秋が深まるにつれて、街中の街路樹や野山の木々の葉が色づき“鮮やかな紅葉”へと変貌していきます。普段は風景や植物に興味のない人でも、その目の覚めるような風景は、思わず見入ってしまい、カメラを向けたくなるでしょう。ですが、いざ撮ろうと思ったら「どの部分や、どこまでの範囲を写せばいいか分からない」といった迷いが生じる事もしばしば…。また、実際に撮ってみたら「肉眼で見た感動が伝わらない」といった不満も生じてきます。そこで、今回は美しい紅葉を“印象的な紅葉写真”に仕上げるための、4つのポイントを紹介したいと思います。これから本番を迎える紅葉シーズンに向けて、参考にして頂ければ幸いです。
執筆者のプロフィール
吉森信哉(よしもり・しんや)
広島県庄原市生まれ。地元の県立高校卒業後、上京して東京写真専門学校(現・東京ビジュアルアーツ)に入学。卒業後は専門学校時代の仲間と渋谷に自主ギャラリーを開設し、作品の創作と発表活動を行う。カメラメーカー系ギャラリーでも個展を開催。1990年より、カメラ誌などで、撮影・執筆活動を開始。無類の旅好きで、公共交通機関を利用しながら(乗り鉄!)日本全国を撮り続けてきた。特に好きな地は、奈良・大和路や九州全域など。公益社団法人 日本写真家協会会員。カメラグランプリ2021選考委員。
〈point1〉背景の色や明暗を選ぶ
とても色鮮やかでボリューム(葉の数や密度)のある紅葉だったのに、撮ってみたら意外と単調でつまらない…。そういう経験は誰でもあるでしょう。単調でつまらない写真の要因に考えられるのが“背景選択が適切ではない”という点です。
たとえば、真っ赤に色づいた紅葉(枝や木)に惹かれたとしましょう。
しかし、その紅葉の背景や周囲が、同じ系統の色で占められてしまうと、その中に狙った紅葉が埋没して目立たなくなってしまいます。ですから、同じような紅葉(葉や枝)が多くある場合には、カメラ位置の移動などによって、背景に違う系統の色が入るような紅葉を選ぶと良いでしょう。
また、紅葉と背景の明暗差にも着目します。
周囲の状況や光線の加減によって、背景が暗くなったり明るくなったり…。そういう明暗差が生じれば、同じような系統の色でも画面にメリハリが生じきます。それによって、狙った紅葉が際立つ(浮き立つ)写真になるのです。
緑色中心の背景が紅葉を引き立てる
暗い日陰の中に、光を浴びる葉が浮かび上がる
明るめの背景で、写真の雰囲気が華やかに!
要注意!曇天や雨天の明るい空は控えめに
〈point2〉逆光時の透過光や太陽に着目
前方に光源(主に太陽)がある「逆光」は、多くの人が“撮影NG条件”に挙げる、代表的なシチュエーションです。しかし、写真撮影に詳しい人にとっては、印象的かつ魅力的な写真が撮れるシチュエーションでもあります。それは、紅葉撮影にも当てはまります。
逆光の場合、人物など多くの被写体は、日陰になって平板的な描写になりがちです。しかし、紅葉(葉)のような薄い被写体だと、物体を通過する「透過光」になります。それによって、紅葉自体が発光しているかような、ドラマチックな描写になるのです。
この透過光に着目しながら被写体選びや画面構成を行うと、より目を引く紅葉写真に仕上げる事ができます。ただし、葉が密集する枝だと、透過光よりも日陰部分の方が多くなるので、その点に注意しながら被写体選びや構図決定をしたいところです。
日陰の紅葉が透過光で一変!
透過光と太陽の光芒をアクセントに
透過光の葉と暗い幹との対比が目を引く
〈point3〉夕方の斜光線と影を生かす
どんな天気であっても、被写体選択や背景との組み合わせが適切なら、人目を引く(自分も満足できる)紅葉写真を撮る事は可能です。ただし、紅葉の見え方やその場の雰囲気は、天気の違いによって大きく変わってきます。
もし、その日が晴天ならば、青空を取り入れて、鮮やかさや爽やかさを出したり、撮影ポジションやアングルの変化で光と影に変化をつけたり、といった演出ができます。さらに、運よく終日晴天に恵まれた日には“時間帯の違い”も意識しながら撮影すると良いでしょう。その違いによって、紅葉や周囲の風景の見え方が、かなり変わってくるからです。
オススメの時間帯は、朝と夕方。特にオススメなのが、夕方です。
朝と夕方、どちらも斜光線によって被写体や風景に影ができて、立体感やメリハリが生まれます。ですが、朝は日の出と同時に斜光線と影による変化がいきなりピークを迎え、後は徐々に平凡な光線状態に移行します。
それに対して、夕方は平凡な光線状態から、徐々に斜光線と影が目立つドラマチックな光景へと変わっていきます。つまり、次第に訪れる“絶好の時間帯”に合わせて、光と影の変化を意識しながら紅葉をじっくり観察したり、余裕を持って撮影準備ができるのです。
夕方の日陰に浮かびあがる、松明のような黄葉
向かい合う並木の影が、魅力的な風景に変える
低角度の夕日が作り出す“長い影”を狙う
〈point4〉地面や水面の落ち葉も狙おう
木全体を写すにしても、特定の枝の葉を狙うにしても、紅葉撮影では被写体の状態(色づき具合や密集度など)を、しっかり見定める必要があります。そうなると、必然的に目線よりも上の方に視線を送る事が多くなるでしょう。
ですが、魅力的な紅葉は下の方にもあります。そう、足元に広がる「落ち葉」です。この足元にある被写体は、木の枝の葉とは違って自由に近づく事ができます。ですから、マクロレンズで特定の葉を大きく写したり、広角レンズで広い範囲を写し込んだり、といった多様なアプローチが可能です。また、足元(地面)ほど自由ではありませんが、池などの水面に浮かぶ葉も、魅力的な被写体です。
実際の撮影で注意したいのが、地面(または水面)自体の状態です。その部分が汚らしいと、せっかくの美しい落ち葉も台無しになるからです。タバコの吸い殻や小さな紙屑といったゴミ類は論外ですが、落ち葉の形や色を損なうような、美しくない枯れ葉が乱雑に散らかる地面なども、できるだけ避けるようにしましょう。
落ち葉と他の植物との“形や色彩の対比”
逆光に映える落ち葉を広角で写し込む
水面上と水底の落ち葉の対比に着目
要注意!水面の汚れが雰囲気を壊す
まとめ
4つの〈point〉を意識しながら“目を引く紅葉写真”に仕上げる
今回は取り上げませんでしたが、印象的な紅葉写真を撮るには、カメラやレンズの性能や仕様も気になるでしょう。当然、その違いによって、同じ被写体でも写真の出来映えは変わってきます。
しかし、それ以上に重要なのが、被写体を発見したり見極める“観察力”です。そして、自分の美的価値観と照らし合わせながら、様々なアプローチを試みたいものです。
今回取り上げた4つのポイントは、そのアプローチのための重要なキーワードになります。また、4つのポイント中の、背景の色や明暗、逆光、夕方の斜光線と影。この3つのポイントは、互いに絡み合う要素です。実際にアプローチする際には、その事を意識しながら撮影すると良いでしょう。
撮影・文/吉森信哉