
▼たんぽぽ鍼灸院(公式サイト)
本稿は『側弯症は自分で治せる! (専門治療院が教える驚きの実践的トレーニング)』(マキノ出版)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。
イラスト・図版/田栗克己、山川宗夫(ワイエムデザイン)
経過観察といわれて何もできずに不安
私の治療院には、多くの側弯症の患者さんがいらっしゃいます。そこで、よく問いかけられる質問がいくつかあります。それらは、側弯症という病気の一面をよく教えてくれるものでもあります。まずは、その質問を紹介しながら、話を始めましょう。
側弯症・三つの質問
(1)「経過観察」といわれたのですが、何かできることはありませんか。
(2)「手術」、なるべくなら避けられませんか。
(3)この「不定愁訴」、ひょっとしたら、側弯症が原因でしょうか。
側弯症が軽症で、医師から経過観察と告げられる。患者さんやそのご家族がよく経験する悩ましい状況です。例えば、学校の健康診断で側弯症の疑いがあると指摘されると、整形外科に行って検査を受けることになります。整形外科では、レントゲンなどを撮って調べます。その結果、側弯症であることが判明したとしましょう。しかし判明したからといって、すぐにどうこうという話には、ほとんどなりません。
症状が進行していれば話は別ですが、初期段階と見られたケースでは、通常、「経過観察」といわれます。すると、どうなるでしょうか。
患者さんとそのご家族にできることは、待つことだけです。時間をおいて、側弯症の症状が進行していないかどうか観察していくことになります。経過を見る期間は、医師によっても異なりますが、およそ3ヵ月~6ヵ月。ある程度の間隔で、何度も診察していきます。この経過を待つ間に、患者さんはどう過ごせばよいのでしょうか。患者さんへのアドバイスは、多くの場合、何もありません。「また診せてください」と、いわれるのみでしょう。
待つことの不安
経過観察となると、本人はもちろんのこと、ご家族も心を乱されます。側弯症の診断を受けているのに、自分たちには何もできることがない。ただ、次の診察を何ヵ月も待つだけ。やはり、どうしても不安になり、心配する人が多いのです。対策を打つことができず、ただ待たなければならない。これが、側弯症という病気の一つの特徴といえると思います。もしも、この間に側弯症がどんどん悪くなったらどうしよう!? というように、悪い方向に考えてしまう人もいます。
少しでも側弯症をよくするために、あるいは、今の状態を悪くしないために、何かできることはないのだろうか。
そういう気持ちが芽生えて、当然です。そして、インターネットなどで探した末に、私の治療院の扉をたたくわけです。以前、私の治療院を訪れた16歳の男子高校生も、こうした悩みを抱えていました。付き添いのお母さんも、傍らで、「何もしないというのは、ほんとうに不安です」と訴えていました。「次の検査までに、何かできることはないでしょうか」と問われて、私は、もちろん、こう答えました。
「できることはあります」
彼に毎日行うべきセルフケアを教えると、少しほっとしたような笑顔を見せてくれました。どんどん悪くなっていくかもしれないのに、何もせず、ただ待つだけ、というのは、つらいものです。毎日できることをしっかり行い、それがいい結果につながれば最高ではないでしょうか。
少し話を戻して、まず、「側弯症とはどういう病気か」といった基本的なところを、お話ししましょう。
側弯症の原因はわかっていない
側弯症は、大きく二つに分けられます。
側弯症の2分類
(1)機能性側弯
(2)構築性側弯
この二つです。姿勢の崩れや神経の痛みなどによって、一時的な側弯状態になることがあります。それが、機能性側弯です。一方、構築性側弯は、背骨がねじれを伴って曲がった状態です。しかも、簡単には元に戻りません。こちらが、治らないといわれる厄介な側弯症の症状です。
背骨の構造を確認しましょう。背骨は、7個の首の骨(頸椎)と、12個からなる胸部の骨(胸椎)と、5個の腰の骨(腰椎)と、おしりの骨(仙骨と尾骨)からなっています。これらの骨によって構成される背骨は、真横から見ると、緩やかなS字状にカーブしています。この弯曲は、重い頭を支えるためとされていて、本来そうあるべき生理的弯曲です。
