重ね煮は皮まで使うからムダも出ません。食物繊維を多く含むので、便秘改善やダイエット効果も期待できるでしょう。そして何より重ね煮はおいしい。これは大事なことで、おいしいから楽しい、楽しいから続けられます。【解説】昇幹夫(産婦人科医・麻酔科医)
解説者のプロフィール
昇幹夫(のぼり・みきお)産婦人科医・麻酔科医。大阪などで産婦人科診療をしながら、日本笑い学会の副会長として笑いの医学的効用を研究。著書多数。
アトピーが治ると評判の宿だった
別記事:「重ね煮」の作り方→
私が船越康弘さんに出会ったのは、今から25年前。知人が「おもしろい人がいる」と、船越さんが営む自然料理の宿「百姓屋敷わら」(以下、わら)を教えてくれたのです。
その当時わらは、「アトピーの宿」としても知られていました。食事で体を健康にすることを食養と言いますが、わらの食養料理でアトピーが治った人がたくさんいたからです。
私が初めて「重ね煮」を口にしたのは、わらで「豆腐のハンバーグ」を食べたときだったと思います。ハンバーグの具材に重ね煮が入っていたのです。お肉は入っていませんが、味はまるで本物のハンバーグ。単純においしいと思いました。
そして、食材を蒸し煮するだけで重ね煮ができると聞き、「こんなにおいしいものがそんなに簡単にできるなんて」と感動したのです。
重ね煮はいろいろな料理に展開でき、これさえあれば5品も10品も簡単に作れてしまいます。皮まで使うからムダも出ません。食物繊維を多く含むので、便秘改善やダイエット効果も期待できるでしょう。
そして何より重ね煮はおいしい。これは大事なことで、おいしいから楽しい、楽しいから続けられます。そして続けるうちに、重ね煮の本質がわかってくるのです。
重ね煮の本質とは、食の本質。食の本質とは「命をいただく」ということ。命をいただくから、私たちは健康になるのです。
気持ちの力を教えてくれる料理
佐藤初女さんという女性をご存じでしょうか。佐藤さんは悩みや苦しみを抱える人々を施設に受け入れ、彼らに手料理をふるまい続けてきました。自殺を考えていた青年は、佐藤さんの握ったおむすびを食べて、自殺を思いとどまったそうです。
佐藤さんは、食事というものをどのように考えていたのでしょう。私は生前の佐藤さんから、次のような話を聞く機会に恵まれました。
「スーパーには、農薬や除草剤が使われた野菜たちも並んでいます。野菜の気持ちになれば、できれば農薬や除草剤を使われたくなかったでしょう。
でも、野菜たちが命を投げ出して、私たちの目の前に来てくれたのです。そこには感謝しかありません。
農薬を使っているか使っていないかを気にする前に、食材に感謝の気持ちを持つこと。それがいちばん大事な視点です」
たいせつなのは心の持ち方。実は、これは病気との向き合い方でも同じなのです。私は多くのガン患者さんと接してきましたが、ガンが改善する人には「病気を肯定する」という共通点があります。
病気を「これまでの生き方が間違っていた」という体からのメッセージと捉え、今までの考えや生活を改めた人は、ガンがよくなる場合が多いのです。
数字では測れない、気持ちの力は間違いなくあります。重ね煮は、その力を私たちに教えてくれる料理なのです。