【ファイトケミカルスープとは?】医師が考案した「4種の野菜入りスープ」の作り方

美容・ヘルスケア

この野菜スープの中には、植物が紫外線や害虫などの外敵から身を守るために、みずから作り出す、天然の機能性成分「ファイトケミカル」がたっぷり含まれています。ファイトケミカルは、あらゆる場面で過剰に発生する活性酸素を無毒化し、さまざまな病気から体を守ってくれるのです。そこで、私が食事指導の一環として患者さんにお勧めしているのが、キャベツ、タマネギ、ニンジン、カボチャを水で煮て作る「ファイトケミカルスープ(野菜スープ)」です。
【解説】高橋弘(麻布医院院長)

解説者のプロフィール

高橋弘(たかはし・ひろし)

麻布医院院長。医学博士。ハーバード大学医学部内科元准教授。日本肝臓学会肝臓専門医。日本消化器病学会専門医。日本内科学会認定内科医。専門はガンと肝炎の治療。世界のトップジャーナル(サイエンス、ネイチャー、メディシン等)に数多くの論文を発表。2009年より現職。ファイトケミカルスープを考案し、治療の補助として患者に積極的に勧めている。『ハーバード大学式「野菜スープ」で免疫力アップ!がんに負けない!』(マキノ出版)など、著書多数。

病気を予防・改善する植物の成分がたっぷり

当院には、私が専門とする肝臓病やガンの患者さん、高血圧、糖尿病、肥満症などの生活習慣病を抱えた患者さんが、多く来院します。日々の診療で私が努めているのは、患者さんに最良の医療を提供するとともに、薬だけに頼らない医療を実践することです。

ガンや生活習慣病、心筋梗塞、脳血管障害などの病気の大半は、間違った食生活から起こる「食源病」といえます。ですから、病気の治療には、食事の改善が欠かせません。

そこで、食事指導の一環として患者さんにお勧めしているのが、キャベツ、タマネギ、ニンジン、カボチャを水で煮て作る「ハーバード大学式野菜スープ(ファイトケミカルスープ)」です。

この野菜スープを考案したのは、ガンの患者さんやご家族から、「何を食べたらいいでしょうか?」と聞かれたことがきっかけでした。

ガンの患者さんの多くは、食が細くなっています。「体力の落ちたかたが無理なく食べられて、ガンによい食事はないか?」と試行錯誤を重ねて、野菜スープは完成しました。

この野菜スープの中には、「ファイトケミカル」という有効成分がたっぷり含まれています。

ファイトケミカルとは、植物が紫外線や害虫などの外敵から身を守るために、みずから作り出す、天然の機能性成分です。

植物の色や香り、苦み、渋み、辛みなどの元になるもので、その種類は数千にも及びます。色素成分であるポリフェノールが、特に有名でしょう。

ファイトケミカルは、栄養素ではありません。糖質、たんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラルという五大栄養素は、筋肉や骨、血管など、体の組織を作る成分になったり、エネルギー源になったりします。

ファイトケミカルに、こうした働きはありません。しかし、病気の予防や改善に役立つ、非常に優れた働きがあります。

例えば、活性酸素を消去する抗酸化作用は、その代表的なものです。活性酸素は、きわめて強い酸化力で遺伝子や細胞を破壊し、ガンや生活習慣病、老化を招く元凶物質です。

私たちが呼吸で取り入れた酸素のうち、約1%が活性酸素になります。また、栄養素を燃やしてエネルギーに変換するときや、紫外線を浴びたときにも活性酸素は発生します。

ファイトケミカルは、あらゆる場面で過剰に発生する活性酸素を無毒化し、さまざまな病気から体を守ってくれるのです。

下の図解にあるように、ファイトケミカルには、ガンを抑える作用や免疫を増強・調整する作用、血圧を下げる作用など、多彩な作用があります。

ですから、野菜スープをとれば、ファイトケミカルが体内に取り込まれ、これらの恩恵を余すことなく得られるというわけです。

血液サラサラ&動脈硬化の予防作用
血圧を下げる作用
肥満や高血糖、高脂血症を改善する作用
胃腸の調子を改善する作用
発ガンを防ぐ作用

《ハーバード大学式野菜スープの9大作用》
活性酸素を消去する抗酸化作用
体の毒を解毒するデトックス作用
免疫力を高める作用
アレルギーや炎症を抑える作用

植物性食品の摂取がガン予防につながる

私がファイトケミカルと出合うきっかけとなったのは、40年ほど前、アメリカに留学していたときです。

当時のアメリカは、ガンや心臓病の死亡率が、右肩上がりに増え続けていました。また、1977年には『マクガバンレポート』が発表され、動物性脂肪や塩分のとり過ぎが、ガンや心臓病などの病気の発症に強く関連することが指摘されました。

