春夏秋冬を彩る多種多様の花は、多くの人の目を楽しませて、四季や自然の素晴らしさを実感させてくれます。そんな花の姿は、写真の被写体やテーマとして魅力的です。本格的なカメラとレンズを使って「ボケ効果を利用して撮影したい!」と思っている人も多いでしょう。ですが、ボケ効果と"ピント合わせの失敗"は表裏一体。思った所にピントが合わなかったり、ピント位置が適切でなかったり……。そういう不満や問題を解消する、ピント合わせのテクニックやノウハウを紹介したいと思います。
執筆者のプロフィール
吉森信哉(よしもり・しんや)
広島県庄原市生まれ。地元の県立高校卒業後、上京して東京写真専門学校(現・東京ビジュアルアーツ)に入学。卒業後は専門学校時代の仲間と渋谷に自主ギャラリーを開設し、作品の創作と発表活動を行う。カメラメーカー系ギャラリーでも個展を開催。1990年より、カメラ誌などで、撮影・執筆活動を開始。ライフワークは、暮らしの中の花景色、奈良大和路、など。公益社団法人 日本写真家協会会員。カメラグランプリ2022選考委員。
AFターゲットモードの選択
1つのAFターゲットで、狙った花にピントを合わせる
マイクロフォーサーズ、APS-Cサイズ、35ミリ判フルサイズ。こういった大型センサーを採用したカメラでは、望遠レンズやマクロレンズ(マクロ域)を使って撮影することで、被写体の前後を大きくボカせます。そのボケ効果によって、自分が魅力を感じた花の存在感を高めることができるのです。
しかし、AFターゲットモード(※)が、カメラが自動的にピントを合わせる位置を決める「オールターゲット」だと、自分がピントを合わせたい花とは違う部分にピントが合うことがあります。ですから、花を撮影する場合には、オールターゲットモードではなく「シングルターゲット」や「スモールターゲット」のモードを選ぶと良いでしょう。
そして、画面構成(構図)に応じて、画面内の花の位置に重なる(または近い)1つのAFターゲットを選択します。そうすれば、手前に障害物があったり、撮りたい花が小さい場合などでも、狙った部分にピントが合わせられます。
(※)画面内のどの測距点でピントを合わせるかを選ぶモード。この「AFターゲットモード」は、オリンパス(現在はOM SYSTEM)での名称。キヤノンでは「測距エリア選択モード」、ニコンでは「AFエリアモード」、ソニーでは「フォーカスエリア」、などと呼ばれる。
「オールターゲット」~花弁の先端にピントが合ってしまった
「シングルターゲット」~花の“しべ”にピントが合わせられた
前ボケを入れながら、狙った部分にピントを合わせる
AF方式の選択
動きのある花や手持ちマクロ撮影は、コンティニアスAFで追従
AFによるピント合わせでは、画面内のどの測距点でピントを合わせるかを選ぶAFターゲットモードだけでなく、AFの挙動を選択する「AF方式」も重要になってきます。そのAF方式は、大ざっぱに言うと「シングルAF」と「コンティニアスAF」に大別することができます(※)。
「シングルAF」は、シャッターボタン半押しでAFが作動し、ピントが合うとその状態(ピント位置)が保持される方式です。この方式は、風景や記念写真的な人物をはじめとする、多くの撮影シーンに使用されます。
一方「コンティニアスAF」は、シャッターボタン半押しでAFが作動するのはシングルAFと同じですが、シャッターボタンの半押しを継続している間は、ピントが合った後もAF作動が繰り返されます。この方式は、乗り物やスポーツなど、動きのある(撮影距離が変わる)被写体の撮影に多用されています。
花の撮影には、どちらのAF方式を選べば良いでしょうか? 一般的には、風景などと同じように「シングルAFが良さそう」と思う人が多いでしょう。それは間違いではありません。しかし、風の影響を受けて前後に揺れている花や、花を大きく狙うマクロ撮影などでは、シングルAFより「コンティニアスAF」の方がオススメです。
シングルAFによるピント合わせだと、ピントが合った後の被写体の動きに対応できず、シャッターが切れた時にはピンボケになっている……という危険性があります。その点、コンティニアスAFなら、シャッターが切れる直前までピント合わせが繰り返されるので、シングルAFよりもピンボケになる確率が抑えられるのです。
(※)シングルAFは「AF-S」や「S-AF」。コンティニアスAFは「AF-C」や「C-AF」。などと表記される。
シングルAFで撮ったらピント位置がズレた
コンティニアスAFで狙った部分にピントが合った!
