昭和の時代は、みんないっしょにテレビを見ていました。みんなが1つの話題を共有できた時代があったのです。しかし、今は一人ひとりが楽しむ時代。若者に大事なことを教えようと熱を込めて話しても、説教にしか聞こえません。若い人との接し方について、書籍『我が家は前からソーシャル・ディスタンス』著者で漫談家の綾小路きみまろさんに教えていただきました。
著者のプロフィール
綾小路きみまろ(あやのこうじ・きみまろ)
1950年、鹿児島県生まれ。漫談家。落語協会会員。司会者を目指し上京。その後、キャバレーの司会者や森進一、小林幸子、伍代夏子ら演歌歌手の専属司会者を経て、中高年の悲哀を題材とした自作の漫談テープがきっかけとなり、2002年にCD『綾小路きみまろ 爆笑スーパーライブ第1集! 中高年に愛を込めて…』をリリース。185万枚超の売り上げを記録し、以降、「中高年のアイドル」としてライブをはじめ、各メディアで絶大な人気を誇る。現在もライブツアーをはじめ、YouTubeチャンネルを開設するなど、精力的な活動を続けている。CD・DVD総売り上げ520万枚超、著書累計200万部超。
▼公式ホームページ
▼公式YouTube「綾小路きみまろ公式チャンネル」
▼公式Instagramアカウント
本稿は『我が家は前からソーシャル・ディスタンス』(マキノ出版)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。
イラスト/おおさわゆう
心のソーシャル・ディスタンスをわきまえよ
無理やり会話に混ざろうとしてしまう
家族や知人から「その話、さっきも聞いた」と冷めた目線で言われたこと、ありませんか?これ、私も、わりと頻繁に経験しています。さすがに、ライブ本番で同じネタを何度も唱え続けていたら、いよいよ引退を考えますが。
私は、「さっきも聞いた」とツッコまれたときは、反省するように心がけています。忘れたことが悪いわけではありません。くり返し同じ話をしたことも、それほど悪いことではありません。
恐らく、家族や親しい友人・知人たちから冷たい目で見られるときというのは、無理やり、みんなの会話に私が混ざろうとしたときなんじゃないかと思うのです。「相手に理解してほしい」という気持ちが、強く出過ぎてしまっている。それで、多少なりとも疎ましく思われてしまうのだろうと推測します。
出しゃばらないのが重要
私は、特に仕事の現場では、出しゃばらないことを心に決めています。控えめ。出すぎない。若者に混ざらない。これが重要だと思うのです。
「きみまろさん、時代についていけません。どうしましょう?」
中高年のオヤジさんたちからよく嘆かれます。正直、そんなに無理する必要はないと思いますね。いつの時代にも、「若者言葉」というものがあります。若い人たちの間には、彼ら独特の言葉の流行があって、みんな、自然にそれを使っています。
たとえば「映(ば)える」という言葉の意味、ご存じですか?これは、フェイスブックやインスタグラムなどのインターネット交流サイトで投稿された写真が、鮮やかに際立って見栄えがよいこと、を指します。何?「銀バエがたかること」だと思っていた?ご主人。じゃあ、まさにあなたは今、映えているところですよ!
こういう若者言葉を、我々オヤジが無理して使うと、バカにされるのです。なぜなら、彼らにとって、我々は別社会の人間だから。似たような外見(人類として)だけれど、中身の違う別の生き物みたいなもんなんです。悲しいことですが、文化が途切れてしまっているんですね。そこに無理やり混ざろうとするから、不具合が生じるのです。
本稿は『我が家は前からソーシャル・ディスタンス』(マキノ出版)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。
今は一人ひとりが楽しむ時代
昭和の時代は、おじいさん、おばあさん、お父さん、お母さん、そして子どもたちと、みんないっしょにテレビを見ていました。テレビは一家に1台。自分の見たいアニメを、父ちゃんの野球中継のせいで見られなかった恨みやつらみはあったかもしれませんが、みんなが1つの話題を共有できた時代が、確かにあったのです。
しかし、今は一人ひとりが楽しむ時代。若い人たちは、ネットにつながっていれば、YouTubeだけでOK、そんな文化なんです。
これは、今の若い人たちが悪い、という話では決してありません。中身は別の生物なんだから、無理に溶け込むほうが悪いということです。若者に大事なことを教えようと熱を込めて話しても、説教にしか聞こえません。「このオヤジ、ウザいなあ……」と思われるばかり、大事な話は若者たちの左耳から右耳へ抜けていきます。
お説教 感染力は コロナ以下
混ざろうという努力は無駄なので、無理して混ざらなくてよいのです。もとより、水と油なんだから混ざりません。
私きみまろ、しっかり心のソーシャル・ディスタンスをとっておくよう、いつも心がけています。いいカッコをしようと、若者に必死に近付きすぎない。無理しない。それがいちばんですよ。
横柄な態度は絶対にダメ
ある番組収録のとき、元SMAPの中居正広さんに、「きみまろさん、若い子にも敬語なんですね」
と驚かれたことがありました。
自分でそういう位置づけにしているのです。横柄な態度は、絶対にダメ。皆様に敬語。若者にも高齢者にも不快な気持ちを与えないよう努めています。そして、会話は、しつこく聞かない。深入りしない。人によっては、深い話をされると不快に感じることもありますからね。
若者たちとも、さりげなく会話をして、「お元気で!」ってパッと別れる。無粋にならないよう、気を遣っています。
オヤジ臭は消したほうがよろしい
あと、周囲が不快な思いをされないよう、清潔感も意識しています。よく歯を磨き、オヤジ臭は消したほうがよろしいですね。そのために、いい匂いを漂わせましょう。
ちなみに、私は、オーデコロンをいろいろ試しています。ひょっとしたら、若い娘がコロンといかないとも限りませんからね!
加齢臭 いっしょに隠す 下心
ウソです。若者とは深く混じれないのですから……。
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なお、本稿は書籍『我が家は前からソーシャル・ディスタンス』(マキノ出版)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。コロナ疲れに自粛疲れ。知らず知らずのうちにストレスがたまる日々。大いに笑いたい、大いに人生を楽しみたい。でも、どこかで誰かに遠慮しなくてはいけない。なかなか難しい時代ですが、一人であれば、誰にも遠慮することなく笑っていいのです。本書は、ただひたすらに笑ってほしいと願う著者が、中高年の悩みを一“笑”両断した内容となっています。また公演内容をもとに再構成した紙上漫談も収載されています。詳しくは下記のリンクからご覧ください。
※「夫の顔を見ただけで副反応……冷めた妻と濃厚接触圏内に近づくには」の記事もご覧ください。