「みそは塩分が多いから体に悪い」。私はこれを「冤(塩)罪」だと考えています。みその塩分が血圧を上昇させにくいことは、我々の研究のみならず、ほかの研究でも明らかです。また、私たちは、みそと放射線の関連を調べました。三つの群に分けたマウスに、みそ入りのエサ、みそと同じ濃度の食塩入りのエサ、普通のエサを食べさせて、1週間後に放射線を照射。小腸の様子を観察しました。【解説】渡邊敦光(広島大学名誉教授)
解説者のプロフィール
渡邊敦光(わたなべ・ひろみつ)
広島大学名誉教授。理学博士。医学博士。熊本大学理学部卒業。九州大学大学院博士課程理学研究科修了。広島大学原爆放射線医科学研究所で助手、助教授を経て、1996年から教授。2004年より同職。その間、アメリカ・ウィスコンシン大学やイギリス・パターンソンガン研究所で主に放射線生物学の研究を重ねる。専門は実験病理学と放射線生物学。みその有用性の研究は、1989年から本格的に始めている。
発酵食品の塩分は血圧が上がりにくい
「みそは塩分が多いから体に悪い」というイメージを持っている人は、多いのではないでしょうか。しかし、私はこれを「冤(塩)罪」だと考えています。
みそ汁の1食当たりの塩分量は、およそ1.2gです。これは、ほかの食品と比較しても決して多いほうではありません。
みその塩分が血圧を上昇させにくいことは、我々の研究(下図参照)のみならず、ほかの研究でも明らかです。
実験では、食塩をとると血圧が上がりやすいラットを三つの群に分け、それぞれに食塩濃度2.6%のみそ入りのエサ、同じ濃度の食塩入りのエサ、普通のエサ(0.3%の食塩を含む)を食べさせて、12週間観察しました。
すると、食塩入りのエサを食べたラットは血圧が上昇したのに対して、みそ入りのエサを食べたほうは、普通のエサを食べたほうと、ほぼ同じ血圧のままだったのです。
同じように、脳卒中を自然発生するラット実験でも、みそ入りのエサを食べた群は、食塩入りのエサを食べた群に比べて、脳卒中の発生が遅れました。
《みそを含むエサを食べていたラットの血圧は上がらない》
日本、アメリカ、イギリス、中国間で比較すると、日本人の塩分摂取量は最も多いにもかかわらず、血圧はいちばん低いという調査結果もあります。
おそらく、日本人は食塩ではなく、みそなどの発酵食品として塩分を多く摂取しているため、血圧の上昇が抑えられているのではないかと推測されます。
放射線の害をブロック!トマトもガン予防に効く
みそには、放射線からの防御作用も確認されています。
長崎の原爆投下で被曝した秋月辰一郎医師(享年89歳)は、被曝後も職員や患者らと、みそ汁と玄米のおにぎりを毎日食べていたおかげで、原爆症にならずに済んだといいます。
私たちも、みそと放射線の関連を調べました。三つの群に分けたマウスに、みそ入りのエサ、みそと同じ濃度の食塩入りのエサ、普通のエサを食べさせて、1週間後に放射線を照射。小腸の様子を観察しました。
小腸は細胞分裂がさかんなので、放射線の影響を受けやすく、放射線を浴びると、新しい細胞が生まれなくなるのです。
その結果、みそ入りのエサを食べたマウスは、放射線を浴びたあとでも、小腸に新しい細胞が生まれ続けていました。食塩入りのエサ、普通のエサを食べたマウスでは、そのような現象は起こりませんでした。
つまり、みそには、放射線の障害から体を守る作用があったのです。
また、放射線を浴びた直後や翌日、2日後にみそ入りのエサを食べさせても効果がないこともわかりました。
さらに、みそは、半年〜2年熟成したみそが最も効果が高く、5年熟成したみそでは効果が減り、10年熟成したみそでは効果が全くないことも確認しました。
これらの点から、医療機関で胸部X線やCTスキャン検査を受ける際は、半年〜2年熟成したみそを1週間ほど前からとっておくと、被曝からの防御作用が期待できると考えられます。
実際、CTスキャンを何度も受けると放射線の被曝量が増え、ガン発症のリスクが高まるという報告があります。心配なかたは、検査前とあとに、積極的にみそ汁をとるといいでしょう。
さらに、私たちの動物実験の結果から、胃ガン、大腸ガン、肝ガンを抑えることも判明しました。現在、ガンに対する有効成分の解析を進めている最中です。
私は、健康のためには、1日2杯程度のみそ汁をとることをお勧めします。私自身、昼食には毎日、大さじ1杯のみそに、小魚を粉末にした物とワカメを加えて、お湯を注いで即席みそ汁を作り、とっています。
また、自宅でも具だくさんのみそ汁をまとめて作り、常に冷蔵庫に入れてあります。365日、みそ汁をとっても不思議と飽きることはなく、78歳の今でも健康で、肌質も良好です。
みそ汁の具材によっては、さらなる効果が期待できます。
私が今、注目している具材は、トマトです。トマトには、抗酸化作用、心血管疾患を抑える作用、大腸ガン、前立腺ガンの抑制作用などが、膨大な研究データで報告されています。
しかも、生のトマトより加熱したほうが、効果は高いようです。また、トマトに熱を加えるとグルタミン酸が出て、旨みもアップします。栄養学的にも、非常におもしろい組み合わせといえるでしょう。ただし、トマトはカリウムが多いので、腎臓が悪いかたは注意が必要です。
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