正しい姿勢の感覚調整のためには、お灸が効果的です。手足にある重要な8つのツボをご紹介します。【解説】石原 周(鍼灸師)
著者のプロフィール
石原 周(いしはら・あまね)
たんぽぽ鍼灸院院長。鍼灸師。あんまマッサージ指圧師。側弯症の治療を専門とし、老若男女を問わず多くの患者の施術に当たる。ゆがみ方や、ゆがみ具合が人によって全く異なる側弯症に対し、それぞれに適した治療を施すとともに、自宅で行うセルフケアを指導。多くの人を改善に導く。元陸上自衛隊第一特科隊。
▼たんぽぽ鍼灸院(公式サイト)
本稿は『側弯症は自分で治せる! (専門治療院が教える驚きの実践的トレーニング)』(マキノ出版)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。
側弯症になると正しいバランス感覚が失われがち
私は、側弯症の患者さんには、矯正トレーニングを毎日続けてもらいながら、自宅でお灸を行ってもらいます。その効能は、二つあります。
お灸の二つの効能
(1)感覚の調整
(2)ツボ刺激による健康効果
側弯症になると、自分はまっすぐ立っているつもりでも、左右の肩の高さが違っていたり、まっすぐ首を伸ばしているつもりなのに傾いていたりする、ということがよく見られます。側弯症は背骨が曲がることによって、ふだんの姿勢にもゆがみを生じさせます。その結果として、正しいバランス感覚が保てなくなることが多いのです。この状態は、側弯症の改善に対して大きな障害となります。
せっかく矯正トレーニングによって背骨や筋肉のゆがみを改善しても、体のバランスを自分で把握できていなければ、そもそも正しい姿勢で立つことができないおそれもあります。自分が正しいバランスで立てているか、首がまっすぐ伸びているか等々を、自身でちゃんと把握できるようにする。そのために矯正トレーニングをしながら、意識的にバランスを保つよう心がけてください。それに加えて、正しい姿勢の感覚調整のためにお灸が効果的なのです。
側弯症の人のツボに現れる違いとは?
東洋医学では、生命エネルギーである「気」の通り道を「経絡」といいます。この経絡を流れる気が不足したり滞ったりすることで、体調が悪化したり、ある臓器に異常が生じたりすると考えられています。体の中を巡っている経絡は14本ありますが、そのほとんどが左右対称です。そして多くのツボがこの経絡上にあります。つまり、多くの場合、同じツボが体の左右両側にあることになります。
例えば、手の有名なツボである合谷は、右手と左手の甲にそれぞれ存在します。側弯症のように体のバランスがくずれていると、左右にあるツボに反応の違いが現れることがあります。例えば以下のようなケースです。
ツボを指で押すと、左右で「痛い」⇔「あまり痛くない」
お灸をすると、左右で「すぐに熱さを感じる」⇔「熱さをあまり感じない」
背骨の弯曲によって、筋肉や内臓器官に悪影響が出ることがあるとお話ししました。東洋医学から考えると、背骨が曲がっている影響が気の流れに及ぶことで、経絡の要所であるツボに対して、左右で反応の違いが現れるのです。「押しても全然痛くない」とか、「お灸の熱さをなかなか感じ取れない」というのが、気の働きが悪いときの反応です。この悪い反応の出ているところにお灸をすることで、滞っている気の流れをよくして、正しい状態へと持っていきます。ツボの反応が適度に現れるようにすることが、正しいバランス感覚の調整に役立つのです。
また、ツボへのお灸で、気の流れがよくなると、側弯症の影響で起こっている体のさまざまな不調(関節の痛みやコリ、不定愁訴等々)に対する改善効果も期待できます。お灸になじみがない人も多いと思いますが、薬局などで市販されている物を使えば、誰でも自宅で手軽にできます。それでは、さっそくお灸のやり方を紹介しましょう。
重要な八つのツボはどこにあるか
体には非常に多くのツボがあります(WHOに認められているのは現在361個)。しかし、すべてのツボをここで紹介することはできません。ここでは特に重要と思われる八つのツボを取り上げます。
それぞれのツボの名前と場所を順に紹介しましょう。
(1)内関(ないかん)
手首の内側にあります。手を握りしめると、2本の腱が浮かび上がります。その腱と腱の間で、手の関節の横じわから指の幅3本分のところにあります。
