せっかくの旅行や外出なのに、ずっと雨が降っていた。天気予報では降水確率が終日低かったのに、急に雨が降り始めた。…そんな、雨天にまつわる苦々しい経験は、誰にでもあると思います。まあ、外出目的には関係なく、多くの人は“屋外での雨”を嫌うでしょうね。撮影目的の外出でも、雨天は厄介な条件です。自分自身や荷物が濡れるのも不快ですし(降りが激しいと傘やレインコートがあっても不快です)、カメラやレンズ等の撮影機材も故障する危険性が高まってきます。ですが、雨の日の撮影には、晴天や曇天とは違う“独特の風情”が捉えられる可能性があります。そう、上記のようなリスクが多少あっても撮りたくなる…そして「撮って良かった!」と思える写真が期待できるのです。
雨の日撮影の魅力
では、雨の日撮影の“独特の風情”とは、具体的にはどういう内容を指すでしょうか? 私の考えでは、大きな2つの要素が関係してくると思います。
ひとつめの要素は“光線状態”です。晴天時の光線は、風景や被写体を明るく照らしてくれ、上空に広がる青空も写真を鮮やかに演出する重要な要素になります。その一方、明るい部分と暗い部分との明暗差が大きくなり、画面内(写真)に白トビや黒ツブレが起きやすくなります。また、そういう現象によって、肉眼の印象とは違う不自然な印象や、繊細さに欠ける雑な描写になりやすいのです。
ですが、上空の全体や大半が雲に覆われる曇天や雨天時(または太陽とその周辺に雲)の光線は、晴天時よりも光量は落ちますが明るい部分と暗い部分との明暗差が小さくなり、白トビや黒ツブレが緩和されます。その結果、被写体や周囲が自然な階調に再現され(雲に覆われた明るい空は除き)、質感描写に優れる描写が得られるようになります。
ふたつめの要素は“降雨や雨粒による被写体や風景の変化”です。この点は、曇天と雨天との違いにもなりますね。雨が降っている様子や、雨で被写体が濡れる事で、平凡な風景がドラマチックな光景に変わったり、被写体が瑞々しく見えたりするのです。
水紋が広がる“雨の情景”
付着する水滴が瑞々しさを生む
ウェット感で風景に深みが増す
雨中撮影に適した機材と対策
雨中の撮影で意識しなければならないのが“撮影機材を雨から守る”という事です。カメラやレンズのような精密機器は、雨(水)の浸入で故障する危険性があります。まあ、表面に少し水滴が付着する程度なら大丈夫でしょうが、傘をさしていても身体や機材が濡れるような激しい降りでは、何らかの準備や対策が必要になります。
カメラ用のレインカバーも多く発売されているので、本格的な雨(降りの激しさや長時間)には、そういったグッズを使用すると良いでしょう。さらに、カメラボディと交換レンズ自体が「防塵・防滴仕様」になっていればベストです。そうすれば、多少雨で濡れても安心して撮影できます(※濡れ具合の状況や程度にもよりますが、絶対に安心という保証がある訳ではありません)。
また、撮影機材を収納するバッグにもこだわりたいですね。多少の雨なら水が浸入しにくい素材や構造のバッグも販売されているので、新規購入の際には、その点も考慮して選定すると良いでしょう。
ただし、いくら撮影機材やバッグが防滴仕様になっていても、撮影中の配慮や、撮影後のメンテナンスは不可欠です。まず、レンズやバッテリーや記録メディアの交換時の注意。カメラやレンズが防滴仕様であっても、それらを交換する際に“内部に水が浸入”してしまうと、深刻なトラブルにつながる危険性があります。ですから、レンズ交換は雨が避けられる環境で行う、バッテリーや記録メディアの交換は機材表面に付着する水滴を拭ってから行う…といった対策が必要になります。
そして、撮影の際には、レンズ表面に水滴を付着させないよう注意しましょう。水滴が付着したまま撮影すると、画面の一部分が不自然に歪んだり不鮮明になる危険性があります。レンズフードを装着したり、カメラを構える時以外はレンズを下に向ける。そういった心がけが必要です。また、水滴が付着した際には、きれいな紙や布を用いて、速やかに除去する(吸わせる)ようにします。
降雨の軌跡を捉える
雨の“独特の風情”の要素として“降雨や雨粒による被写体や風景の変化”を挙げました。なかでも、雨が降っている様子…すなわち、降雨の軌跡(針のような線)を写す事ができれば、ストレートに雨の風情が表現できます。
ただし、雨の軌跡そのものをメインの被写体にするのは難しいので、別の被写体の周囲に軌跡を写し込むと良いでしょう。その際にポイントになるのが、軌跡と重なる“背景の明るさ”です。白い曇り空のような明るい背景だと、軌跡は分かりづらいはずです。しかし、葉が茂る木立ちや建物の陰など、暗めの背景を選んで撮影すれば、雨の軌跡はかなり見えるようになります(光線状態等の条件にもよりますが)。
では、降雨を軌跡(針のような線)に写すのに相応しいシャッター速度はどのくらいか? 明確な答えはないのですが、私の経験では「1/250秒~1/60秒くらい」。この程度の速度なら、適度な線に描写される事が多いようです。
黒っぽい木立ちを背景にして撮影
軒先から撮影して、より大きな雨粒を!
