魅力的な被写体なのに、撮影してみたら写真はイマイチ……。その反対に、平凡な被写体なのに、不思議と目を引く写真に仕上がった。そんな経験をした事はありませんか? もしかしたら、その違いの要因は"背景"かもしれません。被写体が同じでも、背景の選択やそこに写り込む要素が変わると、写真の雰囲気や出来映えが変わってくるのです。被写体の魅力や雰囲気が伝わる写真に仕上げるために必要な、背景に求められる要素や注意点。その4つのキーワードを紹介します。
執筆者のプロフィール
吉森信哉(よしもり・しんや)
広島県庄原市生まれ。地元の県立高校卒業後、上京して東京写真専門学校(現・東京ビジュアルアーツ)に入学。卒業後は専門学校時代の仲間と渋谷に自主ギャラリーを開設し、作品の創作と発表活動を行う。カメラメーカー系ギャラリーでも個展を開催。1990年より、カメラ誌などで、撮影・執筆活動を開始。ライフワークは、暮らしの中の花景色、奈良大和路、など。公益社団法人 日本写真家協会会員。カメラグランプリ2022選考委員。
"ぼかす"背景
目障りな背景を避けて、開放近くの絞りで背景を大きくぼかす
被写体の存在感や印象を高める背景コントロールで、まず最初に思いつくのが"ぼかす"という方法です。それによって、被写体を浮き立たせることができ、写真の主役を明確にすることができます。ただし、どんなに大きくぼかしても、目障りな絵柄だったり、被写体の存在感を損なうような背景(色や明暗などの要素)だと、あまり意味がありません。その点を留意してください。
ピント位置前後のボケ具合(大きさ)を左右する要素はいくつかあります。カメラのセンサーサイズ、レンズの焦点距離、絞り値、ピント位置までの距離。これらの要素になります。撮影機材面でのアプローチとしては、大型センサー(一般的には4/3型以上)カメラと、開放F値の明るいレンズを用意すること。開放F値が平凡なら、焦点距離の長いレンズを用意することです。
そして、被写体にある程度接近して、絞りを開放側に設定して撮影します。例えば、単焦点の標準や中望遠レンズなら、F2から開放にかけての絞り値がオススメです。なお、大きくボケるということは"ピンボケになりやすい"ということにもなります。ですから、ピント合わせの際には、被写体の"どの部分にピントを合わせるか"という、シビアなピント調整やチェックも必要になってきます。
「F8」~被写体と背景、どちらもハッキリ見える
「F1.8開放」~被写体が背景から浮かび上がる
"追い出す&隠す"背景
目障りなモノを、画面外に排除したり被写体の後ろに隠す
雰囲気は悪くないし、被写体との組み合わせも問題はなさそう。そんな背景を選んで撮影したのに、後からチェックして「あっ、失敗した!」と後悔することがあります。その失敗の要因に挙げられるのが、背景の中に目障りなモノが写り込むことです。
もちろん、一見して目立つようなモノなら、すぐに気づいて排除するでしょう。厄介なのは、小さくて気づきにくいモノです。食品包装や空き缶などのゴミ類。工事現場近くの規制ロープやカラーコーン。周囲の景観に馴染まない看板やポスター。そういった要素は、小さくて目立たなくても(画面の中で)、一度気づいてしまうと、かなり目障りに感じてしまいます。ですから、時間的な余裕がある場合は、シャッターを切る前に背景内に目障りなモノがないか、しっかりチェックしましょう。そして、撮影ポジションの変更や、レンズの画角変化などで、目障りなモノを画面外に追い出します。
ただし、被写体と目障りなモノが近い(距離ではなく位置関係)と、画面外に追い出すのは難しいかもしれません。そういう場合には、逆転の発想で臨みましょう。画面外に追い出すのではなく、被写体の後ろに"隠す"のです。目障りなモノが被写体よりも小さければ、撮影ポジションの左右移動や、カメラ位置の高低変化によって、割と簡単に隠すことができるでしょう。
石灯籠の後ろに重なる看板が見える
石灯籠の後ろに重ねて看板を隠す
"つぶす&飛ばす"背景
明暗差を利用して被写体を際立たせる
背景の色や明暗の違いによっても、被写体の印象や存在感は変わってきます。色に関しては、被写体と背景が補色(対照色、反対色)関係に近いほど被写体は目立ちます。そして明暗に関しても、両者が対照的であるほど被写体の形状や色彩が目立つのです。
この2つの要素の中で、より注目して欲しいのは"明暗の違い"です。現場の状況にもよりますが、背景の色を一変させるのは容易ではありません。ですが、同じ色でも光線状態や周囲の環境によっては、明るく見えたり暗く見えたりします。その違いを利用すれば、被写体の形や色を際立たせたり、写真の雰囲気を変えることができるのです。
例えば、木立ちを背景にするなら、幹や葉が幾重にも重なった奥まった部分。建物であれば、軒下の日陰になった部分。こういった暗い所を選んで背景をつぶせば、被写体の形や存在感は高まります。その反対に、室内の被写体で窓の外を背景にしたり、逆光で明るい空を背景にすれば、写真の雰囲気も明るく爽やかになります。ただし、白飛びを起こすような極端に明るい背景は、画面内の割合を控えめにしましょう。そうしないと、締まりのない写真になってしまいます。
暗い木陰の中に、花の形や色が映える
夕方の斜光線が生み出す明暗差を利用
まぶしさを演出する"最低限"の白飛び背景
"魅せる"背景
雰囲気を高める要素は積極的に写し込む
ここまで紹介した背景の選択や注意点では、被写体の印象や存在感を高めるために、排除すべき条件や要素について述べました。言うなれば"引き算の背景"です。しかし、周囲の状況や雰囲気が伝わって、写真の趣(おもむき)につながるような要素もあります。そういった要素は、積極的に写し込みたいものです。これは"足し算の背景"になりますね。
積極的に写し込みたいものには、風景的な要素と動きモノがあります。風景的な要素では、川や海、山並、木々や草花、などが挙げられます。これらを背景に写し込むことで、地域性や四季の風情が感じられる写真になります。動きモノでは、電車や自動車、通行人(バイクや自転車も含む)、犬猫や鳥、などが挙げられます。これらの要素を、背景内の適切な位置やタイミングで写し込めれば、スナップ的な魅力も加わります。
そう、この"適切な位置やタイミングで"という部分が重要になります。なかでも動きモノは、少しのタイミングのズレで被写体に重なったり画面端で切れたりします。ですから、カメラ設定や構図を終えた後は、シャッターを切るタイミングに意識を集中させましょう。
こいのぼりと山並で、季節感や地域性を!
背景に写る二人の動作を見定めて撮影
まとめ
主役の被写体が生きる背景コントロールを!
微妙なたとえかもしれませんが、被写体と背景の関係は、舞台やドラマの"主役"と"脇役"に似ている気がします。主役が不在だと物語は成り立ちません。また、被写体が魅力的でも脇役との相性が良くないと、物語としては残念な結果になります。ですから、心惹かれる被写体を見つけた時には、いつも以上に背景に気を配りましょう。
「ぼかす」「追い出す&隠す」「つぶす&飛ばす」「魅せる」
シャッターを切る前に、今回紹介したこの4つのキーワードを思い出してください。そして、被写体を魅力的に演出し、写真の雰囲気を盛り上げるような背景コントロールを心掛けましょう。
撮影・文/吉森信哉