医師が行う治療は、人間に本来備わっている自然治癒力が働きやすいように準備をしているだけなのです。そこで私は、自分や家族ができる養生法をいくつか考案し、これを「脳の養生法」として患者さんや家族に勧めています。【解説】神田橋條治(伊敷病院医師)
解説者のプロフィール
神田橋條治(かんだばし・じょうじ)
伊敷病院医師。1937年、鹿児島県出身。九州大学医学部卒業。九州大学医学部精神神経科、精神分析療法専攻。現在は、鹿児島市の伊敷病院で精神科医として非常勤で勤めながら、後輩の指導と育成に努めている。多くの精神科医や臨床心理士のファンを持つカリスマ精神科医。著書は『精神科診断面接のコツ』『精神療法面接のコツ』『精神科養生のコツ』(岩崎学術出版社)のコツ3部作をはじめ、『発達障害は治りますか?』(花風社)など多数。
自然治癒力を高める「脳の養生法」
私は精神科医として50年以上患者さんと接してきました。病院には、PTSD(心的外傷後ストレス障害)や自閉症、発達障害などさまざまな患者さんが来院されます。精神疾患は脳の苦しみや不調が原因です。
精神疾患の患者さんに限らず、情報の氾濫、仕事や人間関係など、現代人の周りにはストレスをもたらすものがあふれているので、「夜、眠れない」「イライラする」といった、脳の苦しみや脳の不調を感じたことのある人は少なくないでしょう。
私は、内科や外科、精神科、どのような治療でも、患者さん自身の養生がまず基本にあり、専門家の治療はそれに協力するかたちになるのが正しいと思っています。
医師が行う治療は、人間に本来備わっている自然治癒力が働きやすいように準備をしているだけなのです。
そこで私は、自分や家族ができる養生法をいくつか考案し、これを「脳の養生法」として患者さんや家族に勧めています。
養生法は、手軽で安価、それでいて即座に効果を実感しやすいものでなければなりません。ここで紹介する「焼酎風呂」もその一つです。
皮膚から「悪い気」が出てイライラした脳が鎮まる
いろいろな悩みでどうしようもなくなったとき、リストカットをする人がいます。その人たちを見ていると、手首と足首に「悪い気(邪気)」がたまっており、どうやら自分なりにそれを排出しようとする行為のようです。
私はふと思いついて、そうした人たちの手足を消毒用のアルコールで拭いてみました。すると、悪い気が消え、「頭がスッキリする」という人が数人いました。
これをヒントに、皮膚から悪い気を排出する方法として考案したのが「焼酎風呂」です。では、その手順を説明しましょう。
❶まず、ぬるめの風呂(38~40℃)に、焼酎をおちょこ1杯ほど(18ml)入れてください。焼酎はどんな焼酎でもけっこうです。入浴剤と併用してもかまいません。
❷焼酎を入れたら、普通に入浴します。このとき、数を20数える程度でよいので、顔だけ出して首までお湯につかってください。顔も数回、湯ぶねのお湯で洗ってください。
❸焼酎風呂から出たら、シャワーで流したりしないで、焼酎の粒子が皮膚についたまま体を拭きます。
入浴後は、世の中が明るくなったように感じるでしょう。なかには、「頭がさわやか」「目がぱっちり」「スイスイ頭に入る」「脳が涼しい」といった感覚を得る人もいます。
なお、焼酎風呂には、家族全員が入浴しても差し支えありません。
入浴ができない寝たきりの人にも、焼酎を数滴垂らしたお湯で体を拭いてあげるといいでしょう。同じような効果を得られます。
皮膚に焼酎の粒子がついていると、入浴後も皮膚から悪い気を排出する働きが続きます。排出された悪い気は、衣類やシーツに吸い取られるので、洗濯時に洗剤と一緒に、おちょこ1杯の焼酎を入れて洗ってください。これで悪い気はきれいに落とせます。
なお、風呂の残り湯は洗濯に使っても差し支えありません。
焼酎を使うのは、人体に問題がなく、安価で身近にあるという理由で使っています。美肌効果がほしい人は、日本酒をコップ2分の1ぐらいがお勧めです。ワインもいいですね。
おもしろいことに、お酒を飲む人が焼酎風呂に入ると、ふだんの飲酒量が減ります。焼酎風呂によって悪い気が排出されるため、ストレス解消にたくさんのお酒を飲む必要がなくなるのでしょう。
焼酎風呂は、皮膚から悪い気を排出させることによって脳を鎮めます。ぬるめの入浴が自律神経を整えることで、脳が静かになる効果も期待できます。
気持ちよくなければやめること
おちょこ1杯程度の焼酎なら、子どもが入浴しても問題はありません。アルコールにアレルギーのある人は、念のため、足湯に数滴の焼酎を垂らして試してみてください。
焼酎風呂による養生法のよいところは、自分でできる点です。病院に行き、治療してもらう必要がありません。お金も安くてすみます。
また、これは自分が自分に対して行うものですから、したくないときはしなくてかまいません。
万人に合う養生法はありません。自分に合うかどうかは、養生法をした後に、「少しでも気持ちがいい」「楽になる」「翌日、目覚めたときに脳が気持ちいい」状態かどうかです。
「気持ちが悪い」ならやめておくことです。養生法では、「気持ちがいい」で判断した結論が最も正しいのです。