水滴に注目してクローズアップ!
被写体に雨の水滴が付着すると瑞々しい写真になりますが、その水滴自体に注目して撮影しても面白いでしょう。特にオススメなのが、植物の葉に付着した“球状の水滴”です。ひとつの水滴を、画面いっぱいに写すのは難しいでしょう。ですが、マクロレンズを選択したり、使用レンズの前面にクローズアップレンズを装着すれば、水滴の存在感が増した写真になります。ただし、撮影倍率の高いクローズアップ撮影では、わずかなピント位置のズレでもピンボケにつながるので、ピント合わせには細心の注意が必要です。
水滴をクローズアップした撮影では、画面内の“どの水滴にピントを合わせるか”で、写真のインパクトやイメージが変わってきます。大きくて形も整った水滴や、前後や周囲にある別の水滴と重ならずに目立つ水滴。そういった水滴を主役に据えてピントを合わせれば、インパクトの強い写真に仕上げる事ができるでしょう。
PL(C-PL)フィルター使用でクリアな描写
風景撮影などで、PL(C-PL)フィルターを使用して、クリアな写真に仕上げる。そういう人は多いでしょう。晴れた日の青空の濃度を高めたり、ガラス表面の反射を除去するためなどに使用されています。実は、このフィルターは、雨の撮影にも活用できます。表面反射を除去する働きを利用して植物の葉などのてかりを抑え、葉や花の鮮やかな色再現を得るのです。
ただし、PLフィルター効果を利用した写真は、見えている光を除去しているので、ある意味“不自然な描写”とも言えます(晴れた日の撮影にも言えますが)。ですから、その点を留意しながら、被写体や状況を選んで使用するようにしましょう(装着しっぱなしを避けます)。
C-PLフィルター使用
フィルターなし
C-PLフィルターで光沢感のある葉を鮮やかに!
まとめ
雨の日の撮影のポイントを押さえれば、晴天や曇天とは違う“独特の風情”が捉えられます。雨の日は外出も億劫ですし、カメラやレンズ等の撮影機材も故障する危険性があります。しかしそれと同時に、リスクが多少あっても撮りたくなる写真が期待できるチャンスでもあるのです。
執筆者のプロフィール
撮影・文/吉森信哉(よしもり・しんや)
広島県庄原市生まれ。地元の県立高校卒業後、上京して東京写真専門学校(現・東京ビジュアルアーツ)に入学。卒業後は専門学校時代の仲間と渋谷に自主ギャラリーを開設し、作品の創作と発表活動を行う。カメラメーカー系ギャラリーでも個展を開催。1990年より、カメラ誌などで、撮影・執筆活動を開始。無類の旅好きで、公共交通機関を利用しながら(乗り鉄!)日本全国を撮り続けてきた。特に好きな地は、奈良・大和路や九州全域など。公益社団法人 日本写真家協会会員。カメラグランプリ2021選考委員。