(2)外関(がいかん)
手首の手の甲側、内関のちょうど反対側にあります。手首を立てたときにできる横ジワから、指の幅3本分上がったところの骨と骨の間にあります。
(3)列缺(れっけつ)
左手と右手で、それぞれ、L字のかたちを作ります。左と右のL字を組み合わせてください。このとき、伸ばした人差し指が手首のわきまで届きます。その人差し指が止まるところにあります。
(4)後谿(こうけい)
手を軽く握ってください。小指側に山ができます。その山のくぼみにあります。
(5)臨泣(りんきゅう)
足にあり、「足臨泣」と呼ばれることもあります。
足の小指(第5趾)と薬指(第4趾)の骨と骨の間をさすっていくと、骨にぶつかって指が止まるところにあります。
(6)公孫(こうそん)
足の裏、土踏まずの内側にあります。足の親指(母趾)から、土踏まずの外縁に沿って指でたどり、指が止まるところにあります。
(7)照海(しょうかい)
足の内くるぶしの出っ張った骨の真下、押すと痛みを感じるくぼみにあります。
(8)申脈(しんみゃく)
外くるぶしの出っ張った骨の真下のくぼみにあります。
感覚調整のお灸のやり方
続いて、お灸のやり方を説明しましょう。
お灸は、次のような段取りで行います。
お灸の手順
初回にまず、どのツボに左右差があるか調べる。
その後は毎日左右差のあるツボにお灸をする。
八つのツボの位置を確認できたら、どのツボで左右差が生じているか、確認しましょう。使用するお灸は、台座のついた市販のお灸でいいでしょう。
例えば、内関ならまず、左の手首にお灸をします。どれくらいで熱いと感じるか、秒数を数えてください。次に右の手首にお灸をして、同様に数えます。
両方のツボに一度に火をつけるのは、あまりお勧めできません。左右で秒数を競うわけではないのです。一つずつ火をつけ、それに集中して、ちゃんと熱くなるかどうかを確認してください。熱いと感じるまでに、それほど時間の差がなければ、左右差はないと考えてかまいません。片方はいつまで待っても熱いと感じないといった現象が起こった場合は、左右差があると考えましょう。
左右差のあるツボがわかったら、その後は毎日、そのツボにお灸をします。お灸のやり方は、簡単です。例えば、左右差のあるツボが内関だったとしましょう。右手の内関は「すぐ熱く感じた」が、左手の内関は、「ほとんど熱さを感じない」という状態だったときは、問題のない右手の内関に1回のお灸を、熱さを感じない左手の内関には2回のお灸を行います。つまり、反応がある側にもしっかりお灸を行ない、反応があまりないほうには、その倍のお灸をするというのが原則です。なお、熱さを感じにくくなっているとはいえ、やけどにはくれぐれも注意してください。
お灸はどれくらいで効いてくるか
お灸は、まず1ヵ月を目安に続けてください。左右差のあるツボだけでけっこうですので、それぞれお灸を行ないましょう。時間帯はいつでもかまいませんが、入浴前後30分間は効果が出づらいので、避けたほうがいいでしょう。矯正トレーニングも続けていただきたいので、忙しくなりますが、うまく時間をやりくりしましょう。1ヵ月ほどお灸を続けると、感覚が戻ってくる場合が多くあります。根気よく続ければ、それまであまり熱を感じなかったツボに、熱が伝わるようになるでしょう。
このように左右差がはっきり現れるかたは、側弯症の人が10人いれば、3~4人くらいです。今のところ、はっきりとした左右差は現れていないものの、お灸を試してみたい。そういう人もいるかもしれません。そういう人には、内関、外関、公孫、臨泣、この四つのツボをお勧めします。これらのツボに一つずつお灸をしてみるといいでしょう。慣れていくうちに、お灸の温かさを心地よいと感じられるようになるでしょう。その温かさを楽しみながらお灸を続けてください。
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なお、本稿は『側弯症は自分で治せる! (専門治療院が教える驚きの実践的トレーニング)』(マキノ出版)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。詳しくは下記のリンクからご覧ください。