原因不明の慢性的な陰部や骨盤の痛みを訴える人は泌尿器科の患者全体の2~6%もいると考えられています。現在は、こうしたケースを前立腺炎などとは区別し「慢性骨盤痛症候群(CPPS)」と呼ぶようになってきました。【解説】小堀善友(獨協医科大学埼玉医療センターリプロダクションセンター准教授)
解説者のプロフィール
小堀善友(こぼり・よしとも)
獨協医科大学埼玉医療センターリプロダクションセンター准教授。男性不妊症、勃起・射精障害、性感染症などの治療を得意とする。
原因不明の股間の痛みは男女ともに多い!
「股間や骨盤に常に痛みや不快感がある。特におしっこをすると痛む……」というかた、いらっしゃいませんか?
こうした症状は、膀胱炎や性器ヘルペス(ヘルペス・ウイルス)による感染症も考えられますが、原因不明のことも少なくありません。
原因不明の慢性的な陰部や骨盤の痛みを訴える人は泌尿器科の患者全体の2~6%もいると考えられています。男性に多いですが、ときに女性のこともあります。
そうした患者さん(男性)に「慢性前立腺炎」という診断名がつくことがあります。しかし、全てが慢性前立腺炎で説明できるわけではなく、前立腺の炎症を証明することもできないことが現状です。
急性の前立腺炎は陰部からばい菌が入って起こる感染症で、ひどい排尿時痛や発熱などの特徴的な症状を伴います。抗生物質による治療で、1週間程度でよくなります。
ところが、尿を調べても細菌感染はなくて、血液検査で炎症も認められない。CTやMRIなどの画像検査でも異常が見当たらない。それなのになぜか痛みがある。
そんなとき、排尿時痛などの症状が前立腺炎と似ていることから「慢性前立腺炎」という診断名をつけてきたわけです。
しかし現在は、こうしたケースを前立腺炎とは区別し、「慢性骨盤痛症候群(CPPS)」と呼ぶようになってきました。
ちなみに、女性に多い「間質性膀胱炎」という病気があります。普通の膀胱炎と違って細菌感染が認められない、やはり原因不明の病気です。
慢性骨盤痛症候群の中には、間質性膀胱炎の症状の一環ではないかと考えられるものもあります。
抗うつ薬が劇的に効くケースもある
慢性骨盤痛症候群を診断したり、治療したりするためのガイドラインはまだありません。原因不明のため、これまでは対症療法で痛み止めを用いるくらいしかありませんでした。
しかし最近、慢性骨盤痛症候群が神経伝達の問題と関係していることがわかってきました。
患部に炎症などの明らかな原因があるのではなく、さまざまな泌尿器臓器や筋肉、神経、脳の働きが複合的に症状にかかわっていると考えられています。
実際に、慢性骨盤痛症候群には抗うつ薬や抗てんかん薬が有効と判明しています。これらは神経伝達物質に作用する薬です。
痛み止めだけで効果がなかった患者さんに抗うつ薬を併用してみたところ、劇的に改善したケースも多くあります。
慢性骨盤痛症候群に悩む人は「神経質な性格」が多いと言われており、私の治療経験からも明らかにその傾向があります。
最近、原因不明の慢性痛は、脳で「痛み」を感じるしくみに問題が起こっていると考えられています。
例えば、痛みを抑える働きをする脳の側坐核(大脳のほぼ中央に位置)の血流が低下していることなどが知られています。
痛みに対する不安から「楽しい」気持ちに切り替えると、側坐核の活動を高められることもわかっています。
慢性骨盤痛症候群でも、カウンセリングや認知行動療法などの心理療法が症状改善に役立つと期待されます。
いずれにせよ、こうした症状にお悩みのかたは、人知れず我慢せず、まずは泌尿器科を受診してください。
運動で慢性骨盤痛症候群が改善
米国の泌尿器科学会では、患者さん自身が実践できる対策として、次のことを推奨しています。
まず「なるべく、座るのをやめる」こと。陰部や骨盤底部に体重がかかって神経を刺激し、痛みを誘発するからです。仕事などで長時間座ることを避けられない人は、ドーナツ状の円座クッションを使用されるのがいいでしょう。
また、自転車はサドルによる圧迫が強いため、なるべく乗らないこと。硬いサドルによる圧迫は股間にダメージを与え、勃起障害や不妊症につながることもあります。
そして、「運動」も大切です。上体起こし(腹筋)、屈伸、ウオーキングなどの運動を継続的に行うのがよいでしょう。
近年、運動の習慣は想像以上に健康に重要だとわかっています。全身の血流の改善や脳へのよい影響もあると考えられており、慢性痛の改善にも積極的に推奨されるようになっています。
関節痛などの場合、運動自体がつらいこともあるかもしれませんが、慢性骨盤痛症候群が運動の妨げになることはあまりないでしょう。空いた時間でもかまいませんので、毎日、継続して運動をすることをお勧めします。
《慢性骨盤痛症候群改善には運動を!》