以来、国を挙げて食生活の見直しが進められ、ガンを予防する食品の実験や疫学(人間集団を対象に病気の原因や本態を究明する医学分野)調査が活発に行われました。

その結果、植物性食品(野菜、果物、海藻、穀類など)から、ガンの予防効果のあるファイトケミカルが見つかりました。

1990年、米国立がん研究所(NCI)による『デザイナーフーズ・リスト』では、ガン予防に効果のある40種類の植物性食品がリストアップされ、植物性食品をとることの重要性が広く知られるようになったのです。

そして、1994年、ついにアメリカの野菜摂取量は日本を上回り、日米のガンの死亡率も逆転しました。

アメリカが健康志向に向かっていった当時、私はハーバード大学医学部の教授陣として、医学生や海外からの特別研究員の指導を行い、ガンの免疫療法の研究や臨床経験を積んでいました。

私が住んでいたボストンは自然食ブームにわき、マーケットは有機野菜や果物であふれていました。こうした食の変革を身近で体験し、「病気を防ぎ、治すには、食事の見直しが必要だ」と考えるようになりました。

そして、私はファイトケミカルに注目し、ファイトケミカル食と免疫の研究を続けてきたのです。

食前にとれば有効成分の吸収率がアップする!

野菜スープの材料を選ぶに当たっては、エビデンス(科学的根拠)を重視し、デザイナーフーズ・リストの中で重要な食品としてトップクラスの評価を受けたキャベツ、タマネギ、ニンジンに、カボチャを加えました。

《野菜スープに含まれる主なファイトケミカルとビタミン》
【キャベツ】
・イソチオシアネート ─ 有害物質や発ガン物質の無毒化、血液をサラサラにする作用
・ビタミンC ─ 抗酸化作用、免疫力アップ、発ガン予防
・ビタミンU(キャベジン)─ 胃の粘膜の保護

【ニンジン】
・α-カロテン ─ 抗酸化作用、発ガン予防
・β-カロテン ─ 抗酸化作用、免疫力アップ、抗アレルギー・炎症作用、粘膜強化、動脈硬化予防

【タマネギ】
・イソアリイン ─ 抗酸化作用、動脈硬化予防、発ガン予防
・ケルセチン ─ 抗酸化作用、抗アレルギー・炎症作用、血液をサラサラにする作用、ガン細胞の増殖抑制

【カボチャ】
・β-カロテン ─ 抗酸化作用、免疫力アップ、粘膜強化、動脈硬化予防
・ビタミンC ─ 抗酸化作用、免疫力アップ、発ガン予防
・ビタミンE ─ 抗酸化作用

これら4種の野菜は、ファイトケミカルをバランスよく含んでおり、ファイトケミカルの多様な働きが得られます(上記参照)。年中手に入る手軽さとおいしさからいっても、これ以上ないベストな組み合わせになりました。

また、四つの野菜には、ビタミンC・Eと、体内でビタミンAに変化するβ-カロテンなどが含まれています。これらのビタミンは協力しあって活性酸素を撃退することから、「抗酸化ビタミンのACE」と称され、免役力を増強してガンを予防したり、肌を美しく保ってアンチエイジング効果を発揮したりします。

スープと具を合わせて400gとると、ビタミンA・C・Eの1日の必要量をすべてまかなえます。さらに、食物繊維は、1日の必要量の半分が摂取できる計算になります。

ちなみに、ビタミンCはスープに溶け出していますが、脂溶性のα-カロテンや、β-カロテン、ビタミンEはスープに溶け出さず、野菜に残っています。食物繊維にも、スープに溶け出ない不溶性の食物繊維があります。ですから、具の野菜も、ぜひいっしょに食べてください。

とり方ですが、1日2~3回、食事の最初にとりましょう。空腹時にとることで、ファイトケミカルの吸収率が高まります。また、血糖値の急上昇を抑え、ドカ食いも防げるため、ダイエットにも有効です。

後の項では、スープの作り方、スープにする理由や具体的な症例などを紹介します。

「ハーバード大学式野菜スープ」基本の作り方

「ハーバード大学式野菜スープ」基本の作り方

【材料】(作りやすい分量)
キャベツ、タマネギ、ニンジン、カボチャ…各100g
水…約1L

【作り方】
野菜はよく水洗いし、それぞれ一口大に切る。ニンジンとカボチャは皮つきのまま切る。

(1)と水を鍋に入れ、ふたをして強火にかける。沸騰したら弱火にし、そのまま20分ほど煮て完成。

【ポイント】

鍋は、野菜の有効成分が飛ばないように、ふたがしっかり閉まる物を使用する。お勧めはホーロー鍋。

タマネギの外皮やニンジンのへた、キャベツの芯などにも有効成分が豊富に含まれているため、だしパックや不織布に入れて、いっしょに煮出すとよい。食べる際には取り出す。

「ハーバード大学式野菜スープ」のとり方

【1日2〜3回、食前にとる】
スープ(液体部分)200mlと具(100g)で1食分。温かいままでも冷たいままでもよい。

【味つけは基本的にしない】
スープに野菜の甘みと旨みが溶け出ているため、そのまま食べる。慣れない場合は、ショウガや黒コショウ、カレー粉、ハーブなどを入れてもよい。

【具材もなるべく食べる】
ただし、体力が弱っている人は、スープだけとってもよい。旬の野菜やキノコ類、海藻類を加えれば、より健康効果がアップ!

