1cmジャンプを考案した第一の理由は、転倒予防のためです。転びそうになった瞬間、体を支えてバランスを回復させるのに最も重要なのは、太ももやふくらはぎではありません。地面に接している足の裏であり、足の指なのです。【解説】小林篤史(宮前まちの整骨院代表)
解説者のプロフィール
小林篤史(こばやし・あつし)
宮前まちの整骨院代表。柔道整復師、指圧師、あん摩マッサージ師。「猫背を正せば体は治る」の考えをもとに治療プログラム「猫背矯正」を開発。これまで3万人を超える患者の猫背を治し、現在は後進の育成にも励んでいる。著書に『ビジュアル版 ねこ背は10秒で治せる!』(マキノ出版)などがある。
足の指や裏を使えれば転倒を回避できる!
私は、これまで3万人を超えるかたがたのネコ背を矯正してきました。そのためにさまざまな体操などを提案してきましたが、私が近年着目し、皆さんにお勧めしている方法が、「1cmジャンプ」です。
1cmジャンプとは、その名のとおり、その場で1cmだけ飛び上がるというシンプルな運動です。特に高齢者のかたに、この1cmジャンプをお勧めして大きな成果を上げています。
ジャンプの効能は、ネコ背矯正だけに留まりません。ほかにも多くの効能が期待できます。
このジャンプを考案した第一の理由は、転倒予防のためです。従来、転倒予防のためには、太ももなどの筋肉強化が勧められてきました。
加齢や運動不足などによって、足の筋力が低下すれば、転びやすくなるのは事実です。しかし実際にバランスをくずして、転びそうになった瞬間、体を支えてバランスを回復させるのに最も重要なのは、太ももやふくらはぎではありません。地面に接している足の裏であり、足の指なのです。
現代人は、この足の指の力がさまざまな事情から落ちてしまっています。
例えばファッション性の高い靴を毎日はいていると、足の指が狭い靴の中に押し込められているため、足の指どうしがくっつき、指が変形してしまいます。その結果として、「外反母趾」や「内反小趾」、「浮き指」といった症状が起こります。
本来足の指は、手の指と同じように使えるものです。あなたは、足の指で、グー、チョキ、パーができるでしょうか。できないかたが多いと思います。
ひざ痛や股関節痛の予防・改善にも有用
ご紹介する1cmジャンプは、着地の際に、地面を足の指でつかむようにイメージすることが重要です。これによって、足の指の機能と筋力の回復を目指します。
むろん、ジャンプには、下肢の筋力強化を図る意味合いもあります。
スーパーで買い物カートに寄りかかっている年配女性や、移動時にシルバーカー(足腰の衰えた高齢者を補助する手押し車)に頼っているかたは少なくありません。
こういう姿勢を取ってしまうのは、お尻の筋肉が弱っているからです。自分の筋力だけで体を支えるのがつらいので、支えがあると、そちらに寄りかかってしまうのです。
その状態では、姿勢がよくなるはずもありません。この弱り切ったお尻側の筋肉の強化のために、ジャンプが役立つのです。
それから、ジャンプで着地した瞬間の、ズーンという着地の衝撃を感じることも大事です。この刺激が骨に伝わり、背骨を通り、脳へも届きます。認知機能へのいい影響はもちろん、骨が刺激されることは、骨粗鬆症予防にも有効です。
またジャンプをする際には、ひざを曲げるため、必然的に股関節を使います。このひざや股関節の痛みを予防・改善するのにも有用でしょう。
1cmジャンプを行う時間帯としては、朝の習慣にするのがお勧めです。ジャンプによって、心身を目覚めさせる効果も期待できるからです。むろん、日中や夜に時間を見つけて行ってもかまいません。
1cmジャンプは、できれば、はだしで行うのがベスト。着地の際、床を足の指でつかむイメージですから、そのイメージを実現しやすいはだしがいちばんお勧めです。
跳んでいるうちに、足場がズレてしまうような敷物やカーペットなどの上では行わないでください。転倒予防の力をつけるためのジャンプで転倒してケガをしてしまったら、元も子もありません。いわゆる板の間や畳の上で行うのがお勧めです。
バランス感覚に自信がない高齢のかたは、とっさに体を支えられるような壁の近くなどで行ったり、イスやテーブルなどにつかまって行ってください。
■この記事は『壮快』2022年9月号に掲載されています。