真横から見た背骨は弯曲していますが、正面や真後ろから見たときは、通常、まっすぐです。ところが側弯症になると、その背骨が正面や真後ろから見て、左右に弯曲してくるのです。この背骨の曲がり具合はコブ角とも呼ばれ、側弯症の程度を示す、一つの目安となります。コブ角の度数を知るためには、レントゲン写真を撮る必要があるので、これは病院でしか把握できません。
背骨の構造
では、なぜ背骨が曲がって、ねじれるのでしょうか。
背骨が曲がってねじれる原因により、構築性側弯は、さらに分けられます。
構築性側弯症の2分類
(1)原因がわかっていないもの➡特発性側弯症
(2)原因がわかっているもの➡それぞれ原因病名のついた側弯症
側弯症の全患者さんのうち約80%が特発性側弯症です。つまり、大半の側弯症は、なぜ起こるのか、はっきりしていません。西洋医学的な解明はなされていないのです。私が施術に当たる患者さんも、ほとんどが特発性側弯症です。特発性側弯症は原因不明とされていますが、私は、成長期の姿勢が一因だと考えています。悪い姿勢が長時間続くこと、もしくは悪い姿勢のときに著しく成長したことで、ゆがみが強くなり、機能性側弯から構築性側弯へ移行するのです。
過去から現在までの癖や、習慣の影響は小さくありません。
例えば、片手だけポケットに手を入れる癖や、片側の肩にカバンをかける習慣などです。あぐらをかいて座ることも、影響を受けます。あぐらをかく姿勢は、左右どちらかの足が上に重なるため、左右の骨盤にゆがみを生じさせます。足を組むといった行為も同様です。また、成長期に足をケガして、しばらく杖を使って歩いていたことなども原因となります。
特発性側弯症になると、起こること
特発性側弯症の発症年齢の多くは、小学校高学年から中学校時代。男子より女子に多く、体の発育や成長が続いている間は、進行する可能性があります。成長が止まると、側弯症の症状が急激に進行することは少なくなります。では、進行することで、どんな変化が起こるでしょうか。ここでは、簡単にその変化に触れておきましょう。
まず、背骨がねじれながら弯曲していくので、肋骨にも変形が起こります。肋骨が後ろに張り出してくると、背中が出っ張ってきて、いわゆる「隆起」という状態をつくり出します。左右の肩の高さも不均等になり、腰にも隆起が起こることがあります。左右の乳房や、ウエストのラインが非対称になることも珍しくありません。隆起が大きくなったり、背骨の弯曲が目立ったりすると、学校生活における着替えの時間を嫌がる子供も増えてきます。隆起の悩みは、多くの側弯症の患者さんにとって深刻なものです。その深刻な外見の変化を引き起こしている根源が、背骨の変形なのです。
ここからさらに進行すると、隆起した部分が圧迫され、痛みを伴うことがあります。曲がっている背骨を支えるために筋肉の緊張が強くなり、強いコリを感じることもあります。背骨の中には神経があるので、自律神経に悪影響を及ぼし、突然汗が出る、気分が悪くなる、感情の起伏が激しくなるなどの症状が現れることもあります。
注意したいのは、成長期に一度背骨が曲がると、ゆがむ力はどんどん強くなるという点です。最初、なにかしらの原因で小さなゆがみが生まれると、成長する速度に合わせて、背骨はまっすぐ上には伸びずに、横へと曲がっていくのです。本来とは違う方向に背骨が伸びるため、そこに強い痛みが生じます。側弯症が成長期の子供に多い理由はここにあります。
このように見ていくと、側弯症は、初期の段階から重症に至るまで、患者さんにとって、いつも悩ましい病気であり続けるといってよいでしょう。こうしたわけで、「側弯症の進行をストップさせるだけでなく、もっと積極的によくする方法はないものか」と、患者さんとそのご家族が対処法を探し求める気持ちは、とてもよくわかるのです。その願いに応えるため、私は、多くの側弯症の患者さんの臨床を重ねながら、検討と研究を続けてきました。そして、「先生、手術はなるべくなら避けたいのですが……」といった声に対して、私はこうお答えします。
「手術の前にできることがあります。それをやってみましょう」
大人の側弯症の特徴とは?
