たんぱく質は「食べ溜め」できません。特に、夕食と朝食の間は時間が空くため、朝、体はたんぱく質に飢えている状態です。NHKの生活情報番組『ガッテン!』では、体がたんぱく質を必要としている「朝」に、たんぱく質をしっかり摂ってアミノ酸を補給することで、筋肉の分解を抑えることができる(筋肉増強できる)として、「朝たん」(=朝ごはんたんぱく質)を紹介、話題となりました。たんぱく質を効率的に摂るためのコツについて、書籍『イラスト&図解 知識ゼロでも楽しく読める! たんぱく質のしくみ』著者で、理学博士の佐々木一さんに解説していただきました。
解説者のプロフィール
佐々木一(ささき・はじめ)
理学博士。山形大学理学部生命学科卒業後、名古屋大学理学部大学院生物学専攻修了。乳業メーカーの研究員を経て、神奈川工科大学管理栄養学科教授に就任。2019年3月に定年退職。研究員時代にホエイたんぱく質の抗炎症作用を発見し、病院向け流動食として商品化。現在、乳清たんぱく質及び乳清ペプチドを用いた筋肉増強作用の研究を進めている。
▼専門分野・研究論文(KAKEN)
本稿は『イラスト&図解 知識ゼロでも楽しく読める! たんぱく質のしくみ』(西東社)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。
イラスト/くにともゆかり、栗生ゑゐこ、Getty Images
朝、昼、晩、たんぱく質はいつとるのがよい?
たんぱく質は食べ溜めできない!朝昼晩、毎食20〜30gのたんぱく質をとろう
朝昼晩、3食の食事配分を考えると、夜にたっぷり食べる人が多いのではないでしょうか。しかし、「夕食で、たんぱく質をたっぷりとれば、朝食・昼食で足りなかった分を補える」というわけではありません。
特に夕食と朝食の間は時間が空くため、朝食のときには、体はたんぱく質に飢えている状態です。朝食はたんぱく質が補給できるものをしっかり食べるように、食事のスタイルを見直してみましょう。
▼たんぱく質のとり方の現状と理想
現状だと1日のたんぱく質必要量はとれていても、たんぱく質を合成できるのが夜のみになってしまう。たんぱく質合成を1日通して維持するには毎食ごと必要量を摂取するのが理想。
効率的にとるために、たんぱく質の次の3つの特性を覚えておきましょう。
(1)たんぱく質は食べ溜めができない。
(2)一度にとる量が少ないと、筋肉合成を最大にすることができない。
(3)たんぱく質摂取量30g前後で筋肉の合成はストップする(つまり、一度にたくさんの量を摂取してもあまり意味がない)。
これらの特性から、たんぱく質は毎食20~30g摂取するのが効率的といえます。たいていの食品のパッケージには含まれるたんぱく質の量が書かれているので、参考にしましょう。
また、普段よく食べる食材に含まれているたんぱく質量を覚えておくと、不足したときにすぐ対応ができるので便利です。
▼たんぱく質量20gってどれくらい?
身近な食材でたんぱく質量20gをとるにはこれくらいの量が必要。
本稿は『イラスト&図解 知識ゼロでも楽しく読める! たんぱく質のしくみ』(西東社)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。
たんぱく質摂取は運動前と運動後、どっちがよい?
筋肉アップを狙うなら運動前も運動後もたんぱく質は必要
運動前に意識したいのは、体を動かすエネルギー、糖質です。お腹がすいているとき、血液中に糖質は少なくなっており、体は燃料不足の状態です。
空腹で運動をすると、体は肝臓や筋肉に貯えられたグリコーゲン(糖質)を使い、これを使い切ると次に筋肉を分解して使うため、筋肉が減ってしまいます。
▼空腹での運動は筋肉を減らす
運動で使うエネルギーをあらかじめ補っておかなければ、筋肉が分解されエネルギーがつくられる。運動することでかえって筋肉が減ることに。
たとえば早朝に運動をする場合、前日の夕食を最後にたんぱく質が補給されていない状態で運動を始めると、筋肉はどんどん分解されてしまいます。朝、運動をするのなら、運動前に必ずたんぱく質と糖質を含む軽い食事をとりましょう。
昼・夜であれば、それほどたんぱく質に神経質にならなくても大丈夫ですが、運動を始める前は糖質補給を忘れずに。
運動後は30分以内を目安に、たんぱく質をとりましょう。運動後30分はホルモンの活動が活発な時間帯。体は筋肉の材料を必要としています。タイミングを逃さずにたんぱく質をとれば、筋肉合成を最大限に促進することができます。
さらに、トレーニング後24~48時間は、筋肉代謝は合成優位の状態が続くことがわかっています。運動直後はもちろん、運動後48時間くらいまでは、たんぱく質の摂取を怠らないようにしましょう。
▼運動後30分以内にたんぱく質を
マイオカインの一種、IL-6(インターロイキン6)は、筋肥大に関与するホルモン。
運動前後にIL-6の分泌量を調べると、運動直後に急増。このタイミングでたんぱく質を摂取するとよい。
運動しない日はたんぱく質はいらない?
運動の影響は運動後2日間も続く たんぱく質はとり続けよう!
筋肉を大きくするには休養も必要ですが、「休養する日は、たんぱく質をとらなくてよい」というわけではありません。運動しない日でも、運動する日と同じように、たんぱく質をとり続けましょう。
筋肉合成のスピードが最高に高まるのは、運動の2時間後くらいなので、運動直後にとるたんぱく質が最重要なのはいうまでもありません。しかし、その後もたんぱく質をとり続けることで、効率よく筋肉を大きくできます。なぜなら、運動が筋肉合成に与える効果は、運動後2日間は持続しているからです。
▼筋肉アップのチャンスは、運動後1〜2日続く
運動後の筋肉合成速度の経過を見てみると、ピーク後はゆるやかに合成スピードが落ちつつも通常よりは高い状態を長時間キープしているのがわかる。また運動の3時間、24時間後もたんぱく質摂取により合成スピードが跳ね上がる。
運動した後の48時間は、たんぱく質を摂取するたび、筋肉合成のスピードが上がります。効率よく筋肉を大きくできるこのチャンスを逃さないためにも、たんぱく質摂取は、運動する、運動しないにかかわらず、毎日の習慣にしましょう。
運動しない日でも、たんぱく質摂取量を減らす必要はありませんが、摂取エネルギーには要注意。運動をしないのに、運動する日と同じエネルギーを摂取すれば、カロリーオーバーになってしまいます。運動しないことで消費エネルギーが減ることを考慮し、食事内容を考えるようにしましょう。
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なお、本稿は書籍『イラスト&図解 知識ゼロでも楽しく読める! たんぱく質のしくみ』(西東社)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。ヒトの体の約60%は水分で、次に多いのが約20%を占めるたんぱく質。筋肉の原料となることはよく知られていますが、皮膚や髪、爪、血管、内臓に至るまで、たんぱく質から構成されていることはご存知でしたでしょうか。ダイエットの成功も、美しい肌や髪をつくるのも、心身の健康を保つのも、すべてたんぱく質がカギとなっているのです。本書では、たんぱく質のはたらきから、よりよい摂取方法、また摂取不足が引き起こす諸問題について、わかりやすく説明しています。難しい話は苦手という方でも、たんぱく質についてやさしく学べる内容となっています。詳しくは下記のリンクからご覧ください。
※たんぱく質と筋肉の関係 摂取は筋トレの前?後?の記事もご覧ください。