「PEM」という言葉をご存じでしょうか。「Protein-Energy Malnutrition」の頭文字を取ったもので「たんぱく質・エネルギー欠乏」の栄養状態を指します。今、高齢者のPEM化が深刻な問題となっているのです。【解説】稲熊隆博(京都光華女子大学健康科学部教授)

解説者のプロフィール

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稲熊隆博(いなくま・たかひろ)
京都光華女子大学健康科学部健康栄養学科教授。農学博士、技術士。同志社大学大学院工学研究科博士課程(前期)修了後、カゴメ株式会社に入社。カゴメ(株)総合研究所主席研究員を定年退職後、帝塚山大学現代生活学部教授を経て現職。トマトをはじめ、野菜研究のスペシャリストとして研究を重ねている。

高齢者のPEM化が深刻

皆さんは、「PEM(ペム)」という言葉をご存じでしょうか。これは、「Protein-Energy Malnutrition」の頭文字を取ったもので、「たんぱく質・エネルギー(カロリー)欠乏」の栄養状態を指します。

では、それらが足りなくなると、どうなるのでしょうか。

例えば、下痢の症状です。免疫力の低下によって、肺炎などの細菌感染にかかりやすくなります。

また、筋肉が縮み、骨が突出したり、体重の減少が見られたりします。

さらに、皮膚が薄くなり、乾燥して弾力性を失うなど、さまざまな弊害が現れやすくなるのです。

なかでもたんぱく質は、摂取量が減ると、その分解物であるアミノ酸の吸収率も低下します。ですから、腎機能障害を患う人などを除いては、積極的にとるべき栄養素なのです。

PEMは、高齢者に多く見られます。高齢になると、食事の量が少なくなったり、あっさりした物を好むなど、食事に偏りが生じたりするためです。

特に独り暮らしの場合、作るのがめんどうだからと、食事に力を入れないかたが多いため、PEMには要注意です。

今後、単身世帯の高齢者は、ますます増えていくと予想されます。だからこそ、今、高齢者のPEM化が深刻な問題となっているのです。

では、PEM対策として、何が有効なのでしょうか。

当然、食生活の見直しは必須です。食事の偏りをなくして、さまざまな食材を使った食事メニューに変えましょう。

そのうえで、積極的に取り入れてほしい食材があります。それは、タマネギです。

アミノ酸吸収率がグンと高まると判明!

タマネギといえば、血液をサラサラにする効果などが有名ですが、私たちが行った研究によって、PEMの予防・改善にも期待ができることがわかりました。

私たちは、ラットを不動化(寝たきりの状態)して、通常のエサを与えたグループと、タマネギに含まれるケルセチン入りのエサを与えたグループに分けて、たんぱく質(アミノ酸)の吸収に与える影響を調べました。

ケルセチンとは、植物に幅広く含まれているポリフェノールの一種です。病気や老化の原因である活性酸素を消去する、強力な抗酸化作用があります。タマネギにはケルセチンが豊富で、特に、茶色い外皮の部分に多く含まれています。

ケルセチンが、アミノ酸の吸収に寄与するかどうかの指標となるのが、腸内の「PepT1」という物質の働きです。

PepT1は、摂取したアミノ酸を、腸を通じて体内に吸収させる役割があります。簡単にいえば、「アミノ酸の運び屋」です。

実験では、ケルセチンをとった際のPepT1の発現量を調べることで、アミノ酸の吸収量が増加するかを判別しました。

すると、寝たきりの状態にもかかわらず、ケルセチンを多く与えたグループのPepT1の発現量が最も増加したと判明したのです(下図参照)。

《ケルセチンを摂取するとアミノ酸吸収量がアップ!》
ラットを通常エサとケルセチン入りのエサを与えたグループに分けて、1週間後に比較した結果

画像: 【PEM(ペム)とは】食事の偏りで起こる栄養不足 予防・改善には「肉と玉ねぎ」の摂取が効果的

また、別の研究では、PepT1が、アミノ酸だけでなく、カルシウムの吸収を担っていることも報告されています。

つまり、ケルセチンを摂取することで、PEMだけでなく、骨粗鬆症の予防・改善も期待できるわけです。

牛丼やステーキはとても理にかなっている

ケルセチンの摂取法は、生のままでも、熱を加えても、どちらでも問題ありません。スープなどにしてかさを減らせば、より多くとれます。

とことんケルセチン摂取にこだわりたいかたは、タマネギの茶色い外皮を煎じて、お茶がわりに飲んだり、料理に活用したりするのもいいでしょう。

また、タマネギと肉をいっしょに食べると、アミノ酸の吸収率アップにつながります。たんぱく質の補給とともに、その吸収を助けるケルセチンを同時に摂取できるので、非常に効率的です。

例えば、牛丼やステーキにタマネギが添えられているのは、とても理にかなった食べ方だからです。

当然、たんぱく質が豊富な大豆食品とタマネギを組み合わせても、効果は期待できます。

しかし、平均寿命と動物性たんぱく質との関係から見ると、植物性たんぱく質よりも動物性たんぱく質のほうが、より効果が期待できそうです。

高齢者の皆さんは、ぜひ、タマネギとたんぱく質を積極的に摂取して、PEM予防に努めてください。

画像: この記事は『壮快』2019年4月号に掲載されています。

この記事は『壮快』2019年4月号に掲載されています。

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