本記事で皆さんにお伝えするのは、これまで私が会得した方法論の最新版です。そして、この方法論は、大人の側弯症にも対応しています。
側弯症は成長に従って悪化する傾向があり、成長期が終わると、急激な悪化は止まるとお話ししました。しかし大人になれば、もう大丈夫かといったら、一概にそうともいえません。確かに成長期が終わると、急激な進行は止まります。しかし、その後も、少しずつ進行する場合があるのです。パターンとしては、大きく分けると二つあります。
大人の側弯症の二つのパターン
(1)若いころ指摘された側弯症が徐々に悪くなっていくパターン
(2)健康診断で見落とされた側弯症が気づかないうちに悪くなり発症するパターン
側弯症と指摘されたものの、そのまま放置していた人や、経過観察や装具治療などを経験しつつ、そこまで悪化しなかったという人もいるでしょう。そうした人に、悪い姿勢の固定化、加齢や運動不足、出産、閉経といった条件が重なると、新たな症状が出てくることがあります。それが(1)です。
もう一つのパターンが、健康診断で見落とされてきてしまった人たちです。昔は、今ほどしっかり健康診断は行われていませんでした。また、側弯があっても、見た目は健常人とほぼ変わらない人もいるので、健康診断で見落とされてしまう可能性もあります。知らず知らずのうちに、そうした人たちの側弯症が悪化し、ついに自覚するようになる。それが(2)です。
大人の側弯症の特徴は、さまざまな不定愁訴を伴うことが多いことです。背骨が曲がると、変形の影響が、筋肉や肋骨などにも及びます。肩や首の痛みやコリ、腰痛、背中の痛みなども起こります。呼吸が浅くなったり、息切れを感じたりすることもあります。頸椎などが圧迫されて、自律神経に影響が及び、さらなる不定愁訴が出てくるおそれもあります。長い間、原因がわからず、苦しみ続けている人が少なくないのです。
大人の身長も伸びる
では、私の治療院で行う、側弯症治療の流れをご紹介しましょう。
治療の手順
(1)問診
(2)検査(身長測定・写真撮影(ビフォー)含む)
(3)施術
(4)身長測定・写真撮影(アフター)
(5)セルフケア指導
最初に、患者さんとそのご家族(子供が小・中・高校生の場合、家族がいっしょのケースが大半)から、詳しく話を聞きます。学校の健康診断以外で気づいたのなら、それは、いつ、どんなきっかけだったか等々。もしも背骨のレントゲン写真などをお持ちでしたら、それもチェックします。現在の背骨の様子を外から見たり、触診したりして確認することはいうまでもありません。
特に重要なのは、施術を行う前に、身長を測ること。背中の写真も撮ります。施術を行ったあとにも、同様に身長を測り、写真を撮ります。なんのために、こんなことをしているのでしょうか。
側弯症の人の背骨は、曲がってねじれています。なぜ背骨がこうして曲がってしまうのか、お話ししてきたとおり、その原因は今のところ解明されていません。確かなのは、側弯症の患者さんの背骨には、ねじれて曲がっていこうとする力が働いているということです。しかも、その力に負けて、背骨がねじれて曲がるとき、背骨を支える多くの筋肉にも、ゆがみが生じます。背骨が曲がってねじれると、その影響により、どこかの筋肉が縮んだり、弱ったりします。結果として、体全体の長さ(いわゆる身長)も、本来あるべきそれよりも縮んでいるのです。
そこで、施術を行って、縮んだり、弱ったりしている筋肉を引き伸ばします。曲がって、ゆがんだまま固定されているので、引き伸ばすことによって、元のかたちへと近づけるのです。すると、施術後には多くの場合、身長が伸びます。本来あるべき身長に近づくといってもいいでしょう。伸びる程度には、個人差がありますが、0.5~2cmといったところです。成長期の子供の場合、もっと伸びるケースもあります。10代の患者さんが初回の施術を受けた前後で、どれだけ身長が伸びたか挙げましょう。
- 10歳(女性・小4)154.0cm➡155.7cm(+1.7cm)
- 10歳(女性・小4)145.6cm➡147.0cm(+1.4cm)
- 14歳(女性・中2)152.0cm➡155.0cm(+3.0cm)
- 14歳(女性・中2)152.0cm➡154.0cm(+2.0cm)
- 14歳(女性・中2)155.5cm➡157.2cm(+1.7cm)
- 16歳(男性・高1)176.0cm➡177.3cm(+1.3cm)
施術前後に撮った写真を比べると、背中の様子がまるで変わっていることも、もちろん少なくありません。隆起していた部分が引っ込み、高さの違っていた左右の肩のラインもそろいます。それをご自分の目で見て、患者さんもご家族もびっくりします。働きかけると、体は変わるものなのです。それは、多くの臨床を通じて、患者さん自身が私に教えてくれたことだといえるかもしれません。ともあれ、「自分の体は自分で変えられるんだ」という認識を持ってもらうことがとてもたいせつです。