【保存方法】
《冷蔵の場合》 清潔な保存容器に具とスープをいっしょに入れて、ふたをして冷蔵庫で保存する。2~3日は保存可能。
《冷凍の場合》 ジッパーつき保存袋に具とスープをいっしょに入れて、冷凍庫で保存する。2~3ヵ月は保存可能。

植物の細胞壁は一定以上加熱しないと壊れない

野菜に含まれる天然の機能性成分・ファイトケミカルの効果についてお話をすると、「なぜスープにするのですか?」という質問をしばしば受けます。

新鮮な生野菜は、サラダなどにすればおいしく食べられます。しかし、生野菜では、ファイトケミカルはわずかしか吸収できないのです。

ファイトケミカルの多くは、植物の細胞内にあります。細胞は、かたく頑丈なセルロースでできた細胞壁に包まれており、人間の消化酵素では消化できません。包丁で刻んだり、ミキサーで粉砕したりしても壊れないので、細胞内のファイトケミカルは取り出せないのです。

ところが、スープにして野菜を一定以上加熱すると、頑丈な細胞壁はいとも簡単に壊れて、ファイトケミカルのほとんどが溶け出します。そして、ファイトケミカルは熱に強いので、加熱しても効力は失われません。

それどころか、野菜の抗酸化作用は、生のジュース(しぼり汁)を1とすると、スープ(ゆで汁)は約100倍も強いという、熊本大学名誉教授・前田浩先生の研究があるほどです。

野菜を加熱するとビタミンCが壊れる、と思われるかもしれませんが、その心配はありません。ビタミンCのほとんどはスープに溶け出しているので、スープを飲めば難なくとることができます。

さらに、スープにするとかさが減るため、量をたっぷりとることができ、有効成分を効率よく吸収できます。

私がハーバード大学式野菜スープ(ファイトケミカルスープ)を勧めるのは、こうした理由からなのです。

病気に打ち勝つには、免疫力を高めることが大切です。免疫とは、体を異物や病気から守るしくみです。

その主役となるのは、血液内を流れる白血球です。白血球には、ウイルスや細菌などの外敵や、体内に生じたガン細胞を攻撃する働きがあります。

白血球の数が減ったり、活性が落ちたりして免疫が正常に機能しなくなると、ガンが発症します。また、感染症にかかりやすくなるほか、病気が治りにくくもなります。

しかし、免疫力が低下してもあきらめることはありません。野菜スープをとり続けることで、白血球が増え、免疫力を上げる可能性があるからです。

私は、ガン治療中の患者さん6名に協力していただき、野菜スープを2週間、一日3回、200mlずつ飲んでもらいました。6人のかたは、いずれも抗ガン剤の副作用で、白血球が減少していました。

ところが、2週間後に採血し、スープを飲む前と比較したところ、全員の白血球が増加し、平均で43%も増えていました(下図参照)。つまり、野菜スープで、免疫力が上がったことが実証されたのです。

《ハーバード大学式野菜スープ摂取後の白血球の変化》

肝機能値が劇的に降下!

野菜スープをとり続けた患者さんの例を紹介しましょう。

Aさん(50代・男性)は、飲酒はしないものの暴飲暴食を続け、体重は最大で120kg(身長180cm)ありました。また、過去1~2ヵ月の血糖状態がわかる指標であるヘモグロビンA1cが6.7%(正常値は4.6~6.2%未満)、肝臓の機能を示すγ-GTPが167(男性の正常値は70以下)と、いずれも高い数値でした。脂質異常症も認められました。

そこで、90kgまで減量したところで、カロリー(エネルギー)制限に加えて、野菜スープの食前摂取を勧めたところ、10kgやせて80kgのダイエットに成功。ヘモグロビンA1cは5.5%、γ-GTPは31にまで低下し、コレステロール値まで正常になりました。

また、乳ガンを発症したBさん(60代・女性)は、肺と骨に転移し、手術ができない末期にありました。ところが、ホルモン療法や免疫療法、そして野菜スープの摂取を続けたところ、ガンが縮小し、手術ができる状態になりました。今も治療を受けていますが、周囲に驚かれるほど元気に過ごされています。

野菜スープは、私自身の健康維持にも役立っています。スープをとって、10kgの減量に成功しました。かれこれ10年以上、毎日とり続けていますが、カゼを引いたり、体調をくずしたりすることはありません。野菜スープにはすばらしい力があると、身をもって感じています。

野菜スープをとり続ければ、健康なかたなら、病気の予防になり、病気を患っているかたは、回復を助けます。ぜひ、今日からお試しください。

この記事は『壮快』2019年5月号に掲載されています。

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