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日本のバイオプラ導入
まず「前提」、そして「代替素材」の利用
日本のバイオプラ導入に向けては、環境省と経済産業省、農林水産省、文部科学省が合同して「バイオプラスチック導入ロードマップ」を公表しています。
その基本方針を図表①のように図式化してみました。

まず、バイオプラを導入する前に「前提」があります。プラ新法で規定されたワンウェイ(使い捨て)タイプのプラスチック製品(12品目)をはじめ、ワンウェイタイプの容器包装などを「使用合理化」により徹底して削減を図ることです。
次いで、使用合理化によっても削減すべきでない、すなわち必要なモノについては、「バイオプラスチック」もしくは「プラスチック代替素材」に置き換えるという2つの方法が示されます。
「プラスチック代替素材」とは、紙、木、竹などの天然由来の素材を指します。
例えば、店舗などが無料で配布しているスプーンやフォーク、ストローなどをプラスチック製でなく紙製や木製などの天然素材に替えることについてですが、問題は、それを使用する人が「許容できるか」、「使い勝手はどうなのか」というところにあります。
図表②は、プラ新法が施行されたときに行われた消費者調査で、プラスチック製のモノを挙げて、「紙製や木製でもいい」か、それとも「プラスチック製のほうがいい」かを尋ねた結果です。

図表②では、「紙製や木製でもいい」と答えた人の割合が多い順から10品目を掲出しています。
最も多くの人が紙製や木製でもいいと答えたのは「飲料カップ」でした。紙製カップなど、すでにプラッスチック製以外のモノも一般的に使われているからでしょう。
一方、「歯ブラシ」は紙製や木製でもいいという人の割合で10位にランクインしましたが、実際には、プラスチック製のほうがいいという人のほうが多いことが分かります。天然素材の歯ブラシもありますが、毛も柄も天然素材となると、まだまだ一般的とは言い難いからでしょうか。
もっとも、天然素材のモノが普及し始めれば、許容度も高まるでしょう。ただし、使い勝手のほうはどうでしょう?
「バイオプラ」か「代替素材」か?
再生可能な資源を使うことの意味
図表②で気になったのが、プラスチック製のほうがいいという人の割合が「店の無料スプーン等」は10%を切っていますが、「ストロー」は20%を超えていることです。
スプーンやフォークなどは、すでに紙製や木製のモノも出回っているので、抵抗が少ないという点で、飲料カップと同じと考えられます。しかし、ストローの中には、途中がジャバラ(蛇腹)になっているプラスチック製のものがあり、折り曲げて使いやすく、そういうストローを必要としている人もいます。
あのジャバラは、天然素材では再現しにくいのかしら…?もし、天然素材で再現できないようなら、バイオプラで従来のプラスチック製と同じ機能のストローをつくるべきかもしれませんよね。
つまり、図表①で「前提」の後に示された2つの方法のどちらにするか、従来のプラスチック製品の特性や代替する天然素材の状況など、いろいろな角度から検討しつつ、決める必要がありそうです。さらに、代替素材として、ひとつの天然素材ばかり使用するのも避けたほうがいいかもしれません。使い過ぎによって枯渇させてしまっては、本末転倒です。なぜなら、代替素材を活用する目的はRenewable(再生可能な資源による代替)にあるからです。
再生可能な資源とは、利用し続けても大丈夫な天然資源のことです。再生スピードに合わせて利用することで枯渇を防ぎます。石油などの化石資源も天然資源ですが、長い年月をかけて生成されるので、現在のような利用スピードでは枯渇が心配されます。化石資源の利用スピードを落とし、代わりに再生スピードの比較的早い生物資源(バイオマス)を利用しようというのです。
バイオプラにも、バイオマスを利用するモノがあります。同じ天然資源を使う場合、そのまま代替素材として使うか、バイオプラにすべきか、再生スピードとの兼ね合いで悩むこともありそうです。しかも、バイオマスを利用する動きは、さまざまな分野で広がっています。
例えば、植物によっては、人間が食べたり、家畜などの飼料に使われたり、再生可能エネルギー(バイオマス燃料)などにも活用されています。既存のプラスチックの代替として利用するだけではありません。再生可能な資源として、ずっと利用していくためには、さまざまな分野での利用の仕方に配慮しながら、再生可能な資源を守り育てていく必要があるのです。
CO² など温室効果ガス削減へ
SDGsの"バトンを渡す"
植物を栽培したり、森林を保護したりすることは、再生可能な資源を守り育てていく一つの方法です。もちろん、植物由来のプラスチックであっても、製品への加工時や廃棄(焼却)時などにはCO²(二酸化炭素)を排出します。ただし、その排出量分は、植物が光合成によって吸収してくれるとも考えられます。CO²などの温室効果ガスの排出量と植物などによって吸収される量が同じであれば、温室効果ガスの増加を防ぐことができます。
このように「排出量=吸収量」とすることを「カーボンニュートラル」と言います。排出量と吸収量をイコールにして「実質ゼロ」を目指すという考え方です。日本は、「2050年度までにカーボンニュートラルを実現」という目標を世界に向けて公表しています。その前段階として、「2030年度までに温室効果ガスの排出量を2013年度比で46%削減」という目標も掲げています。
つまり、2つの目標があります。2050年度までの目標をカーボンニュートラルの最終目標とすれば、2030年度までの目標は、その中間目標といった位置づけになります。2030年といえば、SDGs(持続可能な開発目標)の最終年です。しかし、最終年なのに終わりません。
SDGsには、カーボンニュートラルのように、通過点としての目標も少なくないようです。"バトンを渡す"の言葉のように、現在していること(バトン)を次の人々に手渡していくことが求められます。SDGsによる目標の多くは、"バトンを渡す"ことで、SDGsが終わった後も続きます。それは、植物の栽培や森林の保護でも、同じことが言えそうです。原料として利用された植物そのものは消費されなくなってしまいますが、新たに育つ植物にバトンを手渡していき、その繰り返しによって「再生と循環」が生まれます。
問題は、この再生と循環のなかに、既存のプラスチックが入っていないことです。