花のどの部分にピントを合わせるか?
基本は狙った花の"しべ"部分。構図によっては目立つ花弁など
レンズの焦点距離、絞り値、撮影距離。ピント位置前後のボケ具合は、この3要素によって変わります。花を大きく写そうと思ったら、必然的に撮影距離が短くなります。そうすると、ピント位置前後が大きくボケるため、適切な部分にピントを合わせないと、ピンボケっぽい不自然な写真になります。特に立体的な形状(球状やラッパ状など)の花などは、どこにピントを合わせるかによって、写真の印象が大きく変わります。
狙った花の、どの部分にピントを合わせたら良いか? その答えは人によって違うでしょうし、花のアングルや画面構成によっても変わります。ただし、一般的には"しべにピントを合わせる"のが適切とされています。具体的には、雌しべが目立っていればそこに合わせ、雌しべより雄しべが目立つ花ならそこに(複数の雄しべの中から、より目立つ部分を選んで)ピントを合わせます。それを意識すると良いでしょう。
ただし、花の種類や狙うアングルによっては"しべ"が見えない場合もありますし、一輪の花を部分的に切り取る撮り方もあります。そういったケースでは、目立つ花弁のエッジ(縁)や先端部分にピントを合わせると、自然な写真に仕上がります。
花の中央奥"しべ"が集まる部分にピント
目立つ花弁がボケるとピンボケ感が強まる
画面構成の違いでピントの印象も変わる
目立つ手前の花弁にピントを合わせた
群生を撮る場合のピント位置
画面構成上の基本と、目立つ花の見定め
花畑や群生で、多くの花を写す場合にも、ピント位置に対する注意が必要です。同じ品種の似通った花なら、どの花にピントを合わせても問題いのでは? そう思うかもしれません。しかし、安易にピント合わせをすると、後から写真を見返した際に「ピントはこの花じゃなかったな」と、後悔することになります。
まず、花自体を見定める前に、私が考える画面構成上の基本を紹介しましょう。
「画面周辺よりも中央付近」
「奥よりも手前」
画面内に多くの(万遍なく)花が入る場合は、この2つを意識しています。また、別の観点で表現すると、下記のようになります。
「中央付近や手前の花が中途半端にボケると、目障りな存在になる」
その点に注意しながら画面構成(構図調整)の段階で"目立つ一輪"を見定め、その花にピントを合わせるようにしています。
なお、同じ品種の似通った花でも、大きさや形や色、隣接する花との干渉、これらの要素や条件によって目立ち具合は変わります。その点も意識しながらピント合わせをすれば、自然かつ印象的な群生写真に仕上がるでしょう。
中央付近の3輪に注目してピントを合わせる
群生の中の目立つ花を主役に!
まとめ
AF設定や表現意図で、適切な部分にピントを合わせたい
梅や桜など花木の並木から、小さな一輪のクローズアップまで……。と、花に対するアプローチはさまざまです。そして、焦点距離の長い望遠レンズやマクロレンズによる高倍率の撮影では、わずかなピント位置の違いや狂いで、写真の完成度や雰囲気が変わってきます。
「この花のピント位置は、絶対にここ!」
そんな明快な答えは、見つからないかもしれません。ですが、自分の意思とは違う部分にピントが合うような事態は、避けなければいけません。今回説明したAFターゲットモードやAF方式を適切に使いこなせれば、うまく避けられるでしょう。
これらのプロセスを経ながら、印象に残った花や部位にピントを合わせるようにします。そうすれば、自分の観察眼や表現意図が反映された"満足できる花写真"が撮れるはずです。
撮影・文/吉森信哉