ただ、伸びた身長は、伸びたままではありません。それは、あくまでも一時的なもので、すぐに元の身長に戻ってしまいます。小さくなった隆起も、前のように盛り上がってしまいますし、肩の高さも左右でそろわなくなってくるでしょう。なぜなら、背骨をねじ曲げていこうとする力は、常時働いているからです。その圧を受けて、身長が元に戻ってしまいます。
重要なのは、縮んだり弱ったりした筋肉であっても、トレーニングによって伸ばすことが可能だということです。それを患者さんに実感してもらうために、身長を術前・術後で測っているのです。
成長期を終えた大人でも、一度の施術で同じように身長が伸びます。大人の例を挙げましょう。
- 19歳(女性)154.7cm➡156.2cm(+1.5cm)
- 28歳(女性)158.0cm➡159.4cm(+1.4cm)
- 39歳(女性)163.0cm➡165.0cm(+2.0cm)
- 39歳(女性)157.0cm➡158.4cm(+1.4cm)
- 44歳(男性)173.5cm➡174.1cm(+0.6cm)
- 45歳(女性)162.0cm➡163.5cm(+1.5cm)
- 45歳(女性)153.0cm➡154.0cm(+1.0cm)
- 46歳(女性)152.5cm➡153.2cm(+0.7cm)
成長期の子供ほどではないにせよ、身長が、やはり伸びています。
施術で効果を実感してもらったあとは、セルフケアを指導します。
セルフケアのポイント
今回上梓した著作で紹介したセルフケアは、ふだん私が実際にお伝えしているなかから、どなたでも行えるものをピックアップしたものです。
側弯症の場合、背骨の曲がっていく力の圧を受けて、一部の筋肉が萎縮し、弱ってしまっています。その状態を改善するのに、二つのセルフケアが役立ちます。
一つめは、矯正トレーニングです。側弯症を発症し、背骨が曲がってきた時点で、その背骨の曲がり方は、構築されてしまっています。つまり、すでにゆがんだかたちがある程度定着しているので、簡単には変えられなくなっているわけです。矯正トレーニングの目的は、背骨の弯曲により萎縮した筋肉を引き伸ばして、正しいかたちに近づけることです。実際にトレーニングを行うことで、萎縮した筋肉が伸ばされると、身長も伸びるということを、患者さんは体感して知っています。先ほど挙げた数字は、初診時のものですが、それ以降も身長を測り、写真を撮り、同様に施術前後の変化を追ってストレッチの効果を見ていきます。
筋肉を引き伸ばすと同時に、筋力をつけることも重要です。体幹の脊柱起立筋といったインナーマッスルや、骨盤をまっすぐ立てるために重要な骨盤周囲の筋肉群を筋トレによって強化します。そもそも体幹を鍛えるのは、曲がっていく力に、できるだけ対抗するためです。弱って萎縮した筋肉が正しいかたちに伸ばされたあと、その正しい状態をできるだけ保つためには、筋肉という要素はとても重要になります。強い筋肉があれば、背骨が曲がっていこうとする力に対して抗することができます。私が紹介するトレーニングは、この筋トレも兼ねています。
側弯症矯正トレーニングで鍛えられる筋肉
そして、もう一つが感覚の調整です。側弯症の人は、ふだんから左右に傾いた姿勢でいるため、自分が正しいバランスで立てているか、わからなくなっていることが多いのです。正しいバランスを把握できないままトレーニングを行っても効果が半減します。見方を変えれば、そのバランスが感覚としてわかれば、側弯症改善の近道になるということです。
感覚を調整するためには、必ず鏡を見てトレーニングを行い、正しいバランスを体感として理解できるようにすること。そして、お灸を使って温度感覚や痛覚の左右差を整えられればベストです。これらのポイントを押さえたセルフケアを続けることで、側弯症の状態が徐々に改善していくのです。
側弯症の状態が改善すれば、背中の隆起やコブ角が小さくなるだけでなく、背骨の変形の影響で起こっていた関節の痛みやコリなども改善します。呼吸が浅くて困っていた人は、より深く息が吸えるようになり、肺活量も大きくアップします。自律神経が乱れていた人の場合、同時に、その調整も行われます。それまで長く治らなかった頭痛や発汗、気分が悪くなるといったような不定愁訴も自然と改善されていくのです。
*本稿は『側弯症は自分で治せる! (専門治療院が教える驚きの実践的トレーニング)』(マキノ出版)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。詳しくは下記のリンクからご覧ください。